たとえばこんなシンデレラ 第四場

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たとえばこんなシンデレラ 第四場

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第四場

   雪の降る町。(3年後の冬、シンデレラ15歳)

   シンデレラがカゴに入ったマッチを売っている。

シンデレラ マッチはいりませんか? マッチはいりませんか? あぁ、ダメだわ。誰も

     買ってくれない。話を聞こうともしてくれないわ。

   通行人たちが行過ぎる。

シンデレラ お願いします。マッチを買ってください。一人一箱でいいの!

   通行人が一斉に立ち止まる。

通行人A  マッチだって?

通行人B  マッチだって?

通行人C  マッチだって!

通行人   マッチでーす!(古い)

シンデレラ お願いします。買ってくれたら、私、歌を歌うわ。

通行人A  歌を歌う? そりゃあまりにも普通すぎる。

通行人B  歌を歌う娘なんて、珍しくもなんともない!

通行人C  歌を歌わずに歌えるのなら聞いてやろう。

シンデレラ それなら先に歌を歌うから買ってちょうだい!

通行人   JASRACが怖いからやめてくれ!

シンデレラ じゃあ、マッチだけでも買ってください。これが売れないと親方に怒られる

     の! お給料をもらえないの。

通行人A  そんなこと俺には関係ない。

通行人B  そんなこと私には関係ないわ。

通行人C  かわいそうだね。こうしてやるよ!

   通行人C、マッチの入ったカゴを地面にぶちまける。

シンデレラ なんてひどい!

通行人A  ひどいだって?

通行人B  ひどいだってさ!

通行人C  ひどいことなんてあるもんか。

通行人A  押し売りされる俺達のことを考えたことがあるのか?

通行人B  要らない物を買わされる私たちの心は傷ついてるのよ!

通行人C  小さい子どもをダシにした商売なんて駆逐されるべきだ!

通行人   同情を金に換えるなんて、もう真っ平ごめん!

   通行人、すべて消える。代わりに親方が現れる。

親方    またヘマをしやがって! 地面に落ちたマッチが売れると思ってるのか? 

     しけたマッチなんて誰が買うんだ! うちの評判はガタ落ちじゃないか。15に

     もなってこんな簡単なことも出来ないのか!

シンデレラ 私が悪いんじゃないんです! 町の人が!

親方    ふざけるな! 仕事をなんだと思ってるんだ! 売り物をきちんと守れない

     お前が悪いんだ! もういい。お前は首だ!

シンデレラ そんな! お金を貰わずに帰ったら奥様に叱られるわ!

親方   うるさい! それはお前のせいだ。世の中にケチをつける前に、自分を見直し

    てみるんだな!

シンデレラ 親方! お願いです今月のお給料を下さい!

親方   そんなもんあるわけないだろ! 代わりにそのしけったマッチくれてやる!

    お前は首だ!(去る)

シンデレラ そんな……。

   娘、マッチ箱を拾い集める。

シンデレラ どうしよう。これじゃあ、奥様に怒られてしまうわ。

   マルコがやってくる。カバンに子犬のぬいぐるみを隠し持っている。

マルコ   あ、お嬢様。

シンデレラ マルコ。久しぶりね。元気だった?

マルコ   はい。お嬢様、少しやつれましたか?

シンデレラ もうお嬢様じゃないわ。お屋敷だって追い出されてしまったし。

マルコ   あの人たちの浪費癖はハンパじゃありませんでしたからね。

シンデレラ ええ。みんなは元気?

マルコ   はい。お嬢様、大丈夫ですか?

シンデレラ 私は大丈夫。今、お屋敷に住んでいるのはどんな人?

