7人の大人 第三場

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7人の大人 第三場

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第三場

   暗転幕前。夜明け。

   A、C、F下手から歩いてくる。

A しかし、これと言った情報はなかったな

C こういうのなんて言うんだっけ? くびれがどうのって

F くたびれ儲けだろ?

A 何だよくびれって

C くびれも知らないのかよ。くびれって言うのは

A 骨折り損のくたびれ儲けか

C ああ、それそれ

F で、あの子どうする?

C 人買いに売れば酒代くらいにはなるんじゃないか?

A んー

   3人の目の前にフードを深くかぶった老婆が1人やってくる。

C 誰か来る

F おばあさんかな?

C あんまり、金目のものは持ってなさそうだが、どうする?

F どうする?

A 1、2、3で襲い掛かるぞ

C、F おう

   老婆、立ち止まる。

A 1、2の3

老婆 4!

   飛び出す3人。

A 5

C 6

F 7

老婆 お前たちだね? 町で噂話を聞き集めていたのは

A 何のことだか

F そうだよ

C おい

老婆 そうだと思ったよ

A まぁ、仮にそうだとして、何の用だ?

老婆 お前たちに頼みたいことがあるのさ

C 頼みたいこと?

A お断りだね

F 怪しい話には気をつけろって言われてるからな

老婆 成功したら、金貨10枚やろう

A やろう

C 何でも言ってくれ

F 肩でももんじゃおうかな

老婆 詳しいことは、この手紙を見るんだね

   老婆、手紙をAに渡す。そのままそそくさと去っていく。

A おい、待てよ

   と言いつつ手紙を開く。C、F寄ってきて覗き込む。

C なんて書いてあるんだ?

F 早く聞かせてくれよ

A なんてこった

C もったいぶるなよ

F 教えてくれよ

A …俺は字がよめねえんだ

   暗転。

   暗転幕上がり明転。

   森の中の山小屋。朝。

   小屋の中は、きれいに片付けられている。

   Aがドタドタと入ってくる。

A 戻ったぞ

   片付けられた室内を見て、驚く。

A 大変だ! 泥棒だ!

   飛び出してくる一同。

B 泥棒だ!

C こりゃ一体なんだ

D どこだ泥棒は!

E 何をとられた?

F うわぁ、きれい

G 泥棒って?

姫 朝からうるさいわね

A 何でこいつが自由にしているんだ?

姫 この人たち、私の家来になったのよ

A 何だと?

B あのね、お肉の美味しい食べ方を教えてくれたんだよ

C 嘘

D まぁ、少しの間だけな

E そうそう

F 楽しそう

G 名前を貰ったしね

A 名前?

G 俺はジョージ

B 僕はヘンリー

D スチュワート

E エドガーだ

F いいなぁ

姫 みんなにも用意してるのよ

F 俺には?

姫 あなた何番目に入ってきたの?

F 最後

姫 じゃあ、ロバートね。その前は誰?

C ん? 俺だ

姫 じゃあ、あなたがハロルドで、(Aに)あなたはリチャード

D おめでとう

F ありがとう

G みんなに名前がついた!

B これで喧嘩がひとつ減ったね

   はしゃぎまわる一同。Aが怒鳴る。

A ばかやろう!

   静まり返る。

A 大の大人が名前を貰ったくらいで、何を喜んでいるんだ。大体こいつは人質だぞ? 

 お遊びもいい加減にしろってんだ

姫 残念だけど、それは昨日までの話よ

A 何?

姫 こっち側はあたしを入れて5人。あなたたちは3人しかいないじゃない

A 何をバカな。おい、そいつをふんじばれ

C おう

   C、姫を捕らえようとするが、B、D、E、Gに阻まれる。

C 何だよ

D 悪いな

E 一晩寝たら、名前があるのも悪くないかなって

D な

E おう

F 何の関係があるの?

B 家来を辞めるってことは、名前を取り上げられるってことさ

A ばかばかしい。そんなに名前が欲しいなら、俺がつけてやるよ

一同 おお

B 僕は?

A 食いしん坊

C 俺は?

A 卑怯者

D 俺には?

A こうもり

E 俺は?

A 優柔不断

F じゃあじゃあ、俺には?

A すっとこどっこい

G 俺は何?

A お人よし

姫 じゃあ、自分はなんて名前なの?

