7人の大人 第七場

****************************************

7人の大人 第七場

****************************************

第七場

   木こりの家。BCEFが入ってくる。

B あぁ、おいしかったぁ。

C しかし、次は町だと思ったのに、見事に場所が移らないんだな。

F 予算と時間の都合だよ。

E まぁ、出来るだけ楽しく過ごした体でやってくれなんて、大人の都合だよな。

B え? 僕さっき裏でおやつ食べれたよ?

F 嘘?

C 信じられねぇ。本番中だろう?

E おい。

F おっと。

C そうだった。

B 町は楽しかったねぇ!

C ああ、そうだな!

E あんな楽しい思いをしたのは久しぶりだ!

F そうそう。お前、何が楽しかった?

C え?

E 馬鹿、掘り下げるなよ!

   ドアを叩く音。

C 助かった。誰だ? 開いてるからさっさと入って来い!

E まぁ、荷物がいっぱいで開けられないんだろ。

   E、ドアを開けてやる。老婆がりんごを抱えながら入ってくる。

老婆 すまないね。道に迷っちまって。

F この辺は、わかりづらいからね。

B おばあさん。りんごを持ってるの?

老婆 ああ、これは売り物さ。買ってくれるかい?

C そんな金は無い。道を教えてやるから、全部置いていけ。

F そりゃ、ひどい。

老婆 いいさいいさ。荷物になっちまうからね。全部置いていってやるよ。

   そこに残りの大人と姫も帰ってくる。

E おかえり~。

姫 ただいま!

   老婆、身体を小さくさせる。

A なんだ? この婆さんは?

F 道に迷ったんだってさ。

E りんごをくれるから道を教えてくれって。

G 何個だ?

C 全部で9個だ。

B 僕ら8人だよ! また1個余るよ。

D これは喧嘩になるな。

A まぁ待て。ここは日ごろの感謝をこめて、リーダーの俺が2個貰うべきだろう。

G ふざけんな!

B ずるい!

C 卑怯者!

F お前はいつもそうだ!

E りんごなんて滅多に食えないのに!

D そうだそうだ!

姫 待って、みんな。

   大人たち、姫を見る。

姫 残りの1個はおばあさんに持って帰ってもらいましょ? ここから帰るにしたって、

 大分距離があるもの。喉が渇いたら大変よ。

大人たち そりゃあ、そうだが……。

老婆 わ、私のことなんて気にしなくていいんだよ。

   一同、老婆を見る。

A 何か怪しいな。

B うれしくないの?

C こんな森の奥まで何しに来てたんだ?

D 町と町を結ぶ道路もないし……

E そう言われてみれば変だな?

F 老婆? なんか引っかかるんだよね。老婆って。

G お前、熟女好きだっけ?

大人たち 怪しい……。

   大人たちが老婆を見る。

老婆 怪しくなんか無いよ。そんなに言うんなら、りんごを食べてみればわかる。

D なんで?

老婆 嫌だね。毒なんか入ってないよ。ほら、その一番みずみずしい奴なんかもう食べご

  ろじゃないか。

A よし、一人ずつりんごを持て。いっせーので食べるんだ。

C マジで?

A マジで。

   老婆、自ら進んでりんごを配る。

姫 あたしがやるのに。

老婆 いいんだよ。私にはこれくらいしか出来ないからね。優しいあんたには、一番おい

 しそうなのを上げようね。

B ずるい。

老婆 え?

C そうだな。それはずるいな。

D 俺たちにだって、美味しいりんごを食べる権利はあるはずだ。

E 確かにそうだ。

F そうだそうだ。

G 不公平だ!

A 婆さんの勝手な判断で、俺達の自由が侵害されるのは我慢できんな。

老婆 え?

姫 じゃあ、こうしたら? 一人ずつりんごを持って、一口ずつかじっていけばいいんじ

 ゃない?

B それはいい考え!

