荊の王子 第十三場

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荊の王子 第十三場

 

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第十三場

   石牢。

   真っ白狼が困り果てている。

 

イバラ  どうだい?

真っ白狼 何とか入ったんだけどさ、まわせないんだな。

イバラ  くわえてもダメ?

真っ白狼 錆びてるからくわえたくない。

イバラ  そう。

真っ白狼 ぶつかったら外れないかな?

イバラ  危ないからやめておいたほうがいいよ。

真っ白狼 子ども扱いするなよ。これでも真っ白狼なんだぜ!

 

   真っ白狼、助走をつける。

 

真っ白狼 いっくぞ~!

 

   ダリアが王子の剣を持ってくる。

 

ダリア  開いた? 何してるの?

真っ白狼 あ、カタツムリの人だ。

ダリア  ダリアって呼んで頂戴。

真っ白狼 カタツムリのダリア?

ダリア  ただのダリア。

真っ白狼 そっちの方が言いやすいもんね。ダリア。

ダリア  よろしくね。開いたの?

真っ白狼 上手くまわせないから、これからぶつかるつもりなんだ。見ててよ。

ダリア  じゃあ、私がまわしてあげる。

真っ白狼 必要ないのに。

ダリア  扉と一緒にイバラも吹き飛んだら大変でしょ?

真っ白狼 あ、そうか。ダリアは頭がいいね!

 

   ダリア、扉まで歩いていく。

 

真っ白狼 遅いね。

ダリア  カタツムリだからね。

 

   威張りネズミがやって来る。

 

ネズミ  そこまでだ!

イバラ  誰だ!

ネズミ  いい加減に覚えろよ。

イバラ  いい加減になら覚えてる。何とかネズミだろ?

ネズミ  威張りネズミ様だ!

ダリア  急がなきゃ!

ネズミ  そうはさせるか!

 

   威張りネズミ、細身の剣を抜く。

 

ネズミ  覚悟しろカタツムリ!

真っ白狼 僕がやっつけるから、早く行って。

ダリア  あぶないわ!

真っ白狼 大丈夫。任せて!

ダリア  ありがとう。気をつけてね!

真っ白狼 わん。

ネズミ  ふん。お前みたいな子犬は後で相手にしてやる。俺は何よりも効率を求める男

    だからな。カタツムリがドアを開けたら面倒が大きくなる。ならば、カタツムリ

    を先に処理するのが最善の道だ!

 

   威張りネズミの長い講釈の間に、真っ白狼が威張りネズミの足に噛み付く。

 

真っ白狼 がぶ。

ネズミ  ぎゃあああああ!

 

   威張りネズミ、剣を投げ捨て足を押さえて床を転がりまくる。

   ダリア、戸を開ける。出てきた王子に剣を渡す。

   威張りネズミが剣を拾うと真っ白狼はさっと隠れる。

 

イバラ  ありがとう!

ネズミ  チュウ~、卑怯だぞ! (イバラに)

イバラ  私は何もしてないぞ!

ネズミ  あれ? じゃあこっちか。(真っ白狼に)

真っ白狼 真っ白狼が噛んで何が悪いんだ! お前なんかネズミの癖に剣を使ってるじゃ

    ないか! そっちの方がよっぽど卑怯だよ!

ネズミ  言われて見ればもっともだ。いや、俺様はいいんだ。近衛隊長だからな。

真っ白狼 べーだ!

ダリア  どうするの?

イバラ  下がって、とにかくこいつをどうにかしないと。

ネズミ  お前ごときに倒されるこの威張りネズミ様ではないわ!

 

   真っ白狼、三度威張りネズミの足をかむ。

 

真っ白狼 がぶ。

ネズミ  ぎゃあああああ!

 

   威張りネズミ、剣を落として転がりまわる。

 

イバラ  いまだ! シロ、そっちの手を持って!

 

   のた打ち回る威張りネズミの手を王子と真っ白狼が引っ張って牢屋の中に引きずっ

   て行く。王子と真っ白狼が外に出ると、ダリアが戸を閉めて鍵を閉める。

 

ネズミ  まったく何たること! 三度も同じところを噛まれるとは! あっ!

ダリア  やったわね!

ネズミ  くやちゅ~! おい、カタツムリ。ここから出せ!

ダリア  お断りいたします。近衛隊長様。

ネズミ  チュ~! 後でひどい目にあわせてやるからな!

真っ白狼 あ~、まずかった。

ネズミ  だったら噛むな!

イバラ  さあ、行こう。

ダリア  気をつけてね。

真っ白狼 行かないの?

イバラ  一緒に行こう!

ダリア  ダメよ。私がいたらみんな捕まるわ。

真っ白狼 あ、足が遅いのか。

ダリア  うん。だから一緒には行けないわ。

イバラ  ここにいたらひどい目にあうよ。行こう。

ダリア  でも、きっと、命までは取られないわ。

ネズミ  チュッチュッチュ! カタツムリ! お前には塩をかけてやる! 水分が無く

    なってお前は死ぬんだ! チュッチュッチュ!

真っ白狼 嫌な奴!

ダリア  早く、急いで!

 

   イバラ、剣を鞘に収めてダリアをお姫様抱っこする。(殻が邪魔かな? それならば

   背負う)

 

ダリア  ちょ、ちょっと。

イバラ  命の恩人を放っておくことは出来ない。一緒に行こう。ダメでも連れて行くよ。

ダリア  そんなことしたら心臓に棘が……。

イバラ  心配要らないよ。牢の中でしばらく休めたから、丈夫さ。

真っ白狼 じゃあ、行こう!

 

   王子、ダリア、真っ白狼去る。

   威張りネズミが暴れる。

 

ネズミ  おのれぇ! こうなっては仕方ない。あいつに頼むしかないか。居眠り猫! 居

    眠り猫! すぐにここに来い!

 

   居眠り猫がやって来る。そして、牢の前で居眠り。

 

ネズミ  おい、このバカ猫! 牢を開けるんだ。王子が逃げたから、追わねばならん! 

    早く開けろ!

居眠り猫 にゃむ。

ネズミ  何がお腹がいっぱいだから後で遊ぼうだ。話を聞け! 王子が逃げたんだ!

居眠り猫 にゃむ。

ネズミ  そうだ、大変なんだ。だから早くここを開けろ!

 

   居眠り猫、大あくびをして起き上がる。大きく首をかしげる

 

ネズミ  なんだ? どうした?

居眠り猫 にゃむ。

ネズミ  何? 鍵が無いだと? バカ! そんな冗談今やってる時間なんか無いんだ

    ぞ! 早く開けろ!

居眠り猫 にゃむ。

ネズミ  確かにバカは悪かった。それは謝ろう。早くここを開けてくれ。

居眠り猫 にゃむ。

ネズミ  落としたかもしれないから探してくる? なんだと?

 

   居眠り猫、足元を見回しながら去っていく。

 

ネズミ  頼んだぞ~!

 

   暗転。

 

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