7人の大人 第四場

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7人の大人 第四場

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第四場

   山小屋。姫とBGが戻ってくる。

姫 まだみんな戻ってないようね

B おなか減ったよ

G 流石の俺も腹ペコだ

姫 ねえ

G あん?

B 何食べようか

姫 腹ペコのペコって何?

G 何って、ペコペコのペコだろ

姫 じゃあ、ペコペコって何?

G ペコペコ?

B ペコペコだよ~

G ペコペコ

姫 ペコペコ

G ペコペコ

姫 ペコペコ

B ペコペコ

姫 ペコペコ

G ペコペコ

B ペコペコ

姫 何だかペコペコ言ってたら、わけがわからなくなるわね

G んー

B どうしたの?

姫 どっか痛いの?

G いやいやいや、頭を下げるときにもペコペコって使うなって

B おー

姫 だけどそうしたら、どうやってペコペコになったの?

B ねー、お腹がへこんで死にそうだよ

G うるさい黙れ

姫 ね、今なんて言ったの?

G うるさい黙れ

   姫、Gのすねを蹴り上げる。

G ぎゃあ

姫 ヘンリーに聞いたのよ

B 僕?

G 腹がへこむ?

B 腹がへこむ(正解)

姫 それを早く言っていったら、腹ペコにならないかしら?

G 腹へこむ?

B 腹へこむ

G 腹へこむ

B 腹へこむ

姫 もっと早く!

G 腹へこ

B 腹へこ

G 腹へこ

B 腹へこ

姫 もっと!

G 腹へこ

B 腹へこ

G 腹へこ

B 腹へこ

G 腹へこ

B 腹へこ

G 腹へこ

B 腹へこ

姫 ダメね。この話題はやめましょう

   そこにCDEFが戻ってくる。

C あー、腹減った

E 飯出来てる?

F ペコペコだね

D なぁ、何でペコペコだって言うんだ?

姫 それはもう終わってるのよ!

G まて、これだけいれば答えが出るかもしれない

E 何が?

C 何だ?

F ペコペコって何でペコペコなのって

C そんなの決まってるだろうが

全員、Cを見る。

姫 何で?(一斉に)

B どうして?(一斉に)

D 早く言え(一斉に)

E なになに?(一斉に)

F おお(一斉に)

G まじか(一斉に)

   全員の視線に耐えられず。

C すまん。わからん

   全員、人生最大のため息。

姫 やっぱりね(一斉に)

B 嘘つくなんてひどいや(一斉に)

D 早く言え(一斉に)

E 何? わかんなかったの?(一斉に)

F あーあ(一斉に)

G まじか(一斉に)

C そんなに責めるなよ

姫 ペコペコはペコペコ。それでいいでしょ

F 良くない

E 良くないな

G 何か気持ちが良くないもんね

B ねー、もうお腹がへこんで背中とくっつきそうだよ

C そんな奴見たことねえな

E へこむ

F 何が?

E 腹がへこむ。じゃない?(だから正解)

姫 そこはさっき通ったわ

D 腹がペコむ?

E へこへこじゃ気が抜けてるから、ペコペコになったんだろうさ

G なるほど

姫 甘いわね

大人たち 何?

姫 その説では、頭をペコペコ下げるが解決できないわ!

   大人たち、大波を受けてショックを受ける。

   そして、暗転

   森のはずれ。

   暗転幕前。老婆が誰かを待っている。

   そこにAが狩人の格好をしてやってくる。フードを目深くかぶり、顔を見せないよ

   うに努力している。

老婆 やったのかい?

A ん? やった?

老婆 殺してきたのかい?

A ああ、そのやったか。やったやった

老婆 約束の物は持ってきただろうね?

A 約束の物? あの野郎そんなこと一言も言わなかったな

老婆 何をゴチャゴチャ言ってるんだい

A あんたが依頼主かい?

老婆 頭でも打ったのかい?

A 確認さ

老婆 そうかい。用心深いんだね

A えーと、この商売も長いとこうなるのさ

老婆 娘の心臓を持ってくる約束だよ。そういえば思い出すかい?

A 娘? 誰の?

老婆 誰のだって? 森に迷い込んだ娘の心臓を抉り出してここに持ってくる約束だろ?

