フェイムルの移動図書館 第7場

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フェイムル移動図書館 第7場

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第7場

移動図書館の心臓(舞台中央奥)

   レンガ造りの丸い心臓は、暖炉のよう。大きな口を開き、そこに火炎三兄弟が跳ん

   だり跳ねたりして遊んでいる。

   火炎三兄弟が踊りだす。

歌『燃やせ! 命のある限り』

「燃やせ! 燃やせ! 命がある限り!

 それが生きてる証だぜ! 力の限り風を集めて

 命の限り燃え上がれ!

 燃やせ! 燃やせ! 魂を拳にこめて!

 ぬるい人生なんてごめんだぜ

 人の熱を奪うような

 そんなぬるい燃え方はするんじゃねぇ

 人に熱を伝えるような

 本気の燃え方を見せてやれ!

 燃やせ! 燃やせ! 命がある限り!

 燃やせ! 燃やせ! 魂を拳にこめて!」

火兄   燃えてるかー!

炎の双子 燃えてるぜー!

火兄   魔女の野郎、俺たちをこんな狭いところに閉じ込めておけると思ったら、大間

    違いだぜー!

炎A   そんなこんなでもう二〇〇年。

炎B   いい加減さめてくるよなー。

火兄   燃やすものをよこせー!

炎A   書き損じの紙をどうぞ。

火兄   ぬるいぜ!

炎B   何でだか、たまるホコリをどうぞ。

火兄   やってやるぜ!

炎の双子 以上です。

   がっくりと肩を落とす火兄。

火兄   ぬ、ぬるいぜ。たまにはもっと燃やしたいぜ。

炎A   町を駆け抜けた後は楽しかったねぇ。

炎B   あれは燃えたねー。

火兄   おんなじ本が何百冊もあってな、なんだかって学者の本と政治家の本だ。

炎A   あんなもの一冊あれば十分なのにね。借用書なんて言うのもあったねー。

炎B   でも、たくさん燃やすにはちょうど良かったね。

火兄   まったくだ!

   そこへ兄妹がやってくる。

マイオ  本当に熱いね。

リト   うん。ここは本じゃないのね。

マイオ  当たり前だろ。本に火を近づけたら燃えちゃうじゃないか。

リト   魔法って便利なようで不便なのね。

   火炎三兄妹が暖炉から兄妹に呼びかける。

火兄   何だ貴様らは!

炎の双子 人間なのは知ってるぜ! 見ればわかるからな。

マイオ  君たちは?

リト   火?

   決めポーズを作る火炎三兄弟。

炎A   俺たちは。

炎B   火の精霊。

火兄   人呼んで火炎三兄弟! 俺が長兄。

炎の双子 僕らは双子。

   マイオが首をひねる。

マイオ  なんで三つ子じゃないの?

炎の双子 だめ! それを言っちゃ。

   慌ててマイオに口止めのサインを送る炎の双子。

火兄   俺一人じゃ、火力が弱いからさ。だからこいつらが後から生まれたんだ。

   いじけて弱火になる火兄に、炎の双子盛り上げようとその周りを飛び跳ね続ける。

炎A   兄貴! 俺たちだけじゃ。

炎B   燃え盛れないぜ!

火兄   そうか? そうだな!

リト   大丈夫じゃない? 炎って火が二個あるんだし。

   火兄、鎮火。点のような最小火力になってしまう。

炎の双子 兄貴!

炎A   で、何しに来やがった。

炎B   見たところ水気の多い奴らじゃねえか。

マイオ  本を燃やしたいんだ。

炎A   そいつは豪気だねぇ。

炎B   景気の良い話かい?

リト   ところで病気を治す本を燃やしたことある?

炎A   うーん。

炎B   どうだったかなぁ。

火兄   ねえな。

   すっかりしけってしまった火兄が、寝転びながら手を横に振る。それからゆっくり

   と立ち上がろうとする。それは、生まれたての小鹿に似ている。

炎の双子 兄貴!

