7人の大人 第五場

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7人の大人 第五場

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第五場

   赤木の部屋。

   赤木は、赤い戦闘服を眺めながらニヤニヤしている。

赤木  姫香ちゃん。

   下手に白尾が立っている。赤木の回想(妄想?)である。

白尾  猛君。たった一人で私たちに戦いを挑むあなたにせめてもの選別です。かつての

   味方が敵になってしまった今、私は心を鬼にしてあなたと戦います。この戦いの果

   てにあなたを失うことがあっても私は後悔をしません。私の心はその戦闘服の中に

   込めました。

赤木  姫香ちゃんの心。俺、がんばる。

白尾  ちなみにうちの戦闘員の黒い服の赤バージョンなの。似合うといいな。

赤木  大丈夫。着こなして見せるぜ!

   青井が上手からやってくる。

青井  赤木、どういうことだ。

赤木  何がだ?

青井  仕事場に変なやつが来たぞ。

赤木  変な奴?

青井  俺が横領をしたって。

赤木  横領?

青井  そうだ。

赤木  横領したのか?

青井  してない。するわけ無いだろう!

赤木  黙っててやるから本当の事を言え。

青井  あのなぁ。

赤木  言え。横領したって。

   青井、赤木が持っている赤い戦闘服を見る。

青井  何だそれ?

   赤木、赤い戦闘服を隠す。

青井  何を隠した?

赤木  何も。

青井  いや、隠しただろ?

赤木  いいだろ隠しても。

青井  正直だな。

赤木  お前と違ってな。

青井  そんな赤いもの着るのか?

赤木  何だよ。見えてたのか。

青井  ああ。俺は青を貰った。

赤木  何?

青井  本当の悪と戦って欲しいと言われたよ。

   赤木、身構える。

赤木  お前もか。

青井  ああ。

赤木  なら俺たちは敵同士だな。

   赤木と青井、部屋の中をグルグル回る。

青井  そうか。お前も向こう側か。

赤木  お前とは一度、戦ってみたかったんだよな。

青井  シャレコウベイダーの総帥は誰だ!?

赤木  俺が知るか!

青井  仲間に入ったら教えてもらえるんだろう?

赤木  ならお前が知ってるはずだろうが!

青井  何で俺が知ってるんだよ。

   上手から黄鳥が半袖半ズボンの黄色の戦闘服でやってくる。彼だけはおしゃれであ

   る。なぜなら、エンジマン時代の彼は体重100キロを超える巨漢であったからであ

   る。

黄鳥  見て見て! 懐かしいもの見つけてさ、変身してみたらこんなんだったぜ? お

   前らは?

   黄鳥、床に落ちている赤い戦闘服を手に取る。

赤木  それに触るな!

青井  情けない奴だ。そんなものにうつつを抜かしやがって。

赤木  なんだと? お前こそなんだ。でれでれしやがって。

青井  俺はそんなもの着ない。

赤木  そんなものとは何だ! 謝れ!

青井  バーカバーカ。誰が謝るか~。

黄鳥  お前ら何してんの?

赤木・青井 こいつがな、シャレコウベイダーに入って本当の敵と戦うって言うんだ。

黄鳥  ん?

赤木・青井 ん?

赤木  お前、シャレコウベイダーの戦闘員じゃないのか?

青井  それはお前のことだろう?

赤木  バカ言うな。

   青井、黄鳥の持っている赤い戦闘服を指差す。

青井  じゃあ、あれは何だ?

黄鳥  これがどうした?

赤木  姫香ちゃんからの最後の贈り物だ。

青井  何?

赤木  お前は何だ?

青井  何だって何だ?

赤木  紛らわしいこと言いやがって。

青井  なんだと?

黄鳥  やめろ。

赤木  リーダーの俺に命令するな!

青井  リーダー面するな! お前がリーダーの時代なんてとっくに終わってるんだよ。

黄鳥  そんなことはどうでもいい。

赤木  どうでもいい? 本気で言ってるのか?

青井  お前はどうする気だ?

赤木  どうする?

黄鳥  俺たちは正義のヒーローとして戦う。

青井  お前はずっとこんなところでくすぶっているのか?

   赤木、黄鳥の持っている赤い戦闘服を奪い取る。

赤木  俺はもう戦士じゃない。戦う理由がない。

黄鳥  戦う理由?