A そうだった、そうだった。だが、心臓なんだが、あいにく忘れちまってね

老婆 なんだって? お前は馬鹿かい

A 馬鹿とは何だ馬鹿とは

老婆 言われたことをまともに出来ないやつを馬鹿って言うんだよ

A 言わせておけば……

老婆 お前、狩人じゃないね

A な、なにを

老婆 図星のようだね

A 俺は狩人だ

老婆 じゃあ、証拠を見せてごらんよ

A 証拠だと?

老婆 お前が狩人だって言う証拠さ

A 証拠……

老婆 そうか、お前は森の木こりだね?

A な、何故わかった

老婆 やっぱりそうか

A え?

老婆 怪しいと思ったんで鎌をかけてみたのさ

A 貴様、卑怯だぞ!

老婆 で、娘は殺したんだね

A ん?

老婆 さっきそう言っただろう?

A おう

老婆 そんなに褒美が欲しいのかい。意地汚い奴だね(狩人の分と木こりの分の2重取り

 のことを言っているようである)

A 何だと?

老婆 まあいいさ。(懐から金貨の入った袋を取り出す)中に金貨が9枚入ってる。持っ

 て行きな(Aに投げる)

A、あわてて袋を受け取る。

A いいのか?

老婆 いいさ。お前たちには心臓を持って来いとは言ってないからね

A (複雑な表情をして)悪いね

老婆 なあに、今物凄くいい気分だからね。金貨9枚なんて大したもんじゃないしね

A 何か言ったか?

老婆 なんにも

   老婆、去っていく。A、老婆と金貨の袋を交互に見てにんまりする。

A 何だか知らんが、儲かったな。9枚かあいつらに1枚ずつで、俺は3枚貰おう(姫は

 入っていない)

A、ウキウキ気分で帰っていく。

   山小屋。倒れこむ面々。

D もう無理だ

C あきらめようぜ

E そうだそうだ

F もう我慢できない

G いきてるかー?

B 腹ペコで死んでる

姫 もう! その言葉にはうんざりよ!

B ごめん

C 今度言ったらひどい目にあわせてやるからな

F そうだ。一晩外につるしてやる

G それじゃあ生ぬるい。飯抜きにしよう

E 袋叩きにしてやろうぜ

C 全員わかったな

全員 わかった(わかったわ)

   そこへお腹を空かせたAが入ってくる。

A 戻ったぞ。いやあ、腹ペコペコだよぉ

   全員一斉にAに襲い掛かる。

A ぎゃーす

   暗転。すぐに明転。

   縛られたAが転がっている。C、Aの荷物を物色して金貨の入った袋を見つける。

C こいつこんな物持ってたぜ

A 返せ、俺んだ

C (中身を見て)うわお、金貨だ

B お金より食べ物もってこいよ

F 久しぶりに酒が飲みたいな

E 金貨1枚じゃ、俺たちは救われねぇ

G 救われねえ

C 9枚ある

全 おお

A お前たちに1枚ずつやる

全 おお

A 気前がいいだろう?

姫 でも、9から8をひいたら1ね

A 何で8を引く?

姫 あなた数を数えられないの?

B 僕は数えられるよ。35まで

D 俺は80までいけるぜ

E 俺は90だ

G 俺はいっぱいだ。いっぱいまで数えられるぞ

F 見栄を張るんじぇねえ。俺は沢山まで数えられるぜ

姫 何よ? たくさんとかいっぱいって

G いっぱいはいっぱいだ

F たくさんはたくさんだ

姫 どんなときに使うの?

G そりゃあ、森の湖で鴨を見たときさ

F 木の実のなった木を見つけたときさ

姫 数えないの?

G あんな動いてる奴を数えてられるかい。逃げちまうかもしれないのに

F 鳥やリスたちと競争するんだ。1個ずつ数えてなんかられないよ

姫 へー

A おい。俺を忘れてないか?

姫 あ、ごめん

A それで、俺は何で縛られてるんだ?

B 言ってはいけない言葉を口にしたからです

A 何?

C そうそう

D 忘れようと努力したのに

E また思い出させやがって

F まったくよぉ

G 冗談じゃないぜ

A 俺、なんて言った?

全 腹ペコ(当然A以外)

   言った後でA以外全員後悔。

姫 思い出さないようにしてたのに!

A 腹ペコがどうしたって言うんだ

B この謎が解けないとご飯が食べられないんだよお

C 忘れようって言ってるのに、なぜか考えちまうんだな

E そう、なんかこうのどに刺さった魚の骨のように

D 痛い痛い

F アレ、痛いよね

G 何で刺さるんだろうな

A フ。お前たちはアホか

全 何?

