よどみの里 第七場

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よどみの里 第七場 

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第七場

   暗闇の中。村人たちの声がする。

男1  見つからんか?

男2  もうじき婚礼の日が来るぞ。

男3  このままだとどうなるんだ。

女1  東の村みたいになるの? 嫌よそんなの。

女2  都で子供を買ってきたらどうかしら?

女3  何で男の子しか生まれてこないのよ!

婆   こまったもんじゃ。この村で生まれた娘で無いと碧神様はお認めにならんのに。

   女子が一人もおらんとはな。誰か禁を犯したものがおるのではないか? 石頭山で

   狩りをした者がおるのではないかえ? 神聖な碧神様のお住まいを汚し、何食わぬ

   顔でここに出入りしておるものがいるのではないかえ?

男1  お婆様。

女1  お婆様。

婆   なんじゃ?

男2  そんな恐ろしいこと、ここに住んでいるものは誰もしません。

女2  あいつじゃないかしら?

男3  誰だ?

女3  誰よ?

女2  壁神様のご家族になれたのに東の村で汚い暮らしをしているあいつよ。

男1  与一か。

男2  あいつだって知ってるだろう。

女1  でも、普段から反抗的だわ。

男3  確かに反抗的だ。

女3  あいつは私たちがあげている食べ物を全部東の村の連中にくれてやってるそうよ。

男1  じゃあ、何を食って生きてるんだ?

女2  あいつよ! あいつがやったんだわ!

男2  だが、七年前はただの子供だったぞ? 何も知るまい。

婆   そうじゃな。禁を犯したものがおるとすれば、女子が生まれなくなったその年に

   大人だった者じゃろう。しかし困ったのぉ。東の者の仕業ではあるまいな。

長七  聞いてくれ!

男1  長七! お前のようなものがここで何をしておる!

男2  身分をわきまえろ!

男3  東の者がどこから入ったか!

女1  お前もあの与一とか言う汚い子供の仲間でしょう。

女2  あいつに何か取って来るように言われたのかい?

女3  すぐに追い出しましょう!

長七  待ってくれ! 女子はいる。

男全  何だって!

女全  何ですって?

男1  嘘だ!

女1  嘘よ!

男2  俺たちが探して見つからなかったのだ!

女2  お前たちに見つけられるわけが無い!

男3  俺たちを騙そうとしているな?

女3  騙されるものですか! 叩き出しましょう!

男女全 そうだ! そうだ!

長七  嘘じゃねえ! 女子はいる! たった一人だけどな!

男女全 黙れ黙れ! 騙されるな!

婆   待て。

   静かになる。

婆   何だと? どこの家の誰じゃ?

長七  その前に、俺は碧神様のS家族になれるか? 約束がなければ教えらんねえけど。

男3  何をずうずうしい!

女3  卑しいヤツ!

婆   よいよい。いいじゃろう。お前の話が本当ならばお前を碧神様の家族として認め

   よう。

長七  へへへ。皆さん、どうぞよろしく。

婆   調子に乗るな! まだ早いわ。その代わり嘘であったら碧神様にお前を食わせて

   やるからな。よいか?

長七  だ、大丈夫ですよ。そいつはな、奥瀬山の向こうに住んでいるヤツで、名前をス

   ミって言います。普段は男の格好をしているが、あれは紛れもない女だ。

婆   ふむ。

男1  奥瀬山の向こうでは、この村の人間とは言えないのではないか?

女1  残念。長七、お前は碧神様に食われるようだねぇ。

婆   よし、これからお迎えに上がろうかね。

女2  お婆様! こいつの言うことを信じるのですか?

婆   他に何か手があるかい? 男手を集めな。長七、案内を頼むよ。しっかり働くん

   だよ。

長七  ヘイ。

   暗転。

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