たとえばこんなオオカミ少年 第四場

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たとえばこんなオオカミ少年 第四場

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第四場

   町。

   タカが腕組みして壁に寄りかかっている。大臣が歩いてくる。

大臣   王様にも困ったものだ。どうしたら人の話を聞いてもらえるのか。罪人を外に

    出せば町は必ず大変なことになる。何とかして王様を説得しないと。

   ツバメがやってきて、大臣にぶつかる。財布をする。

ツバメ  あ、すみません。

大臣   おっと、気をつけてな。

   ツバメ、そのまま去ろうとするが、タカが足をかけて転がせる。ツバメの手元から

   財布(小袋)が転がる。

ツバメ  なにすんだよ!

タカ   おっさん。落し物だぜ。

   大臣、振り返り落ちている財布に気がつく。

大臣   おお、ぶつかった拍子に落ちてしまったかな。

ツバメ  ……ちくしょう。

   大臣、財布を拾って去っていく。

ツバメ  おい、今日の稼ぎをどうしてくれるんだよ。

タカ   ふん。

ツバメ  おい。

タカ   また戻りたいのか?

ツバメ  そんなドジ、もうしねえよ。

タカ   お前、何もわかってねえな?

ツバメ  なにがさ?

タカ   一度捕まっちまった人間はな、必ず元の場所に戻る習性があるんだよ。

ツバメ  そ、そうなのか?

タカ   ああ。だからこそ慎重に事を運ばなくちゃいけないのさ。じゃないと……。

ツバメ  俺はあんなところに戻る気はねえよ。金を貯めてこの町から出て行くんだ。

タカ   そうか、気をつけていけよ。

ツバメ  あのなぁ。

タカ   しつこいな。なんだよ。

ツバメ  今の俺の稼ぎの分を返せ。

タカ   命を助けてやったのに、お礼もなしか。

ツバメ  恩着せがましいんだよ。

タカ   まぁいいや。稼ぎをやる代わりにお前を家来にしてやるよ。

ツバメ  家来だって? お前、何様だよ。

タカ   王様さ。

ツバメ  俺、知ってるぜ。詐欺師のタカだろ? 狙った獲物は逃がさないタカのような

    奴だからタカって呼ばれてる。何が王様だよ。ただの詐欺師の癖に。

タカ   今はな。だが、いずれ自分の国を手に入れるさ。

ツバメ  どうやって?

タカ   お前と違って頭を使うんだよ。

ツバメ  えらそうに。

タカ   なんだ?

ツバメ  俺とちっとも変わらねえのに何を威張ってるんだよ。

タカ   お前とは違う。

ツバメ  どこがだよ。ぼうっとしてるだけじゃないか。

タカ   大物を相手にしようと思って慎重になってるだけさ。

ツバメ  ふん。大物なんて狙ってる間に年をくって死んじまうのが関の山さ。人間こつ

    こつ稼ぐのが一番の金を貯める方法なんだぜ。

タカ   そうでもないさ。大物は案外すんなり見つかるもんさ。

ツバメ  なに? 見つけたのか?

タカ   まあな。

ツバメ  どいつだ?

   タカ、遠くを見つめる。

タカ   家来になるか?

ツバメ  気に入らないな。

タカ   じゃあ、あっちへ行っちまいな。

ツバメ  わかったよ。なるよ。家来になる。だから、分け前をきちんとくれよ?

タカ   きちんと仕事をしたらな。

ツバメ  わかった。で、何をすればいいんだ?

タカ   占いだ。

ツバメ  占い?

タカ   占いなら何でもいい。さっき財布をすった男がまた来たら、占いをしてやれ。

ツバメ  俺、そんなことできねえよ。大体、占いが出来るならスリなんかしないし。

タカ   まぁ、そうだな。占いは嘘っぱちでいい。出来るだけわざとらしくした方が本

    物っぽい感じになる。

ツバメ  そんなもんか?

タカ   そんなもんさ。人間なんて生き物は自分の信じたい方向に大きく信じ込むもの

    なのさ。騙す側はそれを少し利用してやれば良いだけなのさ。背中をそっと押し

    てやれば、後は勝手に進んでいくのさ。

ツバメ  それで何を占うんだ?

タカ   対人関係で悩んでいると言ってやれ。大抵誰でも対人関係で悩むもんだ。

ツバメ  そうなのか?

タカ   次に人の話を聞かない奴に困らされていると言ってやれ。自分の思いが伝わら

    ずにイライラしていると続けろ。二つは殆ど同じなんだが、聞いている側は案外

    気がつかないもんだ。

ツバメ  それで?

タカ   身の危険が迫っていると脅してやれ。それでこっちのもんだ。

ツバメ  身の危険な。詳しく聞かれたらどうする?

タカ   恐ろしくて言えないと言ってやれ。それで、最後にこう占え。一人の商人がお

    前を助けてくれるってな。

ツバメ  そんな都合よく商人が現れるかよ。

タカ   現れるのさ。

ツバメ  そんなバカな。

タカ   俺だからな。

ツバメ  なぬ?

タカ   よし、こっちに来い。

   タカ、去る。

ツバメ  おい、分け前は? どれくらいくれるんだよ!

   ツバメ、タカを追いかける。

   暗転。

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