C ダメだな。

姫 何でよ。

C 一番先にまずいりんごに当たった奴は、美味しいりんごを食べるとさらに美味しく感

 じるだろうが、一番先に美味しいりんごをかじった奴は、テンションが下がり続ける。

E それは確かに。

G ハロルド、冴ええるな!

C ふへへへ。

姫 じゃあ、どうすればいいのよ。

C え?

姫 結局、何も考えてないんじゃない。

F 全部まとめてジュースにしちまえばどうだ?

D なるほど。混ぜてしまえばわからないか。

G だけどそれだと、美味しい! って言う感動は誰も無いんじゃないか?

B 僕は普通に食べたいなぁ。

A 仕方が無い。こうなりゃあれしかないな。

C あれしかないか。

D やっぱりあれか。

姫 あれって?

A 机の上にりんごを置け。

   机の上に並べられるりんご。

大人たち せーの!

   大人たち掛け声と共に一斉にりんごを奪い合う。りんごが二つ取り残される。

姫 あきれた。

A 時にはこういうやり方が公平なんだ。ほら、お前たちも取れ。

姫 はいはい。(りんごを取る)

老婆 (りんごを見定めたあとゆっくりと手に取る)野蛮な連中だね。

A では、いっせーので食べるぞ。

大人たち いっせーの

姫 待って、毒はいいの?

   大人たち止まるが、Bだけりんごをほおばる。

B ん!

C そうだ。毒を忘れていた。

F 大変なことになるところだった。

E どれが毒なの?

A それがわかれば苦労は無い。

老婆 そろそろ失礼しようかね。

D 待て。

   D、老婆を捕まえる。

B く、苦しい……。(胸を押さえながら床に倒れる)

   老婆、Dの手を振りほどいて逃げ出す。

A 追え! 逃がすな!

   走り出す大人たち。Bを抱えて呼びかける姫。

姫 ヘンリー! ヘンリー!

B (胸を押さえてもがき続ける。急にぐったりして転がる)

姫 ヘンリー! 死んじゃダメ!

   大人たちが老婆を引きずってやってくる。

A これはどういうことだ?

老婆 知らないね。

C ヘンリーはりんごを食べてこうなったんだ!

F お前のせいだ!

E そうだ!

G 素直に言わないと痛い目にあわせるぞ!

姫 おばあさん、ヘンリーを助けてあげて!

老婆 お断りだね。

A このババア!

姫 待って! お願いよ。

老婆 お前が身代わりになるって言うなら、考えてやってもいいよ。

C とんでもないババアだ。

E 熊のえさにしちまおうぜ!

F ヘンリーは食い意地が張ってたけど、いい奴なんだぞ!

老婆 どうする?

姫 ……いいわ。

老婆 レグナン!

   レグナンが部屋の中から現れる。

レグナン お呼びでございますか、お妃様?

大人たち 妃だって?!

姫 お継母様?

老婆 お前の作った毒の解き方を教えるんだ。

レグナン かしこまりました。この毒は、ロマンチックが止まらないエッセンス3に対し、

 ラヴを2くわえ、誘惑の欠片を一滴入れたわけでして、

姫 だから一体どうするのよ! (すねを蹴る)

レグナン そんなに強く蹴ったら割れてしまいます! ですから、隣の国の王子様の熱い

 口付けにより目を覚ますのでございますですはい。

大人たち 王子の口付け?

A ちょっと待て。

C 隣の国の王子って、40過ぎてなかったか?

D 小太りで、

E 脂の乗ってる

F 王子とは名ばかりの

G キモメン!

A それがヘンリーとキス?

D 終わりだ。

C ヘンリーの人生は終わりだ。

E これからは何を食っても美味しくないだろうな。

F このまま埋めてやるのがヘンリーのためじゃないかな。

レグナン 大丈夫です。目覚めたあとはそれまでの記憶をなくし、口付けをかわした相手

 を終生愛し続けるのです!

