ズンバボンディア!

しあわせをつくる方程式「ズンバボンディア!」

                                   作:海部守

 

時:現代

 

所:日本、どこかアフリカの部族村みたいなところ。

 

 

登場人物

・アルト  :高校生

・ジュンヤ :高校生

・タルト  :タルトト・ントント・ントトンが正式名。

・ハシモト :ディレクター。

・ベルベッタ:大富豪

・アンソニー:使用人

・オギ   :客

・ヤスダ  :店員

・ダイソン :殺し屋

 

  • はじめに

 

アルト  この世界には自分と似ている人間が3人はいるという。僕はこんな風に思う。

    見た目だけではなくて自分と同じ魂を持って生まれてきている人間がいるんじゃ

    ないかって。同じ魂を持つ人間が笑うとき、僕も一緒に笑っている。彼が風邪を

    引いたとき、僕も風邪を引いてしまう。そうやって僕と彼は同じ魂でつながって

    いる。

 

  • 教室

   教室。アルトが席に座っている。ジュンヤが入ってくる。

 

ジュンヤ ようマミヤ。

アルト  あ、おはよう。ジュンヤ君。

ジュンヤ 何してたんだ?

アルト  え? ぼうっとしてた。

ジュンヤ なんで?

アルト  わかんない。

ジュンヤ ふうん。

 

   ジュンヤ、席に着く。

 

ジュンヤ なあ、お前って変わってるよな。

アルト  え? そうなの? 僕、変わってるの?

ジュンヤ うん。だってさ、お前マミヤじゃないじゃん。

アルト  うん。僕はマミヤじゃないね。だから変わってるんだ。

ジュンヤ そうじゃなくて、何でマミヤって言われて返事をするのかってことだよ。

アルト  だって僕を呼んだんだろ?

ジュンヤ 確かにそうだけど、でも俺はお前をマミヤって呼んだんだぞ?

アルト  そうだよ。僕はマミヤじゃないけどマミヤって呼ばれたから返事をしたんだ。

    ジュンヤ君が僕のことを呼んでたってわかったから。

ジュンヤ ん?

 

   ジュンヤ考え込む。

 

ジュンヤ お前、名前なんだっけ?

アルト  アルト。歩く人って書いてアルト。

ジュンヤ キラキラネームか。

アルト  キラキラネームって何だっけ?

ジュンヤ キラキラしてる名前のことだよ。

アルト  そうか。

ジュンヤ お前、バカだな。

アルト  うん。僕はバカなんだ。

ジュンヤ いいよなぁ。お前はしあわせそうで。受験しないんだろ?

アルト  うん。卒業したら働くんだ。おじさんの工場で。

ジュンヤ 何を作ってる工場なんだ?

アルト  わかんない。

ジュンヤ わかんないのか?

アルト  聞いたけど忘れちゃった。

ジュンヤ そうか。スイドウバシの記憶力は鳩並みだもんな。

アルト  僕、鳩じゃないよ。

ジュンヤ 知ってる。ちなみにスイドウバシでもないよな。

アルト  うん。違う。

ジュンヤ あーあ、俺もう嫌になっちまったよ。だけどさ、大学くらい行っておかないと

    その後の人生が大変だろ? いい暮らしをするためにはこんなことくらい我慢す

    るしかないのかなぁ。あ、悪い。別にお前を馬鹿にしたんじゃないからな。

アルト  わかってるよ。僕は勉強も出来ないバカだから、大学にはいけないんだ。でも、

    工場で働けるから別にいいんだ。

ジュンヤ だから、工場で働くのがバカだって言ってるわけじゃないんだぜ?

アルト  うん。知ってる。

ジュンヤ ごめんな。俺、そう言うつもりじゃなくて。お前を傷つけるつもりなんか無か

    ったんだよ。

アルト わかってるよ。

 

   暗転。

  • ブブベン族集落

 

   明かりがつくと、ブブベン族の集落。

   原住民タルトが何かを作っている。そこにテレビクルーを引き連れたディレクター

   ハシモトがやってくる。

 

ハシモト ここがブブベン族の村か。うわさではかなり数が減ってると聞いていましたが、

    本当に少ないですね。見たところ一人しかいないわ。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト あぁ、僕らには馴染み深い言葉ですね。これは現地の言葉でおはようとか、こ

