たとえばこんなオオカミ少年 第八場

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たとえばこんなオオカミ少年 第八場

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第八場

   町。

   少年が歩いてきて人混みを掻き分けるようなしぐさをする。

少年   なぁ、一体何が始まるんだい? 教えてくれよ。

   ツバメが走っては立ち止まり話をする。

ツバメ  王様が不思議な着物を手に入れたんだって。

少年   不思議な着物?

ツバメ  そいつは心が貧しいとボロに見える服らしい。

少年   心が貧しいとボロに見えるだって?

ツバメ  心が美しいものにはとても美しい羽織に見えるらしい。

少年   みんな自分の心を確かめたいから見たいのかい?

ツバメ  一番心の美しいものには、王様から褒美が出るらしいぞ!

少年   そんなのどうやって決めるんだよ。

ツバメ  あ、嘘つき少年。

少年   あんたは詐欺師。

ツバメ  俺は詐欺師じゃない。スリだ。

少年   また嘘をついているの?

ツバメ  言っただろ。これが商売なのさ。

少年   人を騙すなんて悪いことだ。

ツバメ  程度によるのさ。

少年   嘘は悪いことだ。

ツバメ  違うね。嘘が人を救うこともある。

少年   そんなの嘘だ。

ツバメ  嘘じゃないね。病気でもうすぐ死ぬ人間に、お前はあなたはもうすぐ死にます

    よって言えるか?

少年   言えるさ。

ツバメ  自分の親でもか?

少年   ……それは。

ツバメ  言えないだろ? だから嘘をつく。自分と相手の心を救うために嘘をつく。そ

    れは悪い嘘じゃない。

少年   母さんは嘘をつくなと言って死んだ。だから、オイラは嘘はつかないって決め

    たんだ。

ツバメ  悪い嘘をつくなって言いたかったんだろうぜ。

少年   嘘に良いも悪いもあるか。

ツバメ  あるさ。自分が得をする嘘がいい嘘で、自分が損をする嘘が悪い嘘だ。

少年   自分の得のために嘘をつくなんて……。

ツバメ  悪いな。もう時間だ。

   ツバメ、笑って走り去る。

少年   待って!

   少年もツバメを追って走り去る。ざわつきが大きくなる。

   大臣が現れて手を上げる。

大臣   静粛に! 王様のお見えである!

   ボロ布をまとった王様登場。ざわめきは一層大きくなる。頭には王冠。

王様   どうじゃ? この素晴らしい衣は!

   一瞬の静寂の後に拍手喝采。歓声が上がる。

王様   やはり皆幸せであったのだな。わしは嬉しいぞ! この国に生まれて良かった

    ー!

   少年が飛び出してくる。

少年   やっぱり嘘は許せない!

   少年、王様を見る。そこにツバメもやってくる。

少年   あんなボロ布を着ているのが王様だって? どうなってるんだい! 王様の服

    はただのボロ布じゃないか!

ツバメ  あいつめ! こっちの予定が狂っちまうぜ。仕方が無い。ちょっと早いけどや

    るしかないな。(大声で)その王様はニセモノだぞ!

王様   なんじゃと?

ツバメ  王様が乞食の格好をするわけが無い! その王様はニセモノだ!

王様   黙らんか! わしは王じゃ! この国の王様じゃ!

   ざわめく群集。王様は急に恥ずかしくなり物陰に隠れる。

   タカが悠然と現れる。とても落ち着いている。

タカ   あんな乞食が王様のものか! 王様を騙ったニセモノだ! 捕まえろ! 捕ま

    えて牢屋にぶち込んでしまえ!

王様   嘘じゃ嘘じゃ! わしが王様じゃ! 大臣、何とか言え!

大臣   静まれ! 静まれ! いいか……、

タカ   (大臣を指差し)大臣! あなたにはわかっているはずです。

   大臣黙る。王様首をかしげる

王様   何を黙っておるこのあんぽんたんのトンチキめ! わしが王だと言えば良いの

    だ! そんな簡単なことも出来んのか!

大臣   (王様を見て)ええい、あいつを捕まえろ! 嘘つきはあいつだ! あんな乞

    食が王様のわけが無い!

タカ   ははははは!

王様   こんなバカなことがあってたまるか!

   王様走って逃げる。タカ、少年に向かって金貨を投げる。

タカ   予定とは違うがお前のおかげで王を引き摺り下ろせた。取っておけ。

   少年、金貨を拾って走り去る。

大臣   商人殿、一体どうしましょう?

タカ   あんたが王様になるかい?

大臣   とんでもない。

タカ   だが、王様がいなくては困るだろう?

大臣   それはそうだが。

   タカ、困っている大臣を見て笑みを浮かべる。

タカ   では、私が代わりに王を務めよう。あなたは私に指図をしてくれればいい。

大臣   何?

タカ   私は、あなたの忠告を無視したりはしない。一緒に素晴らしい国を造ろうじゃ

    ないか。

大臣   しかし……。もし、王様が戻られたら……。

タカ   ははは、心配するなって。乞食になった王がもう一度王になるなんてことはま

    ずありえないだろ? どんな御伽噺だ。

大臣   それはそうか。民の喜ぶことばかり考えて、国のためになることを放棄してき

    たような王だ。それならばいなくてもいい。いや、

タカ   いないほうがいい。いっそのこと捕まえて牢屋の中で一生を終えてもらえば安

    心だろ?

   大臣とタカ顔を見合わせてうなずきあう。

大臣   お任せ下さい王様。

タカ   頼みにしている。

   二人は歩いて去っていく。

ツバメ  あいつすげえな。本当に王様になっちまったぜ。こうなると分け前もずいぶん

    期待できそうだな!

   ツバメ、二人を追いかける。

   暗転。

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