7人の大人 第一場

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7人の大人 第一場

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第一場

   居酒屋「ちどり」

   古めかしい居酒屋。中年サラリーマン赤木が一人で飲んでいる。

赤木  40年か。早いもんだな。

   青井が入ってくる。

青井  よお。

赤木  よぅ。

青井  何だ? 元気ないな?

赤木  まあな。

青井  何だ、まあなって。日本語の答えになってないぞ。レッドの癖に血がたぎってな

   いのか?

赤木  やめろよ。……昔の話だ。

青井  40年か。

赤木  40年だ。

   黄鳥が入ってくる。

黄鳥  よ!

赤木  うるさいのがきた。

青井  そう言うなよ。こっちに来いよ。

黄鳥  そのつもり。

赤木  俺、帰るわ。

青井  待てよ。少ないけど、同窓会といこうぜ。

赤木  興味ないさ。

黄鳥  帰れ帰れ。辛気臭いやつがいると酒がまずくなるからな。

赤木  ……何だと?

黄鳥  なんだ? まだ怒る気力があったのか?

青井  おい、やめろ二人とも。

   赤木と黄鳥にらみ合うが赤木がため息をついて引く。

赤木  馬鹿馬鹿しい。

黄鳥  馬鹿はお前だ。

   赤木背を向けて店を出ようとする。

黄鳥  つまんねー男だな。ヘナチョコが!

青井  やめろ。

赤木  ヘナチョコ? 誰がヘナチョコだと?

青井  落ち着け!

   赤木、変身ポーズ。

赤木  たぎれ俺の血! 来たれ溶岩の力。エンジマンレッド!

   しかし、何も起こらない。

黄鳥  バーカ。変身ブレスレッドはもう無いんだよ。

青井  黄鳥もういいだろ。

赤木  どうせ俺はヘナチョコさ。

黄鳥  麦チョコでも食うか?

赤木  ヘナチョコ、麦チョコを食う……か。それもいいな。

   赤木席に戻る。

青井  なぁ、こうなると本気で同窓会がしたくなるな?

黄鳥  いいねぇ。

赤木  何がいいんだよ。

黄鳥  お前、会いたくないの? 姫香ちゃんに!

赤木  興味ないな。

黄鳥  無理すんなよ。

青井  黒田も今何してるんだろうな?

赤木  あいつの話はするな。酒がまずくなる。

黄鳥  知ってるのか?

青井  何やってるんだ?

赤木  シャレコウベイダーの戦闘員さ。

黄鳥  え?

青井  冗談だろ?

赤木  冗談なもんか。先々月俺のところに電話があった「本当の悪を見つけた。俺は俺

   の正義を貫く。お前も俺と来い」ってな。

黄鳥  シャレコウベイダーって言ったら今暴れまくってる悪の組織じゃないか。

青井  いくらなんでもそれは無いだろ。

赤木  おめでたいやつらだな。そのうちお前らのところにも電話がかかってくるよ。

   黄鳥の携帯電話が鳴る。

黄鳥  何だよまたかよ。

青井  出ないのか?

黄鳥  非通知。最近多いんだよね。俺は出ないの。

青井  ふうん。あ、あれにしろよ。チャッキョ。

赤木  なんだ? チャッキョって?

青井  着信拒否。

赤木  ああ。

黄鳥  どうやんの?

青井  俺、やってるから教えてやるよ。

黄鳥  サンキュ。

青井  そこからそれをそう。で、そうそうそこ。うん。そんなかんじ。

   設定を教えて、酒を飲む3人。

黄鳥  これで迷惑電話ともおさらばか。

青井  黒田、まじめだからな。

黄鳥  ああ。

赤木  あの表情は尋常じゃなかったね。

青井  え? 会ったの? 電話だけじゃなくて?

赤木  あ、ああ。飯を食おうって言われて。

黄鳥  あ、そうなんだ。何食ったの?