青井  行こうぜ。俺には戦う理由がある。

赤木  正義のためか?

青井  正義? バカ言うな。こんな世の中のどこに正義なんてあるんだよ。40年何を

   見てきたんだよバカが。

赤木  じゃあ、何のために戦うんだ?

青井  自分のためだ。俺はあいつらのせいで身に覚えのない罪をかぶらされた。絶対に

   復讐してやる! お前だってそうだろ? あいつらのせいで仕事を失っただろ?

赤木  それが戦う理由?

黄鳥  きっかけは、怒りだったはずだ。あの時も。

青井  小学校6年生だった大野君は、俺達の秘密基地を壊した。

黄鳥  そのとき秘密基地で遊んでいた俺たちは叶わないと知りながら、大野君に戦いを

   挑んだ。

赤木  コテンパンにされたよな。

青井  当時、子どものおもちゃの売り上げが低迷し、新しいヒーローが必要だった。ヒ

   ーロー業界が目をつけたのが俺らだった。

黄鳥  おもちゃ業界とヒーロー業界は提携し、全国の子どもたちに援助を求めた。その

   資金をもとに俺たちは幼稚園戦隊エンジマンになった。

赤木  そういう裏事情があったのは知っている。

黄鳥  俺たちは社会の縮図だった。

青井  クラスには、バカがいて天才がいて、足の速い奴がいて、

黄鳥  ちょっとポッチャリさんもいた。

赤木  お前はちょっとじゃなかったけどな。

青井  だが今の戦士たちは違う。

黄鳥  美男美女ばかりだ。ポッチャリの居場所なんて正義のヒーローにはなくなった。

赤木  何が言いたいのかさっぱりだ。さっさと帰れ。

青井  今のヒーローはパワーバランスが崩れてるんだよ! 気がつかないのか?

赤木  パワーバランス?

黄鳥  今のヒーローの選別はヒーロー業界が行ってないんだ。

   赤木驚く。

青井  そうだよな。それじゃヒーローじゃないじゃないかって思うよな。ヒーローはお

   もちゃを売るための道具に成り下がった。

黄鳥  そしてより効率的におもちゃを売るためにある計画が実行された。

赤木  ある計画?

青井  ママ取り込み作戦だ!

赤木  ママ取り込み作戦?

黄鳥  そうだ。イケメンを配置することにより主婦層を熱中させ、財布の紐を緩くさせ

   る作戦だ。

赤木  なんて恐ろしい作戦だ。誰が考えたんだ? そんなのヒーロー業界のやることじ

   ゃないぞ!

青井  おもちゃ業界だ。

黄鳥  これは仕方がないことだったかもしれない。

赤木  仕方がないだって? 本気で言ってるのか?

黄鳥  子どもたちからの資金援助無しでは、ヒーローは戦えない。約20年前に起こっ

   た不況はヒーロー業界を完全に追い詰めていた。

青井  そこで出されたのがおもちゃ業界からの苦肉の策だった。ヒーロー業界はプライ

   ドを捨てて正義としての戦いを全うしようとした。

赤木  それが、

3人  ママ取り込み作戦!

青井  活躍を知らせる週一の宣伝番組では、わかりやすいように黄金パターンが確立さ

   れた。

黄鳥  おもちゃの人気がなければ、新商品が投入された。

赤木  それでも人気が出なければ、イケメンを増やした。

青井  俺たちはそんなヒーローとは決別する。

黄鳥  いや、もはや俺達のほうが異端児なのさ。

赤木  気にするな。

青井・黄鳥 何?

赤木  40年前に既にリストラされてるじゃないか。

青井  リストラされるヒーロー。

黄鳥  リストラヒーローだって、悪と戦える。やろうぜ!

青井  そうさ! 赤木戦おう!

赤木  バーカ。職探しで忙しいんだよ。そんなことやってられるか。

青井  ……バカはお前だ。

黄鳥  そうか。もういい。行こうぜ。こいつは燃えカスになっちまったんだ。

   黄鳥、上手に去る。

青井  もし、まだくすぶったヒーローの心があるなら、待ってるぜ……。

赤木  ねえよ。

   青井、上手に去る。

赤木  バカバカしい。仕事でも探すかなぁ~。

   赤木、パソコンのスイッチを入れる。当然点かない。

赤木  そっか、壊れてたんだな。

   暗転。

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