3年悲劇

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3年悲劇

                                   作:海部守

時: 現代

所:日本

登場人物

・星崎樹里亜

【あらすじ】

5年後から樹里亜宛てに手紙が届く。そこには樹里亜が3年後に死ぬと書かれており、

他に7つの予言が書いてあった。

それ以上でもなくそれ以下でもない。だからどうしろと書いてあるわけでもなかった。

いたずらだと思っているうちに最初の予言が当る。

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第一場

   樹里亜がやってきて胸の辺りまで積み上げられた箱の上にある手紙に気が付く。

樹里亜 ただいまー。私に? 誰から? さあって。

   手紙を見る。裏も見る。差出人の欄は無記入。

樹里亜 誰からだろう? ラブレターだったりしてぇ? あっはっは。そんなわけ無いか。

   封を開く。中から手紙を取り出し声に出して読む。

樹里亜 星崎樹里亜様、確かに私宛のようね。突然こんな手紙を書いたことをお許しくだ

   さい。おっと、これは告白が来たかな? あなたは3年後に死にます。

   手紙を投げ捨てる。

樹里亜 驚いたわ! とんでもないDQNね。僕があなたを殺しに行きますとでも言うの

   かしら。ストーカーね。警察に連絡しなくちゃ。あ、でも、警察ってあんまり当て

   にならないのよね。ストーカーの被害者でも何の対応もしてくれなくて結局殺され

   ちゃうことも多いみたいだし。

   樹里亜、手紙を拾う。

樹里亜 敵のことを知っておくのも悪くは無いわね。(再び読む)星崎樹里亜様、突然こん

   な手紙を書いたことをお許しください。あなたは3年後に死にます。こんなことを

   書くときっと私のことを危険人物か何かだと思うことでしょう。

樹里亜 思ったわ。

樹里亜 ですがこれは事実です。あなたはこの手紙を見たおよそ約3年後くらいに死にま

   す。

樹里亜 およそで約でくらいって随分あいまいね。

樹里亜 病死だと聴いています。

樹里亜 何の病気よ。

樹里亜 さて話は変わりますが、

樹里亜 変わるのかい。

樹里亜 7月の終わり頃、ある事件が起こります。それが始まりだと思ってください。

樹里亜 何よある事件って。

樹里亜 ある事件とは、

樹里亜 お、来た来た。

樹里亜 ある事件とは、学校で斉木君がいじめを苦に自殺します。

樹里亜 何だ斉木か。ばかばかしい。

   樹里亜、手紙を捨てる。だが、思い直し積み上げられた箱の上に置く。

樹里亜 こんなの私じゃなくて学校とかマスコミとかツイッターにでも流せよな。バー

   カ!

   樹里亜、立ち去る。すぐに戻ってくる。

樹里亜 ちょっと待て。斉木が自殺するとしたら斉木はストーカーじゃないじゃん。あ、

   いいのか自殺騒動を起こして私が助けてくれないから3年後に殺すぞって言ってる

   のか。すぐに殺しに来ようとしないところが陰湿だよな。

   手紙を広げて読む。

樹里亜 斉木君が死んだ後に担任の小林が自殺します。春休みのことです。

樹里亜 何だこれ?

樹里亜 梅雨に通り魔が現れて同じ学年の子が被害に遭います。夏が終わる頃、清武典子

   が事故にあいます。冬、星崎アキが事故にあいます。冬休みに安藤エミが交通事故

   で死にます。あなたが死んだ後、川沿いにある化学工場が爆発を起こし汚染物質が

   町中に飛び散り3万人の人があっという間に死にます。

樹里亜 何これ?

   樹里亜、手紙をもう一度見る。

樹里亜 これだけ? だから何よ。

   樹里亜、手紙を裏にして見る。封筒の中を調べる。

樹里亜 人が死ぬことばかり書いて送りつけて、気持ちが悪いなぁ!

   樹里亜、手紙を丸めて部屋の隅に捨てる。急いでスマートフォンを取り出して電話

   をかけようとするが止まる。

樹里亜 斉木の番号なんか登録してるわけ無いじゃん! もう! エミに聞けばわかるか

   なって、変に勘違いされたら困るし……。あ、そうか学校に聞けばいいんじゃん。

   樹里亜、学校に電話をかける。

樹里亜 もしもし、1年4組の斉木、……あいつの下の名前なんだっけ。カズマサだった

   かなぁ。斉木カズマサの家の番号を教えてもらえますか? はぁ? 私? クラス

   メイトです。え? クラスメイトです。何ですか? 個人情報保護って。じゃあ、

   もういいです。

樹里亜 なんだよ個人情報保護って! 家にはこんな手紙届けやがって! 何が保護だ! 

