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よどみの里 第五場
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第五場
奥瀬山の中。
下手から薪を探して歩いてくるスミ。上手から与一。お互いに気が付いて立ち止ま
る。ゆっくりと逃げ出そうとするスミ。
与一 待て。お前、この間の子供か？
スミ そうだ。この前はありがとう。人と話したらおとうに怒られる。
与一 大丈夫だ。何もひどいことはしないよ。少し話がしたいだけだ。
スミ オラも話はしてみたいけど、怒られるからなぁ。
与一 お前、名前は？ あ、俺は与一。
スミ オラはス、す、末吉。
与一 末吉か。末吉は早瀬の村の者じゃねえな？
スミ よそ者がこの山で薪拾っちゃダメか？
与一 いや、ダメじゃないが、こないだみたいに嫌がらせされるからな。気をつけたほ
うがいい。
スミ そか。ありがとう。与一は優しいんだな。
与一 末吉はおとうと二人暮らしか？
スミ んだ。おっかあはしばらくめえに死んじまった。オラ小さくて覚えてねえけど。
与一 ちいせえのに偉いな。
スミ ちいせえって、おめえ、年いくつだ？
与一 十五だ。
スミ なら、オラとかわんねぇ。馬鹿にすんな。
与一 悪かった。なぁ、末吉。
スミ なんだ？
与一 お前の村は遠いのか？
スミ なんでだ？
与一 俺、この村を捨てようと思うんだ。どこか移れそうな村があればそこに行きたい
と思ってる。
スミ そか。でもごめんな。オラんち村にないんだ。向こうの山のふもとの家に住んで
んだ。
与一 おとうは猟師なのか？
スミ うん。
与一 そうか。
スミ なあ、村には子供多いのか？
与一 あんまりいない。最近じゃあ、生まれてもすぐに死んでしまう子ばかりだ。
スミ 与一の村は、こないだのあんなのばっかりか？
与一 長七か？ まぁ、そうだな。あんなのばっかりだ。
スミ じゃあ、面白くもねえな。
与一 もうじき誰もいなくなるさ。
スミ なしてだ？
与一 みんな碧に食われちまうからさ。
スミ 碧？
与一 姉上を殺した化け物さ。みんなそいつに騙されてんだ。
スミ おめえ、姉ちゃんを殺されたのか。
与一 ……ああ。
スミ オラにも姉ちゃんがいたらしいけど、オラが生まれる前に死んじまったんだと。
だから顔もしらねえけど。そうか、与一の姉ちゃんは殺されたのか。つらいな。
与一 もう何年も前の話だからな。
スミ あ、オラもういかねえと。あんまり遅くなるとおとうが心配するから。
与一 おう。またな。
スミ うん。またな。
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