7人の大人 第五場

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7人の大人 第五場

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第五場

   山小屋 夜

   ろうそくの明かりが灯る中、姫はど真ん中でぺらぺらとおしゃべり。

   大人たちは居眠り。

姫 ……幸せになりました。めでたしめでたし

   振り返ったら大人たちが寝ているのに気がついて激怒。

姫 何で寝てるのよ!

A お、うとうとしてた

B あれ? 夢か

C ん? もう朝か?

D 寒いな

E そろそろきちんと寝ようぜ

F そうだな

G 明日は町に行くんだっけ?

F 俺だけな

A 馬鹿言うな

C お前が行くなら俺も行く

E それなら俺も行く

G ふざけんな。俺も行く

A 仕方がない。俺も行く

D だったら俺も行く

B じゃあ、俺も行く

姫 あんたたち人の話聞いてたの?

A 全然

B ごめん

C まったく

D 少しなら

E こいつがちょっかい出してきたからさ

F 何だよ最初にやったのはお前だろ

G 何の話だっけ?

   EとFが小競り合いを始める。

E この野郎

F 何だやんのか

D なんだなんだ?

C ケンカか?

B いいぞーやれやれー

A 待て待て、ここは俺がだな

姫 もう……

A (姫に)お前には止められないだろうから、俺が止めてやろう。真のリーダーである

 この俺が!

姫 頭に来た

   姫参戦。Aのすねを蹴り上げる。

A あう

   順番に大人たちのすねを蹴っていく。蹴られる順番が順不同になった場合は、セリ

   フ順が が、ぎ、ぐ、げ、ご、んふになればいい。

B が

C ぎ

D ぐ

E げ

F ご

G んふ

   大人たちうずくまってうめいている。

姫 あなたたちっていつもこうなの?

D 何が?

姫 いい年した大人なのに、こんなくだらない子どもみたいなケンカを何でするのよ

F だってこいつが悪いんだぜ

E 何だよ俺のせいにすんのか?

   姫は再び争い始めそうな二人に向かっていく。

姫 何か言った?

   すねを押さえて離れるEとF。激しく首を横に振る。

姫 どっちがやったかなんてどうでもいいのよ。どっちかが我慢すればいいでしょ?

E えー

F 我慢なんか嫌だよ

D 我慢位しろよ

C そうだそうだ

姫 何言ってるのよ。あなたたちもよ

CD えー

A 何てことだ。すっかりリーダーの座が奪われてしまった

姫 そこ! こそこそ独り言を言わない

A はい!

B あははは

姫 ヘンリーもよ

B はい

姫 あなたたち大人でしょ? もっときちんとできないの?

B 俺たち、別に好きで大人になったわけじゃないさ

E そうだそうだ。なんとなく生きてたら、こうなってたんだ

C そうそう。気がつけばこんなにみっともない大人になってたんだぜ(Gを指差す)

G うるせえこの野郎、お前だって変わらねえだろうが

C 何だと!

姫 我慢!

CG 断る!

姫 蹴るわよ!

C 我慢くらいできるぜ。なあ?

G お、おうよ

A 俺たち、こんな森の中で地味に暮らしてるだろ? だからよ、なんかイライラが募る

 んだよな。だから、たまには思い切り町では目を外したいってこともあるわけさ。わか

 るだろ?

姫 それは、つまり毎日美味しい物を食べて好きな事をして、それが幸せだって思えなく

 なって、毎日がつまんなくなった私みたいなこと?

D 俺、何か今、激しく腹立たしい

C 奇遇だな。俺もだ

B 美味しい物食べたいねぇ

F さりげなく自慢してるぞ

E まぁ、毎日が同じだとつまらないところは同じかも

G でもさ、俺たちの方が楽しそうだな

A とにかく、息抜きをさせてくれと言ってるんだ

姫 いいわよ

   あまりにあっさりと言われたため、誰も気がついていない。

A 俺たちだって生きてるんだ。生きてるって言うことは常に戦いなんだ。その戦いの中

 で安らぎを求めることさえ許されないのか? いや、許されてもいいではないか

姫 だからいいって

A マジで?

姫 なによマジって

B 真面目に?

姫 真面目よ

C あれ? マジって、本気って言う意味じゃなかったっけ?

G 本気と書いて、マジと読む

姫 本気よ

D 嘘じゃないな?

姫 何で嘘つくのよ

E 俺一人じゃないの?

姫 全員で行きましょ

F おお

大人たち うれしー!

姫 でも、約束してね

大人たち するする

姫 我慢するのよ

大人たち え

姫 お酒も防止も賭け事も、きれいなお姉さんも、馬もヤギも全部我慢するの。わかっ

 た?

