たとえばこんなシンデレラ 第五場

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たとえばこんなシンデレラ 第五場

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第五場

   ボロ屋。

   シンデレラが帰ってくる。

シンデレラ ただいま戻りました。

   奥から継母と連れ子がやってくる。

継母    遅かったじゃないか。金は稼げたんだろうね?

キャシー  何よシンデレラ! ママ! この子、マッチと汚いぬいぐるみしか持ってな

     いわよ!

継母    何だって! パンはどうしたんだい? あれほど忘れるんじゃないよって言

     っておいたのに!

シンデレラ ごめんなさい。マッチが売れなくて、パンは買えなかったんです。

継母    嘘だね!

シンデレラ え?

継母    なんだい嘘までついて嫌な娘だね。そうかい。あたしたちに反抗しようって

     言うのかい。

シンデレラ 違います。

継母    何が違うんだい! だったらその手に持ってる薄汚い人形は何なんだい!

シンデレラ これはマルコに貰ったんです。

キャシー  マルコですって!

継母    バカにするんじゃないよ! そうか! わかったよ。パンを買うお金でマル

     コからそれを買ったんだね? あの使用人もろくでなしだね。

キャシー  どういうこと?

継母    こういうことさ。お前も覚えてるだろう? あの汚い人形を。

キャシー  あぁ、あれね。覚えているわ。

継母    パンを買うお金で、あの人形を買ったのさ。このバカ娘はね。

キャシー  何ですって!

継母    マルコとか言う使用人も食い詰めてたんだろうね。どうしようもない奴さ。

シンデレラ 違うわ!

継母    何が違うもんか!

   継母、怒りに任せてぬいぐるみを奪い取る。シンデレラ取り返そうとするが、キャ

   シーに阻止されシンデレラはマッチをばら撒きながら床に倒れる。

   継母、ゆっくりとマッチを拾う。

継母    言うことを聞かない子にはお仕置きが必要だねぇ。

シンデレラ やめて……。

キャシー  ママ、燃やして!

シンデレラ やめて!

継母    そうだね。こんなもの燃やしてしまおう。

   かまどの中にぬいぐるみは投げ込まれ、マッチの火が放り込まれる。

シンデレラ あぁ。

キャシー  ざまあみろだわ!

継母    言うことを聞かないからこういうことになるんだよ。覚えておきな!

キャシー  返事は?

シンデレラ ……。

継母    聞こえないね! はっきりしゃべりな!

シンデレラ スミマセンでした。

継母    ふん。キャシー。リッチモンド様の家に行きましょう。

キャシー  ママ、大丈夫?

継母    少しくらいは借りられるわ。大体、この出来損ないの父親を紹介したのはリ

     ッチモンド様なんだから。

キャシー  そうね。

   継母と連れ子去る。

シンデレラ 私が、私が一体何をしたの? そんなに悪いことをしたの? 神様! どう

     してこんなひどい仕打ちを私にするの!

   かまどの中から子犬の精が現れる。

子犬の精  泣かないで。

   顔を上げるシンデレラ。

子犬の精  アシュリーが泣くと、僕まで悲しくなっちゃう。

シンデレラ あなたはだあれ? アシュリーって誰? 私はシンデレラよ?

子犬の精  違うよ。君は本当の名前まで忘れちゃったの?

シンデレラ わからないわ。

子犬の精  僕はね、子犬のぬいぐるみの精。本当は出てきちゃいけないんだけど、君が

     あまりにもかわいそうだから放っておけなかったんだ。

シンデレラ ごめんなさい。

子犬の精  アシュリーが謝ることはないよ。君にはとっても感謝してるんだ。

シンデレラ 感謝?

子犬の精  僕をとってもとっても大事にしてくれたじゃないか。

シンデレラ でも、置いてきちゃったわ。

子犬の精  知ってる。でも、ずっと忘れないでいてくれた。

シンデレラ ありがとう。やさしいのね。

子犬の精  えへへ。

シンデレラ あなたはこれからどこに行くの? 天国?

子犬の精  わかんない。

シンデレラ そう。……ねえ、もし天国に行ったらお父様とお母様に私は元気だって伝え

     て欲しいの。

子犬の精  元気なの?

シンデレラ あなたのおかげでね。

子犬の精  そっか。わかったよ。

   子犬の精、かまどの中に戻ろうとするが立ち止まり。

子犬の精  そうだ。僕の燃えた灰で汚れたスプーンを磨いてごらん。鉄のスプーンがい

     いな。

シンデレラ 鉄のスプーン? どうして?

子犬の精  やってみてのお楽しみ!

   子犬の精、かまどの中に消えていく。シンデレラそれを見送る。

シンデレラ 灰で鉄のスプーンを磨くのね。

   シンデレラかまどから灰を拾い薄汚れた鉄のスプーンを磨く。すると鉄のスプーン

   は金のスプーンへと変わって行く。

シンデレラ 鉄のスプーンが!

   そこに継母と連れ子が帰ってくる。

継母    まったく冷たいもんだね!

キャシー  あたしたちは立派な被害者なのに!

継母    なんだいこの光は? あ! シンデレラ、何を持ってるんだい!

キャシー  金よ! 金のスプーンだわ!

継母    お前、こんなものを隠し持ってたのね! なんて恥知らず! およこし!

   継母、シンデレラの手から金のスプーンを奪い取る。

継母    細工は大したこと無いけど、この重さ。本物みたいだね。どこで手に入れた

     んだい?

シンデレラ これは鉄のスプーンで。

キャシー  ママ、ごまかす気よ!

継母    言わないとひどい目に合わすよ!

シンデレラ かまどの灰で鉄のスプーンを磨いただけです。

キャシー  でたらめだ!

継母    そんな子どもじみた嘘、誰が信じるんだよ!

シンデレラ 本当です!

継母    そうかい。口答えするなんてずいぶん立派になったもんだね。

キャシー  なんて生意気なのかしら。

継母    やってごらん。

シンデレラ え?

キャシー  そうね。それがいいわ。やってごらんなさいよ。

継母    その代わり、金のスプーンにならなかったら、お前を代わりに売り飛ばして

     やるからね。

   シンデレラは震える手で鉄のスプーンを取り、灰をつけて布で磨く。すると現れる

   金のスプーン。

   唖然とする継母と連れ子。ほっとするシンデレラ。その頬を継母が張る。

継母    何でこんなことが出来るなら最初から言わないんだよ! このペテン師が! 

     財産を隠していたんだね? 残りの財産をいつ貰ったんだい?!

シンデレラ 違います。財産はもうありません!

継母    どうだかね。あたしたちに嫌がらせでもしてるつもりなんだろ?

キャシー  そうよ! あんたのせいであたしたちが恥をかいたじゃないの!

シンデレラ ご、ごめんなさい。

   継母、シンデレラにスプーンを投げつける。

継母    それを売って、食べ物とスプーンを買ってきな!

   シンデレラ、金のスプーンを拾って外にかけていく。

キャシー  いいの? あいつ逃げるかもしれないわよ?

継母    大丈夫。そんな度胸があるもんかい。

   暗転。

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