   本当にこんな手紙を送ってきたのはどこのだいつだよ!

   樹里亜、封筒の消印を見る。

樹里亜 2118年(5年後)とかふざけんな! 5年も先の郵便物が届くかよ! 手の込ん

   だくだらないいたずらしやがって!

   樹里亜、怒りに任せて封筒を丸めて捨てる。

   暗転。

第二場

   樹里亜、手紙を拾う。箱の上には樹里亜のスマートフォン

樹里亜 良かった。まだあった。

   スマートフォンに着信音。樹里亜、驚き体を震わせる。

   スマートフォンをじっと見つめる樹里亜。音は鳴り続ける。

   やがて観念したようにそれを取る。

樹里亜 もしもし? うん。びっくりした。わかった。うん。エミもね。

   スマートフォンを置く。

樹里亜 実は私さぁ、斉木が死ぬの知ってたんだよね。って言えるわけ無いじゃん。こん

   なのただの偶然だよね。だって、これが本当だったら私3年経ったら死ぬんだもん

   ね。こんなの誰かのいたずらだよね。

   樹里亜、手紙を見る。

樹里亜 春休みに小林先生が死んだら……。

   樹里亜、スマートフォンを手に取り電話をかける。

樹里亜 先生? 星崎です。あの、はい。私は大丈夫です。先生は大丈夫ですか? 元気

   出してくださいね。先生まで死なないでくださいね。え? いえ、変な意味は無い

   です。すみません。でも、先生のことが心配だったんで。すみません失礼します。

   スマートフォンを置く。

樹里亜 今度は先生の死ぬ番です。なんて言ったら、どんな中二だと思われるか……。だ

   けど、こんな手紙を送ってきたのは誰なんだろう。きっと斉木のいたずらだったん

   だよ。そうだよそうに決まってるじゃん。馬鹿だな私。

   樹里亜、スマートフォンを持って代わりに手紙を箱の上に置く。

   周囲が暗くなっていくが、手紙は照らされたまま。

   樹里亜の声が聞こえる。

樹里亜 違います。違いますって。先生のことを別に好きだとかそういうんじゃないです。

   ただあの時は斉木君が自殺して気落ちしてるだろうから、元気を出してもらおうと

   思っていただけなんです。やめて下さい! 警察に言いますよ。もう電話とかもし

   ないでください。本当に迷惑です。勘違いしないでください。小林先生のこと、ク

   ラスでなんて言ってるか知ってるんですか? 子豚眼鏡ですよ! 子豚眼鏡! お

   前鏡見たことあんのかよ! 女子高生に、教え子に手を出そうとかしてんじゃねえ

   よ! 気持ちが悪いんだよ! 死ねよ! お前なんか死んじゃえよ!

   暗転。

第三場

   セミの鳴き声。

   樹里亜は舞台の隅でひざを抱えて座っている。ドアをノックする音。

   樹里亜は部屋の外と会話をする。

樹里亜 エミが? 今日はやめておくって言っておいて。気持ちが悪いから。え? 典子

   が? いつ? 本当に? わかった支度するって言っておいて。

   樹里亜、ゆっくりと立ち上がる。

   箱の上に置かれた手紙を見る。

樹里亜 一つ目は当り。二つ目も当り。三つ目ははずれ。通り魔なんか出なかった。でも、

   今日、四つ目が当った。典子は死んでいないけど、事故で死ぬとは書いていないも

   んね。私はエリに着いて行ってあの子を慰めてあげるだけよ。正直、典子のこと嫌

   いだったもの。でも、エリは優しい子だから典子のことまだ信じてる。そこがまた

   嫌になって典子を嫌いになるのよ。だから死んだら許さないからね。

   薄暗くなる。車の音。病院の音。

樹里亜 大丈夫? プールで? それで今はもうしゃべれるんでしょ? ダメ、なの? 

   もう無理かもしれないって。そんなわけ無いよ。あの清武だよ? 典子がそんなわ

   け無いよ。脳に酸素がいかなかったせいで、たったそれだけでしょ? どうしてダ

   メなの?

