パソコンおばけ

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パソコンおばけ

                                   作:海部守

時:現代

所:日本

登場人物

・A :

・B :

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   舞台には正立方体のブロックが3つ。2つは重ねられ、1つはその側に置かれてい

   る。場面によって役割が変わる。外ではごみ。部屋の中では机と椅子である。

   そのゴミの上にノートパソコンが一台置いてある。

   Aがやってくる。ノートパソコンを見つける。

A あれ? (周囲を見回す)あれ? (すごくわざとらしく)いっけねぇ、昨日飲んで

 てノートパソコンをこんなところに置いて帰っちゃったぜ。これじゃあ、ゴミと一緒に

 回収されちゃうところだったぜ、あぶないあぶない。

   A、ノートパソコンを持って立ち去る。

   Aが戻ってくるとそこは部屋、Aはノートパソコン(本物じゃなくて結構)を持っ

   てくる。Aの後ろにBがついてくる。

A ただいまー。(おかえりの言葉をしばらく待つ)と言っても、ここには俺一人。他には

 誰も住んでない。

   A、ノートパソコンを机の上に置く。

A さあて、一体どんなファイルが入っているんだぁ?

   ノートパソコンの電源を入れる。点かない。

A あれ? 点かないな。

B バッテリー切れですね。

A バッテリー切れか。そうだ、どっかにアダプタがあったな。それを使ってみよう。

   A、探す。B、部屋の隅でアダプタ(マイム)を指差す。

B これですか。

A (Bのことを気にかけもせず)あ、これこれ。どうも。

   A、ノートパソコンにアダプタを繋ぎコンセントに電源コードを差し込む。(マイム)

A さあ、今度こそ点くかな?

B たぶん点くと思いますけど、

A 何が出るかな、何が出るかな。

B 人のパソコンの中を勝手に見ないでもらえますか?

A うわ、びっくりしたな! あんた誰だよ! どうやって家に入ってきたんだよ。泥棒

 かよ!

B あなたこそ泥棒じゃないですか。人のパソコンを勝手に持ってきて。

A これは落ちてたの。盗んだんじゃない。

B 落し物を勝手に持ち帰るのも立派な泥棒なんですよ。

A お前誰だよ!

B 私はこのノートパソコンの持ち主ですよ。

A 持ち主? お前が?

B そうですよ。

A わかった強盗だろ! ノートパソコンを拾わせてそっちに気が向いている隙に後をつ

 けて、オートロックのマンションに侵入して犯行に及ぶ気だったんだろ!

B そうですよ。

A え、嘘? 冗談だったのに。

B はい、嘘です。冗談ですよ。

A 何だ。じゃあ、さっさと帰れよ。俺はこれからこのノートパソコンのデータを盗み見

 るんだから。

B だから、これは私のノートパソコンです。

A 証拠は?

B は?

A お前のノートパソコンだって言う証拠は?

B 壁紙が自分の写真で一杯です。

   ノートパソコンの画面を見る。

A うわ、気持ち悪い。

B あなたねぇ、気持ちが悪いってなんですか。

A ええと、こう、胸の辺りがドン引きしていくようなそんな感じ。

B 気持ちが悪いの説明じゃなくて、どういうつもりですか。

A どういうつもりって、素直な感想だよ。今時、自分の写真を壁紙にする奴がいるかよ。

 何このポーズ。うわ、何これ。恥ずかしい、はっずかしいなぁもう!

B とにかくこれはあなたのノートパソコンじゃないことはわかりましたね?

A なんで?

B だって、私が壁紙なんですから。

A まだわかりませんー。私がこの写真の人のファンだったのかもしれない。

B じゃあ、私は誰ですか?

A 知りません。

B じゃあ、この人も知らないんじゃないですか。

A この人は、南アフリカのスワジャナゴンダさんです。

B 誰だよ。

A 南アフリカに住んでいるフランス人に木の実を食べさせるお仕事をしている人です。

B そんな木の実を食べさせる人の写真なんて何でもっているんですか。

A スワジャナゴンダさんはその道のプロだから、世界中のみんながあこがれているんで

 す。空中三回転半背面光速月面宙返り放り込みは本当にすばらしい技だったなぁ。

B 見せてください。

A 何をですか?

B 空中三回転半背面光速月面宙返り放り込みです。

A 無理です。あれはスワジャナゴンダさんだけのオリジナルですから。

B まぁいいや、あんた仕事は何をやってるの?

A 仕事?

B 仕事してないの? (ちょっと偉そうにする)

A 学生ですから。

B 何だ学生か。

A いけませんか?

B いけなくはないけどね。学生でこんなマンションに住んでるんだ。親は相当なお金持

 ちだろうね。ダメだよ、親のすねをかじっちゃ。

A うちは安月給のサラリーマンですよ。年収300万円くらい。

B え? ここの家賃は? 仕送りなんだろ?

A はい。仕送りしてます。僕が。(立場逆転)

B してんの? 何? 親に仕送りしてんの? お前、何?

A 学生です。

B 家賃も払ってるの?

