荊の王子 第九場

****************************************

 

荊の王子 第九場

 

****************************************

 

 

第九場

   石牢。

   眠っているダリアの背中にカタツムリの殻が乗っている。ゆっくりと目を開ける。

 

ダリア  いつの間にか眠ってしまったんだわ。

 

   蛙の貴婦人の声がする。

 

貴婦人  グワ、立派な殻ができたね。後半日もしたら女王様にお願いをして、外に出し

    てやるとするかね。お前は幸せ者だよ。

ダリア  お願い。おうちに帰して!

貴婦人  グワ、あははは。そんななりで家に帰ってどうするんだい? 閉じ篭るのかい?

    どうせ、みんなにバケモノ扱いされて国を追い出されるに決まっているよ! あ

    ははは! お前の家は背中にあるじゃないか! ずいぶん立派なお家だこと!

 

   ダリア、背中を触り殻があることに気がつく。

 

ダリア  そんな。

貴婦人  グワ、そうそう。頭を打ちつけて死のうと思ってもあんたは柔らかいから死ぬ

    ことなんて出来ないよ。あははは!

 

   貴婦人の笑い声が小さくなっていく。

 

ダリア  私、本当にカタツムリになってしまったのね。

 

   ダリア、縮こまる。鍵が開く音がして居眠り猫が入ってくる。

 

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  女王様が呼んでる? 嫌よ。行かないわ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  なによ。なんの権利があってそんなことを言うのよ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  寝言なんて言わないで!

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  あなたを突き飛ばして逃げてもいいんだから!

 

   ダリア、走り出そうとするがカタツムリなので遅い。水の中を走っているように思

   ったように進んでいかない。

 

ダリア  なによこれ、全然進まないわ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  カタツムリだからしょうがないですって! 好きでカタツムリになったんじゃ

    ない!

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  とにかくついて来い? わかったわ。もうどこにでも連れて行けばいいわ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  だから、寝言はよして。

 

   ダリア、遅い足で一生懸命出入口に向かう。

 

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  あんたの女王様がそうしたの! 文句があるならそっちに言いなさいよ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  はいはい。急げばいいんでしょ急げば。そういえば、「にゃむ」って言わなくな

    ったわよね。何で?

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  え? カタツムリになったから言葉がわかるようになっただけ? 何言ってる

    のよ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  その時々間に挟む寝言やめてくれない? イライラするもの。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  だから、あたしの足が遅いのはカタツムリにされたせいよ! あたしだってイ

    ライラするわ。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  お客が来たから先に行くって? この薄情者! 待ちなさいよ!

 

   居眠り猫、さっさと歩いていってしまう。ダリア、一生懸命ゆっくりと進んでいく。

   暗転。

 

Next→→→第十場