フェイムルの移動図書館 第6場

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フェイムル移動図書館 第6場

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第6場

移動図書館の中

   (上手側のみ明るい)

   マイオ、リト、メルテルたちは、本の恐竜移動図書館に飲み込まれてしまっている。

   移動図書館の中は不思議と暗くはない。しかし、明るくもない。

   円柱の本棚がどこまでも高く伸びていて、まるで本で出来たスタジアムのようにも

   のすごい数の本が納められている。

   赤い背表紙の本が絨毯のように敷き詰められ、その上に兄妹は倒れている。

   メルテルは一人起き上がり、感慨深げに周りを眺めていた

メルテル 帰ってきたんだ。移動図書館に……。もっと嫌かなって思ってたけど、なんだ

    か懐かしいなぁ。あ、ここ見覚えがある。でも、少し変わってるなぁ。僕がいな

    い間、誰も整理をしなかったんだな? あ、ここもだ。あ、あっちにいるのは、

    植物図鑑だ! 僕のこと覚えてるかなぁ。あ、あそこにいるのは口うるさい百科

    事典の爺さんだ。あいつに捕まると長いんだよなぁ。

   メルテルは本に囲まれた廊下を走っていく。(上手に消える)

マイオ  うーん。

   目を開けて起き上がるマイオはあたりをゆっくりと見回す。

マイオ  いてて、ここどこだ?

   起き上がると、本棚に向かって歩き出しました。

マイオ  すごい数の本だな。

リト   うーん。

マイオ  あ、リト。大丈夫か?

   リトの元に駆け寄り、手を貸す。見たこともないほどの数の本に包まれてリトは口

   を大きく開けて驚く。

リト   なあに? ここ。

マイオ  わからない。大きなものに追いかけられて……。

リト   うん。大きなトカゲがこっちに来て……。

マイオ  そうか、ここはあのトカゲの中か。

リト   あれ? 顔の袋は?

マイオ  え?

リト   あれがないとお母さんが。

マイオ  大変だ。探して。

   あたりを探し回る兄妹だったが、袋はどこにも見当たらない。

リト   それにしてもなんて沢山の本があるのかしら。

マイオ  リト!

リト   ごめん。

   廊下の奥から誰かがやって来る。どこか古めかしい雰囲気の男だった。何冊もの本

   を小脇に抱えている。

   それは移動図書館に住んでいるサリド。

サリド  誰かいるのかい?

マイオ  リト、こっちへ。

   兄妹は身を寄せ合う。サリドは兄妹の足元にまでやってくると臭いをかぐような仕

   草で兄妹を見つめる。

サリド  驚いた人間の子供じゃないか。

リト   誰?

   リトは恐ろしくなってマイオの胸に顔を埋める。その姿が可笑しくてサリドは大き

   な声で笑いだす。静まり返った図書館の中をサリドの低い笑い声がうなるように響

   き渡る。

サリド  あはは、最初に聞いたのは私だよ? いいだろう答えてあげよう。私はサリド・

    フェイムル。この移動図書館に住んでいる挿し絵画家だ。

   サリドは戸惑う兄妹に手を伸ばし握手を求める。

   兄妹は彼の手を見つめたまま動こうとはしない。

マイオ  ここが移動図書館だって?

リト   トカゲの中じゃないの?

   サリドは兄妹を見下ろしながらまた大きな声で笑う。

サリド  あはは、これはトカゲではない。恐竜さ。本で出来た恐竜。何だい? 移動図

    書館というから建物が移動していると思ったのかい?

リト   そうだわ。ここに薬の本はある?

   リトはサリドから離れて辺りを見回す。それを見てサリドは片方の眉を吊り上げる。

サリド  うーん、僕はその手の本は読まないからなぁ。兄さんなら知ってるかもね。

リト   お兄さんがいるの?

サリド  いるともさ。今、一冊の本を書いているよ。

マイオ  図書館にいるのに本を書いているの?

