荊の王子 第十四場

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荊の王子 第十四場

 

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第十四場

   野バラの迷路。

   王子たちが走ってくる。王子様はダリアを降ろし、胸を押さえてうずくまる。

 

ダリア  大丈夫?

真っ白狼 そんなに重かったの?

ダリア  失礼ね。

真っ白狼 僕がもう少し大きかったら乗せて上げられるのにね。

ダリア  でも、お断りするかもね。重い重いって言われたらイライラするもの。

真っ白狼 イバラ?

イバラ  大丈夫。でも、少し休ませてもらえるかな。

ダリア  やっぱり私を置いてく行けば良かったのに。

イバラ  気にしないで。さあ、行こう。

 

   王子はフラフラと立ち上がる。

 

ダリア  少し歩かせて。私、足が遅いから休みながら進めるわよ。

イバラ  ありがとう。

ダリア  どこに行く気?

イバラ  とりあえずこの国を出て森に隠れて様子を見よう。

真っ白狼 僕んちに来る?

ダリア  あなたの家?

イバラ  それもいいね。シロのお家はどんな家なの?

真っ白狼 洞穴の中にあるんだ。葉っぱの絨毯が気持ちいいんだよ。

ダリア  それは楽しみね。

 

   イバラ、座り込む。

 

ダリア  やっぱりもう少し休みましょう。

イバラ  すまない。

真っ白狼 じゃあ、僕はちょっと後ろを見てくるね。

イバラ  迷うなよ。

真っ白狼 子ども扱いしないでよ!

 

   真っ白狼去る。

 

ダリア  イバラ、私には逃げても行き場所が無いわ。ここで置いていって。そうしたら

    隠れるのだって簡単に出来るでしょ?

イバラ  ダメだよ。

ダリア  どうして? 私がいたら、みんな捕まってしまうわ。

イバラ  大丈夫だから。

ダリア  全然大丈夫じゃないじゃない。

イバラ  ねえ、ダリアには夢は無いの?

ダリア  夢? なによ急に。私、もう一生カタツムリよ? 夢なんて意味が無いわ。

イバラ  そんなことないよ。

ダリア  そういうイバラにはあるの?

イバラ  今までずっと城にこもっていたから、もっとこの世界のことを知りたいんだ。

    だから旅をするよ。

ダリア  休んでばっかりじゃ、旅も大変ね。

イバラ  そうだね。でもこの呪いが解ければ、少しは楽になるかもしれない。

ダリア  本気で解けると思ってるの?

イバラ  そのために来たんだ。

ダリア  でも今は逃げてる。

イバラ  押してもダメなら引いてみる。そういうことさ。

ダリア  そんなに簡単かしら?

イバラ  わからない。でも、あと少ししか生きられないなら、悔いがないように一生懸

    命に生きたいんだ。ダリアもあきらめちゃダメだよ。

ダリア  カタツムリよ。一生懸命に生きても意味が無いわ。

イバラ  私の呪いが解けるならダリアの呪いも解けるさ。

ダリア  そうかしら?

イバラ  もちろんさ。

ダリア  そうだといいな。

イバラ  大丈夫さ。だから元気を出して。

 

   黙る二人。

 

ダリア  旅か。なんか楽しそうでいいわね。

イバラ  きっと楽しいはずさ。

ダリア  イバラ。

イバラ  何?

ダリア  私も旅に連れて行って。

 

   イバラ、ダリアのことを見る。

 

ダリア  ダメ?

イバラ  ダメじゃないよ。ただちょっと驚いただけ。ずっと一人で旅をすることを考え

    てたからさ。うん。そうだね。行こう。一緒に世界を見よう。

ダリア  良かった。

 

   再び黙る二人。

 

ダリア  私、今はカタツムリだけど、悔いが残らないように生きてみたい。ううん。一

    生懸命に生きるわ。だから、いつかきっとお互い呪いを解いて笑いましょう!

イバラ  うん。シロの両親の呪いもね。

ダリア  そうね! 元気が出てきたわ! ありがとう。

イバラ  こっちこそ頼もしい仲間が出来て嬉しいよ。

ダリア  足が遅いけどね。

イバラ  かまわない。私が運んであげる。

 

   真っ白狼、戻ってくる。

 

真っ白狼 何か来たよ! 何か来るよ!

 

   身構えるイバラとダリア。その後に真っ白狼が隠れる。

   真っ白狼を追いかけてくるように双子烏が現れる。

 

カラス兄 大変だカー!

カラス弟 大変の大変だカー!

ダリア  何があったの? カラスさん。

カラス兄 蛙の貴婦人が大変だカー!

カラス弟 女王様の本を盗んだカー!

イバラ  本?

カラス兄 読んではいけない本だカー!

カラス弟 読んだら女王様にきっと殺されるカー!

真っ白狼 読んじゃいけない本ってどんな本?

イバラ  ねえ、教えておくれ。

双子烏  カー! カー! カー!

 

   双子烏グルグル回りながら騒ぎ続ける。

 

ダリア  蛙の貴婦人はどっちに行ったの?

 

   双子烏回りながら。

 

カラス兄 あっちだカー!

カラス弟 こっちだカー!

真っ白狼 ちっともわからない。

ダリア  カラスさん、落ち着いて。

イバラ  蛙の貴婦人は、城に行ったの? 森に行ったの? ここにいるの?

 

   双子烏、ぴたりと止まり客席を指差す。

 

双子烏  蛙の貴婦人は森に行ったカー!

イバラ  ありがとう。

真っ白狼 どうするの?

ダリア  女王が追いかけてくるんじゃない? 急いで逃げましょう!

イバラ  いや、女王より先に本を手に入れよう。

ダリア  なんで?

真っ白狼 放っておこうよ!

イバラ  読んではいけない本には、きっと女王の秘密が書かれているんだ。それを手に

    入れれば呪いが解けるんじゃないかな?

真っ白狼 そうなの?

イバラ  秘密が書かれているから読んじゃいけないってことだと思わない?

ダリア  でも、危なくないかしら?

イバラ  このままじゃ捕まって殺されちゃうだろ? とにかくやってみよう!

真っ白狼 わん!

ダリア  そうね。わかったわ。行きましょう。カラスさん、森はこっちでいいの?

 

   ダリアが上手を指差すと、双子烏も上手を指差す。

 

双子烏  その通りだカー!

ダリア  あら? 素直に教えてくれたわ。

双子烏  俺たちは最初から素直だカー! カー! カー! カー!

 

   双子烏、騒ぎながら去っていく。

   イバラ、ダリアをお姫様抱っこする。

 

ダリア  イバラ!

イバラ  行こう!

真っ白狼 わん!

 

   暗転。

 

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