青井  そっち? 相変わらずだな。

赤木  そんなにスリムになったのに。

黄鳥  見るだけ聞くだけなら太らないの。後は強靭な精神力。

青井  ああ、耳に痛い。

赤木  あのイエローがねぇ。

青井  胃袋がそのまんま歩いてる感じだったもんなぁ。

黄鳥  俺のことはいいの。黒田の話。

赤木  あぁ。確かファミレスだったかな。ジョージクラブ。

黄鳥  あぁ、微妙。

青井  俺あそこ好きだぜ?

黄鳥  だめだね。油が多すぎ。

赤木  入っていったら、黒田ともう一人いたなぁ。

青井  誰?

赤木  先輩だって言ってたけど、なんかメガネの胡散臭いやつ。

   黄鳥の携帯電話が鳴る。

黄鳥  今度は知らない番号だよ。

青井  うっとうしいよな。

赤木  出てやれば?

黄鳥  えぇ、いいよ。どうせ間違い電話なんだから。

青井  大事な用かもよ?

黄鳥  まさかぁ、それなら伝言残すって。

青井  あぁ、そうか。俺、最近結構多いから番号変えちった。

赤木  嘘。教えて。

黄鳥  教えて教えて。

   番号交換をする3人。

青井  あ、で、黒田の話。

黄鳥  携帯切っとくわ。

赤木  そうしてくれると助かる。話が進まなくてイライラする。

青井  相変わらず短気だな。

赤木  いいの。どこまで話したっけ?

黄鳥  胡散臭いやつがいたって。

赤木  そうそうそいつ。なんて言ったかなぁ。アヤベ? アマベ? なんかそんな名前。

青井  そいつが何だって?

赤木  あ、そいつは見てただけ。黒田がほとんどしゃべってた。

黄鳥  へー。

青井  あの黒田が。

赤木  あの黒田が。

黄鳥  あの黒田がねぇ。

赤木  世界を救う前に日本を救わなきゃならない。そのためには日本を征服して世界を

   征服するんだ。世界征服のために赤木の力を貸して欲しいって。

黄鳥  おお、でかいな。

青井  なんて返事したんだ?

赤木  仕事が忙しいから後にしてくれって。

黄鳥  そしたら?

赤木  顔を真っ赤にして、お前なんかレッドじゃない! 俺の知ってるレッドなら絶対

   に協力してくれるはずだ! って。もうすごいのなんの。

青井  それはまぁ、怒るよな。

黄鳥  ブラックなのに顔がレッドだって(笑う)

赤木  そうそう俺もそう思って「今はお前がレッドだな」って言ったら、さらに激怒だよ。

青井  そうなるよな。

黄鳥  それで?

赤木  お前は絶対に後悔する! ってわめき散らすから、「落ち着けよ。クールなブラッ

   クはどこに言ったんだ?」って、言ったら。

黄鳥  言ったら?

赤木  俺は口下手なだけだったんだ! って。

青井  そのとおりだね。

赤木  だから、俺じゃなくて他のやつを誘えって言ってやった。

黄鳥  おお。

青井  で?

赤木  で? 何?

青井  黒田に誰を薦めたんだ?

赤木  みんな。

黄鳥  みんな?

赤木  番号知らないって言うからさ。

青井  黒田かー!

赤木  何が?

青井  電話だよ!

黄鳥  電話?

青井  チャッキョに今の番号も、全部黒田!

黄鳥  あー!

赤木  え? まだ出てなかったの?

青井  出ないだろ。知らない番号からものすごい数かかってくれば、怪しいと思うだろ。

赤木  じゃあ、かけなおしてやれよ。

青井・黄鳥 やだよ!

赤木  何で?

青井  今の話を聞いてかけるやつはいないだろ?

赤木  ひどいな。

黄鳥  ひどいのはお前だ。ヘナチョコ。

赤木  ヘナチョコだと? てめえ! 表に出ろ!

   暗転。

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