よどみの里 第六場

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よどみの里 第六場 

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第六場

   都。三人それぞれにスポット。

与一  すぐに末吉が男でないことを知りました。末吉はスミと言う名前で父親が早瀬村

   の生まれであることも話してくれました。でも、これは私とスミだけの秘密でした。

   スミが女子であることがわかれば、碧に生贄に捧げられてしまうでしょうから。

僧   ここに来たということは、そのスミと言う子は……。

与一  はい。今は嫁入りの準備をしていることでしょう。それが終わり嫁入りが行われ

   る前に何とか碧を殺す手段を知り帰らねばなりません。

黎明  無理だ。妖魅は殺すことなどできぬ。

与一  いいえ。何か必ず方法があるはずです。

黎明  惚れたか。そのスミとか言う娘に。

与一  はい。

黎明  違うな。自分の姉と重ねて哀れんでいるだけだよ。

僧   それで、なぜ娘が捕まったのだ。

与一  はい。まったく持って油断しておりました。私とスミの逢瀬はすべて長七に見ら

   れていたのです。

   暗転。

   明かりがつくと、与一とスミが寄り添っている。

与一  スミ。あ、末吉。

スミ  与一。二人しかいねえときはスミでいいよ。与一は村を捨てるのか?

与一  ああ。準備が出来たら出て行くつもりだ。もっと前にそうすればよかったと思っ

   てる。

スミ  じゃあ、お別れか。さみしいな。

与一  いいや。一緒に行こう。

スミ  でも、村を離れたら良くないことが起きるっておとうが。

与一  このままここにいても良いことなんか一つもないさ。

スミ  でも、与一に会えたぞ。

与一  うん。俺もスミに会えた。まるで姉上がスミを助けるようにって言っているみた

   いだ。

スミ  殺されたねえちゃんがか?

与一  ああ、私の代わりにスミを助けろってね。

スミ  ねえちゃんの代わりか。

与一  父上は碧を退治する方法を探しに出たままついに帰ってこなかった。母上は最期

   まで北の村に移ることを拒み続けた。娘を犠牲にして得る富に何の価値があるのか

   ってね。

スミ  なあ、与一のねえちゃんとオラって似てるのか?

与一  え? いや、全然似てないな。姉上は本当にきれいな人だったから。

スミ  どうせオラは泥だらけだもんな。

与一  母上の教えで歌もよく詠んでいたよ。都の貴族の屋敷に奉公させたがっていたけ

   ど、その前に殺されちまった。まだ十二にもなってなかったのに。

スミ  そんな小さかったのに殺されちまったのか。

与一  年なんか関係ない。あいつらは条件さえ合えば赤子だって生贄にするのさ。

スミ  おっかねえな。

与一  とにかくスミは女だってばれないようにしろよ。ばれたら殺されちまうからな。

スミ  わかった。んじゃあ、そろそろ行くな。

与一  なぁ、

スミ  ん?

与一  今度、スミのおとうに会わせてくれ。

スミ  何でだ? おとうは会わねえと思うぞ。人に会うのをすごく嫌がってるから。

与一  村を出る相談をしたいんだ。家の場所を教えてくれたら、偶然見つけた振りをし

   て話をしてもいいし。

スミ  ダメだ。いくら与一でも、家の場所は教えねえ。おとうとの約束だかんな。

与一  わかった。じゃあ、それとなく話してくれ。

スミ  うん。じゃな。

与一  またな。

   二人が上下に分かれて去ると、奥から長七がやって来る。

長七  ちくしょう。与一の奴、富を独り占めする気だな。そうはさせるかよ。

   長七、スミの去った方へこっそりと忍び足で歩いていく。

   暗転。

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