たとえばこんなシンデレラ 第十一場

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たとえばこんなシンデレラ 第十一場

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第十一場

   お城。

   王子様がつまらなそうにしている。その周りでは音楽に合わせ数人が踊っている。

   キャシーも踊りの中に加わり、継母はそれを満足そうに見ている。

王子様   もうよい。疲れた。

   音楽がやむ。王子様椅子に座る。

王子様   皆好きにやってくれ。

   音楽が再び流れ始める。キャシーが王子様に近づいていく。

キャシー  王子様。

王子様   なんだ?

キャシー  あたしと踊っていただけませんか?

継母    ナイスアタックよ!

王子様   一人で踊ってくれ。私は見ている。

キャシー  では私も見ております。

   シンデレラがやってきて踊り始める。徐々に周囲で踊っていた人間も踊りをやめて

   シンデレラの踊りに見とれ出す。

   王子様も椅子から立ち上がり、その踊りに見とれる。

   音楽が終わると、王子様がいち早く拍手をする。他の者も釣られて拍手する。

   そんな中、継母だけがシンデレラであることに気がつく。

継母    あ!

   一斉に皆の注目を受けて継母は顔を伏せる。

   王子様がシンデレラに近づいていく。

王子様   一緒に踊っていただけますか?

シンデレラ 嫌です。

   シンデレラは継母の下に歩いていく。

継母    あたしたちに仕返しに来たのかい?

シンデレラ いいえ。

継母    じゃあ、何しに来たんだい?

   キャシーがかけてくる。

キャシー  ママ、知ってる人?

継母    シンデレラだよ。

キャシー  え? 嘘。

継母    ああ、嘘みたいな話さ。でも、あの靴には見覚えがあるだろう?

キャシー  あ、あの靴。

   王子がやってくる。

王子様   その娘はお前の娘か?

継母    はい。

王子様   名前はなんと言う。

継母    名前は……。

シンデレラ シンデレラです。

王子様   シンデレラか。変わった名前だな。でもいい響きだ。私と踊ってもらうがい

     いか?

継母    はい。もちろんです。

シンデレラ お姉さまを差し置いて踊ることなんて出来ません。どうかお姉さまと踊って

     ください。

王子様   いいだろう。名は?

キャシー  キャトリーヌです。

王子様   では、キャトリーヌ。踊っていただけますか。

キャシー  はい。喜んで。

   おざなりにダンスをする王子様。その様子を見ているシンデレラ。

継母    どういうつもり? あたしたちの邪魔をしにきたの?

シンデレラ 舞踏会を楽しみに来ただけよ。どうしてそんなことを言うの?

継母    キャシーが王子様を狙ってるのよ。邪魔をしないで頂戴。うまく行けばお前

     の残りの財産なんか目じゃないんだ。だから邪魔をしないでおくれ!

シンデレラ 邪魔なんてしないわ。ただ、

継母    ただ?

シンデレラ 一度見てみたかっただけ。お父様はあの人たちのために命をかけたのね。あ

     の人たちは、ここでずっと楽しく過ごしていたわけね。

継母    それが仕事みたいなもんだからね。

シンデレラ 残りの財産って?

継母    ……あぁ、それはね。お前の父親が残していた遺言でお前が16歳になる時

     まで残りの財産はすべて屋敷で管理することになってるのさ。

シンデレラ そうだったの……。

継母    それを全部くれてやるから、今は邪魔をしないでおくれ。

シンデレラ だから、邪魔はしないって。

   踊りが終わり、皆が拍手をする。王子はキャシーを送ってくるとシンデレラに礼を

   する。

王子様   では今度こそ踊っていただけますか?

シンデレラ はい。

継母    シンデレラ!

シンデレラ 適当に楽しんだら、さっさと帰るわ。心配しないで。

継母    本当だね?

キャシー  ママ、疲れたわ。

継母    約束だよ!

シンデレラ わかったわ。

   シンデレラと王子が踊る。

王子様   どうだい? ここは素晴らしいだろう?

シンデレラ 素晴らしい? ここが?

王子様   そうさ。この国のありとあらゆるものがここに集まってくる。

シンデレラ なぜ?

王子様   ここがこの国の中心だからさ。ここには敵も来れやしない。

   シンデレラは途中で踊るのをやめてしまう。

王子様   どうしたんだい?

シンデレラ 私にはわからない。

王子様   ダンスのステップかい? それなら教えてあげるよ。

   シンデレラ、走り去る。王子様それを追いかける。音楽がやみ暗転。

   王子様、シンデレラを捕まえる。

王子様   どうしたんだい?

シンデレラ あなたたちは戦争をして税金を取って贅沢な暮らしをしている。

王子様   そうさ。当然だろ?

シンデレラ 贅沢な暮らしが当然ですって?