炎A   まだ動いちゃダメだ。

炎B   傷に触りますぜ。

火兄   バカ野郎! こんな景気の良い話してるのにしけっていたんじゃ話にならねぇ。

   徐々に風をはらみ力強さを増していく。

マイオ  ないの?

火兄   ない。

リト   良かった!

火兄   探してるのかい? 薬の本を。

リト   お母さんが病気なの。

火兄   そうかい。そいつは心配だな。

   すっかり元通りになる火兄。

炎A   手伝ってやりたいけど。

炎B   俺たちはここを離れられない。

リト   離れられないの?

火兄   ここを出たら消えちまうのさ。

マイオ  ここから出たいんだけど、何か良い方法はない?

火兄   俺たちも出たい。だが、さっきも言ったように、俺たちはここから出ると消え

    ちまう。そういう魔法だ。

炎A   そういえば、とある本を燃やせば、この図書館は動かなくなるって聞いたね。

炎B   そんな話あったね。そうしたらここを出て行けるって聞いたね。

火兄   マジか? 何で早く言わないんだ。

炎A   だって、ここに来たとき。

炎B   ここで一生を終える覚悟で臨めって言うんだもん。

炎の双子 な!

火兄   誰がそんなことを言いやがった? ぶっ飛ばしてやる!

    双子、火兄を指差す。

マイオ  どの本のことかな?

リト   変わった本なのかしら? 他のとは違うような。

マイオ  だとすると、破滅の本かな? 特別な本だし。

リト   そうね。きっとそうよ。

火兄   そいつをここに持ってきてくれれば、俺たちが燃やすぜ!

マイオ  わかった。

   暗転。

◇荒野(暗転幕前)

   ゴツゴツした石ころだらけの荒野の上でアデリンは地面を見て何かを探し回ってい

   る。そこへ他の魔女たちがやって来る。

   アデリンは顔を一度向けるが、すぐに地面に顔を戻す。

   その周りを他の魔女が取り囲む。

マーガレット 見つけたわよアデリン。

アデリン しつこいわね。

マチョード 今からでも遅くないわ。欲望は壷に戻しましょう。

アデリン 壷はもうないよ。壊れてしまったからね。

マチョード じゃあ、欲望は野放しなの? 危険だわ!

アデリン 図書館で燃やしてくれるだろうさ。あの子達がね。

マーガレット ダメよ。欲望をなくしたら、人間に生きてる意味はなくなるわよ。

ミヒナ  生きることは求めることだものね。欲望は必要なものさ。

アデリン まだ懲りてないのかい? 欲望に取り付かれてたのに。

マーガレット あんなものを一つにまとめておく方が危険だわ。どうにかしないと。

マチョード 移動図書館で何をしようっていうのさ。

アデリン あたしは何もしないよ。するのはあの子たちさ。

ミヒナ  欲望に取り付かれたら燃やせやしないよ。

マチョード あんな子どもを使って、なんて奴だい。

アデリン やれやれ、うるさい人たちだね。

マーガレット あの子達が何とかしてくれると思っているの?

アデリン さあね。あの子達が出来なくても、別の子なら出来るかもしれない。そうとも

    別に誰でもいいのさ。

ミヒナ  確かに大人じゃ、欲望に負けちゃうものね。

アデリン 私たちのようにね。でも欲望なんて人間に管理できるものじゃないわ。

マチョード 大丈夫かしら?

アデリン 子供はね。大人が考えてるよりずっと賢いのさ。ただ、道を照らす明かりは用

    意してやった方が良いけどね。それ以上のことは必要ないのさ。大人の方がずっ

    と愚か者なのに、賢い振りをして子どもに間違った道を歩ませるんだ。

歌『ダメダメダメ』

「何かを欲しいと思ったら ダメなのかい?

 何かを願ったら ダメなのかい?

 幸せが欲しい お金が欲しい 有名になりたい

 自分勝手に生きたら ダメなのかい?

 他人を押しのけたら ダメなのかい?

 楽をしたい ずるをしたい サボりたい

 ダメダメダメ ダメダメダメ

 欲望に流されたら 幸せになれない!

 努力をして頑張っても ダメなのかい?

