たとえばこんなオオカミ少年 第六場

****************************************

たとえばこんなオオカミ少年 第六場

****************************************

第六場

   少年がやって来る。道端に転がっているゴミを拾っては捨てる。

   地面に座り込む。

少年   腹減ったなぁ。

   うずくまる。

少年   母ちゃん。正直者は幸せになれるんだろ? それとも、あれは母ちゃんの嘘だ

    ったのかい? だとしたら、母ちゃんは最後にひどい嘘をついたんだな……。

   大臣が歩いてくる。少年の前を通りすぎる。

少年   旦那! 旦那!

大臣   ん?

少年   お金を恵んで欲しいんだ! 食べ物でも、着る物でもいいんだ。

大臣   おお、これは絵に書いたような不幸な少年だ! お前、この町の者だな?

少年   ううん。オイラ、少し離れた村でヤギの世話をしていたんだけど、本当のこと

    を言ってたら、みんなに嘘つきって言われて追い出されたんだ。

大臣   本当のことを言っていたら追い出された? そんなバカなことがあるか。はは

    ぁ、お前は相当な嘘つきだな?

少年   オイラ嘘なんかつかないよ。

大臣   まぁいい。この町の者じゃない奴には用はない。どこかに行くがいい。

少年   お願いだ。助けておくれよ。

大臣   お断りだ。嘘つきなんぞに用はない。さっさと消えろ! 邪魔だ。

少年   お願いだ。腹が減って死にそうなんだ。頼むよ。

大臣   ははは、その割には元気そうだな。だが、生憎とお前にやるようなものは何も

    無い。あっちへ行かないと痛い目にあわせるぞ! 牢屋にぶち込まれたいか?

少年   ……わかったよ。

   少年、去る。

大臣   果てさて、困ったものだ。なるべく不幸そうな町の人間を連れて行かないと。

   辺りを見回す大臣。突然、大声を上げる。

大臣   あ! ダメじゃん。あの王様が不幸な町の人間の話を聞くって保証がないじゃ

    ん! 絶対、お前不正をしたな? なんて言うに決まってる! あぁ! 何てこ

    と! 何てことだ!

   占い師の格好をしたツバメがやってくる。

大臣   どうしたものか……。

ツバメ  もし。

大臣   困ったなぁ。

ツバメ  もしもーし!

大臣   なんじゃ?

ツバメ  あなた困ってますね?

大臣   そりゃ、見ればわかるでしょ!

ツバメ  まぁ、そうだ。いや、そうじゃなくて、私には見えます。

大臣   そう見えるでしょうね。

ツバメ  そうじゃなくて。

大臣   は?

ツバメ  星たちが言っているのです。

大臣   どこに?

ツバメ  どこに?

大臣   どこに行ってるんですか? 毎日毎日同じところを動いているように見えます

    けどね。

ツバメ  その行ってるじゃなくて、しゃべってるの。

大臣   また嘘つきか。

ツバメ  嘘じゃなくて、占星術。占い。

大臣   そっちが売らないなら、こっちは買わない。じゃあね。

   去っていく大臣の背中にツバメが叫ぶ。

ツバメ  あなたは対人関係に悩んでいる!

   大臣、振り返る。

大臣   なぜそれを?

ツバメ  あいつすごいな。

大臣   あいつ?

ツバメ  え? ええ。星たちに聞きました。(空を指差し)あいつです。

大臣   あなたは一体?

ツバメ  占星術を少々。

大臣   先生ですと?

ツバメ  はい。

大臣   何の先生ですか?

ツバメ  は?

大臣   科学者かお医者さんか何かですか? そうは見えないけど?

ツバメ  占星術だって。

大臣   先生でしょ?

ツバメ  占星。

大臣   先生。

ツバメ  まぁ、いいや。悩んでんだろ?

大臣   まぁ。

ツバメ  俺が、じゃねえや。私が解決してやろう。

大臣   出来ますか?

