小人の巨人

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小人の巨人

                                   作:海部守

時:現代

所:マンションの一室

登場人物

・増岡  :会社員。下の名前はマサシ。

・小人  :小人だが巨人。なので人間サイズ。無邪気なおっさん。

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   増岡は明日提出する書類を作成している。

増岡  何とか明日の朝までには仕上げないと。(あくびをする)少し眠ってからやるかな

   ぁ。いやいや、そうやって何度も朝まで寝て後悔しただろ。増岡マサシ、しっかり

   しろ!

   と言いながらも眠気には勝てずに、舟をこぎ始める。

   そこに童話に出てきそうな小人の帽子をかぶった小人がやってくる。

   寝ている増岡を起こさないように、書類を見て深く二度うなづく。そして、増岡の

   前で横になりそのままいびきをあげて眠る。

   そのうるさい小人のいびきで増岡は目を覚ます。

増岡  なんだ? やべ、寝てた。(小人に気が付く)え? 誰?

小人  (いびき)

増岡  ちょっとあんた。おーい。

小人  (寝言)もう食べれませーん。

増岡  おい!

小人  うわっ! 何だよ! いきなり大きな声とか出すなよ。びっくりするだろ。

増岡  びっくりしたのはこっちだよ。お前、どっから入ってきたんだ?

小人  ドア。じゃあ、あと30分したら起こして。

増岡  おい。

小人  何?

増岡  お前は誰だ。ここで何をしている。

小人  僕は小人。ここで眠ろうとしている。じゃあ、あと30分したら起こして。

増岡  待て待て待て。

小人  何?

増岡  何だよ小人って。

小人  小人は小人だよ。小さい人。

増岡  お前、小人にしては大きくないか?

小人  うん。じゃあ、あと30分したら起こして。

増岡  だからなんで寝ようとする。

小人  寝ないと大きくなれないじゃん。

増岡  ちょっと待て、いろいろとわからないことがあるんだが、お前は小人なんだよな?

小人  うん!

増岡  なんで人間と同じ大きさなんだ?

小人  わかんない。じゃあ、あと30分したら起こして。

増岡  だから、何ですぐ寝ようとする。

小人  寝ないと大きくなれないじゃん。

増岡  お前が小人だって言う証明をしろ。出来なければ警察を呼ぶ。

小人  何、警察って?

増岡  そうやってしらばっくれてろ。お巡りさんに連れて行ってもらうからな。

小人  おじさんさぁ、小人を見たことがないの?

増岡  お前もおじさんだよな。

小人  なんで?

増岡  もういいや。帰ってくれ。

小人  なんで?

増岡  仕事をするからだよ。

小人  嘘だぁ~。

増岡  嘘じゃないよ。これを見ろ。

小人  わぁ、なんだか難しい言葉が一杯書いてあるね。

増岡  だから俺は忙しいの。出て行け。

小人  そうかぁ。仕方ないね。じゃあ、あと30分したら起こして。

増岡  出て行けって言ってるんだよ!

   増岡、小人の手を引いて強引に引っ張っていく。

   そして一人で戻ってくる。

増岡  よし、仕事仕事。

   と言いながらも眠気には勝てずに、舟をこぎ始める。

   再び小人がやってくる。

   寝ている増岡を起こさないように、書類を見て深く二度うなづく。そして、増岡の

   前で横になりそのままいびきをあげて眠る。

   そのうるさい小人のいびきで増岡は目を覚ます。

増岡  またお前か!

小人  ん? もう30分たった?

増岡  鍵をかけたよな?

小人  あれ? まだ30分たってないじゃん。

増岡  うるさい黙れ来い。

   増岡、小人の手を引いて強引に引っ張っていく。

   そして一人で戻ってくる。

増岡  今度はチェーンもかけたし大丈夫だ。

   小人すぐに戻ってくる。

小人  この辺は物騒なの?

増岡  うわぁ。

小人  どうしたの?

増岡  お前は何なんだよ。

小人  小人だよ。

増岡  いない。仮に小人がいたとしてもお前みたいな大きな奴はいない。

小人  そうなんだ。だから僕、追い出されちゃったんだよね。

増岡  それで、何で俺の家に入ってきた?

小人  仕事をお手伝いさせてください。

増岡  断る。

小人  ありがとうございます。僕一生懸命に頑張ります。

増岡  人の話を聞けよ。

小人  はい。聞いています。

増岡  じゃあ、俺は今なんて言った?

小人  じゃあ。

増岡  もっと前。

小人  聞いています。

増岡  それはお前が言った言葉。

小人  人の話を聞けよ。

増岡  その前。

小人  覚えてません。

増岡  断ると言ったんだ。

小人  断る!

増岡  俺が今言っただろ。

小人  断るのを断る。

増岡  何でだよ。

小人  だって、断られたら僕が困る。

増岡  自分勝手な奴だな。とにかく帰ってくれ。

小人  何かお手伝いをさせてくれたら帰るよ。

増岡  お前なんか駄目な予感しかしないけど、まぁいいや。じゃあ、この資料をコピー

   してくれ。

   増岡、書類を一枚渡す。

小人  うん!

   小人、紙を回したり裏を見たりしてコピーをとるようなことはしない。

増岡  何してるんだよ。

小人  コピーだよ!

増岡  へぇー、それでコピーできるのか。小人って言うのは本当かもな。

小人  ねえ、

増岡  なんだ? 終わったのか?

小人  コピーって何?

増岡  わからないんだったら最初に聞けよ。

小人  うん!

増岡  コピーって言うのは、あっちの部屋の機械にこの紙を入れて、複製を作ることだ

   よ。

小人  へー。

増岡  わかったか?