マルコ   すみません。それは言ってはいけないことになってるんです。そうだ。俺、

     お嬢様にもし会えたら渡そうと思って、これ。

   カバンから子犬のぬいぐるみを出す。

シンデレラ それは……。

マルコ   お嬢様たちがお屋敷を出る時にいらないから処分をしろって言われたんです

     けど。捨てられなくて、俺が持ってたんです。どうぞ。

シンデレラ ありがとうマルコ。

   シンデレラ受け取る。

シンデレラ 何か御礼をしてあげたいけど、生憎マッチしかないのよ。持って行く?

マルコ   いいです。

シンデレラ そうよね。しけってるものね。他に何か上げられるものがあればいいんだけ

     ど……。

マルコ   じゃあ、あれを見せてください。

シンデレラ あれ?

マルコ   良く踊ってたじゃないですか。俺、あれ好きだったんです。

シンデレラ ああ、あれはお母様の踊りを真似していただけよ。人に見せるもんじゃない

     わ。

   風の音。

シンデレラ 寒い。こんなところでじっとしていたら風邪を引いてしまうわね。

マルコ   じゃあ、身体を温めるつもりで踊りましょう。ほら、音楽も聞こえてきた。

   どこかから楽しげな音楽が聞こえてくる。

シンデレラ この曲、お母さんが好きな曲だわ。

   シンデレラとマルコ、楽しそうに踊り出す。それを見て婆が近づいてくる。

老婆    もし娘さん。

シンデレラ (踊るのをやめる)はい?

老婆    いいステップだね。誰かに習ったのかい?

シンデレラ いいえ。お母さんが元気だった時に踊っていたのをマネしたのよ。

老婆    そうかい。お前、筋がいいね。

シンデレラ ありがとう。

老婆    もっと練習すれば、舞踏会に出られるかもしれないね。

シンデレラ 舞踏会? なあにそれ?

老婆    みんなが楽しく踊るところさ。

マルコ   年に一度、お城にみんなが集まってお城で踊り明かすんだよ。

シンデレラ 楽しそうね。いいなぁ! 行って見たい! でも、お仕事を探したりしなき

     ゃいけないからムリね。

老婆    仕事だって? あははは。上手くすればそんなものは必要なくなるよ。

シンデレラ どうして?

マルコ   まさか……。

老婆    そう王子の目に留まれば一生遊んで暮らせるよ。未来のお妃としてね。お前

     さん器量も悪くなさそうだしね。 ひょっとしたら選ばれんじゃないかい?

シンデレラ 本当?

老婆    嘘を言ってどうするんだい。

シンデレラ そうか。でも、どうすればその舞踏会に出られるの?

老婆    才能と努力と練習。そして、推薦状が必要さ。

マルコ   才能と努力と練習?

老婆    棒立ちでは王子は一緒に踊ろうとは思わないだろう?

シンデレラ そうか。あとは推薦状?

老婆    そうさ。

シンデレラ それはどうやればもらえるの?

老婆    わしが金貨5枚で売ってやろう。

シンデレラ そんなお金ないわ。

老婆    金は誰のでもいいよ。そっちの若いの出してやればいい。

マルコ   俺もない。

老婆    じゃあ、ムリだね。後で大金が手に入るんだから、金貨の5枚くらいケチケ

     チするんじゃないよ。

シンデレラ うちの中をひっくり返しても、きっと金貨なんて一枚も出てこないわ。あっ

     てもすぐに使われちゃうだろうし……。

老婆    困ったね。

シンデレラ 困ったわ。金貨なんて誰が持ってるのかしら?

老婆    そりゃあ、金持ちに決まってるだろう?

シンデレラ お金持ちか。

老婆    まぁ、金が出来たらまたおいで。たぶんこの辺りにいるからね。さようなら。

   老婆、去って行く。

シンデレラ さようなら。マルコ、お妃様になれればお父様とお母様のお屋敷を取り返せ

     るかしら? 神様、どうかお願いです。私に金貨を5枚下さい。5枚でいいの。

     後で必ずお返ししますから! 私の願いを聞き届けてください。

   シンデレラ、祈りを捧げる。

マルコ   お嬢様。

   暗転。

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