ツバメ  占星術に不可能はない。

大臣   本当に?

ツバメ  俺だって知らねえよ。

大臣   はい?

ツバメ  なんでもない。こっちの話じゃ。

大臣   なんだかしゃべり方がグチャグチャですな?

ツバメ  星と話をするには必要なことなのじゃ。

大臣   そうですか。

ツバメ  では、占って進ぜよう。一人ではさみしいからお主も一緒に続けて言うのだじ

    ょ?

大臣   何を?

ツバメ  占星術の呪文に決まってるだろう!

大臣   なるほど。

   ツバメ、右手を高々と上げて大声を上げる。

ツバメ  せんせい! 我々はスポーツマンシッ……。なに見てんだよ。真似しろよ。一

    人じゃ恥ずかしいんだから。

大臣   これが呪文ですか?

ツバメ  儀式が必要なんだよ。わかるだろ?

大臣   そんなものですか?

ツバメ  そんなものなんだよ。

   ツバメ、仕切りなおす。大臣と二人右手を上げる。

ツバメ  せんせい! 我々はスポーツマンシップにのっとり正々堂々と占うことを誓い

    ます! はい!

大臣   はい?

ツバメ  誓いますって言え。

大臣   違います。

ツバメ  誓います!

大臣   誓います! ところで、

ツバメ  なんだよ。

大臣   スポーツマンシップってなんですか?

ツバメ  スポーツをする男の船だよ! 小さいことは気にすんな。

大臣   はぁ。

ツバメ  よし。占うぞ。

   ツバメ、適当に占いをはじめる。

ツバメ  あなたは人の話を聞かない人間に困らされている。

大臣   なぜ、それを!

ツバメ  静かに。自分の思いが伝わらずにイライラしている。

大臣   その通り。

ツバメ  このままではあなたの身に危険が……。

大臣   ズバリです!

ツバメ  占星術では、この後どうすれば良いかもわかるのです。聞きたいですか?

大臣   はい。お願いします。

ツバメ  では。

   ツバメ、適当に占いをはじめる。倒れる。

大臣   先生! 大丈夫ですか?

ツバメ  見えました。

大臣   何が?

ツバメ  今からここに一人の男がやってきます。その者は不思議なものを売っている商

    人です。その者ならば、あなたを必ずや助けることが出来るでしょう!

大臣   本当ですか?

ツバメ  私は嘘は言いません。

大臣   なんて頼もしい。

ツバメ  それでは失礼します。

大臣   あの、御代は?

ツバメ  そんなもの必要ありません。私は人を助けることが喜びなのです。

   ツバメが去ろうとすると、少年が駆け出してくる。

少年   じゃあ、オイラのことも助けてよ!

ツバメ  貧乏人はあっちにいっちまいな!

   ツバメ、少年をかわして去る。

少年   なんだよ! 嘘つき!

大臣   またさっきの子供か。

少年   なあ、頼むよ。オイラを助けておくれよ。

大臣   お前は商人には見えないなぁ。あっちへ行け。しっし!

少年   犬じゃないんだぞ!

   商人の格好をしたタカが歩いてくる。少年が寄っていく。

少年   なぁ、何か恵んでくれよ。

タカ   金は持っているのか?

少年   お金なんか持っていたら恵んでもらおうとなんかするもんかい。

タカ   じゃあ、ダメだな。俺は商人だ。商品は金と交換するものだ。向こうへ行け。

少年   ケチ!

タカ   ケチではない商人だ!

大臣   商人! まさにあの人だ!

少年   ちぇ……。

大臣   そこの商人。

タカ   なんでしょう? 何かご入用ですか?

大臣   お前は何を売っている?

タカ   何でも揃えて見せましょう。

大臣   何でも?

タカ   どんなものをお探しで?

