オシマイの木

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オシマイの木

                                   作:海部守

時:いつか

所:小さな島

登場人物

・渡り鳥1

・渡り鳥2

・若者A

・若者B

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渡り鳥1 ある所にオシマイの木がありました。オシマイの木は小さな島にある最期の一

    本で、だからみんなは大切にしてオシマイ、終わりであるという意味でオシマイ

    の木と呼ぶのでした。

渡り鳥2 私たちは旅の途中でこのオシマイの木に止まって羽根を休めます。

渡り鳥1 オシマイの木は私たちにとっても大切な木なのです。私たちはこの上で島の人

    間たちの暮らしをしばらく眺めることもあります。

渡り鳥2 島では枯れ草を集めて火をおこします。昔はこんな小さな島でも沢山の木があ

    ったので枯れ枝を集めて燃やしていたそうですが、今はオシマイの木しかないの

    で枯れ枝はとても貴重なものになっていました。

渡り鳥1 島の生活は貧しくて、船を作る材料もなく魚を取るモリも釣竿もなく、土で固

    めた家の中で皆、ひっそりと暮らしているのでした。

若者A  オシマイの木で船を作ろう。

若者B  いや、魚を取るモリを作ろう。

若者A  バカだな! 船があればこんな小さな島を出ることだって出来るんだ。魚だっ

    て泳いで捕まえれば良いんだ。

若者B  一艘の船を作ったって、みんなを乗せて島を出て行くことは出来ない。みんな

    がお腹一杯になることは出来ない。釣竿が一番だ。

渡り鳥2 島の人々は船を作る一団と釣竿を作る一団。そして、オシマイの木を切らない

    一団に分かれ争うようになりました。

若者A  あいつら、オシマイの木に触らせもしない。

若者B  本当に頭にくるぜ。

若者A  船があればこの島は豊かになるのに。

若者B  釣竿があればこの島は豊かになるのに。

若者AB あいつらが邪魔だ!

若者A  なんだと?

若者B  なんて言った?

若者A  オシマイの木を自分の物にしようとしてる奴らが邪魔だと言ったんだ。お前

    は?

若者B  オシマイの木を自分の物にしようとしてる奴らが邪魔だと言ったんだ。

若者AB あいつらが邪魔だ!

渡り鳥1 船を作りたい一団と釣竿を作りたい一団は力を合わせてオシマイの木を切らな

    い一団を襲いみんな叩き殺してしまいました。オシマイの木はとうとう切り倒さ

    れてしまいました。

若者AB これでオシマイの木は俺たちの物だ!

若者A  いいや、俺たち船を作る者たちの物だ。

若者B  いいや、俺たち釣竿を作る者たちの物だ。

   若者たちはゆっくりと殴り合いを始める。

渡り鳥2 船を作りたい一団と釣竿を作りたい一団は倒れたオシマイの木の前で殴り合い

    を始めました。誰もが深く傷つき、やがて誰も動かなくなりました。

渡り鳥1 さあ行こう。

渡り鳥2 もう行こう。

渡り鳥1 もうこの島に来ることもないだろう。

渡り鳥2 来ることはないだろう。

渡り鳥1 さようならオシマイの木。

渡り鳥2 さようならオシマイの木。

渡り鳥1 何も出来ない私たちを許しておくれ。

渡り鳥2 見ているだけの私たちを許しておくれ。

渡り鳥1 そうだ。お前の枝を持っていこう。

渡り鳥2 そうだ。お前の枝を持っていこう。

渡り鳥1 私は東にこの枝を持っていこう。オシマイの木、お前のために。

渡り鳥2 私は西にこの枝を持っていこう。オシマイの木、お前のために。

渡り鳥1 さようなら。オシマイの木。

渡り鳥2 さようなら。オシマイの木。

渡り鳥  さようなら。僕の友達。

   渡り鳥が去る。暗転。

                                       幕

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