港町のベル 第八場

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港町のベル 第八場

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第八場

   モートンの家。クラリスがヨハンを抱えて放心状態でいる。

   そこにモートンが帰ってくる。

モートン クラリス

クラリス あぁ、お帰りなさい。

モートン ハンクは?

クラリス やあね、何言ってるのよ。ここはハンクの家じゃないわよ。

   ボルドーがやってくる。

ボルドー やぁ、モートン殿。司法書記官を目指してるんだって?

モートン 何の用だ?

ボルドー 奥さんにはもう話したんだが、君にも是非話しておかないといけないと思って

    ね。ハンクのことだ。

モートン ハンクは無事なのか?

ボルドー いや、小船で沖に出て波に飲み込まれてしまった。近くで漁をしていた船が駆

    けつけたときにはもう何も残ってなかったそうだ。

モートン そんな。

ボルドー それで、こんな時にあれなんだが。借金がまだ残っていてね。ハンクの子ども

    に支払ってもらわないといけないんだが。

モートン 正気か? こんな赤子が海で漁ができるなんて本当に思ってるのか?

ボルドー そういう契約だからな。私に言われても困る。私だって辛いんだ。

モートン いくらだ?

ボルドー 金貨20枚。

   モートン、家の奥に行き戻ってくる。

モートン 今はこれだけしかない。

ボルドー あと金貨18枚。どうしてくれるんです?

モートン 今は休暇中だから、町に戻ったら送る。

ボルドー それだと返済額が増えますけど、いいですか?

モートン わかった。休暇を切り上げて仕事をするさ。何をでもして返す。それでいいだ

    ろ。

ボルドー それはそれは大変結構です。ではごきげんよう

   ボルドー去る。

モートン ハンク……。

   暗転。

   アルモンド家。

   ジェイクとジェイクに明かり。

ボルドー 旦那様。

ジェイク 困ったことをしてくれた。船乗りが根も葉もない噂をしているそうじゃないか。

    ハンクを殺したのはアルモンド家だと。まったくけしからん噂だな。

ボルドー まったくです。

ジェイク 誰かが責任を取るべきだな。

ボルドー すぐに手配いたします。

ジェイク いやいい、一人心当たりがある。

ボルドー はい。

ジェイク それで、例の男は見つかったのか?

ボルドー はい。賭け事の借金で逃げ回っているのを助けてやりました。

ジェイク ハンクの息子の面倒を見ると約束させたか?

ボルドー はい。あの調子なら稼ぐ以上に借金をしてくれましょう。まったくハンクの弟

    とは思えないろくでなしですな。

ジェイク そうか。これで心配の種が一つ消えた。

ボルドー それどころか将来実る大きな種になりましたな。はて、一つ?

ジェイク ボルドー。いろいろと良くやってくれたね。感謝しているよ。

ボルドー これは有難きお言葉。何よりもうれしく思います。

ジェイク だが、殺すのは良くなかった。そうは思わないか?

ボルドー しかし。

ジェイク ハンクから漁の秘密を聞き出してからでも良かったんではないかと言っている

    んだ。あれほどの漁師はもう出てこないだろう。まるで賭け事だ。あの赤子には

    せめて我が家を恨まないように育って欲しいものだ。

ボルドー わずかながら残った借金はまた以前のように膨れ上がります。ハンクの弟は漁

    よりも賭け事に夢中ですから早晩ここに金を借りに来ることでしょう。そのうち

    にはハンクの子が漁に出ているでしょうから全ての負債をその子に……。

ジェイク 今までご苦労だった。バッチョ! カルバス! ボルドーを役人に引き渡せ! 

    余計なことが言えぬ様に顎を砕いた後でな。

ボルドー お助け下さい! 旦那様! お願いです。どうしてそんなひどいことをなさる

    のですか? 私はアルモンド家に忠実に使えてきたのに!

   ボルドーの明かりが消える。

ジェイク 高い授業料だとでも思っておくか。

   暗転。

   都会のモートンの家。

   クラリスに明かり。

   クラリッサ(赤子)が寝ているベッドの側に座っている。

クラリス 今日も遅いわねぇ。あんまり無理をして体を壊さなければいいけど。クラリッ

    サ、もう少し大きくなったらヨハンに会いに行きましょうね。あんな環境の良く

    ないところにずっと置いて置けないから、お父さんが今よりも偉くなったらヨハ

    ンを引き取って家族にしましょうね。ベルだってすぐに戻ってくるって言ったん

    だから、きっと大丈夫よ。

   暗転。

   イザベラに明かり。

   その顔にはシワが刻まれている。

ベル   薬は届いたのかしら。きっと薬を飲んでハンクは私を探しにやってくる。ここ

    まで来れるわけは無いけれど。海の上からでも呼んでくれるわ。姿が変わった私

    を見てなんて言うかしら。すっかり老けたなって言うかしら? それともベルの

    母親ですか? って言うかしら。いいえ、あの人ならきっと私だとわかってくれ

    る。ううん、わかってくれなくてもいい。あの人の命がそこにあるだけでいい。

    生きていてくれるだけで私は幸せ。15年なんてすぐよ。今はヨハンには会えない

    けれど、ハンクならきっとヨハンを立派に育ててくれる。私は、私の愛を手に入

    れた。だから何も怖くは無いわ。

   静かに暗くなり完全に暗転になる。そして、幕。

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