7人の大人 第六場

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7人の大人 第六場

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第六場

   ホネヌキビル

   シャレコウベイダーの本拠地。ブルーとイエローが走りこんでくる。

青井  やつらまだ怪人を雇ってないようだな。

黄鳥  チャンスだ。このまま一気に行こう。

   黒い戦闘員と白い戦闘員が出てくる。

青井  また出てきやがったぜ!

黄鳥  戦闘員なんぞ。俺達の敵じゃないぜ!

   青、黄、黒、白入り乱れての戦い。

青井  おかしい! 戦闘員がこんなに強いわけがない!

黄鳥  ああ、俺もそう思ってたところだ。

黒田  ここから先は行かせない!

青井  そ、その声は!

黄鳥  ブラック?

白尾  青井君。黄鳥君。あなたたちもこっち側に来て!

青井  ホワイト! いや、白尾……。

黒田  どうして電話に出てくれなかったんだ。

黄鳥  あれには理由があったんだ。

黒田  どんな理由だ!

青井  そんなことよりどういうことか説明してもらおう。

黒田  電話に出なかった奴に教える義理はない。

青井  根に持つ奴だな。

白尾  なぜ、本当の敵がわからないの?

黄鳥  わかってるさ。俺達の敵は、シャレコウベイダーだ!

黒田  違う!

青井  じゃあ何だ? 世界征服の前に日本を征服しようとするお前たちは悪じゃないのか?

白尾  悪じゃないわ。

真壁  悪はこの国のシステムそのもの。そうお金に餓えた蜘蛛の巣のような利権構造な

   んですよ。

黒田・白尾 マカベイダー様!

青井・黄鳥 マカベイダー?

真壁  あなたたちも知っているでしょう? ママ取り込み作戦を。

青井  あれはおもちゃ業界の……。

真壁  本当にそう思っているんですか?

黄鳥  何?

黒田  俺は就職したおもちゃ業界の裏で、恐ろしいことを知ってしまった。

白尾  黒田君!

青井  恐ろしいこと?

黄鳥  なんだ?

黒田  恐ろしくてとても言えない。

黄鳥  何だもったいぶりやがって。

真壁  おもちゃ業界を背後で操っていたのが、この蜘蛛の巣の利権構造。

青井  何?

黄鳥  本当の敵はそいつらだって言うのか?

真壁  そう。その通り。

青井  蜘蛛の巣なら、蜘蛛を倒せばいいじゃないか!

黒田  そんなに単純じゃない。

黄鳥  何?

白尾  蜘蛛はいないのよ。

青井  蜘蛛がいない蜘蛛の巣?

黄鳥  なら問題ないじゃないか。

黒田  問題ないだって? 相変わらず頭がピーマンだな。

黄鳥  なんだと? ずいぶんおしゃべりになったなぁ?

黒田  蜘蛛の巣にかかったら、誰も逃れられず命が果てるのを待つだけなんだぞ。

白尾  敵がいないのが敵なのよ。

青井  敵がいない?

黄鳥  そんなバカな!

白尾  私は、自分の子供を守りたい。こんな社会を壊したいのよ。つつましくでもいい。

   正直に生きている人間が幸せに生きていられる社会。そういう社会を作りたいの。

真壁  我々シャレコウベイダーは、日本政府を打ち倒しこの蜘蛛の巣を取り除くために作られたのです。

青井  一体、どこの誰が?

真壁  ふふふ。それは……。

   赤木が走りこんでくる。

赤木  大野君だな? お前たちの総裁は、大野君だ!

青井  何だって?

黒田  赤木! 今頃何しに来た!

赤木  黒田!

   赤木、近づいてきた黒田を殴る。

白尾  猛君!

青井・黄鳥 赤木!

黒田  僕はみんなが平等の世界を作りたかっただけなんだ。正直に生きた人間が損をす

   るなんて、こんな世の中間違ってるよ。

赤木  これはお前が壊したパソコンの分だ!

青井  物語に関係ない逆恨みか!

黄鳥  なんて人間が小さい!

白尾  でも、燃えているわ。レッドが燃えているわ!

真壁  面倒な奴が来たな。

   真壁去る。

赤木  黒田。いや、ブラック。平等って何だ?

黒木  え?

赤木  平等って何だ?

黒木  みんなが同じことさ。差別も区別もない理想的な社会だ。

赤木  馬鹿野郎!

   赤木、黒田を殴りつける。

赤木  そんなのは平等じゃない。

白尾  じゃあ、何が平等なの?

黄鳥  あいつにわかるわけがない。

赤木  平等は差別や区別だって持っている。

青井  差別や区別が平等だって言うのか?

赤木  俺たちはみんな違う。一人ひとり違う生き物だ。

黒田  確かに個人の持っている遺伝子情報は異なっている。でも、

赤木  難しい言葉で逃げようとするな!

青井  何?