サリド  図書館は本を読むためだけにあるわけじゃない。調べものをしたりするのにと

    ても役に立つのさ。おや? 本を持っているね? 体に縛り付けて。あぁ、だか

    らここに来れたのか。どんな本だい?

マイオ 魔女の詩集さ。

リト  偉くなるための日記。

   兄妹は本を見せる。サリドはその本に触れようとするが、兄妹はそれを避ける。

サリド  あまり役に立ちそうなものはないな。

マイオ  役に立たない?

サリド  言っただろう? ここで一冊の本を書いているって。

リト   お兄さんがじゃないの?

サリド  私たちは二人で一冊の本を書いているのさ。兄は文章を書き、私は挿絵を書く。

    時には設計図のようなものもね。

リト   どんな本を書いているの。

サリド  あははは。では、兄の下に案内しよう。

   サリドは兄妹をつれて歩き出す。暗闇の中、三人だけが明かりで照らされる。

リト   ここは本で出来ているの?

サリド  ははは。読みたい本があったら、手に取ってくれてかまわないよ。

マイオ  抜いたら崩れちゃうんじゃない?

サリド  そんな心配は無用さ。

   サリドは無造作に闇の中に手を伸ばして本を抜き取る。

サリド  読み終わったら、もう一度差し込めばいい。どこでも好きなところにね。そう

    すれば勝手にしまっておいてくれる。もちろん、普通においておけばそのままだ

    がね。

リト   すごいわ!

   感激するリトにサリドは軽く笑って、再び歩き出す。

マイオ  こんなに本があったんじゃ、どこに何があるのかわからないんじゃない?

サリド  そうだね。前は管理しているものがいたのだが、今はそいつもどこかに行って

    しまった。

マイオ  あまりの本の多さに、嫌になっちゃったのかな?

サリド  さあ、ここだ。

   サリドたちは本棚で出来た扉の前に立ち止まる。

   重いものがこすれるような音がして、扉がゆっくりと開いていく。

◇フェイムル兄弟の書斎(下手側が明るくなる)

   その部屋の中も、本で埋め尽くされている。ここが他の場所と違うのは、この部屋

   がとても明るくとてもきれいな机や椅子があることだった。

   部屋の奥でムハンが椅子に腰掛け本を書いている。手に持っているのは羽根ペン。

   それは兄妹たちが持っているしおりと同じもの。

ムハン 何だ? お前たちは?

   兄妹がムハンの目の前までやってくると、彼はやっとその存在に気がつく。

   ムハンは兄妹を興味なさそうにチラリと見ただけで、再び執筆に没頭する。

マイオ  木こりの息子マイオです。

リト   妹のリトです。

ムハン  木こり? 木こりが図書館で何をしている? 木こりならば木でも切っていれ

    ばいい。

サリド  兄さん。二〇〇年ぶりの人間だよ。もっと優しくしてあげてもいいんじゃない

    かい?

兄妹   二〇〇年!

   ムハンはサリドの声に顔を再び上げる。

ムハン  やあ、誰かと思えば忌々しい弟ではないか。騒ぐのは自由だが、私の執筆の邪

    魔をしないでくれよ。

   そう言うとすぐに執筆を再開する。

サリド  自己紹介くらいしたらどうだい?

ムハン  それはすまなかったな。私はムハン。ムハン・フェイムル。この飛ばない鳥の

    羽根ペンを使い一冊の本を書いている。

   立ち上がりぞんざいに兄妹に一礼し、またものを書き始める。

マイオ  僕ら薬の本を探してるんです。

リト   ここにありますか?

   リトの言葉を聴いて、ムハンは初めて兄妹に関心を持つ。

ムハン  ほう? 薬か! あるぞ! あるぞ! ここには一瞬にして数百人の命を奪う

    薬の本があるぞ! それともじわじわ苦しめながら命を奪う薬のほうが良いか

    な?

