たとえばこんなオオカミ少年 第七場

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たとえばこんなオオカミ少年 第七場

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第七場

   お城。

   王様が椅子に座っている。側に大臣が立ち、タカが客席を向いて跪いている。その

   傍らに大きな袋が置かれている。

王様   この者か?

大臣   はい。

王様   商人のようだが? この者が幸せなのか?

大臣   お尋ね下さい。

王様   ふむ。おい、お前。

タカ   はい、王様。

王様   幸せか?

タカ   はい。幸せでございます。

王様   ほれ見ろ。わしの言うとおり民は幸せではないか。

大臣   そのようですな。

タカ   恐れながら申し上げます。

王様   ん? なんじゃ? 申してみよ。

タカ   王様は幸せでございましょうか?

王様   当然じゃ。民の幸せはわしの幸せじゃ。

タカ   私にはそうは思えませぬ。

王様   なんじゃと? わしが嘘を言っておると言うのか?

タカ   いいえ。王様は不安がっておられます。

王様   不安?

タカ   本当に幸せならば、そんなことを気にすることも無いでしょう。

王様   あ。

大臣   なるほど。

王様   それは確かにそうじゃ。民にどう思われているのか怖くてたまらないのじゃ。

   タカ、大きな袋の中から乞食の服を丁寧に取り出す。

王様   なんじゃその汚い布は?

タカ   汚い? 王様はこれが汚く見えるのですか?

王様   何?

大臣   え?

タカ   これは困った。

大臣   どういうことじゃ?

タカ   これは心の美しさを投影する着物でございます。心が美しければこの着物はこ

    の世のどんな絹よりも美しく輝いて見えるのでございます。逆に心が汚く貧しい

    とこの着物は臭いボロ布に見えるという魔法の品でございます。

王様   なんと。大臣、お前にはどのように見える?

大臣   わ、私には……、

王様   どうせボロに見えるのであろう? お前のことだ。

大臣   む。金の刺繍のされた美しい羽織に見えまする。

王様   なんじゃと? 金の刺繍じゃと?

タカ   おや? 王様にはこの宝石が目に入らないのですか?

王様   何を言っておる。わしにも見えておるわ。

大臣   さっきは汚い布と仰ったくせに。

王様   ふ、袋のことじゃ! 大きなダイヤのボタンのついた宝石の衣じゃ。なんと美

    しく素晴らしいものじゃ!

大臣   ダイヤのボタン?!

タカ   王様。

王様   なんじゃ?

タカ   これを来てお城の外をお歩きになってください。

王様   何? それを着るのか?

タカ   幸せな国であれば、民衆の心は美しいものです。王様の姿を笑うものがいれば、

    その者は心の貧しい不幸せなものと言うことになります。誰一人笑わなければ、

    王様の恐れはただの幻だったことがわかるでしょう。

王様   なるほど。……だが、これを着るのか?

タカ   何か?

王様   いや、さぞかしわしに臭う、じゃない。似合うじゃろうな。

タカ   そうですとも。

王様   よし、では準備をいたせ。

大臣   は。

   王様、去る。

大臣   その首飾り、誠に素晴らしいな。こんなボロ布を。

タカ   ボロ布? 何がでございますか?

大臣   何? いや、誠に素晴らしい刺繍だ。

タカ   そうでしょうそうでしょう。

   王様の声。

王様   早く宝石の衣を持ってまいれ!

タカ   はは! ただいま!

   タカが走り去る。

大臣   うーん。どうしよう。ボロ布にしか見えん。一体何がなんだか。私はそんなに

    心が汚れておるのかのぉ。

   暗転。

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