A 月50万くらいですからね。

B そんなするのここ? 俺のアパートは月8万円なのにトイレは共同、風呂はなし。近

 くの銭湯までは歩いて10分。しかもボイラーが壊れていることがあるから、そんな日

 はさらに5分歩いて近くの公園で頭を洗う生活。もう嫌だこんな貧乏生活!

A お風呂ならありますよ。貸しましょうか?

B うるさい! お金持ちならノートパソコンなんか拾ってこないで買えよ。

A 別に欲しくて拾ってきたわけじゃない。

B 言ったな?

A あ。

B そう。お前はこれを拾ってきた。俺はそれをずっと見ていた。

A 嘘だね。周りに人がいないかきちんと確認した。

B ああ、周りには人はいなかった。

A まさか、

B そうさ。そのまさかさ。

A 望遠でのぞいていたのか! なにこれどっきり?

B 違う!

A あぁ、小型カメラのほうか。

B そっちでもない!

A じゃあ何だよ。

B 考えろ。

A わかんない。

B すぐに答えるなよ。

A わかった。ちょっとコーヒー入れてくる。

B くつろごうとするな。

A わかんないよ。

B 俺はな、

A あ、でも俺はお化けだ! っていうありきたりな奴はやめてね。なんかまたかー、困

 ったらすぐに幽霊設定かよ。お前は中二か! っていう感じになっちゃうから。

B あぁ、何この外堀を埋められてしまった感じは。言えねー、自分が幽霊だって言えね

 ー空気になっちまった。

A で、あんたは何者?

B 俺?

A うん。

B スワジャナゴンダです。

A え!

B 南アフリカに住んでいるフランス人に木の実を食べさせるお仕事をしているスワジャ

 ナゴンダです。

A あの伝説の南アフリカに住んでいるフランス人に木の実を食べさせるお仕事をしてい

 るスワジャナゴンダさんですか!

B そう。私にあこがれていると言う君に会いにやってきたんだ。どうだい? うれしい

 だろ?

A 偽者だ! こんなところに南アフリカに住んでいるフランス人に木の実を食べさせる

 お仕事をしているスワジャナゴンダさんが来るわけがない。

B 来たんだ!

A なぜ!

B それは、このノートパソコンに重大な秘密が隠されているからなんだな。

A 秘密? 何ですかそれは?

B それは言えない。

A どうせ人には言えないようなエロい画像でも入れてんだろ。

B うわああ、何で知ってるんだよぉ!

A これをネットでばら撒こう。本人の画像を添えて。

B やめてくれ。生きていられなくなる。(すでに死んでいる)

A スワジャナゴンダさんの名を騙る罰だ。

B くそう。悔しくて成仏してしまいそうだ。なんとしても認めさせてやるぞ! おい小

 僧!

A 俺を小僧だと? お前は誰だ!

B 俺が正真正銘の南アフリカに住んでいるフランス人に木の実を食べさせるお仕事をし

 ているスワジャナゴンダだ。

A 何だって? 証拠を見せろ!

B 証拠だと? どうして小僧のお前にそんな証拠を見せなきゃならないんだ。

A そうだ。空中三回転半背面光速月面宙返り放り込みを見せてください。本物なら出来

 るはずです。

B ん?

A スワジャナゴンダさんだって言うことを証明するなら空中三回転半背面光速月面宙返

 り放り込みを見せてくれればいいんだ。

B よし。いいだろう。

   B、演技の姿勢に入る。呼吸を整え、いざと言うときに足首を押さえる。

B うわぁ!

A どうしたんですか! スワジャナゴンダさん!

B あの時に痛めた足首が! これはネンザ……。

A まさか第14次キャベツ戦争で銃弾をうけたときの後遺症? でも、弾はちゃんと摘

 出したはずです!

B そうだ。まだ、銃弾の欠片が残っていたんだ。

A 捻挫とって言おうとしてなかったか?

B ち、違う! ネーンザ……、残念だと言ったんだ。

A では、やってもらいましょう。空中三回転半背面光速月面宙返り放り込み!

B え? だから、足が。

A 空中三回転半背面光速月面宙返り放り込みに足は関係ありませんよ。

B だよなー! 知ってたよ。誰に物を言ってんだよ。パーかお前は。アラビックヤマト

 の中身を鼻水に替えんぞこら!

A では、どうぞ。

   集中するB。

A そして私はこの隙にパソコンを調べると。

B 行くぞ! 空中三回転半背面光速月面宙返り放り込み!

   B、Aをチラミする。

B 何だよ見てないのかよ! あ、おい! 勝手に人のパソコンを見るな!

A 遅っ! 全然動かないじゃん。 壊れてんのかこれ?

B そうなんだよ。それで修理に出そうと思ってたんだ。

A なんだよぉ。どうせ変なソフトでも入れたんだろ。

B 入れてません。

A じゃあ、何で遅いんだよ。

B わからないから修理に出そうと思ったの!

A わかった。本当は捨てたんだろ。

B なに?

A それで拾った人間の後をつけて、そいつを泥棒に仕立て上げて金をふんだくろうと思

 ったんだろ。

B なるほど。それで?