A 俺か? 俺は、決断力があってとても優しい頼りがいのあるボスだ

B 長い名前

C センスないね

D まったくだね

E 自分勝手だな

F 俺もそっちに行く

G おいでおいで

   2対6になる。こっそりと姫たちのほうに行こうとするC。

A 貴様、どこに行く

C (ぎくり)向こうに忘れ物が…

A 俺を一人にすると、後でひどい目に合わすからな

C ず、ずるい

姫 誰が、決断力があってとても優しい頼りがいのあるボスなのかしら?

B そうだそうだ

A お前ら、本当にいいのか?

F 何が?

G 別にリチャードがいなくても困らないしなぁ

A リチャードって呼ぶな!

C じゃあなんて呼べばいいんだよ

B あんまり長い名前は嫌だな

D めんどくさいし

E 今新しい名前が出てきて、ごちゃごちゃになってるしね

A じゃあ、ボスでどうだ?

一同 え~

F ボスってリーダーみたいなことでしょ?

G そうなるな

F ここは公正に決めるべきだよ

C 公正にだって? 俺たちには不似合いの言葉だ

B ご飯の早食いで決めよう

E いやいや、賭けで決めよう

F 待って、さっき手紙を貰ったんだけどさ

A ああ、あれか

G 手紙? 誰から

C ばあさんだ

D で、何だって?

F それがリチャードもハロルドも読めなくて

E ハロルドって誰だっけ?

C 俺、俺

A 俺に読めない物が、こいつらに読めるわけないだろうが

G まあ、そうなるな

姫 ちょっと貸しなさいよ

A お前みたいな子供に分かるわけないだろうが

C 引っ込んでな

B ご飯の支度でもしようか

F この子がお姫様なら、読めると思うんだけど、どうかな?

一同 それはもっともだな

A よし読んでみろ

C 大きな声でな

姫 いいわよ

   姫、Aから手紙をひったくるように奪う。

姫 森に迷い込んだ娘をころ…

E ころ?

B 顔色が悪いけど大丈夫?

F 続きはなんて書いてあるの?

姫 殺されないように、守ってやること

A 何?

C お前を守れって?

姫 そうみたいね

E 本当か?

A ちょっと貸してみろ

   姫から手紙をとると、じっと眺める。しかし字が読めないので、どうにもならない。

A ふむう

姫 それから、手紙は読んだら燃やすようにって書いてあるわ

C 森に迷い込んだ娘って、これのことかな?

E どういうこと?

C 娘って言うより、子供だからな

姫 何よこの!

   姫、Cのすねを蹴り上げる。

C やりやがったな!

   C、姫を捕まえる。

姫 お前たち助けなさい!

   A以外、Cを取り押さえる。

C 何なんだよ

D いや、なんとなく

E そう、なんとなく

C なんとなくって何だよ

B なんとなくは、なんとなくだよ

F それよりお腹空いたよ

A まて! 誰がリーダーか決めるのが先だ!

姫 確かにお腹が空いたわね。ご飯にしましょう!

A以外 ご飯ご飯!

A おい、こら!

B どうしよう、何もないよ!

姫 あんたたち本当にどうしようもないのね

F だって、ねぇ

E (Bに)こいつが食べすぎなんだよ

B だって残したらもったいないじゃん

G お前が狩りに行って来い!

D それが良い!

C 獲れるまで帰ってくるなよ

B そんな、飢え死にしちゃうよ

A 早速、リーダーの出番のようだな

姫 あんたたち! そんなつまらない言い合いしてないで、みんなで何か探しにいくわ

 よ!

全員 えー

姫 大の大人が、こんなに沢山いて喧嘩するしかできないの?

D だって

E ねぇ

F なぁ

G うん

C おう

B お腹空いた

A お前が仕切るなよ!

姫 もう、本当にうるさいのね

A お前もな!

姫 じゃあ、二手に分かれて食べ物を探しにいきましょう

A だから、何でお前が仕切るんだ!

C お前、誰かに狙われてるんじゃないのか?

姫 それを守るのがあなたたちの仕事でしょう

G まかせときな

D ジョージがやるってさ

A 任せた

C 頼んだよ

E じゃあ、安心だね

F よかったよかった

B お腹空いたよ

姫 行くわよ

   姫真っ先に外に出て行く。それに続いていく大人たち。最後にA。ため息をつきつ

   つ外に出る。

   暗転。

   暗転幕前。ACDEFがやってくる。

E 何かいるかなぁ

F 肉が食いたいな

A おい。このままじゃやばいぞ

C 何が?