A そんなの簡単だろうが

C 後でわかんないって言うのは無しだぞ

D 腹がへこんだから来てるって言うのも無しだぞ(正解なのに)

A 教えて欲しいか?

全 教えて!

A じゃあ、縄を解け

C 断る

D 解いたら逃げる気だ

E 解いたら何をするかわからないぞ

F いつも偉そうにしてるからな

B いい気味だ

G まったくだ

姫 いいわ、解いてあげる

全 え?

   姫、Aの縄を解こうとする。

A なんかお前いい奴だな

姫 もう、誰よこんな変な縛り方したの

   結び目がきつくて解けない。

姫 解けない! 頭に来た!

A え?

姫 何か切るものない?

A え?

G 斧でいいか?

A えええ

姫 ちょっと心配だけどいいわ

G よしきた(斧を取りにいく)

A 何が心配なんだ

C 俺、切れないナイフなら持ってる

姫 ナイフが切れないでどうするのよ。斧でいいわ

A 斧でどうするんだ

姫 切り落とすのよ

A やめてくれ

姫 大丈夫。気をつけるから

A 大丈夫の根拠があやふやじゃないか

姫 私を信じなさい。きっと大丈夫だから

A きっととか言うな

G 持ってきたぞ

   斧を受け取る姫。よろける。

姫 重いのね

A 助けてくれ。頼む

姫 行くわよ

A 何でも言うこと聞くからやめてくれ

姫 おとなしくしなさい

C 観念しな

D 覚悟を決めろ

G じたばたするな

B 早くご飯にしようよ

姫 怖いなら目を瞑ってなさい

A 助けてくれ!

   斧は床に立てられ、刃にこりつけられて縄を切る。

姫 取れたわよ

A あれ?

姫 何?

A 腕がある

D 当たり前だろう

A てっきり振り下ろすのかと思った

E そんな馬鹿いないよ

F そんなことより、アレの答えを聞こうよ

A よし、ペコペコのことだったな。それにはまずペコペコの歴史から話さなければなら

 ない

C ペコペコの歴史?

A そうだ。ペコペコはここよりも北に住んでいる動物だ。毛むくじゃらの太った鹿だ

D 毛むくじゃらの太った鹿がペコペコ?

A そうだ

姫 それが何でおなかのペコペコと関係あるのよ

A まあ待て

B 頭のペコペコは?

A あせるな。北の猟師が、ある日の狩りで頭を激しく上下させる毛むくじゃらの太った

 鹿に出会ったんだ

B それがペコペコ?

A そうだ

G ペコペコに遭ってどうなったんだ?

E なるほど、頭を激しく上下させてるのを連想させるからペコペコか

F でも、おなかのペコペコがわからないぞ

A そう。そこだ。猟師はペコペコを苦労の末に捕獲した

姫 捕獲って?

D 捕まえたってこと

B ペコペコって美味しいのかなぁ

E さあな。だけど、太った鹿なら食べるところが沢山あっていいんじゃないか?

A 猟師もそう思った。でもな、予想外なことがおこったのさ

全員 何?

A ペコペコを食べようと思った猟師がペコペコの毛を刈ってみると、そこには骨だらけ

 で食べるところがまるで無いやせた鹿がいたという

全員 何だって!

A 猟師は地面に倒れこんだ。そして、空腹を告げる腹の音を聞きながら、こうつぶやい

 た

   全員の息をのむ音。

A ペコペコ……と。それ以来、おなかが空き過ぎて倒れそうになることを腹がペコペコ、

 略して腹ペコと言うようになったんだ

全員 おおおー

C そうか、そういう物語があって腹ペコなのか

D すげえ

E なるほど

B 骨でも食べればいいのにね

F まさか毛で覆われてて太ってるとは思わないもんな

G 物知りだ

A 見直したか?

D 当然

E もちろん

姫 でも変ね

A (ぎくりとして)何がだ?

姫 捕まえたときにわかりそうなもんだけど

A そ、それはまあ、腹が減って追い込まれてたんだろうな

姫 ふうん

A それより金貨の話だ

C そうだそうだ

D 何で金貨なんて

E アレがうまくいったんじゃない?

姫 アレって?

CDF アレかぁ

B 何々?

D 食べ物を探してるときに、狩人に遭ったんだよ

B 狩人は食べ物じゃないよ

C うるさい黙れ

E 狩人は殺し屋だったんだよ

A そう。その通り

姫 え(やばーい)

G で、どうしたの?