    んにちはという意味なんですね。ズンバボンディア! 彼らの言葉はとても不思

    議で我々日本人には同じことを言っているように聞こえるんですが、直接会話し

    てみると結構意味がわかるんです。ということで色々聞いてみましょう。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト お前たちはどこから来たのかと。日本です。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト それはどこにあるのか、どんな村なのかと。日本は村ではなくて国です。沢山

    の人が住んでいます。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト いいえ、ここよりももっと沢山の人が住んでいます。一億人もいます。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト ははは、驚いてる驚いてる。日本には何でもあるんですよ。車も飛行機も、ビ

    ルも世界中の食べ物も集まっています。すごい国なんですよ。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト は? ここには何も無いじゃないですか。日本でこんな貧しい生活なんかして

    たらみんなに笑われちゃいますよ。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト 泊まるだなんて嫌ですよ。スマホもつながらないんだから、すぐに帰ります。

    ここに泊まったってここの良さなんかわかりません。飛行機に乗って日本に戻り

    ますよ。旅は良いとかなんとか言うけどやっぱりあれは不便を感じてから日常に

    戻ってきてその良さを実感するからなんだろうな。文明社会って幸せだよなぁ。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト えぇ? 言ってくれるなぁ。(見えないテレビクルーに)大丈夫だよ。ケンカ売

    ってきてるのはあっちなんだから、文明人らしく論破してやるって。こんな連中、

    すぐ黙らせるよ。しっかり撮っておいてね。

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト あのなぁ、俺たちのどこが貧しいんだって? 着てるものも持ってるものもあ

    んた達とは大違いなんだけど? そんなくたびれたボロ雑巾みたいな布切れと比

    べんなよ。ブランド品だぞ。いくらしたと思ってるんだ?

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト 言うねー。それじゃあ、これ食べてみてよ。(ポケットからいたチョコのような

    ものを出す)

タルト  ズンバボンディア? (手に取って眺める)

ハシモト それ、食ってみろよ。

タルト  (かじる。すぐに吐き出す)ズンバボンディア!

ハシモト ははは、包装紙。包装紙をはがさないとダメだ。頭が悪いなぁ。

タルト  (包装紙を剥く。食べる。驚く)ズンバボンディア!

ハシモト うまいだろ? それがチョコレートだ。

 

   タルト、チョコレートを懐にしまい、地面を見て歩き回り突然穴を掘る。

   穴の中にいた芋虫を捕まえる。

   パントマイムで構わない。

 

タルト  ズンバボンディア! (差し出す)

ハシモト 芋虫? 食えって? ふざけんなよ。何の罰ゲームだよ。(払いのける)

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト じゃあ、どっちがおいしかったんだよ。

 

   タルト,チョコと芋虫を見比べる。チョコレートを頭上に上げる。

 

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト だろ! 文明社会の勝利だな。大塚ちゃん、勝利の瞬間ちゃんと取っておいた?

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト チョコレート。

タルト  ホゴレインボー。

ハシモト チョコレイト。

タルト  チョモランマ。

ハシモト チョコ。

タルト  チヨコ。

ハシモト チョコ。

タルト  チヨコ、チョコチョコ。

ハシモト まぁ、それでいいや。

タルト  チヨコ、チョコチョコ! ちょっとチヨコそこでチョコチョコしないで!

ハシモト ん?

タルト  ズンバボンディア!

ハシモト だから、俺たちのどこが貧しいんだよ! 頭が悪いな!

 

   暗転。

 

  • 集落周辺

   明かりがつくとそこは大自然

   本当はジープのような車に乗って来てほしいが多分無理だろう。

   大富豪ベルベッタがやってくる。その後ろに使用人アンソニー

 

ベルベ  まぁずばらしい。本当に自然って美しいわ。お前もそう思うでしょ?

アンソニ はい、奥様。

ベルベ  ここをもう少しいじったらもっと素敵になると思わない?

アンソニ はい、奥様。

ベルベ  あの木が邪魔ね。切り倒しましょう。それからあそこの汚い小屋は全部撤去し

    てね。アレが一番自然を破壊しているわ。

アンソニ 奥様、あそこには原住民が暮らしております。

ベルベ  それがどうしたのよ。どっか別のところに移せばいいでしょ? そんなことも

    わからないの? あなた脳みそが足りてないんじゃないの? 暇を出すわよ。

アンソニ 申し訳ございません。すぐに手配をいたします。

ベルベ  そうしたら、ここに大きなお屋敷を建てましょう。プールがあって、大自然

    見ながらリゾート気分を満喫するのよ。そうしたらゲストをお招きして毎夜毎夜

    パーティーを開くのよ。お客様はとても喜んでくださるでしょうね。これこそま

    さに大自然と融合した人間世界の楽園だわ。

アンソニ 奥様。

ベルベ  何?

