****************************************
7人の大人 第一場
****************************************
第一場
そこは深い森の中、水分の多い空気が立ち込めている。木々の切れ間を縫ってくる
陽の光が白く霧を浮き立たせ、真っ暗ということはないが、それでも人に恐れを抱
かせる雰囲気がある。
声が聞こえる。それは森の精霊の声のようにも聞こえる。
風が吹き、霧に谷間が現れる。
小さな女の子が泣いている。女の子は袋を持っている。(舞台上かまたは客席)
そこへ、7人のきこり達がやってくる。きこり達はおのおの道具や武器を携えてい
る。
A 昨日の鹿はほんとに大きかったな!
B 鹿もいいけど。おいしいのがいいなぁ。ねえ、今日のご飯何にする?
C 俺は悪くねぇ。絶対、あやまらねぇ。
D お前が、あんなところに置くからだろ! ぜってぇ、弁償だかんな!
適当な会話をしながら、女の子には気がつかないで通り過ぎる。 女の子だけが舞
台の上に取り残される。そこへBだけが猛ダッシュで戻ってくる。
B 何かおいしい匂いがするよ!
ぞろぞろと戻ってくる一行。女の子には気がつかない。むしろ、石ころレベル。
A うるせえ!
C 八つ当たりすんなって、
D あれなら俺の方がうまいよ。
B そんなにおいしいの?
G おい、あの子誰だろう?
D あの子?
B あの子からおいしそうなにおいがするよ!
A なに!
G ねえ、あの子誰かなぁ?
D 子供に決まってるさ。
A そんなに言われなくてもわかってんだよ!
D へぇー、じゃあどこの誰だか言ってみろよ。
F うっせぇな、俺が聞いてくる!
G でも、(F)が言ったら泣かないかなぁ?
D きっと泣くな。
A もう泣いてる。
C じゃあ、平気だ。
D 何がさ。
C あの子は泣いてるんだから、こんな変な顔のおっさんが行っても、泣くことはない。
B そうかぁ
D ばか! そんなことあるか、今よりもっと泣き出すに決まってる!
C 賭けるか?
F 賭けだ!
C 当たり前だ!
B じゃあ、今日の晩御飯を賭けようよ!
A じゃあ、この矢から右が今よりも泣く!
C 左が、泣かないか変わらないだな?
G どっちから見て右左か決めようよ
D まどろっこしいんだよなぁ
B 今日はさ、ご馳走にしようよ! 食べれない人、かぁわいそぉ~。(自分が食べれる
と思って疑わない)
G ねえ、どっちがどっちだっけ?
A 面倒だな、弓も置くから、泣くのはこっち
F 矢が泣かないか変わらないだな?
C みんな真ん中に並べ~
A 勝手に仕切るな! (大人たち並ぶ) よし、みんな並んだな?
F せーので飛べよ。
G どっちがどっちだっけ?
A 弓が泣く、矢が変わんないだ。
G 泣き止んだらどうするの?
D 知るか馬鹿!
B 何を食べるか決めなくていいの?
C 狩の獲物によるさ
G どっちがどっち?
F うるせえ! 好きな方に飛べ!
A せーの!
全員、弓のほうに飛ぶ。
D 何でみんな同じ方に飛ぶんだよ!
C 普通泣くだろう、こんなの見たら…。
F こんなのとは何だよ!
A お前もこっちじゃねぇか。
F いや、だって、泣くだろう普通。
C もう1回やるか? 賭けになんねえし…。
B おなか減るからやだよ~。
F お前もなんか言えよ!
E え? 俺? 俺はいいよ~。
A もう1回、やろう! いいか、みんな良く考えろよ? 全員が同じ方向に飛んだらダ
メなんだぞ!
B わかった!
C おう!
F いくぞー
G どっちがどっち?
F うるせえ! 好きな方に飛べ!
A せーの!
全員、矢のほうに飛ぶ。
D 進歩のねえやつらだなぁ!
C お前もこっちじゃねぇか。
D 俺は裏の裏だよ!
A あーもう! 最後の一回だ!
B わかったぁー
C おし。
D 今度は気をつけろよ!
G どっちがどっち?
C 好きな方に飛べ!
G どっちも好きだったら?
E それでも決めなくちゃなんない時があるんだよ。いいか、人生って奴には…、(誰も
聞いてない)
A ほい、行くぞー。(並ぶ)せーの!
全員誰かが跳ぶのを待ってる。
D 早く飛べよ。
C お前が飛べよ。
F 今度飛ばなかったら、俺が決める!
A 何でお前が決めるんだよ!
D じゃあ、俺が決める。
B おなかすいたー。早くご飯にしよう
G どっちに跳べばいいと思う?
E 弓。
F 何で?
E 勘。(一同、その言葉に納得、女の子泣きつかれて何時の間にか眠ってしまう)
C 言葉が少ないと重みがあるなぁ、
D よし、少し時間をくれ! ちょっと考えたい。
A おう! 今度はまじめに考えろよ! いつまでもこんなことしてられないからな。
大人たち考え中。
C あ、そうだ。(Bに耳打ち)お前、矢のほうに飛べば、俺達でご馳走を山分けできる
かもしれないぞ。
B なんで?
C いいか、みんな最初は面白がってやってたけど、いまやもう飽きてるんだ。
B うん。
C つまりは、早く終わらせたいんだ。
B でも、あの顔を見たら泣き出すよ~。
C ばか、あの子を見ろ!
