フェイムルの移動図書館 第4場

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フェイムル移動図書館 第4場

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第4場

◆偉人の町

   レンガ造りの町並みの中、ひときわ広い広場の中に高い台が置かれていて、三人の

   人間が座っている。彼らのほかに人影はない。

   それは偉そうな政治家であり、それは偉そうな学者であり、それは偉そうな金持ち。

   彼らは自分が一番偉いのだと互いに譲らずに偉さを競い合っている。

政治家  俺はこの町をこの国で一番有名にした。だから、この町で一番偉いのである。

学者   私はこの町で誰よりも物知りである。ゆえにこの町で一番偉いのである。

お金持ち ワシはこの町で一番のお金持ち。だからこそ、この町で一番偉いのである。

政治家  おい小僧、アレを取って来い。

少年A  はい。

   返事をした少年Aが急ぎ足で広場にやってくる。

少年A  アレって何でしょうか?

政治家  バカモノ! アレと言ったら一つしか無いだろうが! 俺に送られた賞状だ。

少年A  すみません。でも沢山ありすぎて運べません。

政治家  そうだろう、そうだろう。

   政治家は満足そうにうなずく。

学者   おい、若造。

少年A  はい。

学者   アレを持って来い。

少年A  すみません。アレって何でしょうか?

学者   愚か者! アレと言ったら一つしかないではないか! 私の書いた本を持って

    来い。

少年A  すみません。ですが沢山出版印刷されていて全部は持ってこられません。

学者   そうだろう。そうだろう。

   学者は満足そうにうなずく。

金持ち  おい、そこの奴。アレを持って来い。

少年A  アレって何でしょうか?

金持ち  これだから話が通じない奴は困る。アレと言ったら一つしか無いだろうが! 

    借用書だよ。

少年A  すみません。ですが、沢山あるのでどれをお持ちすればいいのか分かりません。

金持ち  そうだろう。そうだろう。

   金持ちは満足そうにうなずく。

三人   ほうら、俺(ワシ・私)はこんなに偉い。

   政治家たちは満足そうに去っていく。そこへ兄妹たちがやって来る。

リト   変な町ね。

マイオ  町中の人みんなが偉そうにしているよね。

リト   パンを買おうとしたら、売ってやらんとか。

マイオ  道を聞いたら、そんな事も知らんのか! 教えてやらんとか。

メルテル どいつもこいつも偉そうにして、気に食わない!

リト   どうなってるのかしら。

マイオ  魔女のせいなのかな?

   少年Aが兄妹に気がつき笑顔で彼らを迎え入れる。

少年A  ようこそ、世界一偉い人の町へ。

兄妹   世界一偉い人の町?

少年A  はい。ここには世界一偉い人がいるんです。

リト   どの人?

少年A  わかりません。

マイオ  え?

メルテル 世界一偉い人がいるのにわかんないの?

少年A  皆さん。自分が偉いとおっしゃいますから。

メルテル じゃあ、誰が世界一偉いかわからないじゃないか。

マイオ  君は偉くないの?

少年A  僕は偉くありません。お金も地位も学もありませんから。

リト   ふーん。

少年A  この町の噂を聞いて来たのではないんですね?

マイオ  うん。魔女と欲望を探してるんだ。

リト   それと、珍しい本も。

少年A  そうですか。魔女を……。

リト   どうかしたの?

少年A  いえ、この町の図書館には世界中の本がありますよ。お目当ての本は必

    ず見つかるでしょう。

メルテル 世界中の本かぁ。

マイオ  この町の噂って?

少年A  魔女が来て、この町で一番偉い者の望みを叶えてやると言ったんです。そうし

    たら、みんな急に威張りだして……。

   リトがマイオの手をつかむ。

リト   お兄ちゃん、あたしたちも偉くなろうよ! そうしたら、お母さんを助けられ

    るわ。

メルテル それはいい考えだ!

マイオ  だめだよ。よく考えてごらんよ。ここにいる魔女も欲望に操られているんだ。

    きっとこれは魔女の仕業さ。

少年A  ところでどんな本をお探しですか? 少しくらいなら、お手伝い出来ますよ。

マイオ  それがわからないんだ。珍しい本なんだけど。

リト   お薬の本もあるのかしら?

メルテル お前たち木こりの子供に難しい字なんて読めるのか?

リト   失礼ね!

少年A  字が読めないなら、僕、少しなら読めますよ。弟たちに教わりましたから。

リト   弟に教わるの?

少年A  ええ、弟たちは学校で勉強していますから。

マイオ  君は?

少年A  僕は働いています。そうじゃないと弟たちが暮らせないんで。

マイオ  君はエラいね。

少年A  いいえ、僕は偉くなんかないんです。本当に偉い人なら、弟たちが苦労しない

    ようにしてやれるんです。この町の人たちが力を合わせていけるようにできるん

    です。だけど、僕にはそういうことは出来ないから、弟たちのために働いている

    です。それとみんなが嫌な顔をしないように町をキレイにすることくらいなんで

    す。

マイオ  魔女を見たことある?