 努力を見せるのが ダメなのかい?

 抜け出したい 偉くなりたい 一番になりたい

 お金を溜め込んでも ダメなのさ

 あの世で使えないから ダメなのさ

 誰かの 幸せを 喜べないなんて

 ダメダメダメ ダメダメダメ

 お金に使われちゃ 幸せになれない!

 夜は夜では ダメなのかい?

 謎は謎では ダメなのかい?

 ずっと 昼間じゃ 眠れない

 誰かを助けちゃ ダメなのかい?

 ただで助けちゃ ダメなのかい?

 自分だけが 幸せだったなら それでいい

 ダメダメダメ ダメダメダメ

 心が広くなければ 幸せに気がつかない!」

ミヒナ  私たちには、信じて待つことしか出来ないのね。

マーガレット 出来るかしら?

マチョード あの子達なら出来るかもね。

アデリン 出来なくても私はかまわないけどね。

ミヒナ  あの子達が帰ってくることを待っているんでしょう。

アデリン そんなことないわ。

ミヒナ  じゃあ、なんで薬を作る材料を持っているの?

マーガレット ホントに?

マチョード なんだい人騒がせだね。

アデリン まぁ、うまくいかなかったら、無駄になるだけだけどね。

ミヒナ  じゃあ、みんなで残りの材料を集めましょう。

アデリン ふん。じゃあ、コケを探しておくれ。腰が痛くなってきたよ。

   魔女たちが荒野の中で石ころを拾い始める。

   暗転。

◇フェイムル兄弟の書斎(舞台下手)

   マイオがやって来る。ムハンとサリドが同時に顔を向ける。

ムハン  薬の本は見つかったかね?

マイオ  妹が探してる。

サリド  ふむ、君は探さなくて良いのかい?

マイオ  僕は外に出る本を探してるのさ。

ムハン  そんなものはないよ。魔女が持ち去ってしまった。

マイオ  いいやある。あなたたちが持っているその本だ。

サリド  子供の妄想はたくましいものだね。

マイオ  その本を燃やせば、ここから出られるかもしれない。だから、貸して欲しいん

    だ。

フェイムル兄弟 この本を燃やすだって?

サリド  この本を燃やされたら、また新しく書き直すだけさ。

ムハン  つまり無意味と言うことだ。

マイオ  ここを出たいって思わないの? やってみようよ。

サリド  外に出るメリットがない。

ムハン  本は渡せない。もうじき書き終わるからね。

サリド  書き終われば、私たちの役目も終わる。

マイオ  おかしいと思わないの?

ムハン  いまさら何を。この世はおかしなことばかりだ。

サリド  君の持っている本を見てごらん。

マイオ  何? 偉い人になるための本がどうかしたの?

サリド  その本を読んでも偉くはなれない。

マイオ  それは方法を知っていても、偉くなれるかなんてわからないからでしょ? 自

    分で偉いと思っていても、誰も偉いと思わなかったら偉くなんてないもの。

サリド  賢い子だ。君ならわかるだろう?

ムハン  この羽根ペンに見覚えがないかい?

マイオ  それは、しおり?

サリド  そうさ。君は魔女に騙されたんだ。そのしおりには欲望が詰まっている。

ムハン  魔女はここに欲望を閉じ込めたかったのさ。君たちはそれに利用されたんだ。

サリド  移動図書館は欲望を飲み込んでいよいよ世界を破滅へと導いて行くのだ。

ムハン  もうどうにもならない。これは決まっていることなんだ。

マイオ  ダメだよ。本当は二人もおかしいと思ってるんだろ?

ムハン  それでも止まることは出来ないんだ。

マイオ  じゃあ、しおりもその本も燃やせば良い。

サリド  そうして出られなければ、ここにあるすべての本を燃やす気か?