アンソニ そろそろ日も暮れますのでホテルに戻りましょう。夜行性の猛獣もやってくる

    とガイドが申しております。

ベルベ  あなた脳みそが足りてないんじゃないの? 暇を出すわよ。そんなの撃ち殺せ

    ばいいでしょ。

アンソニ はい、奥様。

 

   暗転。

 

  • 雑貨店

   明かりがつくとそこはお店。世界各地の雑貨を扱うお店。

   客のオギが入ってくると店員ヤスダが奥からやってくる。

 

オギ   へー、こんな店があったんだぁ。

ヤスダ  いらっしゃいませ。お客様は始めてのお客様ですか?

オギ   ええ。アジア雑貨が好きで旅行にも行くんですけど、なんだかすごい沢山あり

    ますね。

ヤスダ  はい。世界中のフェアトレード商品を扱っております。

オギ   フェアトレード商品?

ヤスダ  はい。フェアトレード商品です。

 

   沈黙。

 

オギ   うん。普通はここでフェアトレード商品がどんなものか説明してくれるよね。

ヤスダ  あ、申し訳ございません。

 

   沈黙。

 

オギ   だからぁ。

ヤスダ  あ、そうですね。すみません。ぼうっとしてました。

オギ   それで?

ヤスダ  お昼ご飯に何を食べようかなって。

オギ   説明。

ヤスダ  はい。フェアトレードというのは生産者と対等な取引を行うということです。

 

  沈黙。

 

オギ   え? 終わり?

ヤスダ  はい。

オギ   ん? フェアトレードっていうのは、途上国から雑貨などを先進国で販売する

    場合に従来は中間業者が高い利益を上げるために生産者にわずかな賃金しか与え

    なかったりして、生産者の暮らしがちっとも向上しなかったことを問題として、

    生産者と販売人が直接取引をして生産者の生活を向上させようというそう言う取

    り組みってことじゃないんですか?

ヤスダ  良くご存知ですね。そんな感じです。

オギ   そう言う説明はあなたがしないといけないんじゃないんですか?

ヤスダ  そうでもないです。そこに書いてありますから。

オギ   そうですか。

 

   オギ、そこにあった商品を手に取る。

 

オギ   あ、これすごい。

ヤスダ  ありがとうございます。それはブブベン族のズンバボンディアですね。

オギ   へーこれがズンバボンディアかぁ。あれ? ズンバボンディアって正式名称な

    んでしたっけ?

ヤスダ  さあ。でも、懐かしいでしょ?

オギ   はい。昔は良くこれに乗って小学校に行ったもんだなぁ。

ヤスダ  そうでしょう。日本の小学生の九割がこれを持っていましたからね。

オギ   最近は見かけなくなったなぁ、ズンバボンディア。

ヤスダ  ブブベン族は今その数を急激に減らしていますからね。今や絶滅危惧種です。

オギ   少数民族ですよね? 絶滅危惧種って言います? 少数民族が正式でしょ?

ヤスダ  そうとも言います。

オギ   ところでブブベン族ってどこに住んでいるんですか?

ヤスダ  ブブベン共和国です。

オギ   ブブベン共和国って言うのはどこに? アフリカですか?

ヤスダ  アフリカじゃないと何か困ることでも?

オギ   いいえ。

ヤスダ  ブブベン族がどこに住んでいるかは絶対にしゃべってはいけないんです。

オギ   なぜですか?

ヤスダ  密猟者が彼らを狙うからです。

オギ   少数民族なんですよね?

ヤスダ  実はブブベン族の血液には成人病を治す効果があるんです。1990年代の始まり

    頃に世界的な薬害メーカーバイザーによりその薬効が発見され、そのせいで多く

    のブブベン族が狩られました。ほら、ズンバボンディアが日本の小学生の手から

    離れたときがあったでしょう?