D 今ごろ熊のえさだ

F で、その狩人になりすまして

A 親玉に会いに行ったのさ

C それで報酬を受け取ってきたってわけ

A そうその通り

D 親玉はどんな奴だった?

A ん?

F どんな悪党だったんだよ

A それはだな

E 上手く騙せたんだろ?

A もちろんだ

C やっぱり大男か?

D 大男なら殺し屋なんて雇わないだろ

B そっか

A その、老婆?

G 何で疑問形なんだ

C 守れって言ったやつも老婆だったな

E 最近の流行なのか?

G なにが?

A 俺も不思議に思ってたんだ

姫、こっそりとその場を離れようとする。

A 待て、どこに行く

姫 え?

A お前、俺たちに嘘をついたな

B 嘘?

C 嘘!

D は?

E どういうこと?

F まさか

G まさかって何が?

F この子が老婆だったの?

A アホ。手紙だよ。俺たちが貰った手紙

D 手紙が何だよ

B どこにやったっけ?

C 燃やしたな

E なんでさ

A 証拠が残らないようにだな

姫 そうよ

A 俺たちがお前みたいな子どもを殺すと思ったのか?

D 殺そうって言ってなかったっけ?

A 言ってない

C 言ったよ

姫 言ったの?

A とにかく

F あ、ごまかした

A うるさい。お前を殺す必要は無くなったわけだ

姫 やっぱり殺す気だったのね!

A もういい。うるさいから出て行ってくれ

姫 なんで?

A もうここにいる理由は無いだろう?

姫 どうしてよ?

A お前の命を狙ってる奴が、お前を死んだと思ってるんだから危険は無いだろ?

姫 だからなんでここを出て行かなくちゃいけないのよ

A はぁ? お前はアホか?

姫 少なくともあなたよりはアホじゃないわよ

A 誰かこいつをつまみ出せ!

全員 おう

   腕を抱えられるA。

A 大体な、俺は最初からあのチビが気に入らなかったんだ

   家の外に出されるA。戻ってくる面々。

姫 やっと静かになったわね

D 静かってすばらしいなぁ

C そうだな

B じゃあ、ご飯にしよう

E お金もあるし、町に行こうぜ!

D 酒だー!

F 最近、飲んでないもんね

G 酒場に入り浸ろうぜ

B 飯屋に入り浸ろうぜ

C 酒場のねーちゃんと盛り上がろうぜ!

大人全 イエスッ!

姫 気をつけ!

   姫の言葉にびしっと背筋を正す大人たち。

姫 このお金は、遊ぶお金じゃないのよ! 私たちの大切な生活費なんだから!

   A、戻ってくる。

A その金は俺のだぁ!

全員 あ、おかえり

A おかえりじゃない!

姫 そうねぇ、みんなで買い物に言ってもうるさいだけだから、ロバートを連れて行くわ

A 何の話だ?

B ずるい

C ひどい

D 悪魔

E 人でなし

G 意地悪

姫 あのねえ、あなたたち……。そうだわ、みんな自分の胸に手を当てて

   大人たち胸に手を当てる。

姫 金貨1枚を貰いました。何に使う?

A 博打で増やす

B 好きなだけ食う

C 女に貢ぐ

D 酒を浴びるほどのむ

E 新しい帽子でも買っちゃうかな?

F じゃあ俺は、馬を1頭

G それなら俺は、ヤギを10頭

姫 はい、お金が残った人は手を挙げて

   Aだけが誇らしげに手を上げる。

A お前ら、だらしない奴らだ

姫 本当に情けないわね。一人もいないなんて

A なぬ

姫 賭け事なんてね遊ぶお金のある人がやる物なのよ。生活にも事欠くような人がやる物

 じゃないの。それにね、賭け事で儲かるならみんなやってるわよ。儲かる人がいるから、

 儲からない人がいるわけ。それで商売をしている人は儲からない人をどれだけ集められ

 るかが腕の見せ所なの

A ああ、なんかよく分からないけど、物凄く非難されてることだけはしっかりと伝わってくる

姫 いい? 9枚ある金貨を全部使ってしまったら、明日からどうするの?

D 森で何かを取ればいい

B そうそう。森には何でもあるよ

E 木を切って売りに行ってもいいし

F 買ってきた馬を使って、運べばいいな

C それいいな。楽で

G ヤギだっているぞ

A ヤギは荷物は運べないだろうが

G ヤギ乳(やぎにゅう)があるだろ?