マイオ  いえ、母さんを助ける薬がほしいんです。

ムハン  何だつまらん。そんなもの放って置けばいい。まったくつまらん。

   ため息一つついて、ムハンはまた執筆活動に戻る。

マイオ  そんなことないです。

ムハン  人間は死ぬ。生まれたときから死に向かって歩いている。死ぬことは不思議で

    はない。誰でも必ず死ぬんだ。

マイオ  違うよ。人間は生きるために生まれてくるんです。死ぬために生きてるわけじ

    ゃないよ。お父さんが言っていました。

リト   そうよ。最初から死ぬために生まれてくるんなら、生まれてくる意味なんてな

    いじゃないの。

サリド  意味だって? そもそも人間が生きることに意味なんてあるのかな?

マイオ  病気を治す薬の本を貸してください。

リト   そうしたらここから出て行くわ。

フェイムル兄弟 ここから出て行くだって?

   笑い転げるフェイムル兄弟にリトは怒る。

リト   何がおかしいのよ!

ムハン  私たちが好きでこんなところに二〇〇年もいると思っているのか?

サリド  出口はない。

マイオ  出口がない?

リト   どういうことよ。

ムハン  お前たちは魔女に騙されたんだよ。

兄妹   え?

サリド  私たちは200年前にある魔女と約束をした。

ムハン  最初は、世界中の本を集めることだった。

サリド  そのためにこの移動図書館をくれた。

ムハン  昔は楽しかったな。

サリド  昔は楽しかった。本は高価なもので、大切に読まれたからね。

ムハン  あの頃は本を貸すこともしていたな。

サリド  あの頃は本を貸していたね。

ムハン  今は本は捨てられることも多くなったね。

リト   私は本を捨てたりなんかしないわ。

ムハン  君みたいな子が多ければいいのにね。

サリド  まったくさ。そういえば沢山の本を燃やした王様もいたね。

マイオ  なぜ?

サリド  民に賢くなられては困るからさ。自分で考えられたら困るからさ。

ムハン  だが、そんな心配は無用だった。人は限りなく愚かだからね。愚かしい本ばか

    り読みたがる。自ら真理から遠ざかるんだ。

サリド  あの頃はまだ写本は手書きだったね。貴重な本がいっぱい焼かれたね。

ムハン  でも、あの頃が一番楽しかった。

サリド  ああ、あの頃は楽しかった。

ムハン  人は本でいろいろなことを知った。

サリド  命の大切さや。

ムハン  学問や歴史。

サリド  戦争の悲惨さや。

ムハン  化学に魔術。

サリド  人は本で他人の人生を知るんだ。

ムハン  誰かの苦しみを体感したのだ。心が育てば、争いは自然と無くなるはずだった。

サリド  それでも、争いはなくならず戦争で多くの命が失われた。

ムハン  二〇〇年のうちたった1日さえも戦争が止まる日はなかった。世界のどこかで

    必ず戦争が起こっていた。

サリド  私たちは悲しかった。戦争の悲惨さや無意味さを書いた本もあったのに。

ムハン  何百人もの人間がそれを読んだのに、戦争はなくならないのだ。

サリド  私たちは気がついた。

ムハン  そして、思い知った。

リト   何を?

サリド  人は決して学ばぬ生き物だ。

ムハン  同じ過ちを必ず繰り返す。

フェイムル兄弟 ならば人間が生きていることに価値があるのか?

ムハン  お金を得るために人は学ぶのに。

サリド  他人と幸せを共にするために学ぶことはしない。

ムハン  幸せは、人の不幸を見ることにある。

サリド  だが、そんな人間も不幸なのだ。

ムハン  いくつもの物語が、それを証明してきた。けれど人が学ぶことはなかった。

サリド  悩める私たちに魔女が言った。

ムハン  お前たち、一冊の本を書いてごらん。

サリド  その本を書き終えたのなら、人間の存在は無意味なものだ。

ムハン  書き終えることが出来なければ、人間の存在は意味のあるものだと。

   マイオは恐る恐るたずねる。

マイオ  どんな本を書いているの?