F どうした?

A この話のタイトルを知っているか?

F 7人の大人だろ?

C 俺たちの話だ!

A そうだ。だがな、あのちんちくりんのせいで、俺たちがないがしろになっている

F ないがしろ

C ないがしろ

A そうだ

D 何が白?

E 何かいたの?

A うるさい。こっちにこい

   CDEF寄る。

A ここで主導権を取り返すには、強引な手段が必要だ

F どんな?

A あいつを殺す

D ひでえ

F なんてことを!

E ろくでなし

C いくらなんでも可愛そうだろ

A そうだ。だが、俺たちも譲れないんだ

E だからってあんな小さい子を殺すなんてひどすぎる

C いくら生意気で

F 口うるさくて

D 面倒くさくても

E 殺すなんてひどすぎる

A 俺もそう思う。だからな、死んだことにするんだ

F はい?

D 言ってる意味が分からん

A あいつが死んだことにすれば、あいつが命を狙われることはなくなるわけだ。そうす

 ればここにいる理由もない

E おお、なるほど

C でも、金貨がもらえなくなるぞ

A それはもうこの際、あきらめよう。俺たちの暮らしを取り戻そう。あいつが来てから

 何もかもがめちゃくちゃだ

D なるほど

F でも、追い出すのもかわいそうだな

A いいか、このままじゃ、好き放題出来なくなるぞ。何もかもあいつに仕切られてな!

E 俺は別にかまわないけど

A 昼まで寝てられなくなるんだぞ!

C それは困るな

A 盗みだって、(姫のまねをする)それは悪いことよ! なんて言い出しかねない

F おう。それはつまらない

A 酒も毎日飲めなくなるかもしれない!

D 冗談じゃない!

A 今こそ、追い出そう!

C よし追い出そう!

D 追い出そう!

E 追い出そう!

F 追い出そう!

A で、相談だ。どうやって追い出そうか?

C どうやる?

D どうする?

E お前考えて

F 俺わかんね。やっぱりお前考えて

A どいつもこいつも使えないな

CDEF お前もな

A とにかく何かいい方法はないものか

   下手から狩人がやってくる。

狩人 おい。お前たち

大人たち あ?

狩人 (びびる)あ、ちょっとお聞きしてもよろしいですか?

A なんだ?

C 道なら自分で見つけろ

E この森の肉は俺たちのだからな

狩人 ここに小さな女の子が来なかったですか?

A 小さな女の子?

C あの子のことか

E あの子を探してるの?

F あーーー!

   あまりの声の大きさにみんな驚く。

A うるせえな!

F こいつ殺し屋じゃない?

D 何?

狩人 何をコソコソ話しているんですか?

E うるせえ、何でもねぇ!

C 黙ってそっちの隅で待ってろ!

狩人 はい

   狩人、下手寄りにすごすごと歩いていく。

A ひらめいた!

C 何!

D どうした

E お

F 何々?

狩人 どうしました?(近づいていく)

大人たち お前は引っ込んでろ

狩人 (戻る)すみません

A あいつの身ぐるみをはぐ

C ほおほお

E それで?

A あいつが殺し屋なら、雇い主がいるよな

F いるだろうな

D そんなの当たり前だろ

A まぁ、最後まで聞け。そうして、あいつの変わりに報告に行くんだ。そうすると、報

 酬がもらえて、しかも

C うるさいのも追い出せる

E さえてる!

F さすがリーダー

A もっと言ってくれ

D リーダーかっこいい

C リーダー頭いい!

E こんなにいいリーダーを持って俺たちは幸せだ

A そんなに褒めるなよ

C 早くしろグズ

D 言い出したんだからお前が行け

E ほれほれ

F まったく使えねえな

A けなせとは言ってない

C で、まずどうするの?

A どうするもこうするもふんじばって、身包み剥いで熊のえさだな

D 分かりやすい

E 本当だ

F じゃ

C 早速

A はじめますか

   狩人、寒気を感じる。

大人たち おい

狩人 はい

A ちょっとこっちに来い

狩人 はい?

C いいからいいから

   真ん中に狩人。取り囲む大人たち。

大人たち せーの

   狩人に飛び掛る大人たち。

   暗転。

狩人 やめてぇ~

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