B あ、寝てる…。
C しー、泣きつかれたのさ。幸い誰もそのことに気がついてないみたいだし、みんな絶
対泣く方にかけるはずだ。
B へぇー。
C わかったか?
B うん。
C よし、わかったら行けー。(今度はEに)お前は、泣く方に行くんだよな?
E うん。
C だよなー。どう考えても泣くだよな。たとえ寝ていたとしても! まぁ次できまるさ。
E 何で?
C まぁ、見てろって。いけにえを用意した。
A よーし、いいかみんな?
大人たち おー
F いいか?
G うん。
F どっちがどっちかわかってるか?
G わかんない。
D よーし、並ぼうぜぇ!
A 準備はいいか?
大人たち おー!
A せーの!
跳ぶ。Cだけ弓のほうに。みんな矢のほうに飛ぶ。
C え。
D よーし、決まったな。
C あれ?
F どうした?
B 何でそっちにいるの?
C みんなこそなんで?
A だってなぁ。
F 寝てるし、あの子。
D だな。
C えー、でも、これを見たら泣くでしょう?
F 起こしたらかわいそうだろう。
C え。
D 寝起きにこの顔、トラウマになるぞ。
E そうだね。
F いくらなんでもそんな可愛そうなことは出来んよ。
C え、でもさ…
A 男らしくすっぱりとあきらめろ。
C まあ、いいさ。ようはあの子が泣けばいいんだから。
B いい匂いだなぁ…。(女の子に近づき、かってに袋の中の食べ物を食べ始める)
G しばらくほうっておこうよ。
C いいや、今すぐだ。今すぐやるんだ!
B これおいしいねぇ~。
A ばか! 何やってるんだよ!
B だって、おなか減っちゃったんだもん。
大人たちが集まってぎゃあぎゃあ騒ぐ。女の子、目を覚ますが 誰?なんてありき
たりなことは聞かない。
姫 お前達、私を立たせなさい!
大人たちの間に流れる うわー、痛いやっちゃなぁーという空気。
A 賭けは俺達の勝ちだな。
C ものすごい敗北感なんだけど、あんまり悔しくない。
G あの子なんで泣いていたの?
F 泣いていれば、きっと誰かが助けてくれるって思ってたんじゃないの?
D まったく親の顔が見てみたいな。
B もうないの?
姫 こらお前! あたしのご飯を食べたのね!
A 説明っぽいしな。
C かえろうか?
B まだ晩御飯とってないよ!
D まあ、俺達が悪いわけじゃないし。
F 明らかに面倒くさそうな子供だしね。
E 触らぬナントカだね。
姫 こらお前、責任を取りなさい! あたしのご飯を食べたんだから、あたしの家来にな
りなさい!
B え~。いやだよぉ
姫 あたしの家来になったら、もっとおいしいものを食べさせてあげるわ!
B え? 本当? なるよ! なんにでもなるよ!
C 意外に人の使い方を知ってるな。
A じゃあ、その子はお前に任せたぞ。(Bに)
C 間違っても、つれてくるなよ。
D 適当なところで捨てて来い。
E 親が捜してたら、ついでに何かもらって来い。
F どうせ、親とはぐれたんだろうさ。
G ねえ、誘拐にならないのかな?
大人たち 誘拐?
A 馬鹿やろう、何でもっと早く気がつかないんだよ!
G だって、あんなきれいな洋服を着ているんだもん。きっと親も捜してるよ!
C ということは、親は金持ちだな!
F これでこんな暮らしともおさらばだ!
G そうだよ早く返してあげようよ。
B お礼に何かおいしいものが!
A 馬鹿か? お礼なんてたかが知れてるんだよ!
D そうよ! 身代金を要求するんだよ!
女の子逃げようとする
F 逃がすな!
E (捕まえる)おとなしくしなさい。
姫 この人でなし! あたしにこんなことをしてただですむと思ってるの?
C ただですむかって? そのくらいの方が、お金も期待できるさ!
A よし、縛り上げとけ!
F その甲高い声も気に入らないから、口もふさいどけ!
D やっほー、これでふかふかのベッドの生活だな!
G 僕たち捕まったらどうなるの?
大人たち 縛りクビ!
A 逃げられればどうなるの?
大人たち 大金持ち!
姫 フガフガフガ…
D きこえねーなぁ。
G ねぇ、かわいそうだよ。
A 俺達の
C 人生の方が
D もっと
E かわいそうさ
G そっか、そうだよな
歌(7人でビンボー悲しいの歌)
ビンボー悲しい
貧乏は悲しいー。
貧乏は悔しいー。
貧乏は苦しいー。
貧乏は切ない。
お金があれば、何でもできる。
食べたいものを食べ、
したいことをして、
眠いときに寝て、
毎日風呂に入る。
お金がないと、生きてはいけない。
獲物が取れなきゃ、腹ペコも我慢。
山の中で、自給自足なんてつらい。
お金があれば、街の中で、
好きなものを買いたい放題。
お金があれば、飲み屋の前で、
酒の臭いをかぐだけなんて、
ありえなーい!
お金が大事!
お金が大事!
食べ物大事!
腹ペコ嫌い!
だから、お金が大事~!
A さあ、うちに帰ろう!
B まだご飯とってないでしょ?
C 飛び切りの獲物が、
D やってきたのさ~!
7人、女の子を連れ去る。
Next→→→第二場