フェイムル兄弟 世界を破滅させる本さ。

ムハン  本はもうじき書き終わる。あと少しだ。

サリド  そうすれば私たちの役目も終わる。

ムハン  本が書き終われば、ここから出られるかもしれない。

サリド  世界は破滅してしまうがね。

リト   そんな。

マイオ  なんでそんなひどいことをするんだよ。

ムハン  私たちが破滅させるわけじゃない。

サリド  この本を読んだ人間が破滅させるのだ。

マイオ  同じことじゃないか。そんな本を書いてるんだもん。

リト   どうしてそんな本を書くの?

ムハン  人間の生が同じことの繰り返しで無意味だからだ。

サリド  人はなぜ同じことを繰り返すのか?

ムハン  それは人が学ばない生き物だからだ。

サリド  だから私たちは世界を破滅させる本を書いているんだ。

ムハン  書き終われば、世界は終わるだろう。

リト   そんなことやめて! 本と書くのをやめて!

ムハン  やめることは出来ない。私たちはそのために存在しているのだ。

サリド  そうさ。そもそもこの世界にどれだけの価値がある?

マイオ  みんな幸せに生きてるじゃないか!

リト   あなたたちに邪魔をする権利なんてないわ。

ムハン  人間は自分たちのみの視点でしか物事を見られない。

サリド  世界中に平和を唱えながら、隣の人間とさえも争い。

ムハン  お金で人を動かし、大地を売り買いし地面に見えない線を引く。

サリド  富のために人を殺し、神の名の元に戦争を起こす。

ムハン  そんな人間に世界は支配されている。

サリド  歴史とは、過去の過ちを繰り返さないために学ぶもの。

ムハン  人の名前を覚えるために学ぶものではない。

サリド  知識とは、いかに自分が何も知らないかを知るための物差し。

ムハン  誰かにひけらかす宝石のような物ではない。

サリド  こんな人間たちが全部いなくなっても、世界はまったく困らないだろうな。

マイオ  自分たちも死んじゃうかもしれないのに、それでいいの?

ムハン  もちろん。

サリド  私たちはもう死んでいる。人間が二〇〇年も生きていられるものか。

ムハン  あぁ、来た。素晴らしいアイデアが振ってきた。これでまた何千人もの人間の

    命を奪えるぞ! なんと素晴らしい! もう話しかけるな!

   ムハン、本を書き始める。それは本当にすさまじい速度で。

リト   お兄ちゃん。この人たち怖いわ。

マイオ  おかしいよ。あなたたちは間違ってる。

サリド  私たちは本が好きな子供だった。朝から晩までずっと本を読んで暮らしていた。

    大人になってもそれを続けた。だけど、何も食べないわけにはいかないから、食

    べ物を買う。食べ物を買うにはお金がいる。お金を手に入れるには、働かなきゃ

    ならない。私たちはそれがわずらわしかった。どうして放っておいてくれないの

    かと思ったよ。それで魔女に頼みに言ったんだ。ずっと本を読んで暮らせる方法

    を教えてもらいにね。すると、魔女は教えてくれたよ。本をずっと読みたいのな

    ら本を書く仕事をすればいいとね。私たちはすぐにやったよ。文字を書くのが得

    意だった兄さんが作家になって、絵を書くのが得意だった私が挿絵画家になった。

    でも、本は売れなかった。本は売れず、本は読めず私たちはこの世の中の仕組み

    を呪った。私たちは誰かを傷つけるために生きてきたわけじゃない。でも、世の

    中は私たちを傷つけるんだ。私たちは、ただ本が読みたかっただけなのにね。魔

    女は言った。お前たちが悪いんじゃない。この世界が悪いんだと。そして魔女は、

    本で恐竜を作った。世界を旅する恐竜の移動図書館を作ったんだ。新しい本のリ

    ストが増えるたびに図書館はどんどん大きくなった。私たちは恐竜の中で本を読

    み、本を書き、何も食べず眠りもせず今日まで過ごしてきたんだ。

マイオ  嘘だ。

ムハン  嘘ではない。

マイオ  本当に本が好きなら、働いて忙しくてもくたびれても本を読むのをあきらめな

    いはずさ。

リト   そうよ。

マイオ  あなたたちは理由をつけて楽をしたかっただけなんだ。

リト   少しは努力しなさいよ!