   樹里亜、肩を落として下手に歩いていく。呼び止められて振り向く。

樹里亜 ごめん。まだ行けない。そんな気分じゃない。このまま行くとエミの後輩になっ

   ちゃうかもね。え? 大丈夫よ。この辺りじゃ変質者くらいしか出ないわよ。え?

   樹里亜、上手に戻る。

樹里亜 いつ? 6月? 本当に? まだ捕まってないの? 当ってたんだ。ううん。な

   んでもない。日本の警察って本当にダメよね。あ、エミ。事故には十分気をつけて

   ね。走ってる車とかには近づいちゃダメだよ。うん、小学生じゃないけど、注意は

   必要でしょ。気をつけてね!

   樹里亜、走って下手に去る。明るくなる。樹里亜が部屋の中に帰ってくる。

   箱の上の手紙を手にとって見る。

樹里亜 星崎樹里亜様、突然こんな手紙を書いたことをお許しください。あなたは3年後

   に死にます。こんなことを書くときっと私のことを危険人物か何かだと思うことで

   しょう。ですがこれは事実です。あなたはこの手紙を見たおよそ約3年後くらいに

   死にます。病死だと聴いています。さて話は変わりますが、7月の終わり頃、ある

   事件が起こります。それが始まりだと思ってください。

樹里亜 ある事件とは、学校で斉木君がいじめを苦に自殺します。

樹里亜 斉木君が死んだ後に担任の小林が自殺します。春休みのことです。

樹里亜 梅雨に通り魔が現れて同じ学年の子が被害に遭います。

樹里亜 夏が終わる頃、清武典子が事故にあいます。

樹里亜 冬、星崎アキが事故にあいます。

樹里亜 冬休みに安藤エミが交通事故で死にます。

樹里亜 あなたが死んだ後、川沿いにある化学工場が爆発を起こし汚染物質が町中に飛び

   散り3万人の人があっという間に死にます。

   樹里亜、手紙を置く。

樹里亜 斉木は自殺して死んだ。小林も自殺した。私は変質者だって聞いていたけど通り

   魔は現れていた。クラスの子も軽く被害に遭った。そして、典子が事故にあった。

   樹里亜、手紙を見つめる。

樹里亜 これは本物だ。ここに書かれていることは本当に起こることなんだ。私は、あと

   2年で死ぬ。この手紙を送ってきたのはいったい誰なんだろう。

   樹里亜、丸められた封筒を探すがそれはもう無い。

樹里亜 やっぱりもうないか。封筒があればもう少し何かわかったかもしれないけど。本

   当に5年後、じゃないか2018年だから4年先から送られてきた手紙だったのかな

   ぁ。郵便局に持っていって確かめればよかった。ううん。いたずらだと思うよ。絶

   対。でも、本当だったら、何で起こることだけしか書いてないんだろう。それにも

   っと詳しく書いてくれれば止めることだって出来るかもしれないのに。詳しく欠け

   ない理由でもあるのかな。

樹里亜 そうか、詳しく書くと未来が変わるんだ。でも、変わってもいいのにこんな未来

   なら。最後には沢山の人が死んじゃうんだし。

樹里亜 これが本当に未来からの手紙なら、手紙を書いた人は未来のこの事故が起こった

   後に生き残った人なのかもしれない。5年後には過去に手紙を出すことが出来て…

   …。そんなことありえないよ! だったらみんながこんな手紙をもらっていていい

   はずだもん。私だけがこんな手紙をもらうはずが無い。

樹里亜 そうだ。おばあちゃんに注意しなくちゃ。でも、なんて言えばいいんだろう。事

   故に気をつけて? どんな事故に気をつければいいのよ。冬だから、雪? おばあ

   ちゃん家は雪が降るようなところじゃないし、車かもね。私が行って見張ってれば

   阻止できるかも知れないわね。

   暗転。

第四場

   樹里亜、箱の後ろ側で手紙を見つめている。

樹里亜 ごめんねエミ。本当にごめんね。こんな手紙何も役に立たないじゃない。何のた

   めに送ってきたのよ。あたしももうじき死ぬからさびしくないよ。でも思うんだ。

   手紙をもらったのがもっと頭のいい人だったらさ、未来を変えられたと思うんだ。

   私みたいな頭の悪い馬鹿にこんな手紙を送ってきた奴も相当な馬鹿なのよ。

樹里亜 あと一つ。でもこれはもう確かめようが無いんだ。私が死んでからの話だからね。

   結局、私は何も出来なかった。

