たとえばこんなオオカミ少年 第五場

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たとえばこんなオオカミ少年 第五場

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第五場

   お城。

   大臣がやって来る。

大臣   はぁ……。

   王様が走りこんでくる。

王様   どうだった? どうだった?

大臣   は?

王様   皆、わしのことを何か言っていたか?

大臣   はぁ。

王様   何だ? その気の無い返事は。

大臣   お金の入った袋をなくしてしまいまして。何度も落とすし、この服どっかに穴

    でも空いてるのかなぁ。

王様   それで?

大臣   どこを探しても見つからないんですよ。はぁ……。

王様   わしのことは何と言っておった?

大臣   は?

王様   お前は何をしに町に出たのだ? ダメな奴だな。

大臣   ダメとはなんですか。

王様   国民は今、幸せの中にいる。この幸せをくれた王様に、とても感謝しているこ

    とだろう。

大臣   町中閑散としてましたがね。

王様   次は何をしようか?

大臣   は?

王様   お金を配ろうか?

大臣   そんなことをしたら、この城が財政難になってしまいます。

王様   お前、そんなに反対するのなら何かいい案があるんだろうな?

大臣   え?

王様   ふん、何も無いくせにえらそうにするな。

大臣   む。いいですか王様。民の幸せは一時的なものでは意味がありません。王とい

    うものは世情の変化に一喜一憂せずにどっしりと構えて国づくりに励まなければ

    なりません。

王様   そんな言い訳でごまかそうと思っても騙されんぞ! 今が幸せならば、ずっと

    幸せに決まっておる。

大臣   王様、幸せなどと言う形の無いものでは国は豊かにはなりません。

王様   国が豊かでも国民が不幸せでは意味が無い! もうよい。今から町に行って民

    を連れてまいれ!

大臣   何故でしょう?

王様   そんなこともわからんのか? このあんぽんたんのトンチキめ。

大臣   それはあんまりな仰りよう!

王様   ふん。あんぽんたんあんぽんたんと言って何が悪い。お前じゃ話にならない

    から、町の人間を連れて来いと言っておるのだ。わしが直に幸せなのか尋ねる。

大臣   わかりました。連れてきましょう。

王様   最初から黙って連れてくればいいのだ。

大臣   国民の口からはっきりと、幸せなのか不幸なのか聞けばよくわかるでしょう

    よ! まったくのわからずやめ!

王様   大臣。

大臣   はい?

王様   お前、わしをなんだと思ってる?

大臣   王様ですが?

王様   王様にそんな口を利いていいのか?

大臣   ……。ひとり言です。

王様   でかいひとり言だな?

大臣   ワタクシ、ひとり言は大きいのです。

王様   では、行くが良い。

大臣   仰せの通りに。

王様   不正はするなよ。嘘をつくようなやつを連れてきたら、お前は絞首刑だぞ?

大臣   え?

王様   良いな?

大臣   不正なんかするものですか!

王様   では行け!

大臣   は!

   大臣、足早に去っていく。

   暗転。

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