ムハン  ほう。努力か。努力とは何だ?

サリド  私たちは数え切れないほどの本を書いた。

ムハン  震えて動かなくなったこの腕にペンを縛り付けて書いた日もあった。

サリド  でも、本は売れなかった。

リト   面白くなかったんじゃないの?

ムハン  そうかもしれないな。私たちの本には真実しかかれていなかったからな。

サリド  そう。作られた物語でさえも嘘を許さなかった。

ムハン  幸福も不幸もどちらも残酷で、人間には不必要だと書いた。

サリド  か弱きものが、救われぬ絵を書いた。

マイオ  そんな本、誰が読みたいって思うのさ。

ムハン  読みたい本ばかり読んでいる人間は、決して成長することは無い。

サリド  知識が、血と肉になる前に消えてしまうような本は書きたくない。

リト   わがままなだけじゃない。

サリド  ならば、お前たちもこの移動図書館の中で目的の本を探し出してみればいい。

ムハン  それは良い。真に必要なものならば手に入れられるだろう!

マイオ  この中からだって?

リト   そんな意地悪して何が楽しいのよ。

ムハン  意地悪だって? 私たちがその気なら、君たちに嘘の本を教えることだって出

    来るんだぞ?

サリド  それをしないのは、私たちにだってまだ心があるからだ。人の苦労を知ってい

    るからだ。そして、その苦労が人を成長させることを知っているからだ。

リト   でも、世界を破滅させるつもりなんでしょ?

マイオ  それなのに僕たちに期待するの?

ムハン  当然だ。

マイオ  無意味だって言ってるのに?

サリド  不思議かね?

マイオ  不思議って言うか、よくわからないよ。一体どうしたいのさ。

ムハン  この世は矛盾ばかり。

サリド  だが、矛盾がなければ、人生はつまらないものさ。

ムハン  悪い人の心の中にも。

サリド  思いやりの気持ちがある。

ムハン  良い人の影にだって。

サリド  暗いものがある。

ムハン  太陽の下に影があるように。

サリド  夜でさえも月明かりがあるように。

ムハン  答えは一つではない。

サリド  自分に都合のいい答えばかりを求めてはならない。

ムハン  真実は時に残酷なものだ。

フェイムル兄弟 さあ、答えを探せ!

   暗転。

◇図書館・本の広場(舞台中央)

   赤い絨毯の上に散らばった本と共に兄妹は床に寝転がっている。

リト   あった?

マイオ  ない。

   ため息をつく二人を物陰からメルテルが二人を覗き込んでいる。

マイオ  大体、どの本がどこでとか書いてあるもんじゃないの? 図書館なんだからさ。

メルテル クスクス。困ってる困ってる。いい気味だ。

リト   あたしもう少し上のほう探してみる。

マイオ  うん。

   うなりながらマイオは本をあさり続ける。

メルテル バカだなぁ。いくら探してもそこじゃないのに。クスクス。

   そんなメルテルをリトが見つける。

リト   ちょっと、今までどこにいたのよ。

メルテル あ。

   メルテルは急いで逃げようとするが、一足遅くリトに捕まってしまう。

リト   お兄ちゃん。お手伝いを捕まえたわ。

メルテル お手伝いじゃない。僕は思い出したんだ! 僕はここの司書だぞ! 敬意を払

    え!

マイオ  何? 司書って。

リト   しらない。

メルテル 本を管理している者だよ。

リト   本が本を管理しているの?

マイオ  変なの。

メルテル おい。次、変なのって言ったら、角で打つからな。

マイオ  じゃあ、どこに何の本があるか知っているの?

メルテル 当然さ。

リト   じゃあ、教えて。

メルテル お断りだね。

リト   どうして?

マイオ  どうせ知らないんだろ? 見栄を張りたいだけさ。

メルテル 知ってます。

マイオ  じゃあ、けちけちするなよ。

メルテル 本を床に置くような奴が、俺は一番大嫌いなんだ!