A 汚い

B ひどい

C 卑怯だ

D ずるい

E うそつき

F 騙された

G オニ

姫 じゃあ、やめよっか

   大人たちしゅんとなる。

F あれ?

D 何だよ急に大きな声を出して

B ご飯食べたっけ?

E さっき食っただろ

A どうした?

F もらえる金貨って、10枚じゃなかったっけ?

AC あ、そうだ

E 何枚持ってきたっけ?

C 袋には9枚しか入ってなかったぞ

   Aに非難のまなざしが集中。

A いやいやいや、9枚だったって

C 10枚くれるって言うのに、何で9枚になってるんだ?

D その説明をしてもらおうか

B 金貨1枚くらいなんだよ

G 金貨1枚で、どれだけ飯が食えると思ってるんだ?

B 隠さないで出しやがれ!

A あのなぁ、持ってないものは出しようが無いだろう

E 信用できん

A 俺を信じろって

C 無理

A 何で?

F 自分の胸に聞いてみろ

A (胸に手を当てる)特に何も

D 泥棒だ!

A 何!

B 食べ物の恨みは、恐ろしいんだぞ

C 縛り上げろ!

   逃げ回るA。追いかける面々。やがて捕まる。

G 俺たちに1枚ずつで、お前は何枚貰うつもりだったんだ?

A 3枚

F 自分だけ3枚も!

姫 あれ?

D 何?

姫 やっぱり1枚足りないのね

A 何だと?

姫 だって、ここには何人いるの?

G いっぱい

姫 きちんと数えて

B 8人

姫 8人のうち、1人が3枚貰ったら金貨は何枚必要?

F おお、わかるぞ俺、8+3で11だな

G なに! こいつ後2枚も隠してるのか!

A 何でもう1枚増えるんだ!

姫 もう、落ち着いて計算しなさいよ。7+3で10よ

E なんで7と3を足すんだ?

姫 1枚貰う人が7人で7枚でしょ

大人たち おお?

姫 それで3枚貰う人が一人だから

C 待て、俺に計算させろ(答えは出てるんだけどね)

   指折り数えていくC。枚数も人数も一緒に数えてしまう。

C 1枚貰うやつが7人で、3枚貰うやつが一人だから

   一同息をのむ。ゴクリ。

C 12枚か!

A姫 何でさらに増える!

C あれぇ?

F とにかく1枚は確実に隠しているんだな

A 馬鹿野郎、そこのチビを入れなかったんだよ

   姫、Aのすねを蹴る。

A あふん。……そこのお姫様のことを数え損なったんだよ

姫 ふうん

A 信じてくれ! 俺が今までに嘘をついたことがあるか?

B うん

C あるな

D あるね

E どっちかというと

F 本当のことを言ってる方が少ないよな

G な

A うぬぬぬ

D さあ、言え。残りの1枚はどこだ?

A 知らん

B 言わないと飯抜きだぞ

A 知るか

D 強情な奴だ

E やっちまえー

F そうだそうだ

G この場合、どんな罰がよろしいでしょうかねぇ

A お前ら後で覚えてろよ

C 魚の餌にしちまうか

姫 待ちなさいよ

A ち、ちび

姫 (蹴る)どうしてそんな野蛮なのよ(お前もな)ここはいい解決方法があるわ

大人たち 何々?

姫 金貨を1枚ずつ配れば解決するでしょ

大人たち はぁ?

D 何で解決なんだ?

G 意味がわからねぇ

姫 みんなが一枚ずつ貰ったら、残りはいくつ?

B 9ひく8で1

F だな

E 何の解決にもなってない

姫 10から8をひけばいいじゃない

C 10枚は無いんだって

D そうそう。ここにあるのは9枚

姫 残り1枚はリチャードが持ってるんでしょ

A 誰だリチャードって?

大人たち (Aに)お前

A だから、俺は持ってないんだって

G 隠すなよ

A 隠してないよ

E ムキになるところが怪しいな

A だからぁ

姫 だから、計算はリチャードは1枚持ってるとすればいいんでしょ?

A そんな馬鹿な

B それで10ひく8か

C あ、納得

D 残りは?

E 誰の物?

F 2枚も残ってるよ

G お前が取るのか?

姫 取らないわよ。残りの2枚はみんなの物よ

A以外 おおー

A 納得できん

姫 だから、ケンカしないの。わかった?

A以外 はーい

姫 では、解散

   縛られたAを残して、みんな去る。

A なんてひどい話だ

   暗転。

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