真昼の星 第十一場

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真昼の星 第十一場

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第十一場

   住宅街。夜。暗転幕前。

   カレー男が客席に下りていく。

   しばらくして渡嘉敷がやってきて暗闇に目を凝らす。

   電灯の下に目当ての人間の後姿を見つけて走っていく。

渡嘉敷 おい。

   カレー男に声をかけると、渡嘉敷の声に驚いたのか彼はいきなり走り出す。

   意味もわからずに二人は夜の住宅地で鬼ごっこを開始する。

渡嘉敷  バカヤロウ!

   声を出すと走りに影響が出るため、渡嘉敷の言葉は単語でしか飛んでいかない。

   カレー男は必死の形相で渡嘉敷から逃れようとする。

   だが、曲がり角で足がもつれ舞台の上に転がると、そこに渡嘉敷も倒れこんできた。

渡嘉敷  バ、バカか……。

   呼吸も荒く渡嘉敷が空を仰ぐ。

カレー男 だって、変な人かと思ったっすもん。

渡嘉敷  いきなり走り出すな。

カレー男 いきなり追っかけてくっから。

   二人は笑う。

カレー男 なんすか。何も取ってないっすよ。

渡嘉敷  飯、食っていけ。

   渡嘉敷は膝に手を付いて起き上がる。そして、カレー男に手を伸ばす。

   カレー男はそれをじっと見る。

渡嘉敷  由里香の飯は上手いぞ。

   カレー男は顔を伏せて腕で顔をぬぐった。

カレー男 俺、行くところがあるんすけど。

渡嘉敷  飯を食ってからでもいいだろ?

   渡嘉敷はカレー男の腕をつかんで立たせる。

カレー男 これから死ぬのに、飯なんかいらないっすよ。

   渡嘉敷はカレー男の腕を強引に引っ張っていく。カレー男もあまり抵抗はしない。

渡嘉敷  俺たち夫婦の恩人を死なせるわけには行かないよ。

カレー男 嘘くせえ。あんだけ飛べ飛べ言ってたのによぉ。

   渡嘉敷がそれを聞いて笑った。カレー男も釣られて笑う。

渡嘉敷  そういえば、君、なんで自殺しようと思ったの。

カレー男 なんとなくっすよ。なんかみずくさいっすね。君とか気持ちが悪いんで名前で

    呼んでくださいよ。名前で。

渡嘉敷  え? 名前なんだっけ、聞いてないけど。カレー男じゃダメか?

カレー男 えー、マジっすか。

   二人が去り、暗転。

                                      幕

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真昼の星