   メルテルは急に泣き出す。

リト   まぁ。

マイオ  何も泣くことないじゃないか。

リト   片付けるわ。だから、泣かないで。

メルテル 本当?

   マイオに向けられる疑い深いまなざし。

リト   ほら、お兄ちゃんも。

マイオ  わかったよ。

メルテル きちんとだよ? 適当に放り込むなよ?

マイオ  はいはい。

   兄妹、本を片付け始める。メルテルはそれを見て満足そうにうなずく。

メルテル で、何の本を探しているんだい?

リト   分かってるでしょ?

メルテル 薬の本かな?

マイオ  分かってるならさっさと見つけて来いよ。

メルテル そいつは難しいかな。

リト   どうして?

メルテル フェイムル兄弟は、あ、あの本を書いてる兄弟は、自分たちの役にたたなさそ

    う本は、心臓の近くに置くからね。病気を治す本なんて、すぐ燃やしちゃいそう

    だ。図書館の心臓でね。

リト   心臓?

マイオ  あのトカゲ、やっぱり生きてるんだ。

メルテル 半分ね。心臓でもういらなくなった本や、不要なものを燃やすんだ。

マイオ  燃やす? 燃やすのかい? ここに火があるの?

メルテル そうだよ。心臓に暖炉があるからね。常に燃えているよ。

マイオ  そうなのか。

メルテル じゃあ、ここを整理したら連れてってあげるよ。

リト   お願いね。

マイオ  火があるんだ。

   マイオがつぶやく。

メルテル だからそう言ってるだろ。口よりも体を動かせよ。

マイオ  みんなで同じところをやっててもしょうがないから、君は向こうを片付けてよ。

   メルテルが離れるのを見て、マイオはリトに近づいていく。

リト   どうしたの?

マイオ  破滅の本が書き終わったらどうなると思う?

リト   それは、世界が終わるんじゃないの? 書き終わらせ茶いけないわ。

マイオ  うん。完成したら、沢山の人が死ぬってことだもんね。父さんも、母さんも、

    町の人だって。

リト   でも、本当なのかな? 本当にそんなことが起きちゃうのかな?

マイオ  こんな図書館だって、嘘みたいな話だよ。本当なのかもしれない。

リト   そんな! じゃあ、もうじき世界が大変なことになっちゃうの?

   マイオはうなずく。

リト   どうしようお兄ちゃん。

マイオ  リト。あの本を完成させちゃダメだ。僕たちで世界を救うんだよ! このまま

    世界を破滅させちゃダメだ! 奪い取って燃やそう。

リト   でも、どうやって? 書いている本なんか奪い取れないよ。

マイオ  じゃあ、ここを燃やそう。

リト   ここを燃やす?

   不安そうな顔をしたリトの手をマイオが握りしめる。

マイオ  まずは心臓まで行こう。そこから火を持ってきて、ここにある本を燃やすんだ。

リト   お薬の本まで燃えちゃうじゃない! ダメよ。顔だってなくしちゃったのよ? 

    もうここにある本でしかお母さんを助けられないのよ!

マイオ  リトは薬の本を探して。僕は外に出る本を探す。薬の本を見つけたら、ここを

    燃やそう。そしたら、世界も母さんも救える。ね。

   兄妹は互いにうなずいて、片付けを再開する。

メルテル ちなみに僕、心臓には近づけないよ。あそこ熱いから燃えちゃうし。

マイオ  近くまでで良いよ。ねえ、外に出る方法ってあるの?

メルテル そんなの知らないけど。

リト   けど?

   メルテルは何かをごまかそうとする。

メルテル あの兄弟に見つかったら、僕燃やされちゃうもん。

マイオ  どうして?

メルテル いままで仕事をサボって来たからさ。

リト   それくらいで燃やされちゃうの?

メルテル あの兄弟ならそれくらい平気でするね。

マイオ  とりあえず心臓を見に行こうぜ。

メルテル 僕は遠くから見てるだけだからね。

   暗転。

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