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Mission～僕たちの聖戦～ 第三場
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第三場
放課後のコンピュータールーム。鈴本がテーブルに伏せて眠っている。
ヒロとアキラがやってくる。
ヒロ あ、サボってる。
アキラ ほんとだ。
鈴本、起きる。
鈴本 サボってるんじゃない。休憩中なんだ。
ヒロ もっと別のところがあるんじゃないの？
鈴本 ここが一番快適なの。おっさん連中はパソコンになんて寄りたがらないからな。
アキラ それは言えるかも。
ヒロ なにしてんの？
鈴本 休憩だって。
アキラ ケイは？
ヒロ 今日は掃除当番だって。
アキラ そっか。
鈴本 なんだよ。待ってるのに。
ヒロ 先生、じゃなかった。あれ？ なんて呼べばいいんだ？
鈴本 先生でいいよ。
ヒロ じゃあ、先生。ケイに用事があるの？
鈴本 ちょっと頼まれごとをされててね。
ヒロ 何？
鈴本 ゲームの設定をね。
アキラ Mission？ これのこと？
鈴本 うん、まぁ、そういうこと。
ヒロ 俺にやらせて。
鈴本 これはケイのアカウントで入ってるから、まず自分のアカウントを取って。
ヒロ どうやって？
アキラ フリーのメールアドレスでいいみたいだよ。
鈴本 お、話せる奴がいてよかった。
ヒロ で？
鈴本 一から教えないとダメな奴もいた。
アキラ 僕も作るから一緒に作ろう。
ヒロ お前、いい奴だな。どっかの偉そうな奴とは大違いだよ。
鈴本 それは俺のことかな？
ヒロ 他にいるなら見てみたいなぁ。
鈴本 学校の備品で遊んでいることを大目に見ているこの寛大な心を持った俺をそん
な風に言う奴なんていないだろうになぁ。もしこれが他の先生にばれてしまった
ら、一体どんなことになるのやら。と、チラミしてみる。
ヒロ わかったよ。先生は素晴らしい先生です。
鈴本 わかればよろしい。
アキラ クライアントはダウンロードしておいた方がいい？
鈴本 あんまり大っぴらにやられると俺の立場って言うものもあるからね。せめて２
台くらいにしておいて。
アキラ はい。
ヒロ メールアドレスできたけどどうすんの？
アキラ うん。次はね公式サイトで参加登録をしなきゃね。
鈴本 君はこういうのよくやるの？
アキラ 息抜きで。兄がやってるのを見て、教えてもらったりもしました。
鈴本 そっか。じゃあ、きっと驚くよ。
アキラ え？
鈴本 Missonは普通のＦＰＳと違うから。
ヒロ なに、ＦＰＳって？
鈴本 ファーストパーソンシューティングゲームの略さ。
ヒロ ふうん。そんなことより次は？
鈴本 聞いておいてそれか。
アキラ まって、僕もやる。
鈴本 所詮子どもだよな。
ヒロ 出来た。もう俺やってもいいんだろ？
鈴本 まぁ、そうなるね。
ヒロ、Missionの画面に向かい合う。キーボードとマウスを動かす。
鈴本 まずは任務を選んで。
ヒロ 少なくない？ ３つだけって。
鈴本 君の技量がわかっていないからね。新人にはどこも厳しいもんだ。
アキラ 自分と重ねてます？
鈴本 まあね。
ヒロ じゃあ、これ。
鈴本 市街地爆破計画か。まぁ、妥当なところだね。
アキラ ５人の敵民間人を巻き添えに出来ればMissionクリアだって。
鈴本 クリアすれば次のMissionに進める。
ヒロ おー。民間人を攻撃するってひどくね？
鈴本 明日の敵民間人は、敵なんだ。非情になれ！
アキラ あはは。鬼の司令官だ。
鈴本 ダメージを受けすぎると爆発してしばらく同じアカウントで参加できなくなる
から気をつけるんだぞ。
ヒロ はいはーい。
アキラ 体験談ですか？
鈴本 まあね。あ、
ヒロ なに？
鈴本 爆発に敵を巻き込むとボーナスがあったりするからそれをわざと狙ってもいい。
ヒロ 了解。
鈴本 では、健闘を祈る。
画面に食いつくように見つめる三人。
喧騒が聞こえる。ノイズ音と共に小型車量の走行音。
ヒロ 地味だな。
アキラ でも、動きはリアルだね。
鈴本 画像が粗いのが残念なんだけどね。
ヒロ 持ってる武器は、手榴弾１個と自爆用の爆弾１個か。これで５人？ 難しくな
い？
アキラ 困難を乗り越えるほうが人間成長するんだよ。
ヒロ へいへい。
ケイがやってくる。
ケイ えー、俺が最初だったのに。
鈴本 まぁ、すぐ交代できるよ。
ヒロ 期待を裏切ってやるぜ。
鈴本 基本隠密行動だからね。姿を見られたら、クリアできないよ。
ヒロ はーい。
ケイ どう？
アキラ まだ始まったばかり。敵を５人倒せばいいんだって。
ケイ ＲＰＧみたいだな。