王子様   それが私たちの務めだ。戦争の時には、私たちが先頭で戦うんだ。だからこ

     そ、この一瞬を楽しむんだ。戦争ではあっという間に命が消えていくからね。

シンデレラ 私のお父様のように戦場で死ぬの。あっという間に。お母様もお医者様が連

     れて行かれたせいで助からなかった。

王子様   君の母親はあそこにいる人だろう?

シンデレラ あれは継母よ。お父様の財産を使い果たし、私を使用人のように扱ってきた

     人よ。

王子様   ああ、そうか。君は復讐をしたいんだね?

シンデレラ どうして?

王子様   継母が憎いんだろう? 僕が代わりに罰してあげる。

シンデレラ とんでもない勘違いだわ。

王子様   じゃあ、なんだい?

シンデレラ 継母たちは浪費家だけど、お父様やお母様を殺しはしなかったもの。

王子様   そうだね。憎いのは敵国の連中だ。あいつらが悲しみのすべての原因だ。

シンデレラ 本当にそう思ってる?

王子様   思っているさ。だからこそ戦っているんだ。

シンデレラ あなたはここで贅沢をしているだけなのに。

王子様   私だって、呼ばれれば戦場に行く用意がある。それまでの間、ここで過ごし

     ているだけに過ぎない。

シンデレラ どれだけ沢山のお金があっても、どれだけの敵を殺してもお父さんもお母さ

     んも生き返らない。そんなことを考えもしない。

王子様   なんだ? 君は私に説教でもしに来たのか? じゃあ、集めた税金を全部寄

     付しろとでも言うのかい? それとも国を敵にやってしまえと言うのか?

シンデレラ お金がなくても幸せは手に入る。辛いことも楽しいことがあれば乗り越えて

     いける。みんなで助け合っていけばこの世界は幸せになれる! そうは思わな

     いの?

王子様   思わないな。私たちには敵がいる。

シンデレラ 敵って誰? 何なのよ?

王子様   神様が戦えと、敵を倒せと言っているんだ。やらなければこっちがやられて

     しまうからね。

シンデレラ 神様なんて! 何の役にも立たないわよ! 困っている時に金貨を貸しても

     くれないケチな奴よ!

王子様   神様の悪口を言うなんてなんて罰当たりな。神様はいつでも私たちを見てい

     るのに。

シンデレラ 違うわ。神様は私たちのことなんて見ていない。神様は自分の世界で神様の

     神様を見上げている。私たちが神様を上げているようにね。人を幸せにするの

     は人だけよ。あなたたちは神様を利用して、お金儲けをして弱い人を傷つけて

     いるだけに過ぎないのよ。

王子様   民は守らなければならない。弱い存在なんだ。弱い存在が守ってもらうため

     にお金という形で支援をするんだ。

シンデレラ あなたたちが戦争をしなければ、誰も戦争で死ぬこともないわ。守る必要さ

     えない。何でそれがわからないの? いいえ、あなたたちはそれをわかってや

     っているんだわ。自分たちの欲望を満たすために人の欲望を食べるのよ。それ

     が戦争なんだわ。それに巻き込まれるのはあなたたちじゃない。もっと弱い立

     場の人たちよ。

王子様   戦争をして欲望を食うか。いい例えだな。そして、欲望はどんどん大きくな

     っていくと言うわけか。だが見てみろ、僕たちの周りの人間を。人よりいい生

     活がしたい。美味いものを食いたい。お金が欲しい。楽をしたい。見下ろした

     い。それが人間だろう? どいつもこいつも欲まみれだ! それこそが本来の

     人間の生き方だ!

シンデレラ 違うわ。喜びを分かち合うのが人間の本当の姿よ。

王子様   まったく理解できないな。

シンデレラ そうね。この交じり合わない心の壁のように、決して破れることのない壁が

     あれば、私たちはきっとお互いの世界で幸せになれるんでしょうね。あなたに

     はあなたの幸せがあり、私には私の幸せがある。

王子様   幸せねぇ。

シンデレラ さようなら。

王子様   そうだ! 君を未来の妃にしてやろう。どうだ? いい話だろう? そうす

     ればきっと君の見方も変わるはずだ。

シンデレラ お断りだわ。

王子様   なんだと? 妃になれば、思うままに贅沢が出来るんだぞ? 君は貧乏人だ

     からわからないだろうが、金持ちの責任と言うものがわかれば必ず理解できる

     ようになるはずだ。

シンデレラ 人は人同士助け合わなきゃ行けないの。神様に責任を押し付けようとしても

     誰も幸せにはなれないのよ。

王子様   君はかわいそうな人間だな。哀れだよ。

シンデレラ あなたこそただの亡者じゃない。

王子様   亡者だって?

シンデレラ 違ったかしら?

王子様   僕を怒らせないほうがいいぞ。

シンデレラ 亡者じゃなくて、ただのコソ泥ね。

王子様   コソ泥だって?

