7人の大人 第一場

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7人の大人 第一場

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第一場

   そこは深い森の中、水分の多い空気が立ち込めている。木々の切れ間を縫ってくる

   陽の光が白く霧を浮き立たせ、真っ暗ということはないが、それでも人に恐れを抱

   かせる雰囲気がある。

   声が聞こえる。それは森の精霊の声のようにも聞こえる。

   風が吹き、霧に谷間が現れる。

   小さな女の子が泣いている。女の子は袋を持っている。(舞台上かまたは客席)

   そこへ、7人のきこり達がやってくる。きこり達はおのおの道具や武器を携えてい

   る。

A 昨日の鹿はほんとに大きかったな!

B 鹿もいいけど。おいしいのがいいなぁ。ねえ、今日のご飯何にする?

C 俺は悪くねぇ。絶対、あやまらねぇ。 

D お前が、あんなところに置くからだろ! ぜってぇ、弁償だかんな!

   適当な会話をしながら、女の子には気がつかないで通り過ぎる。 女の子だけが舞

   台の上に取り残される。そこへBだけが猛ダッシュで戻ってくる。

B 何かおいしい匂いがするよ!

   ぞろぞろと戻ってくる一行。女の子には気がつかない。むしろ、石ころレベル。

A うるせえ!

C 八つ当たりすんなって、

D あれなら俺の方がうまいよ。

B そんなにおいしいの?

G おい、あの子誰だろう?

D あの子?

B あの子からおいしそうなにおいがするよ!

A なに!

G ねえ、あの子誰かなぁ?

D 子供に決まってるさ。

A そんなに言われなくてもわかってんだよ!

D へぇー、じゃあどこの誰だか言ってみろよ。

F うっせぇな、俺が聞いてくる!

G でも、(F)が言ったら泣かないかなぁ?

D きっと泣くな。

A もう泣いてる。

C じゃあ、平気だ。

D 何がさ。

C あの子は泣いてるんだから、こんな変な顔のおっさんが行っても、泣くことはない。

B そうかぁ

D ばか! そんなことあるか、今よりもっと泣き出すに決まってる!

C 賭けるか?

F 賭けだ!

C 当たり前だ!

B じゃあ、今日の晩御飯を賭けようよ!

A じゃあ、この矢から右が今よりも泣く!

C 左が、泣かないか変わらないだな?

G どっちから見て右左か決めようよ

D まどろっこしいんだよなぁ

B 今日はさ、ご馳走にしようよ! 食べれない人、かぁわいそぉ~。(自分が食べれる

 と思って疑わない)

G ねえ、どっちがどっちだっけ?

A 面倒だな、弓も置くから、泣くのはこっち

F 矢が泣かないか変わらないだな?

C みんな真ん中に並べ~

A 勝手に仕切るな! (大人たち並ぶ) よし、みんな並んだな?

F せーので飛べよ。

G どっちがどっちだっけ?

A 弓が泣く、矢が変わんないだ。

G 泣き止んだらどうするの?

D 知るか馬鹿!

B 何を食べるか決めなくていいの?

C 狩の獲物によるさ

G どっちがどっち

F うるせえ! 好きな方に飛べ!

A せーの!

   全員、弓のほうに飛ぶ。

D 何でみんな同じ方に飛ぶんだよ!

C 普通泣くだろう、こんなの見たら…。

F こんなのとは何だよ!

A お前もこっちじゃねぇか。

F いや、だって、泣くだろう普通。

C もう1回やるか? 賭けになんねえし…。

B おなか減るからやだよ~。

F お前もなんか言えよ!

E え? 俺? 俺はいいよ~。

A もう1回、やろう! いいか、みんな良く考えろよ? 全員が同じ方向に飛んだらダ

 メなんだぞ!

B わかった!

C おう!

F いくぞー

G どっちがどっち

F うるせえ! 好きな方に飛べ!

A せーの!

   全員、矢のほうに飛ぶ。

D 進歩のねえやつらだなぁ!

C お前もこっちじゃねぇか。

D 俺は裏の裏だよ!

A あーもう! 最後の一回だ!

B わかったぁー

C おし。

D 今度は気をつけろよ!

G どっちがどっち

C 好きな方に飛べ!

G どっちも好きだったら?

E それでも決めなくちゃなんない時があるんだよ。いいか、人生って奴には…、(誰も

 聞いてない)

A ほい、行くぞー。(並ぶ)せーの!

   全員誰かが跳ぶのを待ってる。

D 早く飛べよ。

C お前が飛べよ。

F 今度飛ばなかったら、俺が決める!

A 何でお前が決めるんだよ!

D じゃあ、俺が決める。

B おなかすいたー。早くご飯にしよう

G どっちに跳べばいいと思う?

E 弓。

F 何で?

E 勘。(一同、その言葉に納得、女の子泣きつかれて何時の間にか眠ってしまう)

C 言葉が少ないと重みがあるなぁ、

D よし、少し時間をくれ! ちょっと考えたい。

A おう! 今度はまじめに考えろよ! いつまでもこんなことしてられないからな。

   大人たち考え中。

C あ、そうだ。(Bに耳打ち)お前、矢のほうに飛べば、俺達でご馳走を山分けできる

 かもしれないぞ。

B なんで?

C いいか、みんな最初は面白がってやってたけど、いまやもう飽きてるんだ。

B うん。

C つまりは、早く終わらせたいんだ。

B でも、あの顔を見たら泣き出すよ~。

C ばか、あの子を見ろ!

