よどみの里 第三場

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よどみの里 第三場 

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第三場

   山の中。暗転幕前。下手から男装をしたスミが薪を抱えて歩いてくる。

   上手から与一と長七がやってきてすれ違う。瞬間、長七がスミに足をかける。

   薪を振りまきながらスミは転がる。音で振り返る与一。

   スミは起き上がるとすぐに薪を拾い出す。

   与一も拾うのを手伝う。

長七  おいガキ! どういうつもりだ! 人にぶつかっといて、謝りもせずに薪を拾い

   出すとは。

与一  いいだろそれくらい。

長七  まぁ、黙ってろって。食い物のひとつくらいで許してやるからよ。おい、ガキ!

与一  やめろ。

長七  なんだよ。格好つけんじゃねえよ!

スミ  すみません。許してください。

長七  何だよ本当にガキだな。女みてえな声しやがって。

与一  もう行っていいよ。

長七  おいおいおいおい。

スミ  すみません。

長七  待てよ! お詫びに食い物持って来い。

スミ  あの……。家は貧しくて食べ物なんか……。

与一  冗談だ。

長七  おい、もう少し脅せば絶対何か持ってくるって。

与一  見たことのない子供だ。早瀬の者じゃない。

長七  知るかよ。

与一  親が来たらどうする。

長七  ぶちのめしてやるよ。こんなガキに薪拾いをさせてるような親だぞ? 病気かろ

   くでなしに決まってる。

与一  ご立派だな。お前の方こそろくでなしじゃないか。

長七  お前こそ。ご立派な心がけだよな。

   にらみ合いを続ける与一と長七。スミはゆっくりと後ずさりして上手に駆け去る。

長七  あ! 逃げた!

与一  見ろ。(地面を指差す)

長七  あ?

与一  むかごだ。

長七  本当か? じゃあ、芋もあるかもな!

与一  単純なヤツだな。

長七  食い物が食えりゃなんでもいいんだよ!

与一  結局そこか。俺はあっちも探してみる。

長七  おう。俺はこの辺を掘ってみる。

   与一あたりの地面を探しながら下手に消える。

長七  あのガキ、もしかして女じゃねえか? だとしたら。他の村の者だったらダメか。

   いや、そんなの関係ないだろ。大体、誰がわかるってんだ。

   暗転。

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