シンデレラ そうよ。弱い人間からお金を巻き上げて自分が贅沢をするなんて、そんなの

     コソ泥のすることだもの。恥ずかしくてとてもじゃないけど私にはムリだわ。

     だから、あなたと結婚するなんてお断り。さようなら。

王子様   こんな侮辱を受けたのは初めてだ。許さないぞ!

シンデレラ 許さなければどうするの?

船長    お嬢ちゃん。下がってな。

   暗闇から、船長が登場。

王子様   何だ。お前は?

船長    男って言うのはな、引き際が肝心だぜ。逃げる者は追わないもんだ。

王子様   誰か、来い!

   海賊ABがやってくる。

海賊AB  お呼びですかい?

王子様   誰だ!?

海賊A   誰だって?

海賊B   自分で呼んだくせに。

王子様   兵士はおらんのか!

   亡者が出てくる。

亡者A   お呼びでございますか?

亡者B   お呼びでございますか?

亡者C   お呼びでございますか?

王子様   ああ、こいつらをやっつけろ!

亡者A   かしこまりました。

亡者B   かしこまりました。

亡者C   かしこまりました。

   海賊たちと亡者たちが戦う。亡者は弱いがすぐに生き返る。死に時間5秒から10

   秒程度。

船長    こいつはキリがないな。

海賊A   キリがないっすね!

海賊B   え? キリンが何ですって?

亡者A   キリンの首が長い。

亡者B   キリンの首が長い。

亡者C   キリンの首が長い。

   王子様、シンデレラに詰め寄る。

王子様   おとなしくしてればいいものを!

   シンデレラが王子様に捕まる。首にサーベルを押し当てる。

王子様   貴様ら! おとなしくしろ!

   しかしおとなしくなるのは亡者だけ。

王子様   こいつがどうなってもいいのか?!

船長    そいつは海賊じゃないからな。

海賊A   助ける義理もない。

海賊B   助けても何ももらえないしな!

王子様   おのれぇ!

   王子様、サーベルを振り上げる。マルコが背後から現れ花瓶で王子様の頭を叩く。

   フラフラと争いの場に王子様が降りていく。

シンデレラ マルコ!

マルコ   さあ、行きましょう!

   シンデレラとマルコ、走り去る。

   王子、亡者たち仲間内でケンカを始める。

亡者A   使えない奴だ。

亡者B   俺が代わりにやる。

亡者C   お前じゃダメだ。俺がやる。

王子様   何を言ってる! 敵を倒せ!

亡者A   うるさい。

亡者B   うるさい。

亡者C   うるさい。

海賊A   何だか向こうが揉めはじめましたぜ?

海賊B   どうします?

船長    よし、俺たちもずらかるぞ!

海賊AB  へいへい!

   海賊たち走り去る。

亡者A   お前が倒せ。

亡者B   お前に命令される覚えはない。お前がやれ。

亡者C   嫌だ。お前がやれ。

王子様   何で私がやるんだ! このバカ共め!

亡者A   お前うるさい。

亡者B   お前うるさい。

亡者C   お前うるさい。

王子様   逃げたぞ! 早く追え!

亡者A   俺、うるさい奴嫌い。

亡者B   俺も嫌い。

亡者C   俺も嫌い。

亡者A   食っちまおう。

亡者B   食っちまおう。

亡者C   食っちまおう。

亡者全   食っちまおう。

王子様   やめろ! やめろー!

   亡者たち王子様を囲み襲い掛かる。亡者の中に消えていく王子様。

亡者A   こいつ美味いなぁ。

亡者B   美味いなぁ。

亡者C   残りカスは捨てていこう。

   亡者が去り、王子様が倒れている。キャトリーヌがかけて来る。王子様に駆け寄る。

キャシー  王子様? 王子様! 大変だわ、助けを呼ばないと!

王子様   うぅ。

   立ち上がり走り出すが、突如その足を止めて王子様を振り返る。

キャシー  王子様?

王子様   うぅ?

キャシー  わかりますか?

王維様   うぅ。

   キャシー、王子様を抱える。

王子様   誰だい君は? ここはどこだい?

キャシー  覚えていませんの?

王子様   思い出せない。

   キャシー、悪魔の微笑み。

キャシー  あなたはここで私にプロポーズをしたんですよ。

王子様   プロポーズ?

キャシー  そうです。そうして、私が返事を言う前に滑って頭を打ってしまわれたので

     す。

王子様   僕が君にプロポーズ。そうだったかな?

キャシー  そうですとも。私の返事はもちろん「イエス」ですわ。

王子様   あぁ、そう。良かったね。

キャシー  起き上がれますか?

王子様   ゆっくりなら。

キャシー  さあ、行きましょう。

王子様   行くって? どこに?

キャシー  教会に決まっているじゃない! 式を挙げるのよ!

   暗転。

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