B あ、寝てる…。

C しー、泣きつかれたのさ。幸い誰もそのことに気がついてないみたいだし、みんな絶

 対泣く方にかけるはずだ。

B へぇー。

C わかったか?

B うん。

C よし、わかったら行けー。(今度はEに)お前は、泣く方に行くんだよな?

E うん。

C だよなー。どう考えても泣くだよな。たとえ寝ていたとしても! まぁ次できまるさ。

E 何で?

C まぁ、見てろって。いけにえを用意した。

A よーし、いいかみんな?

大人たち おー

F いいか?

G うん。

F どっちがどっちかわかってるか?

G わかんない。

D よーし、並ぼうぜぇ!

A 準備はいいか?

大人たち おー!

A せーの!

   跳ぶ。Cだけ弓のほうに。みんな矢のほうに飛ぶ。

C え。

D よーし、決まったな。

C あれ?

F どうした?

B 何でそっちにいるの?

C みんなこそなんで?

A だってなぁ。

F 寝てるし、あの子。

D だな。

C えー、でも、これを見たら泣くでしょう?

F 起こしたらかわいそうだろう。

C え。

D 寝起きにこの顔、トラウマになるぞ。

E そうだね。

F いくらなんでもそんな可愛そうなことは出来んよ。

C え、でもさ…

A 男らしくすっぱりとあきらめろ。

C まあ、いいさ。ようはあの子が泣けばいいんだから。

B いい匂いだなぁ…。(女の子に近づき、かってに袋の中の食べ物を食べ始める)

G しばらくほうっておこうよ。

C いいや、今すぐだ。今すぐやるんだ!

B これおいしいねぇ~。

A ばか! 何やってるんだよ!

B だって、おなか減っちゃったんだもん。

   大人たちが集まってぎゃあぎゃあ騒ぐ。女の子、目を覚ますが 誰?なんてありき

   たりなことは聞かない。

姫 お前達、私を立たせなさい!

   大人たちの間に流れる うわー、痛いやっちゃなぁーという空気。

A 賭けは俺達の勝ちだな。

C ものすごい敗北感なんだけど、あんまり悔しくない。

G あの子なんで泣いていたの?

F 泣いていれば、きっと誰かが助けてくれるって思ってたんじゃないの?

D まったく親の顔が見てみたいな。

B もうないの?

姫 こらお前! あたしのご飯を食べたのね!

A 説明っぽいしな。

C かえろうか?

B まだ晩御飯とってないよ!

D まあ、俺達が悪いわけじゃないし。

F 明らかに面倒くさそうな子供だしね。

E 触らぬナントカだね。

姫 こらお前、責任を取りなさい! あたしのご飯を食べたんだから、あたしの家来にな

 りなさい!

B え~。いやだよぉ

姫 あたしの家来になったら、もっとおいしいものを食べさせてあげるわ!

B え? 本当? なるよ! なんにでもなるよ!

C 意外に人の使い方を知ってるな。

A じゃあ、その子はお前に任せたぞ。(Bに)

C 間違っても、つれてくるなよ。

D 適当なところで捨てて来い。

E 親が捜してたら、ついでに何かもらって来い。

F どうせ、親とはぐれたんだろうさ。

G ねえ、誘拐にならないのかな?

大人たち 誘拐?

A 馬鹿やろう、何でもっと早く気がつかないんだよ!

G だって、あんなきれいな洋服を着ているんだもん。きっと親も捜してるよ!

C ということは、親は金持ちだな!

F これでこんな暮らしともおさらばだ!

G そうだよ早く返してあげようよ。

B お礼に何かおいしいものが!

A 馬鹿か? お礼なんてたかが知れてるんだよ!

D そうよ! 身代金を要求するんだよ!

   女の子逃げようとする

F 逃がすな!

E (捕まえる)おとなしくしなさい。

姫 この人でなし! あたしにこんなことをしてただですむと思ってるの?

C ただですむかって? そのくらいの方が、お金も期待できるさ!

A よし、縛り上げとけ!

F その甲高い声も気に入らないから、口もふさいどけ!

D やっほー、これでふかふかのベッドの生活だな!

G 僕たち捕まったらどうなるの?

大人たち 縛りクビ!

A 逃げられればどうなるの?

大人たち 大金持ち!

姫 フガフガフガ…

D きこえねーなぁ。

G ねぇ、かわいそうだよ。

A 俺達の

C 人生の方が

D もっと

E かわいそうさ

G そっか、そうだよな

歌(7人でビンボー悲しいの歌)

ビンボー悲しい

貧乏は悲しいー。

貧乏は悔しいー。

貧乏は苦しいー。

貧乏は切ない。

お金があれば、何でもできる。

食べたいものを食べ、

したいことをして、

眠いときに寝て、

毎日風呂に入る。

お金がないと、生きてはいけない。

獲物が取れなきゃ、腹ペコも我慢。

山の中で、自給自足なんてつらい。

お金があれば、街の中で、

好きなものを買いたい放題。

お金があれば、飲み屋の前で、

酒の臭いをかぐだけなんて、

ありえなーい!

お金が大事!

お金が大事!

食べ物大事!

腹ペコ嫌い!

だから、お金が大事~!

A さあ、うちに帰ろう!

B まだご飯とってないでしょ?

C 飛び切りの獲物が、

D やってきたのさ~!

   7人、女の子を連れ去る。

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