フェイムルの移動図書館 第1場

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フェイムル移動図書館 第1場

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第一場

   木こりの家。舞台は兄妹の部屋。

   下手舞台袖から家族が食事をしている声や物音が聞こえてくる。

母    リト、ご飯を食べるときくらい本はしまいなさい!

リト   はーい。

マイオ  こいつ、返事だけはいいんだから。

母    マイオ、あなたは少し落ち着きがないわよ。ゆっくりと、しっかりと噛んで食

    べなさい。

マイオ  はーい。

父    明日は早いぞ。ご飯を食べたら、準備をしっかりするんだぞ。

マイオ  うん。

母    はい、でしょ。

マイオ  はーい。ごちそうさま!

   マイオ、下手からやって来ると、背負い袋の中に荷物を詰め始める。

   リトも本を脇に抱えてやってくる。ベットの上で本を開くと読み始める。

リト   ねぇ、世界にある本が全部置いてあるところがあったら、素敵だと思わない? 

    あたし毎日でも通っちゃうわ。

マイオ  お前、本当にバカだなぁ、世界中にどれくらい本があるのか知ってるのか?

リト   知らないわ。でも、きっと沢山の本があるのよ! マイオはどれくらいあると

    思う?

マイオ  僕は知らないよ。だけど、そんな沢山の本をお前なんかが読みきれるわけない

    だろ。

リト   マイオは、夢がないのね。

マイオ  うるさいな。明日、父さんの手伝いで森の奥に行くんだから、もう寝るぞ。

   ベットに横になるマイオ。父親の声。

父    マイオ! 外の小屋の鍵はかけたのか?

マイオ  いっけね。

リト   私はもう少し本を読むわ。こんな月明かりの夜は、そうそうないもの。

マイオ  好きにすれば。目が悪くなっても知らないからな。

リト   マイオは頭が悪くならないように気をつけてね。

マイオ  こいつ!

父    マイオ!

マイオ  はいはーい!

   マイオはそう言って部屋を出ていく。

   木のドアが閉まると、部屋の中が急に暗くなる。そこへ母親が入ってくる。

母    あら? マイオは?

リト   外の小屋の鍵をかけに行ったわ。

母    リトは本を読んでるの?

   母親はリトのそばまでやってきて、髪を優しくなでる。

   リトは頭を振って本に集中する。

リト   うん。もう少ししてから寝るわ。

母    何を読んでいるの?

リト   お花の名前がどうしてそうなったかの本よ。森に咲く赤い花は、昔の人の悲し  

    いお話から名前がついたんですって。お母さん、大丈夫?

母    え?

リト   なんだか元気がないみたい。

母    そう? そういえば、ちょっと疲れているせいかもね。森に咲く赤い花って、

    何の花のことかしら?

リト   赤い花って沢山あるものね。

母    そうね。あまり遅くならないように寝るのよ。

リト   はーい。

   母親は部屋を出て行こうとするが、急に力を失い、その場に倒れこんでしまう。そ

   の音に驚いてリトは本から眼を離すと、母親に駆け寄る。

リト   お母さん? お母さん! お父さん! 来て、お母さんが! マイオ!

