招き猫の災厄 第三場

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招き猫の災厄 第三場

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第三場

   古民家の庭。

   ザシキが歩いてくる。

ザシキ   何でこんなことになっちゃったんだろう。どうしたら元の大きさに戻れるの

     かなぁ。

   マネキ、古民家から出てくる。

マネキ   意味深な説明台詞をしやがって! てめえ何もんだ!

ザシキ   あんたには関係ないでしょ。

マネキ   まぁ、それはそうか。

ザシキ   そういうあんたは何者なの?

マネキ   俺か? 俺様はなぁ……。

   マネキ、ザシキを見る。

ザシキ   何よ。

マネキ   人に名前を尋ねるときはまず自分からって習わなかったか?

ザシキ   習ってない。

マネキ   そうか。それならしょうがない。俺はマネキ。

ザシキ   マネキン?

マネキ   マネキ! 招き猫の妖怪さ。

ザシキ   マネキン猫の妖怪。マネキ……。ひねりがないわね。

マネキ   お前、ふざけてるだろ?

ザシキ   いたって真面目よ。

マネキ   で、お前は?

ザシキ   何が?

マネキ   名前だよ、名前!

ザシキ   何であんたに教える必要があるのよ。

マネキ   ……。俺この村嫌い。変な奴ばっかじゃん。

ザシキ   なあに?

マネキ   なんでもない。

ザシキ   どうしても教えて欲しいなら、土下座しなさい。

マネキ   ええええ~!

ザシキ   しないなら教えない。

マネキ   鬼、悪魔。

ザシキ   なんとでも言いなさい。

マネキ   年増。

   ザシキ、無言でマネキを張り倒し馬乗りになってボコボコにする。

ザシキ   もういっぺん言ってみろやぁ!

マネキ   スミマセンでした。

ザシキ   今度言ったら、容赦しないからね!

マネキ   はい。

ザシキ   わかればいい。

マネキ   俺、これでの百年は生きてるのに……。

ザシキ   百年? たかだか百年でえらそうな口を利くんじゃないよ!

マネキ   ええええ!?

ザシキ   こっちはね、五百年は生きてるんだ!

マネキ   ごごごごごご、五百年!

ザシキ   驚いたかい?

マネキ   すごい年……。

   拳を振り上げるザシキ。怯えるマネキ。

ザシキ   なんだって?

マネキ   なんでもないっす。

ザシキ   わかればいいんだよ。

   ザシキ、マネキから離れて着物を直す。マネキ変な敬語を使い出す。

マネキ   あなた様は何者でいらっしゃるのでございますですか?

ザシキ   古い屋敷の座敷にいつの間にかひっそりと住んでいる。そんな奥ゆかしい子

     どもの妖怪を知ってるかい?

マネキ   知らない。

ザシキ   え? 座敷わらし知らないの?

マネキ   あぁ、座敷わらしか。

ザシキ   知ってるのね。

マネキ   うん。名前は知ってる。

ザシキ   ならいいわ。

マネキ   で、その座敷わらしがどうしたの?

ザシキ   は?

マネキ   あぁ、座敷わらしのお母さんか!

ザシキ   いやいやいや、あたしが座敷わらし。

マネキ   は? でかいじゃん。年増じゃん。

   ザシキの光速パンチで吹き飛ばされるマネキ。

マネキ   すみません。

ザシキ   あたしもなんでこうなったかわからないんだけど、とにかく大人になっちゃ

     ったのよ。

マネキ   はぁ。

ザシキ   500年生きてて初めてだわ。

マネキ   愚痴なら他所でやってくれよ。

ザシキ   何?

マネキ   どうしてなんでしょうかねぇ。

ザシキ   それがわかれば苦労はないわよ。

マネキ   何かやったんじゃないですか?

ザシキ   何か……。

マネキ   隠れ食いとか、暴飲暴食とか。つまみ食いとか!

ザシキ   飲み食い以外の選択肢はないのね。

マネキ   あ、誰か来る。

   アライが走ってくる。顔を背けて隠れるザシキ。

アライ   おい。

マネキ   なんだ?

アライ   あの子が来ただろう?

マネキ   あの子?

アライ   このお線香のにおいはあの子のにおいだ。

マネキ   来てないよ。

アライ   嘘をつけ!

マネキ   面倒くさいなぁ。

   マネキ、適当に指差す。

マネキ   あっちに行ったよ。

アライ   あっちだな!

   アライ指の指された方向にかけていく。

マネキ   うるさい奴だ。

   マネキ、ザシキが隠れていることに気がつく。

マネキ   何してんの?

ザシキ   別に。

   マネキ首をかしげる

マネキ   知ってる奴?

ザシキ   誰が?

マネキ   さっきの変な奴。

ザシキ   変な奴じゃないわよ。

マネキ   知り合いなのか。

ザシキ   知らないわよ。あんな人。

マネキ   あ、戻って来た。

ザシキ   やだ!

   ザシキ、急いで隠れるがアライは来ない。

マネキ   うっそだよーっだ。

   ザシキ、舌打ち。マネキに飛び蹴りを食らわせる。

マネキ   痛い!

ザシキ   次やったら殺す。

マネキ   お前、俺をなんだと思ってるんだよ。

ザシキ   お前? それが先輩に対する口の利き方か!

マネキ   す、すいません。

ザシキ   気をつけるんだね。

マネキ   んで、あいつはなんなの?

ザシキ   見ての通りよ。

マネキ   ロリコンの変態か。

ザシキ   違うわ! 彼は変態じゃない!

マネキ   ロリコンは認めるんだ。

ザシキ   あ。知らないわあんな人。

マネキ   やっぱり知ってるんじゃん。

ザシキ   ……。彼はね、うちの宿に泊まりに来たお客さん。

マネキ   へー。

ザシキ   座敷わらしを撮影するんだって、テレビクルーの一人なの。でもね。

マネキ   へいへい。

ザシキ   他の人たちは座敷わらしのことなんてどうでもいいと思ってたのよ。彼だけ

     は目の輝きが違っていたの。

マネキ   ロリコンだからね。違うでしょーよ。

ザシキ   あたし、いじられるの嫌いだからいつもは無視してたのよ。でもね、彼のあ

     の真っ直ぐな瞳にきゅんって来ちゃって……。

マネキ   ふーん。

ザシキ   おい。

マネキ   はい?

ザシキ   あたしが今なんて言ったか言ってみろ。

マネキ   おい?

ザシキ   その前の話だよ! 一言一句でも違えたら埋めるからな。

マネキ   厳しい!

ザシキ   当たり前だろ! こうやって口伝で伝統は伝えられるんだよ!

マネキ   伝統なのか今の。

ザシキ   やさしく聞いててやるから言え。

マネキ   間違えたら?

ザシキ   命はないと思え。

   マネキ、困り果てる。最後の手段、遠くを指さして叫ぶ。

マネキ   あ、あいつが戻って来た!

ザシキ   きゃ!

   ザシキが顔を伏せている間に、マネキ逃げる。静かになったのでザシキ顔を上げて

   周囲を見回す。

ザシキ   待てこのガキー!

   ザシキ、招きを追いかける。

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