小人  うん!

増岡  じゃあ、コピーを頼む。

小人  断る!

増岡  何でだよ。

小人  だって面白くなさそうなんだもん。

増岡  じゃあ、帰れ。

小人  やだ。お願いです僕に何かお手伝いをさせてください。

増岡  頼むたびに断られそうだから嫌だ。

小人  じゃあ、玄関前でドナドナを歌ってくる。

増岡  やめろ、近所迷惑だ。

小人  金魚の水槽に手を突っ込んでかき混ぜたら、金魚が驚き慌てふためいていた。こ

   れが本当の金魚迷惑。おっもしれーおっもしれー!

増岡  頼むから帰ってくれ! 明日までにこの書類を仕上げないと、俺の将来に響くん

   だ。

小人  小人の掟その一。

増岡  急だな。

小人  人間に姿を見られてはならない。

増岡  お前、もうすでに掟を破ってるぞ。

小人  小人の掟その二。

増岡  無視して続けるのか。

小人  小人は人間と話をしてはならない。

増岡  それもアウトだな。

小人  小人の掟その三。

増岡  まだあるのか。

小人  人間を困らせてはならない。以上。

増岡  全部ダメじゃん。

小人  僕はダメな小人なんだ。(しゃがみこむ)

増岡  元気出せよ。そんなに落ち込むことも無いぜ。

小人  見てみて、埃ってさ何で灰色なんだろうね。

増岡  落ち込んでるんじゃないのかよ。

小人  なんで?

増岡  もういいや。寝てろよ。

小人  お手伝いは?

増岡  いいよ。寝ててくれたほうが仕事がはかどりそうだ。

小人  やったぁ!

   増岡、書類を作る。小人のいびき。集中できない。

増岡  やっぱり起きろ。

小人  なあに? もう朝なの?

増岡  違うよ! お前のいびきのせいで集中できないんだよ。

小人  そんな受験生みたいな言い訳しなくてもいいのに。

増岡  受験生は知ってるのか。

小人  うん! ここに来る前は受験生のお手伝いをしてあげたんだよ!

増岡  そいつはどうなった?

小人  わかんない!

増岡  わかんない?

小人  でも、なんだか喜んでたよ。

増岡  喜んでた?

小人  うん!

増岡  そうか。となると、こいつはそんなに悪い奴じゃないのかもな。

小人  なに?

増岡  なんでもない。こっちの話だ。

小人  じゃあ、僕寝るね!

増岡  待て、寝るな。

小人  えー。

増岡  最初に確認して置けばよかったんだな。お前、何が出来る?

小人  何でもできるよ!

増岡  コピーは?

小人  できるよ!

増岡  (悩む)どうすれば帰ってくれるんだ?

小人  気が向いたら帰るよ!

増岡  (悩む)お前、名前は?

小人  小人だよ!

増岡  個人名だよ。小人は種の名前だろ。

小人  こいつ何、言ってるかわからねぇんだけど。

増岡  俺は人間だよな?

小人  へーそうなんだ。

増岡  駄目だイライラしてきた。俺は人間。お前は小人。

小人  僕は小人。お前は人間。

増岡  俺は増岡マサシ。お前は?

小人  お前は増岡マサシ、僕はさだまさし

増岡  お前の名前はさだまさしなの?

小人  違うよ。僕は小人だよ。

増岡  頭が痛くなってきた。

小人  風邪? 早く寝たほうがいいよ。

増岡  お前のせいだ。

小人  僕布団引いてくるよ。

   小人去る。

増岡  まったく何なんだよ。全然進んで無いじゃん。

   小人のいびきが聞こえてくる。

増岡  あの野郎!

   増岡、小人を引っ張ってくる。

小人  なあに?

増岡  なあにじゃねえよ。俺だって寝たいんだ。

小人  寝ればいいじゃん。

増岡  お前のせいで仕事が進まないんだよ。

小人  だから寝ればいいじゃん。

増岡  終わらないと眠れないの!

小人  なんで?

増岡  聞いてなかったのか? 書類が出来ないと俺の将来に響くんだよ。

小人  わかった! 悪い魔法にかけられてるんだね!

増岡  おまえなぁ。

小人  僕に任せて! 

   小人は増岡の顔の前に手をかざす。増岡、それを見る。

   小人はゆっくりと手を回転させる。

増岡  まて、眠くなってくる。やめろ。

小人  大丈夫。僕を信じて。

   増岡、ゆっくりと地面に倒れこむ。そして眠ってしまう。

小人  これで、朝までぐっすりだよ。もう心配しないで。本当は全部わかってたんだ。

   難しい書類を仕上げなきゃいけないことも。後は僕に任せて。なんたって僕は小人

   だからね。

   部屋の中が薄暗くなり、小人がすさまじい速さで書類の作成(手書き)を始める。

   やがて部屋の中が明るくなり始める。

小人  出来た!

   机の上に書類を置き、小人は立ち去る。

小人  僕に出来るのはここまで。あとは、頑張ってね。

   目覚ましのアラームが鳴る。増岡、目を覚ます。

増岡  やべぇ、こんなところで眠っちまった。変な夢も見るし最悪だ。

   起き上がり机の上を見る。書類が出来上がっているのに驚く。

増岡  夢じゃなかったんだ。

   増岡、書類を一枚一枚確認する。

増岡  こても、これも、これもだ。あいつ……。

   幸せそうな曲が流れ、すがすがしい空気に包まれようとした矢先、

   増岡は書類を投げ捨てる。曲カットアウト。

増岡  わけのわかんねえいたずら書きしやがって! どこに行ったぁ!

   増岡が追いかけて行って、暗転。

   幕。

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