大臣   それが、なんと言うか……。

タカ   そうそう、最近手に入った珍しいものが……。

大臣   いや、まぁ、その珍しいものではなくてもいいのだが。

タカ   水の入らない壷や、何も書けない羽根ペン。それに人に話を聞かせる首飾りな

    んてものもあります。

大臣   水の入らない壷なんて意味が無い。何も書けないペンなどゴミだ。それとなん

    だって?

タカ   人に話を聞かせる首飾りです。

大臣   それだ! それをくれ。

   タカ、懐から首飾りを取り出す。

タカ   これですか? しかしながら、これは……。

大臣   なんじゃ?

タカ   少々コツがいりまして、扱い方を間違えると大変なことになります。

大臣   何? どうなるのじゃ?

タカ   とても言えません。

大臣   なんだと? なぜ?

タカ   あまりに恐ろしいことだからです。

大臣   ふむう。

タカ   話を聞かせたい相手がいるのですか?

大臣   実は……。

タカ   どうでしょう? 私があなた様の代わりにこれを使って、お話をしましょう。

    私はこれの使い方を熟知しておりますから。

大臣   なるほど。

タカ   どなたにどんなお話を聞かせましょう?

大臣   うむ。私の主に国と言うものは瞬間の幸せを求めず苦しいこともやっていかね

    ばならない。それが民衆の幸せへとつながっていくものであるわけで、王様のよ

    うに気分でお金を与えたり物を与えたりしても……。

タカ   わかりました。あなたの話を聞くようにしましょう。そのほうが話が早そうだ。

    あなたの主にあなたの話が染み込むように私が手を貸します。よろしいか?

大臣   おお、なるほど。それは心強い。お頼みします。

タカ   それでは早速参りましょう。

大臣   はい。どうぞこちらです。

   大臣、タカを連れて去っていく。ツバメが戻ってくる。

ツバメ  さすが詐欺師。対したもんだ。

   少年が戻ってくる。

少年   誰が詐欺師だって?

   ツバメ飛び上がって驚く。

ツバメ  びっくりさせるなよ。

少年   詐欺師って嘘つきのことだろ? 悪い奴じゃないか。今の奴か? 商人じゃな

    いのか?

ツバメ  嘘をつくのが仕事なんだよ。良いも悪いもあるか。

少年   なんで?

ツバメ  なんで? お前バカか?

少年   嘘をつくのは悪いことだ。

ツバメ  違うね。嘘をつかないことが悪いことなのさ。

少年   本当のことを言って何が悪いんだよ!

ツバメ  お前なぁ。お前だって嘘をついたことがあるだろ?

少年   無い。

ツバメ  それが嘘だってんだよ! 嘘をついたことの無い人間なんかいるもんか。人間

    はみんな嘘をつくんだよ。

少年   なんで?

ツバメ  お前、そればっかりだな。なんでなんで。少しは自分で考えろよ。誰かが教え

    てくれるなんて甘ったれてんな。

少年   オイラは嘘をついたこと無い。

ツバメ  お前なぁ。あ、じゃあ、こういうのはどうだ?

少年   何?

ツバメ  本当のことを言ったら、お前は死ぬ。でも、嘘を言えば命は助かる。これなら

    お前も嘘をつくだろ?

少年   つかない。

ツバメ  あのなぁ。死んじゃうんだぞ? 良いのか?

少年   オイラは嘘をつかない。

ツバメ  へー。じゃあ、お前が嘘をついたら、銀貨を1枚やるよ。何でも良いぜ。

少年   いらない。嘘をついてまでお金なんか欲しくない。

ツバメ  ハハハ! お前、嘘が上手いな!

   ツバメ、少年に皮袋の財布を投げつける。少年、落ちた袋を見つめる。

ツバメ  まぁ、俺は忙しいからまたな! そいつはくれてやるよ。

   ツバメ走り去る。

   少年、袋を見つめる。それを拾ってしまう。

   暗転。

Next→→→第七場