URATURA

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URATURA

              作:海部守

時:現代

所:日本のあるところ

登場人物

・元宮本武蔵  :

・元佐々木小次郎

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第一場

   元宮がサラリーマン姿で歩いてくる。携帯電話がベルトに二個装着されている。そ

   のうち一個を取り出してどこかに電話をかける。もう一方の携帯電話2が鳴る。

元宮  :あ、すみません。ちょっと本社から呼び出しです。

   元宮、通話していた携帯電話1を切り、鳴っている携帯電話2を取る。

元宮   もしし~。アケミちゃん? いやぁ、昨日はゴメンネェ~。急な仕事が入っち

    ゃってさぁ~。この埋め合わせは絶対するからぁ。

   元宮、携帯電話1が鳴る。それを見て嫌な顔をする元宮。

元宮   アケミちゃんごめん。お仕事の電話が来ちゃったぁ。またねぇ。

   元宮、素早く携帯電話を切り替える。

元宮   はい、元宮です。はい。はい。はい。そうです。はい。そうです。いえ、そう

    です。はい。

   元佐々が走りこんでくる。こちらは長い物差しを背中にしょってやってくる。

元佐々  見つけたぞ! 宮本武蔵! ここであったが百年目! 覚悟しろ!

元宮   ちょっと、静かにしてもらえますか。今、電話中なんで。

元佐々  ははぁ、そうやって俺をじらそうって魂胆だな? そんな手はもう食わんぞ。

    俺はな、禅を始めたんだ。ちょっとやそっとのことじゃ怒ったりイライラしたり

    しないんだよ!

   元宮、元佐々を完全無視。

元佐々  おっとそう来るか。いや、内心は焦っているな? この俺が、あまりにもクー

    ルに、あまりに華麗にお前の策略を見抜いたものだから、あっはっはっはっは!

元宮   うるさい!

元佐々  フフフ。逆に俺が怒らせてやったぞ! 宮本武蔵敗れたり!

元宮   ちょっと周りがうるさいのでかけ直します。

   元宮、携帯電話を切りしまう。

元宮   何?

元佐々  宮本武蔵、敗れたり!

元宮   はぁ。あのねぇ、俺は元宮。元宮、本武蔵(もとむさし)。あんた誰?

元佐々  忘れたとは言わせぬぞ。貴様に受けた屈辱、今こそ返させてもらおう!

元宮   誰かって聞いてるんだよ。

元佐々  何? もとむさしだと? ふざけた言い訳をしおって、

元宮   言葉が通じないのかな?

元佐々  俺は、元佐々、木小次郎(きこじろう)だ! 覚えているだろうこの名前!

元宮   全然。

元佐々  そうだ。俺こそが佐々木小次郎の生まれ変わりだ!

元宮   人違いです。

元佐々  ここでキサマとの因縁も決着するのだ!

元宮   あのねぇ。宮本武蔵じゃなくて、もとみや、もとむさし。変な名前だけど宮本

    武蔵じゃないの。悪乗りした爺ちゃんが決めたありがたくない名前なの。

元佐々  そんなありふれた言い訳に騙されると思うか!

元宮   ありふれてないだろう。

元佐々  ふ。うちの家の者もほぼ同じことを言っていたぞ。うちは元佐々だから、木小  

    次郎って名前をつけたら、元佐々木小次郎になるわなんてな!

元宮   それが真実じゃん。

元佐々  俺が貴様を見つけるのにどれくらいの苦労を重ねてきたかわかるか!

元宮   わかるわけが無い。

元佐々  キサマはなぁ。この俺を何度と無く殺してきた極悪人なんだよ!

元宮   何?

元佐々  一万円で前世占いをしてもらったらな、俺の前世は蚊だった。血を吸うあの蚊

    だ。わかるか?

元宮   蚊ね。それがどうした?

元佐々  去年の夏、お前は蚊を殺しただろう?

元宮   ……たぶん。

元佐々  それが俺だ。

元宮   ……。

元佐々  思い出したか?

元宮   一つ聞いてもいいか?

元佐々  何だ?

元宮   お前いくつだ?

元佐々  (実年齢)

元宮   去年、人間じゃん。

元佐々  何! あ! 本当だ!

元宮   お前騙されたんだな。

元佐々  いや、今のは単純なミスだ。その前の前世でも俺はお前に殺されている。

元宮   そんなこと知らないよ。

元佐々  俺は知ってるんだよ! 占い師に教えてもらったからな。恐れ入ったか!

元宮   いくら払ったんだ?

元佐々  ゴキブリ、毛虫、ネズミに金魚。金魚の時は貴様は猫だ。ミジンコにノミ、ミ

    ドリムシ。ダンゴムシって言うのもあったな。

元宮   ろくな生き物じゃないな。

元佐々  俺は貴様のせいで、苦汁の人生を歩んできたんだ!

元宮   人生でもないし。俺のせいでもない。

元佐々  占い師に100万円を収めた甲斐があったというものだ。

元宮   お前、幸せな奴だな。

   元佐々、物差しを抜く。

元佐々  覚悟しろ!

元宮   何だそれは?

元佐々  佐々木小次郎といえば?

元宮   敗者。

元佐々  そうじゃない。ツバメ返しだ。ツバメ返しといえば?

元宮   ヤクルトスワローズ

元佐々  違う。物干し竿だ!

元宮   それは?

元佐々  物干し竿だ!

元宮   それは物差し。

元佐々  なに?

元宮   物差し。

元佐々  物干し竿じゃないのか?

元宮   ああ。

元佐々  うぬぅ。現代には物干し竿は無いのか……。

元宮   いや、ある!

元佐々  何? どこだ!

元宮   ホームセンターだ!

元佐々  ホームセンター?

元宮   洗濯物を干したりする時に使う長い棒があるだろ?

元佐々  ある。

元宮   あれが物干し竿。

元佐々  おお!

元宮   わかったら、さっさと買いに行け!

元佐々  かたじけない! しばし待ってろ!

   元佐々、走り去る。元宮携帯電話1を取り出し電話をかける。

元宮   もしもし? 駅前交番ですか? 旧道沿いのホームセンター前のあたりに物干

    し竿を振り回してる変な人がいるんですけど? ええ。そうです。まだたぶんい

    ると思います。はい。ええ。嘘じゃないんで、怪我人が出る前にお願いします。

    はい。

   携帯電話2が鳴る。

元宮   もしもし? あ、マリコちゃんだ~。久しぶり~。

  元宮、電話をかけながら去っていく。

                     おしまい。

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