黄鳥  そんなに難しくなかったぞ?

白尾  落ち着いてレッド!

赤木  俺は落ち着いているさ。俺たちに必要なのは専門用語じゃない。子どもにもわか

   る単純さだったんじゃないのか?

青黄黒白 単純さ?

赤木  難しい言葉を使えば頭が良くなったような気になる。だが、中身は何も変わっち

   ゃいない。いや、ごまかしの心がある分、たちが悪い。

青井  何?

赤木  人は難しい言葉を使われると知ったかぶりをする生き物だからだ。役所の説明を

   聞いてみろ。聴きなれない言葉を羅列して、分からない言葉があろうものなら羞恥

   の顔で見られる。大抵の人間は……。

黄鳥  大抵の人間はそれが嫌で知っているフリをする。

白尾  確かにそうかも知れないわ。

黒田  それの何が悪いんだよ!

赤木  わからないことはわからないって言えばいいんだ。

黒田  僕はそんなに強くない。必死で生きていくためには単語で武装するしかないんだ。

青井  難しい言葉は責任をあいまいにし、物事の本質を曇らせてしまう。そういうこと

   だな?

   赤木、うなづく。

赤木  俺達の世界には、頭のいい奴がいる。悪い奴がいる。足の速い奴、遅い奴、どっ

   ちでもない奴がいる。

青井  美人もいるし、そうじゃない子もいる。

黄鳥  体格も千差万別だな。

白尾  優しい子も意地悪な子もいる。

黒田  強い奴弱い奴がいる。

赤木  それがすべてなんだ。みんなを一緒には出来ない。

黒田  あきらめろって言うのかい?

赤木  チャンスは平等に与えられるものだ。そのための情報もな。当たり前のことが当

   たり前だって言う世の中にしなきゃいけないんだ。

白尾  でも、今の社会じゃ……。

黄鳥  そうだな。蜘蛛の巣を払わなければならない。

青井  何か考えてるのか?

赤木  わからない。

黒田  なんだよわからないって!

白尾  ブラック落ち着いて。

黄鳥  俺たちは戦うしかないってことか?

   轟音。

真壁  フフフハハハハ!

赤木  アヤベ!

青井  え? マカベイダーじゃないの?

赤木  何? マカベイダーって?

真壁  お前たちがおしゃべりをしている間に爆弾を仕掛けさせてもらった。

ヒーローズ 何だって!?

真壁  この爆弾が爆発すれば、日本はきれいになる。

白尾  きれいに? 子どもはどうなるの? 私の子どもは!

真壁  安心しろ。子どもはすぐに増える。我々、選ばれた人間たちの正しい世界が始ま

   るんだ!

赤木  そうはさせるか!

真壁  ハハハ! 既にヒーローじゃないお前たちに何が出来る!

黒田  騙していたのか!

真壁  いつも答えを他人任せにしていたお前たちが悪いのだ!

   赤木、ブレスレッドを取り出す。

白尾  猛君?

青井  赤木?

黄鳥  どうした?

黒田  赤木?

   赤木、仲間たちを見る。

赤木  確かに俺たちはもうヒーローじゃない。ただのおっさんとおばさんだ。

白尾  おばさん……。

赤木  姫香ちゃんは今もきれいだよ。

青井  話をそらすな。

赤木  こんな俺たちにもまだ武器がある。

黄鳥  武器? 包丁とかか?

赤木  いや、票さ。

黒田  票?

青井  選挙の票か?

   赤木、うなづく。

黒田  選挙なんかで変えられるわけがないよ。

赤木  そう思ってみんな行かないんだ。だから変わらない。

黄鳥  1票なんて大したもんじゃないけどな。

赤木  1票はアリの一噛みでも、いくつも集まればこの国を腐らせることが出来る。そ

   れが今までだった。日本を腐らせたのは、捨てられた票であり票を捨ててきた人間

   なんだ。俺たちが一番の原因だったんだ。

青井  どうする? たった5票で爆弾を止めるのか?

赤木  いや、爆弾は俺が何とかする。

白尾  何とかって?

赤木  みんなには、世の中を変える戦士になってもらいたい。自分の気持ちで、自分の

   心で、自分の考えで票を使ってもらいたい。大人になると子供のときのように善と

   悪の境の区別がわからなくなって、いつの間にか自分が得体の知れないシステムの

   中の一部になってしまったような錯覚を覚える。そうしてそのシステムから外れる

   ことをひどく恐れるようになるんだ。

青井  票でシステムを変える?

黄鳥  どうやってさ?

赤木  わからない。そうだな。たとえば民間の会社が60歳で定年なら、議員だって定

   年は60でいいと思う。

黒田  そんなの議員が決められるわけがないさ。

赤木  ああ。でも、俺たちが決めてやればいい。票を持っているのは俺たちだ。60歳

   以上の候補者に票を入れなければ、自然に60歳以上の議員は減っていく。

青井  以外に考えてるな。

白尾  60歳以上でも立派な人はいるわよ。

赤木  そういう人間は後継者を育てればいいと思う。若手だって意見を聞きに来るさ。

青井  比例があるからゼロにはならないんじゃないか?