E なんだよやぎにゅうって

G ヤギの乳だよ

D 何でやぎにゅうなんだ

G 牛の乳は、牛乳って言うじゃないか

全員 ああ

姫 馬もヤギもエサを食べるわよ。それはどうするの? 森で何かを見つけるにしても、

 何も見つからない日もあるわ

A 来た。理詰めで来たよ

C じゃあ、どうすればいいんだ?

B おなかが空いたまま生きてろって言うの?

D 目の前に使える金があるのに!

E 膨らむ夢があるのに!

F 僕らの希望を摘み取らないで!

G 俺たちに愛を頂戴

姫 大げさね。使わないなんていってないわ

全員 おお

姫 必要な物を買うの。必要じゃない物は買わない

A 賭け事は?

姫 なし

B ご飯は?

姫 必要に応じて

C 女は?

姫 ありえない

D 酒は?

姫 とりあえずなし

E 帽子は

姫 今持っているので我慢しなさい

F 馬は

姫 エサ代がかかるからダメ

G じゃあ、ヤギも?

姫 2頭ならいいわ

A 不公平だ!

C そうだそうだ

D まったくだ

E 俺たちの金を俺たちがどう使おうが勝手じゃないか

F 馬、欲しかったなぁ

G まぁまぁいいじゃないか

B そうだよ。悪くないと思うよ

ACDEF うるせえ

A お前、俺たちが恩人だってわかってないのか?

姫 わかってるわよ

C じゃあ、何でこんなひどい仕打ちをするんだ

E 恩を仇で返すとは正にこのことだ

D そうだそうだ

姫 でも、私が生きてるってバレたら、あなたたち縛り首よ

全員 げ

姫 わかった?

A ……わかった。だが

姫 なに?

A あの老婆は誰なんだ?

姫 んー、継母よ

B ママで母?

C ママの母でおばあちゃんのことだろう

D おお、そういうことか

E 回りくどい

F おばあちゃんって言えばいいのに

G 頭いいと思わせたかったんだろ

A お前、おばあちゃんに命を狙われてるのか?

姫 あのねぇ、継母。実のお母さんじゃないってことよ

全員 え?

姫 私のお母様はもう何年も前に亡くなってて、その後にお父様と結婚をしたのが今のお

 母様。それで、継母なの

D お前のお父さんって、結構年上が好みなのか?

E 俺知ってる。そういうのを熟女好きって言うんだぜ

A 複雑だな

姫 それで私が死ねば財産が全部自分の物になると思ってるのよ

D なんで?

E お父さんは?

姫 外国にお出かけしてるわ

F よく分からないな

姫 あの人は魔女なのよ。信用できないわ

G 魔女? お前のお父さんが?

C 馬鹿。魔女は女。男の場合だったら、魔男だろ(このネタ度々使う。友達に感謝)

G そうか、魔男か

A 正確には、魔法使いだな

姫 継母よ。継母が魔女なの

全員 へー

姫 大きな三面鏡を覗き込んで、いつも一人でブツブツしゃべってたわ

D それは、ボケちゃったんじゃ?

E あの感じだとそうだね

C だねぇ

姫 私も最初はそうかと思ったわ(ひどい)

B 違ったの?

姫 ええ。あの魔女のいないときにこっそりと三面鏡を覗いたことがあるの

A おお、それで?

姫 三面鏡のそれぞれの面には、鏡の精がいたのよ

D 何だ鏡の精って?

E あれだろ。なんか人のせいにしたときに使うやつ

F お前のせいだ?

E そうそれ

姫 (ため息)精霊のことよ

全員 精霊?

姫 あなたたち精霊も知らないの?

全員 知らない

姫 昔話とか、聞いたことないの?

全員 ない

姫 呆れた。どんな子どもだったのよ

A 森に捨てられた

B 親の顔も

C 兄弟がいるのかさえも

D 家の温かみも

E 親の手料理も

F 優しさも

G 何も知らない

全員 それが俺たちさ

姫 可哀想

A 可哀想だって?

B ご飯が毎日食べられないのは不幸だけど

C こいつらが兄弟みたいなもんで

D ここが俺たちの家で

E 適当な料理が我が家の味で

F 毎日が騒がしく

G 寂しさなんてどこにも無い

A 俺たちはちっとも可哀想じゃない

全員 そうさ

姫 いいわ。私が昔話をしてあげる

A 頼んでない

姫 聞きたくないの?

A どうしてもって言うなら、聞いてやらなくも無い

姫 じゃあ、聞かせてあげるわ

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