自爆音。
ヒロ あぁ。ボタン間違えた。
ケイ じゃあ、俺と交代。
アキラ ２人しか倒してないよ。
ヒロ 初心者なんだよ俺。
鈴本 じゃあ、俺仕事を片付けてくるから、また後でな。
三人 はーい。
鈴本去る。
ヒロ あーぁ。次は？
アキラ 自爆後はスコアによってペナルティを受けるだって。ボーナスがある場合は相
殺が可能。スコア２のヒロは３時間後だって。
ヒロ じゃあ、今日はもう無理じゃん。がっかり。
ケイ ニュータイプの俺を見て勉強しろ～。んで、どうやんの？
アキラ もう。設定してあげるから、覚えてね。
ヒロ 覚えろよ～。
アキラ ヒロもね。
ケイ 言われてやんの。
ヒロ へいへーい。
アキラ これをこうして、ここにアカウントとパスを打ち込んで。
ケイ こう？
アキラ ＯＫ。それで出来るよ。
ケイ おー。
ゲームが起動。
ケイ この中から任務を選ぶんだ？
ヒロ あれ？ 俺がさっきやった奴がなくなってる。
アキラ ランダムなのかな？
ヒロ また挑戦できるのかな？
ケイ じゃあ、これやろっと。
アキラ 車両爆破だって。１台の車両の下に潜り込んで自爆し、３人以上を死傷させれ
ば任務完了。
ヒロ ずりぃ。俺もそれにすればよかった。
アキラ ちゃんと読まないで決めるからだよ。
ケイ いくぜー！
アキラ 見つからないように行くんだってよ。
ケイ 了解了解。敵は何でもいいの？
ヒロ 何でもいい。
アキラ うん。何でもいいみたい。
ケイ じゃあ、あれにしよ！
ヒロ どれ？
アキラ あのバスみたいな奴？
ケイ うん。すげえバカみたいに乗ってるからさ。
ヒロ 罠じゃなけりゃいいけどな！
アキラ そういう見方も出来るね。
ケイ オケツにいらずんば、虎児を得ずだぜ！
アキラ 虎穴だね。
ケイ ん？
ヒロ オケツ！
ケイ オケツ！
アキラ まぁ、いいや！ いけー！
爆発音と悲鳴。怒号とサイレンが聞こえる。
ヒロ やった。
アキラ すごい。
ケイ 俺すげー。
アキラ スコア５０だって。
ヒロ 俺はいくつだったっけ？
アキラ ２。
ケイ ２だって。プププ。
アキラ あ、ボーナスもついた。最終スコア７５。ケイ、すごいね。
ケイ まあね。
画面が点滅する。
アキラ え？
ヒロ なになに？
ケイ アキラ、これなんて書いてあんの？
アキラ スコアボーナス特典で、スコアが換金出来るって。
ヒロ 監禁？ つかまんの？ やばくね？
ケイ 嘘！
アキラ 監禁じゃなくて、換金。お金に換えられるってこと。
ヒロ マジですか！
ケイ え、いくら？ いくら？
アキラ 待って。日本円でスコア１で４８円だって。だから７５だと３６００円。
ケイ おおおおお！
ヒロ まじでー！？ 最初からそう言ってくれれば、俺もっと真面目にやったのに。
ケイ 才能の差だな。
ヒロ 言ってろ。明日はそのスコアを塗り替えてやる。
アキラ 次の任務が出たよ。軍事基地に潜り込んで機械を置いてくるのが任務みたい。
ケイ 簡単だぜ！
アキラ 兵器は無いみたい。
ケイ 難しそうだな。
ヒロ いいなぁ。
ケイ ま、見てろって。
ヒロ いいや、俺今日は帰る。
ケイ なんだよ。すねんなよ。
ヒロ そうじゃねえよ。塾の下見みたいなのがあるんだよね。
ケイ あぁ、そっか。また明日な。
ヒロ おう。攻略法みたいなのがあったら教えてね。
ケイ 了解。
アキラ 僕もこっちでやる。
ケイ うん。英語わかんなかったら聞くね。
アキラ わかった。
ケイ、アキラそれぞれ画面を食い入るように見つめている。
激しい曲が流れ、互いに熱中していく。
突然、鈴本が入ってきて音楽がやむ。
鈴本 どうだ？
二人とも無反応。
鈴本 あれ？ おーい。
自爆音の後にケイが顔を押さえる。
ケイ あー失敗した。
鈴本 どうだった？
ケイ まぁまぁかな。
鈴本 どれどれ？ おー、スコア２００近いな。
ケイ これってどうやったらお金がもらえるの？
鈴本 なんだ？ もう気がついたのか。
ケイ まあね。
鈴本 未成年が受け取るにはいろいろ難しいだろうな。
ケイ げ。がっかりだ。
鈴本 俺のアカウントにスコアを転送してくれれば、俺が換金してやるよ。
ケイ 本当？
鈴本 ああ。
ケイ 騙したりしない？
鈴本 あのなぁ。そんなことしたら俺は犯罪者になってしまうだろ。
ケイ そっか。
鈴本 司令官を疑うんじゃない。
ケイ 了解であります。
鈴本 こっちは？
鈴本、アキラのゲーム画面を見る。そして、驚きの声をあげる。
鈴本 おいおい。冗談だろ。
ケイ アキラはゲーム苦手だからね。
鈴本 苦手だって？ これで？
ケイ え？
ケイ、アキラのゲーム画面を見て驚愕。
ケイ スコア６００？！ ６００？
アキラ ふー。先生、これ面白いね。
鈴本 だろ？