ムハン  本を燃やす人間にろくな奴はおらん。

サリド  まったくだ。

マイオ  心臓で本を燃やしているくせに。

ムハン  言っただろう。私たちは止まれないんだ。後ろを見ることがあっても、決して

    後ろに戻ることは出来ない。

サリド  人生には矛盾がある。真実が一つでないからな。人の数ほど、本の数ほどに真

    実は存在する。

マイオ  都合が悪くなると矛盾矛盾って逃げてるだけじゃないか。

ムハン  それでも我々は全ての本を燃やしたりはしない。

サリド  君は、見落としている。

ムハン  我々は君に味方をすることは出来ないが、敵でもない。

マイオ  どういうことさ?

フェイムル兄弟 人は自分で答えを見つけなければならない。

マイオ  なんだよそれ。

ムハン  我々が答えを言っても。

サリド  君の答えにはならない。

マイオ  そんなのへ理屈だ!

ムハン  さあ、自分で考えてごらん。

サリド  なぜ我々が本を書くのか?

マイオ  わかるもんか!

ムハン  なぜしおりが本にはさんであるのか?

サリド  なぜしおりが羽根なのか?

ムハン  なぜ羽根ペンで私が本を書くのか。

マイオ  わからないよ!

サリド  羽根ペンを持っていなければ私は挿絵を書くことはない。

ムハン  羽根ペンを離せば私は文章を書けない。

マイオ  ……。

   マイオ、偉い人になるための本をサリドに持たせる。

   サリドはそれを読み始める。

サリド  ほほう。こうすれば偉くなれるのか。なるほど。なんて素晴らしいんだろうね。

   マイオ、そのままムハンの元に行きしおりを差し出す。

マイオ  その本を手にするには、その羽根ペンが必要なんだ。それで、それを取るため

    には、二人に別の本を渡さなければいけない。

サリド  そうかもしれないし、そうじゃないかも知れない。本なんてここにいくらでも

    あるからね。

マイオ  本に欲望を吸わせてしまえば、羽根はまた欲望を吸い込める。書きかけの本を

    貰うには書きかけの本を渡す。

ムハン  今度本を書くときは、誰もが楽しくなるような幸せな本を書くとしよう。そう

    すれば、みんなが読んでくれるだろうね。

マイオ  僕もそう思う。

   マイオ、しおりをムハンに渡す。ムハンは羽根ペンを置く。

ムハン  サリド。偉くなるための方法を思いついた。さっさと本を遣せ。

サリド  何を? 偉い人間のポーズを書かねばならん。ペンを遣せ!

ムハン  文が先だ!

サリド  絵が先だ!

マイオ  二人ともケンカしないで。

フェイムル兄弟 うるさい! 時間はもうない。急ぐのだ!

   マイオは破滅の本と羽根ペンを持って駆け出す。(下手に去る)

◇図書館・本の広間(舞台上手)

   メルテルを追って、リトがかけてくる。

リト   ねぇ、薬の本はどこにあるの?

メルテル 知らない。

リト   あなたなら知っているはずよ。だって、あなたにはここにある本の名前が書い

    てあるんだもの。

メルテル 教えたら、ここを出て行こうとするだろう? 僕そんなの嫌だよ。

リト   あなたここから出たくないの?

メルテル ここは、ここが僕の居場所なんだ。

リト   どういうこと?

メルテル 僕は、ここを出たら存在意義を失うんだ。僕以上に意味を失うものはない。役

    に立たない本に戻るなんて嫌だ。それに気がつくのが嫌だったから帰ってきたく

    なかったんだ!

リト   どうして?

   うつむくメルテル。

メルテル 僕なんだ。僕が特別な本なんだ。

リト   え?

メルテル 僕はここにどんな本があるのかを知っている。でも、ここから出たら、ここが

    無くなったら、僕の知っていることは全部意味がなくなっちゃうんだ。僕がいく

    ら本の名前を知っていても、その本がなくなってしまえば、僕の覚えていること

    なんて何の意味もない。それに本でここを歩けるのは、僕だけ。僕が生まれたの

    は、破滅の本が書かれる前から。僕が一番最初の本。つまり僕を燃やせば、ここ

    から出て行けるのさ。ここにいる本を縛り付けてるのは僕なんだ。

リト   そんな。あなたは立派な本よ。誰にも負けていないわ。

   メルテル、リトを見る。リトはゆっくりとうなずく。

メルテル ごめんね。探していたのはこの本でしょう?