   樹里亜、手紙に背中を向けて立ち去ろうとする。

   手紙をつかんで床に投げようとする。

樹里亜 何でもっとこの手紙を信じられなかったんだろう。斉木の自殺を止めていれば、

   小林先生に余計なことを言わなければ、みんなに注意したり警察に相談していれば

   通り魔はもう捕まってたかもしれない。典子だって、私が悪かったのかもしれない。

   私のせいでみんなの仲が悪くなったんだ。おばあちゃんだって私が余計なことをし

   なければ入院することも無かった。エミも死ななくて済んだのに! 今だって、自

   分が死んじゃうからもう関係ないって思ってた。

樹里亜 いつでも心の中にそういう気持ちがあったから誰も救えなかったのよ。そうよ、

   私が死ぬからこの町を放って置くことは出来ない。家族がいるし、典子だってまだ

   生きてる。目が覚めて町の人が死んでしまっていたら悲しすぎるもんね。やるよ。

   私やるよ。ダメでもなんでも精一杯やってみせる。

   樹里亜、薄暗くなる。

樹里亜 化学工場が危険である。そう一人の少女が声を出しても、誰の耳にも届くことは

   無い。それはただの妄想でしかない。そう思われてしまっても仕方が無い。だから、

   私は最初に川の水質を調べることにした。始め行政の人の力を借りようと思ったが、

   行政の人はまったく当てにならなかった。やめるように説得されたこともあった。

   私には手紙と言う確信があったが、行政の人たちにそれを話しても私の頭がおかし

   いと思われるだけだと思って自由研究なんですと言って無理にやりとおした。水質

   調査の依頼を別の町にお願いしたらそこではあっさりと受けてくれた。

樹里亜 水の調査をしていると、こんな話が聞こえてきた。子供や老人に喘息に似た症状

   が出ていると。それは工場が出来てからしばらくしてからのことだったという。家

   に行政の人がやってきて変な噂が立つと困るから研究をやめるように言われた。そ

   の時にはもう水の調査は結果を待つだけだったので私は、はいと答えて帰ってもら

   った。

樹里亜 工場はこの町を支える産業で、これがなくなるとこの町は税収不足に陥り財政再

   建団体になってしまうと言う。そのために少しの汚染は見なかったことにするとい

   うのがこの町の大人たちの総意だった。夏が来る前に水質調査の結果が来た。基準

   値を大きく上回る汚染物質が川に流されていたことがわかった。私はあと1年で死

   ぬ。それまでにやり遂げられるのかが不安だった。

樹里亜 マスコミにこのことをニュースにしてもらおうかと思ったが、私にはもう時間が

   無かった。だから、インターネットを使って世界中に拡散しようと思った。

   樹里亜、スマートフォンを取り出し、空に向ける。

樹里亜 こんな全時代的なポーズをとらなくてもデータは世界を駆け巡るけど、こういう

   風に発信をしたい。世界を変えるんだ。5年後から来た手紙でこの世界は変わる。

   この3年間は本当につらい毎日だった。でも、悔いは無い。後悔は全部乗り越えた。

   行け、私の思い。この町を救っておくれ。

   樹里亜、送信する。

樹里亜 典子。私のスマホとこの手紙、あんたに預けておくよ。私はこの手紙を出すのが

   典子だったらいいなと思ってる。ううん。典子が出してくれる。そう信じてる。だ

   から、絶対に目を覚ましてね。

   樹里亜、スマートフォンと手紙を箱の上に置き、下手に歩いていく。

   樹里亜、衝撃を受けおなかを押さえる。手をおなかから離していくとそこから血の

   ついたナイフが現れる。樹里亜、振り返りながらひざを地面につく。

樹里亜 子豚眼鏡? あぁ、そうか。小林が通り魔だったのか。私って、馬鹿だなぁ。あ

   んた自殺未遂だったね。

   樹里亜、その場で意識を失い辺りが完全に暗くなっていく。

   箱の上の手紙が照らされる。

   煙の生み出される音と勢いよく排出される汚染水の音が徐々に大きくなり客席を包

   む。

   突然全てが消えて静かな闇になる。

                                       幕

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