一人舞台 ●「有罪」

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一人舞台 ●「有罪」

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●「有罪」

   被告人が立っている。・が付いているのは心の中の言葉。

被告・ あー、うぜぇ。早くおわんねえかなぁ。どうせ死刑だろ? バカじゃねえのこい

   つら。こんなんで金がもらえるんだから気楽なもんだよな。俺にやらせてくれたら

   片っ端から死刑にしてやんのにな。

被告  はい。そうです。被害者の方にはとてもひどいことをしたと思っています。

被告・ ビール瓶で頭を勝ち割ってやったら、そりゃあもう気持ちがスッキリしたね。も

   やもやがなくなったって感じだよ。もっと早くやってやればよかった。正直に言う

   と金を取るよりもよっぽどスリルがあったぜ。

被告  はい、そうです。あの時は頭が真っ白になってしまって、もう何がなんだかわか

   らなくて耳の後ろのほうから誰かが殺せ、殺せって命令をしてくるんです。

被告・ はい、そうです。配送です。宅急便かってーの。おとなしく金をよこせばいいの

   に、騒ぎ立てたから黙らせようと思ってぶっ叩いただけだよ。人間って案外簡単に

   死ぬんだな。そっちの方が驚きだったぜ。

被告  声を聞いていたらもう押さえが利かなくなって、そうしたら身体まで勝手に動き

   出して、気がついたときにはみんな床に倒れていたんです。僕がやったなんて信じ

   られません。

被告・ って弁護士の先生に言うように言われました。死刑が回避できれば自分のカブが

   あがると思ってんだろ。どいつもこいつも自分が大事すぎて反吐が出るぜ。

被告  僕はそんなことはしてません。

被告・ 俺がやった。正直にぶちまけてやりたいけどよ。死刑確定で何年も過ごすより無

   期懲役を勝ち取ってとにかくおとなしくしてればそのうち仮釈放になるんだからち

   ょろいもんだぜ。大人って言うのは賢いつもりでいるけど結局アホの集まりなんだ

   よな。

被告  亡くなられた方の命は掛買いの無いものだったと今は思っています。なんとお詫

   びを言っていいかわかりません。

被告・ だけど何よりも俺の命が一番大事~。

被告  いえ、弁護士の人に言われたからではありません。僕が自分で遺族の方に手紙を

   書きました。

被告・ そう! 弁護士先生に言われました。手紙を書いておけば有利だと。読む読まな

   いは関係ない。これは儀式だ。懸賞みたいなものだと。当れば減刑

被告  社会に出ることが出来たら、この償いをしていこうと思っています。

被告・ 思ってません。俺を守らなかった奴らに復讐をしてやろうかと思っています。お

   前らも夜道に気をつけろよ。夜襲、復讐だな。予習復習みたいにやってやるよ。

被告  申し訳ありませんでした。

被告・ ほらよ、こんなに謝ってるんだから、俺を無期にしろよ。こんなに謝ったことな

   んか無いぜ? まぁ、フリだけどな。

被告  僕の命で返せるものなら返したいです!

被告・ おっと、よけいなことを言ったかな? まぁ、いいや。

被告  僕の心を見てください。今は後悔とお詫びしかありません。

被告・ 本当に見れるもんなら見てみろよ。何が裁判員だよ。何が裁判官だよ。何が検事

   だ弁護士だ。こんなクソみたいな世の中でこんな茶番しか出来ないでよ。

被告  わかりました。判決には素直に従うつもりです。

被告・ チャンスはまだ2回あるからな。今日がダメでも次があるさ。言えよ。死刑でも

   いいさ。言えよ。

   判決が出る。

   被告、胸の前で小さく拳を握る。

   暗転。

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