   メルテル、隠していた薬の本をリトに差し出す。

メルテル 役に立たない本の癖に、わがまま言ってごめんね。

リト   そんなことない。あなたは素晴らしい本だわ。優しくて、仲間思いだもの。あ

    たしこそ、ごめんね。

メルテル いいんだ。なんかちょっと人の役に立てるのって、いいことなんだね。

リト   ごめんね。

メルテル お願いがあるんだ。聞いてくれる?

リト   うん。

メルテル 僕のことを覚えていて欲しいんだ。

リト   わかったわ。あたし、持ってる本のリストを本にするわ。そして、それにあな

    たの名前をつけるわ。あなたの名前は?

メルテル ありがとう。僕はメルテル。さあ、行こう! 君のお母さんを、世界を助ける

    んだ!

   リト、メルテル上手にかけていく。

移動図書館の心臓(舞台中央)

   マイオが忙しく破滅の本に書き込んでいる。その手には羽根ペンが握られている。

火兄   おいおい、大丈夫か?

炎A   それを燃やすんじゃないのかい?

炎B   何を書いてるんだ? 妹の悪口か?

マイオ  うるさい! 黙ってろ! 書かなくちゃ、書かなくちゃ。

   リトとメルテルがやって来る。

リト   お兄ちゃん!

火兄   なんだ?

リト   あなたじゃないわ! 少し黙ってて。

   火兄、心無い言葉にあっという間に鎮火する。

炎A   なんか変なんだ。

炎B   本を持って来て、うまく交換できた! って笑ってたら転んじゃってさ。

炎A   急にこんな風になっちゃって。

炎B   どうなっちゃったんだ?

メルテル そのペンのせいさ。君、羽根持ってる?

リト   あるわ。どうするの?

メルテル 貸して。

   メルテル、魔女の詩集としおりを取り、マイオの持っている破滅の本と羽根ペンを

   交換する。破滅の本に羽根ペンと羽根のしおりを挟み、それをすぐさま炎に渡す。

メルテル 燃やして!

炎の双子 お安い御用!

   破滅の本と羽根ペンと羽根のしおりが燃えていく。

マイオ  この空はどこまでも青く澄み渡り、果てしない未来へと続いていく。

リト   やだ、まだおかしいわ!

メルテル 大丈夫。今度は僕と飛び込むから、彼だけを吐き出して!

炎の双子 そんな高度なこと無理だよ!

メルテル そんな。

マイオ  僕にこんな才能があったなんて、書きとめておかなくちゃ。

炎の双子 兄貴の力が必要なのに!

リト   なんで?

炎A   兄貴は火力は弱いけど。

炎B   コントロールは抜群なのさ。

炎の双子 火力を上げるには正しいコントロールが必要なんだ。

リト   そうなの? すごいじゃない。

マイオ  そう。僕はすごいんだぞー。

リト   火のお兄さん。力を貸して!

炎の双子 兄貴! 頼みます!

マイオ  兄はすごいんだぞ~。えへへへ~。

   火兄にエールを送ると、火兄はどんどんと火力を増して大きくなっていく。

火兄   火力の調整? そんなことお茶の子さいさい、お茶漬けさらさらだぜ!

炎の双子 兄貴!

火兄   お前ら、気合を入れろ!

炎の双子 おう!

メルテル いくよ!

リト   メルテル!

メルテル さよならなんて言わないよ! またね!

   メルテル、マイオをつかんで炎の中に入って行く。

歌『燃やせ! 命のある限り』5人バージョン。

「燃やせ! 燃やせ! 命がある限り!

 それが生きてる証だぜ! 力の限り風を集めて

 命の限り燃え上がれ!

 燃やせ! 燃やせ! 魂を拳にこめて!

 ぬるい人生なんてごめんだぜ

 人の熱を奪うような

 そんなぬるい燃え方はするんじゃねぇ

 人に熱を伝えるような

 本気の燃え方を見せてやれ!

 燃やせ! 燃やせ! 命がある限り!