少年A  いつもお酒を飲んで酔っ払っていますよ。

リト   酔っ払って魔法が使えるのかしら?

少年A  それはもうずっと使ってますよ。

リト   ずっと?

少年A  酔いつぶれない魔法を使って、お酒を飲み続けています。

メルテル なんて都合のいい魔法なんだ!

マイオ  眠らないの?

少年A  一度眠ると長いこと起きられないみたいなので、ここ三週間くらいは起きてる

    みたいですよ。

兄妹   そんなに!

   そこへ偉そうな人たちが再びやってくる。

政治家  小僧! 俺を褒めろ。

学者   若造! 私を称えろ。

金持ち  そこの奴! ワシを崇めろ。

リト   なになに?

少年A  私が相手をしますから、隠れて!

   兄妹とメルテル、少年Aに言われるままに物陰に姿を隠す。

歌『俺が一番偉い歌』

「俺が偉い理由を聞きたいか?

 俺はこの町で一番多くの人に選ばれた人間だから

 俺が一番偉いんだ

 私が偉い理由を聞きたいか?

 私がこの町で一番多くの人に教えた人間だから

 私が一番偉いんだ

 ワシが偉い理由を聞きたいか?

 ワシがこの町で一番多くの人に金を貸した人間だから

 ワシが一番偉いんだ」

政治家 偉いのは俺だ!

学者 偉いのは私だ!

金持ち 偉いのはワシだ!

   果ては殴り合いの喧嘩まで始めてしまう政治家たち。

   その広場へ酔っ払った魔女ミヒナが上機嫌で酒瓶を振り回しながら鼻歌交じりでや

   って来る。

歌『酔いどれ、どれどれの歌』

「酔いどれ? どれどれ? 見てみよう聞いてみよう

 誰が一番偉いのか

 偉くないやつは 全員酒に変えちまおう

 私は嘘つきが大嫌いだから

 だけど真実を話すものには褒美を上げるよ

 望みの願いを叶えてやろう

 さあ答えておくれ 誰が一番偉いのか」

ミヒナ  さぁ、この町で一番偉い人間は決まったかい? 願いをかなえてやるよ。

政治家  俺だ。

学者   私だ。

金持ち  ワシだ。

三人   偉いのは俺(ワシ・私)!

ミヒナ  なんだい。まだ三人もいるのかい。

政治家  さあ! 俺を世界一の宰相にしておくれ。

学者   さあ! 私を世界一の博士にしておくれ。

金持ち  さあ! ワシを世界一の金持ちにしておくれ。

ミヒナ  わかったよ。よーくわかったよ。

三人   やったぁ。

ミヒナ  お前たちが偉くないことがよくわかった。

三人   え?

ミヒナ  この町で一番偉いのは、酒を造る職人さ。何でかって? そりゃあ、問題を出

    すあたしが一番偉いと思ってるのは、酒を作る職人なんだから当然でしょ。お前

    たちは、自分ばかり見て、何も見ていない。だからこんな単純な謎かけも解けや

    しないんだ。そんな奴らは、酒に変えてやるよ!

三人   うわぁ。

   あっという間にお酒に変えられてしまう政治家・学者・お金持ちの三人。

   魔女ミヒナは辺りをうかがう。

ミヒナ  なんか臭うね? 誰かいるのかい?

少年A  僕です。

ミヒナ  何だお前か。お前は魔法にかからないから嫌いだよ。あっちへお行き。

リト   魔法にかからない? 何故かしら?

少年A  ダメ、しゃべってはいけない。

ミヒナ  おや、ほかにもいるのかい。あたしの鼻も捨てたもんじゃないね。あぁ、これ

    は元々はあたしの鼻じゃないんだっけ?

リト   何よ! 欲望に負けたくせに偉そうなことを言わないで!

ミヒナ  元気のいい娘だねぇ。ほれ!

   魔女の次女ミヒナは、リトに魔法をかける。リトは胸を張って歩き出す。

リト   あたしはお兄ちゃんよりも偉いの。だって、お兄ちゃんより早起きだから。本

    だって沢山読むし、お母さんのお手伝いもするし、私、とっても偉いでしょ。

マイオ  あいつ! ……あ。

ミヒナ  もう一人いたのかい。それ!

   ミヒナはマイオにも魔法をかける。マイオも胸を葉って急に威張りはじめる。

   ミヒナはお酒を置いて両手で拍手をして喜ぶ。

   その間に少年Aは後ろからミヒナに近づいてお酒を隠す。

マイオ  僕は兄、妹と違っておねしょもしないし、父さんの手伝いも出来る。だから、

    妹なんかよりもよーっぽど偉いのさ。

リト   失礼ね。おねしょをなすりつけたのはどこのどなたかしら?

マイオ  そうやってごまかそうったって、そうはいかないぞ!

ミヒナ  あははは! これは面白い。もっとやれ。

兄妹   うるさい! (変なときに気が合う兄妹)。

   驚いて視線をはずすミヒナ。

ミヒナ  なんておっかない兄妹だろうね。

メルテル あっはっは。なんて間抜けな兄妹だ! あーはっは! あ。

   慌てて口をふさぐが、ときすでに遅し。ミヒナの魔法の餌食になってしまう。

ミヒナ  なんだ? もう一人いたのかい! それ!

