SHICA-BANE-COMPANY 第三場

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SHICA-BANE-COMPANY 第三場

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第三場

   オフィス「SHICABANECOMPANY」

   社員ABCがデスクで思い思いにサボっている。そこに社長と小林がやってくる。

   社長が来ても社員たちの様子は変わらない。

社長    みんな聞いてくれ。今日からここで働くことになった小林君だ。

   社員たち顔を小林に向ける。

社員A   よろしく。

社員B   よろしく。

社員C   よろしく。

小林    よろしく。

社長    社員A、社員B、社員Cだ。

小林    よろしくお願いします。はい?

社長    社員A、社員B、社員Cだ。

小林    あの、名前は?

社長    社員A、社員B、社員Cだ。同じことを何度言わせるんだ?

小林    この人たちにの名前を聞いてるんです。本名。

社長    ここではそんなものは不要だ。

小林    え、なぜですか?

   突然、社員Aのパソコンが鳴る。それに対して大喜びをする社員Aと悔しがる他の

   社員。

社員A   いやったぁー! 500人ゲットぉ!

社員B   そんなに?

社員C   爆発か? どこで?

社員A   いやぁ、餓死。アデリカ東部の村を壊滅させたぜ! 社長! これいくらで

     すか? 相当行ったでしょう? 謎の伝染病が蔓延した噂で人も物資も情報も

     遮断してやりましたからね!

社長    ドラマチックポイント込みで8千万円は行ったね! さすがエースだ。おめ

     でとう。

社員A   ありがとうございます。

社員C   すごいぜ! エース!

社員B   さすがね!

社員A   ありがとう。

小林    ドラマなんだって? 餓死って、一体何を?

社員B   私たちはね。死をお金にしてるのよ。

小林    死? 武器を売ってるのか?

社員C   武器? あはは! 武器! 武器だってさ! 豚の鳴き声みたいだな。ブキ

     ブキ!

社員A   僕たちは直接殺したりはしない。シチュエーションを操るだけさ。

小林    シチュエーションを操る?

社員B   そうよ。コップに水が二つあるとするでしょ? その一つに確実に死ぬ毒が

     入っているとするわ。ここまではいい?

小林    はい。

社員B   私たちは特定の人間にどちらかのコップの水を飲むように仕向けるのよ。

小林    水を飲ませるだけ?

社員B   そう。それでその特定の人間が毒を飲んで死ねばおよそ10万円くらいが私

     たちの会社に入ってくるの。

小林    毒を飲まなければ?

社員C   俺達の負け。10万円なら大体3万円が会社の損失になるのさ。

社員B   そう。

小林    水を飲まないことだってあるだろ?

社長    それはない。必ずどちらかを選ぶことになる。

小林    そんなバカな。

社長    まぁ、驚くのも無理はない。実際にはもっと細かい選択をさせていくことに

     なる訳だし、そんなに単純ではない。

小林    馬鹿げてる。こんなこと出来るわけがない。

社長    こんなこと出来るわけがない?

小林    そうだ。あ、そうです。

社長    ふふ。君にだって簡単に出来るんだよ。誰にだって簡単にね。

小林    俺にも出来る?

社長    ああ。何も人の生き死にだけがお金になるわけではない。心の死にも値段が

     ついているのさ。時にはそれが人間の命の値段なんかよりももっと価値のある

     ものになるんだ。

小林    心の死?

社員C   心が死んで金になる! すばらしいな! おい!

社員B   落ち着いて社員C。ほんとにクレイジーなんだから。

社長    ありがとう。さすがビューティだ。

社員B   もったいないお言葉。ウフ。

社長    携帯を取り出して、ガールフレンドに電話をかけたまえ。

社員A   カノジョと呼んだらどうですか?

社長    どっちも同じ。

小林    かけてどうするんですか?

社長    別れを告げるんだ。

小林    はい?

社長    別れを告げろ。

小林    ふざけてるのか?

社長    ふざけてなどいない。出来たらボーナスで10万円出そう。

小林    ははは。

社長    嘘でもいい。ただ、一週間は本当のことを言わない約束をしてくれ。一週間

     後に本当のことを言って、10万円で何か買ってあげればいい。そうしたら元通

     り、仲直りだ。

社員C   度胸試しだと思いな!