 燃やせ! 燃やせ! 魂を拳にこめて!」

   途中でマイオが放り出される。

   メルテル踊りながら徐々に力尽きていく。終わる頃には灰となり崩れ落ちてしまう。

火兄   お前の魂。熱かったぜ!

炎の双子 忘れないぜ! その魂!

マイオ  うぅ、熱いよ。

   リトが兄の下に駆け寄ってくる。

リト   大丈夫?

マイオ  うん。体中が熱いけど、大丈夫さ。

   ズン。と地響き。

火兄   どこかにつかまれ! 崩れるぞ。

炎の双子 やっほー。

マイオ  リト! おいで。

リト   お兄ちゃん!

   光と風が二人を包みこむ。

   激しい振動が起こり本が崩れ落ち始める。

   外の世界では平原に立っている恐竜が徐々にその形を崩し、本の山になっていく。

   やがて土埃が収まり、本の山の中から、リトがマイオを支えて起き上がってくる。

リト   見て! 外だわ!

   リトは青い空を指差す。

マイオ  外? 外だ! 行こう! 帰ろう!

   兄妹は、本の山を駆け下りて行く。

   レンガの山から顔を覗かせる火炎三兄弟はそれを見て笑い合う。

火兄   何だ振り向きもしないで行っちまいやがって。

炎A   さわやかな風みたいな奴らでしたね。

炎B   どうします? ここ、燃やしちまいますか?

火兄   そんな小さいことは、もうする必要ないぜ。

炎A   じゃあ、このままにしていくんですか?

炎B   俺たちを閉じ込めていた忌々しい本なのに。

火兄   つまらないことを気にしていると、つまらない大人になっちまうもんさ。本を

    燃やすことなんかもう飽きちまったなぁ。これからは、もっとどでかい物を燃や

    したいぜ。人の心とかな!

炎の双子 兄貴!

火兄   俺たちもおさらばしようぜ!

炎の双子 おう!

   火炎三兄弟、兄妹たちとは逆方向に走っていく。

   しばらくすると、本の山の中からフェイムルの兄弟が出てくる。

   その手には、何も持っていない。

ムハン  本が本に埋もれてしまった。

サリド  この中から探すのは大変そうだね。

ムハン  ゆっくりやれば良いさ。

サリド  それとも新しい本を書くかい?

ムハン  それもいいな。

サリド  この後、どうするんだい?

ムハン  また図書館でも作れば良いさ。今度は出入り自由のね。

サリド  また本を書くのかい?

ムハン  そうさ。だけどその前に、ここにある本を読み返そう。

サリド  それがいい。

   沢山の本を見て、ムハンはつぶやく。

ムハン  人は何のために本を書くんだろうね。

   サリドは本の山を見ながら笑う。

サリド  永遠に生きるためだよ。

ムハン  そうか。

サリド  なぜ人は、本を読むのだろうね。

ムハン  自分自身を生まれ変わらせるためさ。

サリド  そうか。

フェイムル兄弟 また本を読むのが楽しくなりそうだ。

   フェイムル兄弟は、すぐ側にあった本を手に取って読み始める。

   暗転。

◇荒野(暗転幕前)

   兄妹が荒野を走ってくる。それを丘の上からアデリンが呼び止める。

アデリン お待ち。

   立ち止まり声の主を探す兄妹にアデリンが近づいてくる。

マイオ  あ、東の魔女。

リト   顔が戻ってる。

アデリン ほら、薬だよ。西の魔女に会ってたんじゃ時間がかかるだろう?

   でも、兄弟は差し出された薬を受け取らない。

アデリン 急がないと間に合わなくなるよ。

   マイオは疑いのまなざしを向けながらようやく薬を受け取る。

マイオ  ……ありがとう。

リト   お兄ちゃん。行こう。

アデリン 送ってあげようか?

マイオ  いいよ。自分たちで帰れるさ。

リト   行こう! お兄ちゃん。

マイオ  うん!

アデリン やれやれ、嫌われたもんだね。

   兄妹、振り向きもせずにかけていく。

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