Mission~僕たちの聖戦~ 第四場

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Mission~僕たちの聖戦~ 第四場

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第四場

   放課後のコンピュータールーム。

   鈴本がMissionをしている。そこにケイが入ってくる。

鈴本   遅かったね?

ケイ   はい。

鈴本   掃除当番?

ケイ   はい。

鈴本   元気ないな。

ケイ   はい。

鈴本   ヒロ君、ここに来て急に伸びたね。スランプだったのかな?

ケイ   先生。

鈴本   なに?

ケイ   僕もうやめます。

鈴本   何を?

ケイ   Missoinです。

鈴本   そう。

ケイ   先生もやめて下さい。それで、ヒロをやめさせてください。

鈴本   なんで?

ケイ   なんでって、これテロリストが作ったんですよ? テロリストが人殺しのため

    に僕らを利用してるんですよ?

鈴本   知ってるよ。だから、何でやめるの?

ケイ   先生はおかしいと思わないんですか?

鈴本   人殺しが? テロリストの手伝いをしていることが?

ケイ   どっちもです。

鈴本   じゃあ、君は資本主義が正しいとでも言うの?

ケイ   人を殺すよりはマシです。

鈴本   わかってないのは君のほうだよ。資本主義だって人を殺してるんだよ? 僕ら

    の耳にまで届いていないから誰も気にしていないだけさ。この日本の上に立って

    る人間の掌は名前も知らない誰かの血で汚れてるんだよ。

ケイ   そんなの、

鈴本   そんなのなんだよ? 世界中の少数民族が住む場所を追われ、時には皆殺しに

    されて先進国のための農場が出来る。その農場で作られてるものは、別に僕らが

    食べるものじゃない。車を走らせる燃料になってたりするんだ。

ケイ   違う。

鈴本   違わない。爆弾で殺すのも、銃で殺すのも、毒で殺すのも、引き金を引くのも

    引かせるのも、命を奪うことには変わりがないはずだ。

ケイ   僕は殺したくて殺したんじゃない!

鈴本   そうさ。殺したくて殺す人間なんて本当に頭のおかしい人間さ。それは人間じ

    ゃないかもしれないね。でも、殺さなければこちらが殺されてしまうのさ。だっ

    たら、先にやらなければならないだろう? アキラ君のようにね。彼はスコアを

    求めていたんじゃない。自分の心の奥底に感じる意思に従っていたんだ。

ケイ   アキラは人殺しじゃない! 僕らはただのゲームだと思ってたんだ。

鈴本   あんなに素晴らしい才能があったのに、バカみたいに頭で考えるから自殺なん

    かするんだ。その点、ヒロ君は理解している。日本人がこの小さな国を守ってい

    くにはきちんとした心を持った人間じゃなければならない。そうでなければ、外

    敵に飲み込まれてしまうんだ。

ケイ   人を殺すのがきちんとした心なんですか?

鈴本   人を殺すんじゃない。敵を殺すんだ。人殺しなんて、最悪だよ。

ケイ   何が違うんですか?

鈴本   敵を殺さなければ、自分や自分の家族が死ぬ。だから敵を殺せば、みんなを守

    れるんだ。それは正しい行いだろう?

ケイ   ちっとも正しくなんかない! 誰が敵になるかなんてわからないじゃないか。

鈴本   困った子だね。君は、アキラ君が死んで混乱しているんだよ。少し、休んだ方

    がいいよ。

ケイ   僕にはわかりません。

鈴本   当然だろうね。資本主義に取り込まれた教育の実験台になっている君みたいな

    子どもにはいくら考えても答えは出てこないと思うよ。もう君には期待しないか

    らさ。帰りなよ。

ケイ   間違ってます。そんなの間違ってます。

鈴本   僕に言わせれば、こんな世の中の方が間違ってるよ。だから、一度全部をグチ

    ャグチャにして最初からやり直したほうがいいんだ。

ケイ   あんた頭がおかしいよ。

鈴本   君が大人になったらわかるよ。今は何でも出来ると思ってるから理想の中で飛

    んでいられるんだ。社会に出たら君みたいなあまちゃんはすぐに誰かに食い殺さ

    れてしまうだろうね。大人たちは過保護にいじめはいけないいじめはいけないな

    んていうけれど、学校を出てからだっていじめはあるんだよ? もっと陰湿で救

    いがなく逃げ道もないどうしようもない世界が待ってるんだ。その対処の方法も

    教えないで隔離ばかりするから心の弱い人間ばかり増えて、テレビの言いなり新

    聞の書いていることが真実だなんて思い込む大人になる。政治家が嘘をつかない

    大企業は世の中のことを考えてるなんて、そんなのありえない奇跡みたいなもん

    だ。そのくせ、大人は勉強しろ勉強しろって言う。勉強したところで悪い頭は治

    りっこないんだって言うことがちっとも理解できやしない。だから、僕はタネを

    まくんだ。この国を変えるためにね。君にはがっかりしたよ。君は日本を守る兵

    士にはなれない。去りたまえ。

   ケイ、出て行く。

   入れ替わりにセイジが入ってくる。

セイジ  鈴本先生、なんですか?

鈴本   やあ、セイジ君。よくきたね。

   暗転。

ケイ   誰かを大事に思うことは、同時に誰かを憎むことなんだろうか。僕はそうは思

    わない。昨日見つけた間違いは、今日から改めたっていいはずだ。明日見つかる

    間違いは明日直してもいいはずだ。僕たちはそうやって未来に向かっていいはず

    なのに、大人たちはみんな後ろを振り返りため息をつくだけで何も直さずに未来

    に向かって歩いていく。どうしてと尋ねても、忙しいからと言って放置する。

ケイ   教えて欲しい。でも、本当の答えは自分で見つけるしかない。僕の答えがあな

    たの答えじゃないように。あなたの答えが僕の答えじゃないのだから。答え探し。

    それが僕に与えられた最初で最後の任務。

                                       幕

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Mission~僕たちの聖戦~