   その声に父親とマイオが走りこんでくる。二人は倒れている母親を見て驚く。

父    マイオ、すぐに町に行ってお医者様を呼んで来るんだ。

マイオ  うん、わかった。

   マイオは家を飛び出していく。不安そうに見つめるリトの頭を父親が優しくなでる。

父    母さんをベットに横にならせて上げよう。

   父親は母親を抱えてベットに寝かせる。

   暗転。

   ベットの上で寝ている母親が照らされる。

   しばらくすると医者と父親の声が聞こえてくる。ベットに寝ている母親のそばには

   マイオとリトがやって来る。

医者   これは魔女の熱病だね。治すことが出来るのは、魔女の薬だけだな。

父    じゃあ、明日にでも森に行って来よう。

医者   残念だが、魔女に会えるのは子供だけだ。大人では、声を聞くことすら出来ま

    い。

   リトは母親の汗を拭く。

母    ありがとう。リト。

医者   では、私はこれで。

父    マイオ、送っていきなさい。

   マイオが立ち上がる。

医者   いや、大丈夫だ。病人の側にいてやりなさい。

   父親がやって来る。

父    やはり魔女に頼むしかないようだ。マイオに行ってもらおう。

母    ダメよ、去年辺りからいいウワサを聞かないわ。東の魔女は欲望に取り付かれ

    たって。この子を行かせるなんて危ないわよ。

父    だが、大人では魔女には会えないからなぁ。

   途方にくれる父親に、マイオは胸を張って答える。

マイオ  僕、平気だよ。

リト   平気よ。

母    またお兄ちゃんのマネをして。とっても危ないのよ。

父    魔女に薬をもらえば助かるって言うじゃないか。だったら取りに行かせよう。

母    でも。

マイオ  お前は母さんの看病してろよ。魔女には僕が会って来るから。

リト   ダメよ。マイオを一人にしたら、寄り道ばかりするじゃない。

マイオ  お前がいると邪魔なんだよ。ピーピー泣いてばかりいるから。

リト   あたし、泣かないもん。

マイオ  うるさい泣き虫!

リト   泣かないもん!

母    二人ともそんなことでケンカしないの。……やっぱり私、心配だわ。

父    大丈夫さ。お前たち、仲良く行って来られるな?

リト   やったぁ!

マイオ  ちぇ。

父    約束出来るな? 返事は?

リト   約束できるわ。

父    マイオは?

マイオ  わかったよ。

父    よし、出発は明日の朝だ。用意はしておくから、二人とももう寝なさい。

リト   嫌よ。今日はもう少しお母さんといるの。

   リトは母親に抱きつく。マイオをそれをつまらなそうに見る。

マイオ  甘えん坊!

リト   何よ! いーだ!

母    マイオ、あなたもいらっしゃい。

   マイオは母親の差し出された手を見つめて、それをつかみ母親に寄り添う。

歌『母の歌』

「さぁ目を閉じて

 心に描くあなたの夢は

 大きくなっていつか旅立つの

 広い広い世界の空は

 行けば行くほど

 無限の可能性を

 あなたにしめしてくれる

 出来ないことを忘れないで

 いつか夢につまづいた時

 それを思い出せれば

 また飛び立てる

 あの青い空へ

 どうか大人にならないで

 かわいい私の子ども達

 どうかその夢を離さないで

 悲しいことが起こっても」

   兄妹はその場で眠ってしまう。

   暗転。

   月の光が日の光に変わり朝がやって来る。

   リトもマイオも母親のベットに顔を伏せて眠っている。

   リトが目を覚ます。

リト   おはようお母さん。

   母親は苦しそうに小刻みに呼吸をするだけで答えない。

リト   マイオ、起きて! 起きてってば!

   リトはマイオをゆすり起こす。

マイオ  なんだよ。

   眠たそうに目をこすりながらマイオは起き上がり、母親の様子を見て飛び上がって

   驚く。

マイオ  母さん? 父さん、母さんの様子がなんか変だよ。

   父親が部屋へ入って来る。父親も母親の様子を見て慌てふためく。

父    これはまずい。お前たち、急いで魔女に会って薬をもらって来るんだ。

   マイオとリトは急いで用意していた荷物を担いで旅支度をする。父親は小さな布袋

   を渡す。

父    頼んだぞ。これは少ないが御代にするんだ。いいね?

リト   うん。

マイオ  リト、行くよ。

   マイオはリトを置いて先に家を飛び出して行く。

リト   マイオ待ってよ。お母さん、行ってくるわね。

父    力を合わせて、助け合うんだぞ。

   リトもマイオを追って家を出て行く。

   暗転。

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