オギ   ああ、ズンバボンディアショックですね! 知ってます。弟がまだ小学生だっ

    たから。お兄ちゃんのズンバボンディア貸してくれってよく言われたなぁ。

ヤスダ  あの時、ブブベン共和国内では八割くらいのブブベン族が捕らえられて生きた

    まま冷凍保存されて世界各国に輸出されたとか。残りのブブベン族はブブベン共

    和国政府に守られてひっそりと暮らしています。ですが、近年、ブブベン共和国

    政府は不正が横行しており、そのために国家財政が破綻しかけブブベン族居住地

    の売却に動いているんだとか。

オギ   そうですか。このズンバボンディアにはそんな血なまぐさい過去が……。なん

    だか争いや血の匂いがしてきそうですね。

ヤスダ  あ、それは所沢の工場で作っています。

オギ   ん?

ヤスダ  何か?

オギ   今までの話を全部台無しにするような感じの話をいきなり投げ込んできました

    ね。

ヤスダ  お気に召しましたか?

オギ   そうですねぇ。

ヤスダ  八万九千円になります。

オギ   はい?

ヤスダ  八万九千円です。

オギ   何が?

ヤスダ  ズンバボンディア。いまお包みしますね。

オギ   ちょっと。

ヤスダ  え? 何か?

オギ   ズンバボンディア買うなんて言ってませんよ。

ヤスダ  言いましたよ。

オギ   いつ?

ヤスダ  さあ?

オギ   買いませんよ。

ヤスダ  九万五千円です。

オギ   は?

ヤスダ  え?

オギ   何で六千円増えたんですか?

ヤスダ  時価です。

オギ   何だよ時価って。

ヤスダ  九万二千円です。

オギ   お、下がった。じゃあ買おうかなって、オーイ。

ヤスダ  お買い上げありがとうございます。この売り上げの2%がブブベン族の支援金

    としてブブベン共和国に送られます。

オギ   残りは?

ヤスダ  はい。8%が所沢の工場に。残りは私の懐に入ります。

オギ   うーん暴利。

 

   暗転。

 

 

  • 教室

   明かりがつくと教室。

   アルトが席で勉強をしている。

 

アルト  あ。

 

   ジュンヤがやってくる。席について勉強を始める。

 

アルト  あ、そうか。

ジュンヤ どうしたジングウジ。

アルト  うん。あのね。あー。

ジュンヤ 何?

アルト  世界を救う方法を思いついたんだけど、忘れちゃった。

ジュンヤ お前バカか?

アルト  ごめん。もう少しで世界が救えたのに。

ジュンヤ お前なんかに世界を救えるわけが無いだろ。くだらないことを考えてないで、

    テスト勉強しろよ。お前だって留年したら、卒業できないんだからな。

アルト  そうだね。だけどね、今の方法だったら、みんなが幸せになって誰も苦しまな

    くて済むんだ。あぁ、なんで忘れちゃったんだろう。

ジュンヤ まだ言ってんのか? お前みたいなバカが世界を救えるなら、もうとっくの昔

    に世界は救われてるよ。

 

   ジュンヤ、勉強を再開。

 

アルト  ごめん。僕みたいなバカには世界は救えないよね。

ジュンヤ そう言うのはさ、俺たちなんかよりももっと頭がいい奴に任せておけばいいん

    だよ。今にさ、そう言うすごい奴が現れてあっという間に何もかも解決してくれ

    るさ。

アルト  すごいな。スーパーマンみたいだ。

ジュンヤ そ、何でも出来て何でも知っている奴が、俺たちを救ってくれるんだ。

アルト  ジュンヤ君、それ本当かな? 何でも出来て何でも知ってる奴が僕たちを救っ

    てくれるかな?

ジュンヤ 当たり前だろ? 何でも出来て何でも知ってるんだから。

アルト  なんでさ? 何でも知っているんなら、もしかしたら僕たちが絶対に救われな

    いことも知ってるんじゃないかな? だから今もこうやってほったらかしにされ

    てるんじゃないかな? だから世界は苦しんでるのかな?

ジュンヤ お前、なんだよ。何が言いたいんだよ。

アルト  だって、僕が何でも知っていて何でも出来たら、誰も助けようなんて思わない

    よ。自分の楽しみだけを追求してしまう気がするんだ。だって、誰かを助けるな

    んてそんなの時間がもったいないって思うと思うんだ。

ジュンヤ そんなのお前の考え方だろ。お前はスーパーマンでも救世主でもない。もちろ

    ん俺も違うからスーパーマンの考え方なんてわからない。それこそ誰もわかんな

    いよ。

アルト  そうなんだよ。わからないんだよ。スーパーマンの考え方はわからない。だか

    ら、彼が僕たちを救ってくれるかなんかもわからない。

ジュンヤ まあそうだな。

アルト  必要なのかな。

ジュンヤ え?

