一人舞台 ●「シゲムラモリオ」

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一人舞台 ●「シゲムラモリオ」

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●「シゲムラモリオ」

   繁村が電話の子機を持って話している。

繁村  だから違う。シゲムラ。シゲモリじゃない。シゲムラだ。名前なんてどうでもい

   い。それよりお前のところの商品が問題なんだ。いいか? あれはどう考えてもひ

   どすぎるだろう? 何のことだと?

   繁村、受話器を怒鳴りつける。

繁村  何で自分のところの商品もわからないんだ!

繁村  いいか? あんなに大々的に宣伝しているからどんなに便利なのか使ってみたら、

   一度に全部出たんだぞ? 全部だ。わかるか? 700ml全部が床に撒き散らされた

   んだぞ? 何? 撒いたのは私じゃないだと?

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  そんなことはわかってるんだよ! お前がいたならここでぶっ飛ばして話はそれ

   で終わりなんだ! そうじゃないからこうやって電話で話をしてるんだろうが! 

   何? 録音してるだと? すればいいじゃないか。なんだ? 録音しておかないと

   困ることでもあるのか? じゃあ、こっちも録音してやる。ちょっと待ってろ。

   繁村、カセットデッキを持ってくる。

繁村  これでこっちも録音できるぞ。いいか? 何? 商品番号? 知るかそんなもん。

   商品の裏に書いてあるだと? お前が見ろ!

   繁村、不意にカセットデッキを見る。カセットデッキに怒鳴る。

繁村  これじゃ俺の声しか入らないじゃないか! こっちの話だ。とにかくこういった

   商品を扱っているようじゃお前の会社はいつまでたっても一流にはなれないんだ

   ぞ? その辺をわかってるのか? わかってるだと? 本当に判ってるなら言って

   みろ。どうした? 言ってみろ。ほら、わかってないじゃないか。そういう小手先

   のやり取りで何とか逃げようとする性根が私は大嫌いなんだ。顧客に嘘をつくな! 

   知らないなら知らないとはっきり言え! そうだ。じゃあ、知っている奴と代われ。

   何? 出来ないだと?

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  お前じゃ話にならないのにつき合わされるこっちの身にもなってみろ! いい

   か? 大体何だ? 20秒に月10円の通話料がかかるとは、えぇ? 何? それは

   携帯電話の話か。じゃあいい。とにかくお前の上司を出せ。

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  上司がいないなんてことがあるか! お前一人で何もかもやってるのか! じゃ

   あ、社長を出せ!

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  シゲモリじゃない! シゲムラだ! 何度間違えれば気が済むんだ! 社長はこ

   こにはいない? そんなことは知ってるんだ。社長が電話で客の応対に出てくる会

   社なんて聴いたことも無い! は? 何がですから出れませんだと? 開き直るの

   か? 冗談じゃないぞ。お前のところの商品はもう買わないからな! いいのか? 

   何? それならそれでいいだと? お前、そんなことを言ってるとネットで晒され

   たあの大手企業みたいに叩かれるぞ? 脅し? 脅しなもんか。お前の会社を心配

   してやってるんだ。こっちはな、小さい時からお前の会社の商品を使ってるんだ。

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  ありがとうございますとはなんだ! こっちは文句を言ってるんだぞ! だから

   シゲモリじゃない! シゲムラモリオだ。今度間違えたら本社に行くからな。モリ

   シゲでもない。誰だモリシゲムラオって。人の名前を勝手にシャッフルするんじゃ

   ない。

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  お前じゃ話にならん。他の奴を出せ。

   繁村、深いため息をついて待つ。

繁村  もしもし? だから、ムラモリオシゲって誰だ! 全然違ってるじゃないか。お

   前、さっきの奴だな? 声を変えただけだろう? だから、そういう小手先の対応

   で逃げようとするな!

   繁村、受話器を睨む。

繁村  勝手に電話を切るんじゃない!

   繁村、受話器に怒鳴りつける。

繁村  今からそっちに行ってやるからな!

   暗転。

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