ケイ アキラ！ お前すごいな！
アキラ え？
ケイ スコア見ろよ！
アキラ ６０７？ これ、すごいの？
鈴本 今日のレートで３万円くらいだな。
アキラ そっか。すごいのか。
ケイ 俺も、負けられないぞ！ で、何をやったんだ？
アキラ 軍事基地の補給倉庫の破壊と民間施設の破壊。
ケイ よーし。
画面に向かうケイ。
鈴本 自爆後は数時間置かないと任務に就けないよ。
ケイ えー、そうなの？
鈴本 そうなの。
アキラ あ、僕そろそろ帰るね。塾に遅れちゃう。
ケイ あぁ。じゃあ、また明日な。
鈴本 さて、そろそろ俺たちも片付けようか。
ケイ えー！
鈴本 どうせ明日まで出来ないんだから今日はもう終わり。
ケイ なんか、ちょうどいいゲームを押し付けられた感じ。
鈴本 あ、ばれた？ でも、面白いしお金ももらえるからいいだろ？
ケイ まあね。
暗転。
ケイ、アキラ、ヒロそれぞれに明かりが当たる。
ケイ こうして僕らは放課後にコンピュータールームに入り浸るようになった。
アキラ あはははは！ スコア３００追加！ 次はもっと行くぞー！
ヒロ 俺だって、負けないぞ！ スコア１００。ほら、もっとだ！
ケイ スコア５００を超えた！
ヒロ 加熱する僕らの心。任務はどんどん僕らの心の中に入っていって、僕らを蝕ん
でいった。白い絵の具に黒い絵の具を少しずつ落としていくように。白は決して
白には戻らない。
アキラ お金には興味は無い。だって。お金は大人になれば自然に稼げるものだと思っ
ているから。でも、このスコアは違う。なにか今までやってきたゲームとは違う
んだ。上手くはいえないけど、魂のようなものを感じるんだ。
ケイ 僕らは授業中も任務のことが気になるようになった。
ヒロ 塾なんて行っている場合じゃない。もっとスコアを稼がなければ。
アキラ 学校になんて行っている場合じゃない。もっとスコアが欲しかった。
ケイ そして、アキラは学校に来なくなった。
アキラ 家のパソコンを使えば、もっとスコアが稼げるんだ。誰にも邪魔されずにもっ
とスコアが手に入るんだ。
ケイ ヒロも学校を休みがちになり、塾に持って行くはずの月謝をネットカフェにつ
ぎ込んで任務をこなそうとした。
ヒロ なんで、こんなに頑張ってるのにスコアが伸びないんだよ！ もっと、任務を
くれよ！ あいつらよりもいい任務をくれよ！
アキラ 僕に話しかけないで！ 今任務で忙しいんだ！ 誰も邪魔をしないで！
ヒロ うるさい！ うるさい！ うるさい！
ケイ 違和感。ヒロとアキラの来なくなったコンピュータールームの中で僕は急に心
細くなった。同じ小学校からほとんど同じクラスだった二人が、そばにいなくな
ったからなのか、同じゲームをしているはずなのに独りぼっちだということなの
か。僕は、なんだか急に不安になった。
ヒロ ちくしょう。何で、こんなショボイ任務しかないんだよ！ アキラの奴、日本
人トップになりやがった。ケイは？ なんだよ！ お前たちのせいで俺に回って
くるのはショボイ任務になっちゃうんだよ！ ふざけんなよ！
アキラ スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。
スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。
スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。スコア。
スコア。スコア。スコア。
ケイ 世界一のスコアを築き上げた次の日、アキラが自殺した。たった一つのニュー
スが引き金だった。
ニュース テロリストが作成した現実とリンクしたゲーム「Mission」によって世界各地
で大規模なテロ事件が起こっています。Missionはゲームではありません。遠隔
操作された電子機器が世界中のゲーマーをテロリストへと変えたのです。すでに
このゲームによって１００万人が犠牲になっており、その多くは民間人で１０歳
にも満たない子どもたちも含まれているとのことです。そして、恐ろしいことに
世界一のテロリストがこの日本の中学生だと言うのです。
ケイ もしもしヒロ？ アキラが死んだって。あいつ一人で１０万人も殺したんだっ
てさ。あれ、ゲームじゃなかったんだよ。もうやめないか？ やめよう？
ヒロ やった。俺の時代が来た！ やめるだって？ 冗談じゃないよ。そうやって、
俺を騙して今度は自分がトップになるつもりなんだろ？ 騙されないぞ！ 邪魔
をするなよ！ やめたきゃ、一人でやめろよ！
暗転。
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