老婆 本来なら、スノウ、お前がそうなるはずだったのに……。

姫 よかったぁ。あ、違うわ。なんてひどい!

A どうしてくれよう。

F もう、あの食いしん坊は見れないのか。

E 嬉しいやら悲しいやら。

D 肉の奪い合いが出来ないと思うと、切ないなぁ。

C 木に縛り付けて、熊のえさにしちまおう。

大人たち それがいい。

姫 待って。

A このババアは、あんたを殺そうとしたんだ。その上、俺達の仲間にこんな仕打ちをし

 た。許すことは出来ない。

C お前はお城にお帰り。きちんとしたお姫様として生きていくんだ。

E 時々は俺たちにご馳走をしてくれてもいいけどね。

D せめて森に捨てられることもがいない国にして欲しいな。

F あんたみたいなわがままな娘じゃ、難しいかもしれないがね。

G 大きくなっても、俺たちみたいな大人になるなよ。

A おい、そこのひょろひょろ。

レグナン 私ですか?

A お前だ! りんごを袋に入れて持って帰れ!

レグナン 毒入りは一つだけですよ。風評被害です。

A うるせえ! お前も熊のえさにしちまうぞ!

レグナン はい。わかりました。

A おい、行くぞ!

大人たち おー!

   大人たち、レグナンと老婆を連れて去っていく。取り残されるBと姫。

姫 私がここに来たばかりにこんなことになってごめんなさい。ヘンリー。お願いよ。目

 を開けて頂戴。起きてくれたら、好きなものを何でも食べさせてあげるわ。ヘンリー! 

 命令よ! 目を開けなさい! 開けなさいってば!

   姫がヘンリーの胸を何度も叩くと、Bは咳き込みながらりんごの欠片を吐き出す。

B くるしがっだ……。

姫 ヘンリー!

B あれ? みんなは?

姫 お継母様を熊のえさにしに行っちゃったわ。

B 僕のりんごは?

姫 あれは毒りんごよ。

B あんなに美味しかったのに? かじってあまりの美味しさに、びっくりしてそのまま

 飲み込んだら偉い目に合ったよ。

姫 え?

   暗転。

   暗転幕前。縄で縛られた老婆。レグナンも側にいる。

老婆 レグナン。縄を解きなさい。

レグナン お妃様。私の手は刃物のように鋭く、お妃様を傷つけてしまいそうで、そのよ

 うなことは出来ません。

老婆 ふん、そうかい。

レグナン 熊を追い払うことくらいでしたら、できますからご安心ください。

老婆 そんなことより、喉が渇いたね。

レグナン ちょうど良かった。連中が持たせてくれたりんごがありますが?

老婆 ふん。あいつらが臆病者でよかったね。りんごで食いつないで、誰か人間が通った

 らこの縄を解いてもらうことにしよう。レグナン、りんごを私の口まで運びなさい。

レグナン かしこまりました。

   レグナン、りんごを老婆に食べさせる。老婆、りんごを飲み込んで顔をこわばらせ

   る。

老婆 レグナン、お前……。(意識を失っていく)

レグナン お妃様。未来を見ると言うことは、その未来を目指すと言うことに他なりませ

 ん。それを歪めた私の兄は、鏡として生きていくことも出来なくなりました。私は正直

 な鏡として、未来を歪めて写すつもりなどありませんでした。残念ですがお別れです。

 あなたはここで眠り続け、熊のえさになるか隣の国のキモ王子と永遠に結ばれるしかあ

 りません。そのどちらの結果もあまりに哀れで、私には見ることは出来ません。お許し

 ください。ただ一つ言えるのは、あなたはまだまだ生きるでしょうと言うことだけ。

   レグナン。老婆を見て、お辞儀をする。

レグナン さようなら、私の主。私はこれから旅に出ます。世界中を回り、この世の嘘も

 真実もすべて写してまいりましょう。それでは皆さん、ごきげんよう

   暗転。暗闇の中で、鏡が砕けた音がする。

Next→→→第八場