アルト  特別な人間って必要なのかな。スーパーマンだけじゃなくてさ。

ジュンヤ 当たり前だろ。エリートが世の中を引っ張っていかないと世の中がめちゃめち

    ゃになるじゃないか。

アルト  でも、エリートが自分の幸せだけを追求していたら、この世の中は救われない

    んじゃないかな? 世界が良い方向へ変わっていかないのはエリートが自分の幸

    せだけを追求しているせいじゃないのかな?

ジュンヤ わかったからもういいだろ。テスト勉強しろよ。

アルト  だけどさ、みんながみんな自分の幸せをつかもうとするから、衝突が起こるん

    じゃないかな。誰も他人のことなんて考えてないんじゃないかな?

ジュンヤ うるせえな! じゃあ、お前、勉強しろよ。それで一流大学に入ってみろよ。

    それで自分の力で世の中を変えてみろよ! 何も覚えられない何も出来ないくせ

    に偉そうな事言うなよ。お前みたいな奴が一番うざいんだよ。自分じゃ何も出来

    なくて他人の世話になるしか脳が無いくせに説教臭いこと言いやがって、お前な

    んだよ。勉強がしたくないから逃げてるだけだろ。ふざけんなよ! 俺の邪魔す

    んじゃねえよ!

アルト  ごめん。

 

   ジュンヤ、無言で勉強を続ける。

 

アルト  ごめん。

 

   暗転。

 

  • ブブベン族の集落

   明かりがつくと、ブブベン族の集落。

   原住民Aが開発者Bに追われてくる。

 

タルト  ズンバボンディア!

ダイソン 観念しろ。お前で最後だ。

タルト  ズンバボンディア!

ダイソン 悪いな。俺もこれが仕事でね。ここにはホテルが建つ。そうしたらここは一大

    観光地になるらしい。お前たちにはどこか別の場所を用意しろだなんて言うけど

    よ。あいつらお前たちの立ち退き料も出さなかった。それでもお前たちはどこか

    に移動したんだってことにしておきたいだけなのさ。汚い連中だよな。どれだけ

    儲けようっていうんだか。でも、こういう汚いやつがいるから世界が回るんだろ

    うな。

タルト  ズンバボンディア!

ダイソン お前で最後って言っただろ。みんなあっちに行ったよ。幸せな国にな。

タルト  ズンバボンディア?

ダイソン 日本? なんだそりゃ? 日本は幸せな国だって? そんな国、聞いたことも

    ないな。

タルト  チヨコ、チョコチョコ。

ダイソン 意味のわかんないことを言いやがって。

タルト  ちょっとチヨコそこでチョコチョコしないで!

 

   ダイソン、タルトを撃つ。タルト、倒れる。

 

   暗転。

 

  • 学校

   学校。

   下手、床にアルトが倒れている。

 

   ジュンヤが上手で電話を取る。

 

ジュンヤ え? アルト君が? そうですか。いえ、僕らいじめなんかしてません。から

    かうくらいのことはしましたけど。最近、なんかおかしかったんです。世界を救

    う方法を思いついたとかそんな変ことを言ったりしてました。たぶん、留年が決

    まったのがショックだったんじゃないでしょうか。親戚の工場で働くことをすご

    く楽しみにしていましたから。はい。わかりました。失礼します。

 

   ジュンヤ、去る。

 

   タルトがやってきてアルトに触れると、アルトは起き上がる。

 

アルト  世界を救う方法を思いついたんだ。それはね、自分よりも人の幸せを願い喜ん

    であげること。みんながそうやって自分よりも他人のことを考えて優しくしてあ

    げたら、世界は救われるんじゃないかな。特別な人間なんか本当は要らないんだ。

    それが世界を救う方法なんだ。これが僕のしあわせをつくる方程式。

タルト  ズンバボンディア! 俺たち同じ魂。一緒に帰らないと。幸せの国に行けない。

 

   アルト、後ろを振り返る。タルトが手招きをしている。

 

アルト  呼ばれてる。もう行かないと。じゃあね。ズンバボンディア! ちょっとチヨ

    コそこでチョコチョコしないで!

 

   アルトとタルト、走り去る。

 

                                       幕

 

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