小林    度胸試し。

社員A   いい例えだ。それでお金がもらえるならいいね。僕もやろうかな。

社長    君はダメだ。さっき8千万稼いだばかりじゃないか。それで満足したまえ。

社員A   特別ボーナスが出ますか?

社長    もちろんだよ。

   小林、携帯電話を取り出して見つめる。

社長    嫌なら別にいい。ただ、君でも簡単に人の心を操れる証明をして欲しかった

     だけさ。本当に簡単なんだよ。

小林    一週間したら、本当に本当のことを話していいんですか?

社員C   本当に本当のことってなんだ?

社員B   社員C、静かにして、シー。

社長    結構。ただし、一週間カノジョからの電話に出てはいけないよ。うっかり出

     てもアウトとする。

小林    別れを告げたら10万円ですね?

社長    もちろん。

   小林、電話をする。

小林    出なかったら?

社長    出るさ。

   舞台下手にアイコ。

アイコ   エイスケ? もしもし? 仕事どんな感じ? 今日からだよね?

小林    まぁ、順調かな。

アイコ   何よ順調って。しっかりしなさいよ。

小林    わかってるよ。……あのさぁ。

アイコ   はいはい。今日は私がおごってあげるから、しっかり仕事してきなさいよ。

小林    そうじゃなくて。

アイコ   何? うまく行ってないの?

小林    そうじゃない。そうじゃなくて……。

アイコ   エイスケ、なんか変だね。

小林    ……真面目な話なんだけど、いいかな?

アイコ   え?

小林    俺たち、終わりにしないか?

アイコ   ……何よ、急に。変な冗談やめてよ。

小林    とにかく別れてくれないか?

アイコ   理由は? 理由を教えてよ。

小林    え?

アイコ   理由もわからずに一方的に振られるなんて意味がわからないもん。

小林    理由。

アイコ   理由もないのに別れるつもりだったの?

小林    わかった。言うよ。……他に好きな人が出来た。

アイコ   はぁ? 誰よ。

小林    アイコの知らない人だよ。

アイコ   ふうん。そう。……そっか。

小林    だから、もうかけて来ないで欲しいんだ。

アイコ   何よ。直接言いなさいよ。

小林    ……じゃあ。切るよ。

アイコ   ちょっ……。

   小林が携帯電話を降ろすとアイコの姿も消える。

小林    これでいいのかい?

社長    おめでとう。これも一つの死だ。心が痛むよ。

小林    一週間後には元通りだけどな。

社員B   だといいわね。

社長    では、仕事の説明をしよう。今やったように、人や動物や物を何らかの死に

     向かわせればそれで利益が生まれる。

小林    命を奪わなくてもいいんだね? 心を殺せば。

社員A   そう。時にはそっちの方が高い場合もある。普通は命だけど。

小林    こんなことを商売にしてるなんてろくでもないな。

社員C   お金が無くちゃ俺たちだって生きていけないだろ?

社員B   そうよ。あたしたちは取る側なのよ。

小林    取る側……。

社長    慣れるまで仕方がないさ。

小林    そんなもんですかね。

社長    あとはパソコンを用意させよう。操作は社員Aから教えてもらうように。

社員A   よろしく。社長。

社長    なんだい?

社員A   彼は社員D?

社長    その通り。

小林    社員D? 俺が?

社長    うん。今、君は心が痛いだろう?

小林    まぁ、そうですね。

社長    個人の名前を消せば、その痛みが消える。ここで仕事をしている間だけは、

     君は特別な存在になる。

小林    特別な存在?

社長    難しく考えなくていい。

社員B   そうよ。官僚や政治家だって個人の名前を隠してるでしょ? それと同じ。

社員C   あいつらも『国会議員』『役人』と言う名前を前に出して役を演じているんだ。

     責任を回避し自分の負担を軽くするためにな。

社員A   命や心は商品だ。物だと思って大事に扱え!

小林    はぁ。

社員C   なれてみれば結構いいもんだよ。社員Dさん

小林    はい。えーと社員Cさんですね。

社員C   正解! 俺は社員Cで~す。

社長    まぁ、気楽に頑張りたまえ。社員D君。

社員A   俺のライバルになれるといいな!

社員B   社員DのDは何のDになるのかしらね?

社員C   ダメのDにならないようにがんばれよ!

   暗転。

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