赤木  そうだな。でも、利権まみれの議員たちを少しでも減らすことは出来る。

黄鳥  まぁ、確かに年金がもらえるまでの少しの期間を議員になって過ごそうなんて奴

   はいらないな。

黒田  高齢者問題はどうする?

赤木  生活に困ってない老いた議員が、普通の高齢者の気持ちなんてわかるわけがない

   だろ? それに青井の言うようにゼロにはならない。

青井  それで蜘蛛の巣を掃えると思うか?

赤木  時間はかかるだろうな。ひょっとしたらもっといい方法が見つかるかもしれない。

黄鳥  利権構造を俺達の手でぶっ壊す。

白尾  ううん。みんなの手でよ。

黒田  俺でも出来るのかな?

赤木  ああ。俺たちは、いや、国民全員が戦士なんだ。

青黄黒白 国民全員が戦士!

真壁  いい加減にしろ!

   真壁、腕を振り上げる。

真壁  お前たちが長々話をしている間に、タイマーをスタートさせてやったぞ!

赤木  とにかく爆弾は俺が何とかする。爆弾の一つや二つ大したことないさ。

青黄黒白 レッド!

真壁  一つや二つだと? 爆弾は全部で5個。しかも一つを処理すれば他の四つが爆発

   する仕掛けだ! お前に何とかできるようなものじゃないのだ!

赤木  5個だと?!

   赤木膝から崩れ落ちる。

赤木  くそ、どうすればいいんだ!

青井  どうするつもりだったんだ?

   赤木、ブレスレッドを見せる。

黄鳥  変身ブレス? それが?

赤木  変身ブレスは洗濯ができるように収納モードが搭載されてる。

白尾  ええ。そうよ。

青井  洗濯? それがどうした?

黒田  もう終わりだ。何をしても終わりなんだ。

黄鳥  しっかりしろ! リーダーが何とかしてくれるさ。

赤木  みんな。みんなの命を俺にくれ。

青黄黒白 それはちょっと。

赤木  そう言うな。これしかないんだ。収納モードを使えば爆弾をこの中に格納するこ

   とが出来る。

青井  ブレスレッドが爆発するんじゃないのか?

赤木  古いとは言え、そこはヒーローブレスだ。問題ない。ただ……。

黄鳥  ただ?

赤木  二度と変身はできない。

白尾  やりましょう。私のはここにあるわ。世界を守るの。

   白尾、髪留めを外す。ヒーローブレスを髪留めにしていた。

青井  やろう。俺のはここだ。

黄鳥  ああ。俺も持ってるぜ。

黒田  ダメだよ。

白尾  弱気にならないで!

青井  俺たちはこの世界をまた守るんだ。

黄鳥  そうさ。ヒーローだぜ!

黒田  そうじゃない。そうじゃないんだ。

黄鳥  なんだ? どうした?

黒田  ヒーローブレスがない。なくしたんだ。

   赤木、黒のヒーローブレスを差し出す。

黒田  え?

赤木  お前のだ。お前が引越ししていくあの日、俺がお前のカバンから盗んだんだ。

青井  ヒーローのすることじゃねえな。

赤木  ずっと俺のブレスの中にしまってあった。

黒田  何でそんな嫌がらせ……。

赤木  お前の引越しが許せなかったからだ。仲間の俺たちに何も言わずに、親から聞か

   されるなんて腹が立ったからだ。

黒田  だって、だって……。

赤木  俺たちは仲間だけど、友達だった。

白尾  今もそうよ。仲間で、友達。

青井  ああ。そうさ。

黄鳥  違うね。

   ヒーローズ、黄鳥を見る。

黄鳥  親友さ。

   ヒーローズ、笑顔でうなづき合う。

赤木  行こう!

ヒーローズ おう!

   暗転。

   それぞれが爆弾の前に立つ。

赤木  みんな。準備はいいか?

青井  いいぜ。

黄鳥  いつでもこいだ。

黒田  やってみせるよ。

白尾  任せて。

赤木  姫香ちゃん。

白尾  何?

赤木  もし、生きて帰ったら、俺とデートしないか?

白尾  いいわよ。

青井  ずりいなぁ。

白尾  奥さんとデートしなさい。

青井  へいへーい。

黄鳥  無駄口叩くな。

黒田  そろそろリミットだよ。

赤木  アリの一撃が象を倒す。

青井  自分で考える!

黄鳥  自分で選ぶ!

黒田  他人任せにしない!

白尾  絶対に捨てない!

赤木  行くぞ!

ヒーローズ 幼稚園戦隊! エンジマン!

   目潰しと爆音。

   暗転。

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