A 俺は払う気はない。以上。どうだ?

B 実際、あんまり覚えてないんだね。(くつろぐ)

A おい、くつろぐな。これを持って出て行け。

B 無理。

A 何で?

B 俺、持てないもん。

A お? なんだ? 箸より重いものを持ったことがないって言いたいのか?

B そうじゃなくて、俺もてないの。

A それは知ってる。顔を見ればわかる。その顔では彼女は出来ないだろう。

B そうじゃねえよ! 物を持つことが出来ないの!

A ふざけてないでさっさと帰れ。俺は忙しいんだ。

B なあなあ、どうやってこんなところに住めるくらいのお金を稼いでるんだ?

A どうでもいいだろ。

   携帯電話が鳴る。A、電話に出る。

A おう。3つ? あと1つ注文入ってるんだよね。どうにかなんないかな? ああ、わ

 かった加瀬にも聞いてみる。じゃあな。

   携帯電話を切る。

B 何? 彼女?

A 何で今の会話で彼女の話になるんだよ! お前はパーか?

B だってさぁ。

A 仕事の話だよ。あ、そうだ。あんた借金で困ってない? こんなことをしてるくらい

 だから結構困ってるんじゃないの? 借金あるでしょ?

B ……まあね。

A いくら?

B 50万くらい。

A 何だよ、そんなもんかよ。なんかしけた面してるからよぉ、キャバクラの女にしこた

 ま貢いで借金でどうしようもなくなったから、会社の金を横領して競馬にでもいって大

 逆転を狙おうと思ったけど競馬はやっぱり税金とかも取られるから、投資のほうがいい

 だろうとか考えてお金を預けてみたら実はそこが詐欺でお金を全部取られちまった! 

 みたいな感じだと思ってたぜ。

B そう、その通り。よくわかったね。

A うそ、マジ?

B マジ。それで、新たに50万借金して絶対に儲かるって言うんで株を買ったらこれま

 たダメで。

A 全部でいくら?

B 3千50万円。

A どん底だな。

B どん底だね。

A でもまだ大丈夫だ。希望はある。

B 本当に?

A もちろん。生きてればやり直せる。

B 手遅れだなぁ。

A 通帳を作ってきたら、それを1枚5千円で買ってやるよ。

B 本当に?

A 本当に。

B でも、通帳なんてどうするの?

A そりゃあ、欲しい奴に売るんだよ。

B でもそれは悪いことじゃないの?

A 悪いだの悪くないだの考えてたらさ、自分がやられちゃうぜ? わかってんのか?

B そうだよねぇ。

A 一ついいことを教えてやるよ。

B なに?

A 法律を守る奴は偉いと思うか?

B まぁ。

A 法律を作りかえる奴は?

B そうだねぇ、偉いから法律を変えられるんだろうね。

A 法律を自分たちに都合よく作り変えて法律を守る奴は?

B それは悪い奴らだな。

A だろう? 俺たちが悪人である前に、法律を作っている連中が悪人なんだからさ、油

 断してたらやられちまうんだよ。

B なるほど。

A 結局、誰かを利用して生きなくちゃ自分が誰かに利用されちまうってことさ。死んで

 から化けて出たって何の意味もないしな。

B 意味がないかなぁ?

A 当たり前だろ。生きてる人間のほうが幽霊よりも怖い。

B 失敗したなぁ。

A どうしたんだよ。

B どうしても悔しかったから復讐してやろうと思ってネットで探したんですよ。

A 何を。

B 呪いの動画。見たら死ぬってやつを。

A 呪いの動画? 見つかったのか?

B はい。3千円も払ったんですけど、中がどうしても気になって。

A 気になって? 見たの? 見たら死ぬのに?

B はい。どうしても気になって。

A ばかだねぇ。3千円無駄になったわけだ。

B 笑えますよね。

A 救いがないな。

B 何の変哲もない動画だったんですけど、その後にディスプレイに私の写真が一杯出て、

 それでパソコンの動きが遅くなって壊れたと思って修理を呼ぼうと思ったらケーブルに

 足を取られて床に頭を思い切り打ち付けて、あのゴミ捨て場までやって来たところで倒

 れたんですよ。

A 誰も倒れてなかったぞ。

B はい。彼は救急車で運ばれましたから。

A 彼?

B 画面の右端にある写真を見て何か気がつきませんか?

A (画面を見る)誰も写ってない。これがどうかしたのか?

B そこね、私の居場所なんですよ。

A お前は誰だ。

B 私は……。(Aを見てにやりと笑う)

   暗転。

A ってこわ!

B 怖かったでしょう。

   明かりがつく。

A 今の何!

B こんな感じの小説が沢山入っていて、すごく恥ずかしかったんですよね。

A なるほどねー。しかし遅いよね。

B のろい動画が入ってますから。

A 座布団全部持っていけー。

B でも、頭を打ってゴミ捨て場で死んだのは本当なんですよ。

   A、息を呑んでBを見る。Bはにやりと笑う。

   暗転。

                                       幕

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