   急に胸を張って歩き出すメルテル。

メルテル ……僕は偉いんだ。だって、沢山の本の名前を知っているんだぞ! 内容なん

    て分からなくたって、僕はまったく困らないんだ! どうだ! 偉いだろう!

少年A  あらららら。

   ミヒナの手が酒瓶を探すが、酒瓶はどこにもない。

ミヒナ  あれ? 酒がないね。

少年A  もう全部飲まれてしまいましたよ。

ミヒナ  じゃあ、この兄妹を酒に変えるとするか。

   ミヒナは急に不機嫌になってマイオたちに近づく。

   それを少年が前に立ちふさがって止める。

少年A  ダメです。子供はお酒になりませんよ。

ミヒナ  なんでだい?

少年A  だって、お酒はハタチになってからって言うでしょう。

   沈黙する世界。

ミヒナ  そうか、そうじゃな。ハタチを超えてなければお酒には出来んな。なんだか急

    に疲れてしまったよ。

   フラフラするミヒナに手を貸す少年はそのままミヒナをその場に座らせる。

   ミヒナはもう眠りこけそうなほど酔っている。

少年A  この辺で少し眠ってはいかがでしょうか? 起きるころにお酒を用意しておき

    ますから。

ミヒナ  お前は、本当に偉いね……(眠る)。

少年A  そんなことないです。騙してごめんなさい。

   魔女が眠ると魔法が解けていく。

マイオ  僕は、偉いんだぞ~。あれ?

リト   私のほうが、偉いのよ~。あら?

メルテル 僕が一番偉いんだ~。あれれ?

少年A  魔女、寝ましたよ。良かったですね。あんまり長いこと魔法にかかっていると、

    なかなか戻れなくなっちゃうんですよ。

リト   魔次女、たいしたことなかったね。

マイオ  うん。まったく大したことがなかった。

メルテル いいように操られてたような気がしたけどな。

リト   何よ! 自分だって。

マイオ  何が沢山の本の名前を知っているさ。そんなの知ってても役に立たないじゃな

    いか。

メルテル 言ったな!

   つかみ合いになりそうな二人の間に少年Aが割り込む。

少年A  まあまあ、このあとどうするんですか?

リト   知りたい? どうしてもって言うなら教えてあげてもいいけど。

メルテル 僕が教えてやるよ。こいつらの中で一番偉いから。

リト   まだ解けてないの? だらしがないわ。

メルテル 自分だって。いいかいこの後……。

マイオ  羽根で欲望を吸い取るのさ。

メルテル それだけじゃダメさ。いいかい。

リト   ねぇ、本はどうする? しおりを入れる本。

メルテル 何で僕に言わせてくれないんだよ。

マイオ  そういえば君も本だよね?

   メルテルを見る兄妹。首を大急ぎで振るメルテル。

メルテル 僕はもう無理だよ。

マイオ  あぁ、そっか。ねぇ。

少年A  はい?

マイオ  なんか手書きの珍しい本ないかな?

少年A  手書きですか? うーん。ここには印刷された本しかないし、手書きかぁ。う

    ーん、後は日記くらいしかないなぁ。

リト   日記?

少年A  うん。弟たちが大きくなったときのために、政治家や学者、お金持ちの言葉や

    行動を日記にして書いてるんです。

リト   日記も本かしら?

メルテル 一応ね。

リト   それを貸してもらえる?

少年A  いいよ。

   少年Aは日記を持ってくる。色々な紙を紐で縛ってある本と呼ぶにはあまりにも残

   念な本。考え込んでいるマイオ。受け取ろうとするリトをマイオが止める。

マイオ  やっぱりダメだよ。

リト   え? どうしてよ。

メルテル この際、贅沢は言ってられないよ。

マイオ  だって、彼が弟たちのたちのために書いた本だよ。そんな大事なもの借りられ

    るわけないじゃないか。

リト   そうだけど、このままじゃ魔次女が起きちゃうわよ。

少年A  いいんです。持って行ってください。

兄妹   え?

少年A  また書けばいいんだし、それに僕、弟たちにはあんな風に偉くなんかなっても

    らいたくないから。

マイオ  本当にいいの?

メルテル こんなときに遠慮なんかするものじゃないよ。

少年A  うん。魔次女さんが言っていたでしょ? 自分ばかり見て、何も見ていないっ

    て。そう言われて思ったんです。勉強だけして偉くなったって、誰の役にも立た

    なかったらそれじゃあ自分も周りも不幸になるだけなんです。僕は、弟たちにも

    っと周りを見てもらいたい。世界を感じてもらいたいって、そう思ったんです。

マイオ  そっか。

少年A  うん。だから、持って行ってください。こんな僕の書いたものでよければ。

マイオ  わかった。ありがとう。

リト   さぁ、魔次女さん。鼻を出して!

ミヒナ  うーん、むにゃむにゃ、私の名前はミヒナだよぉ。

   ミヒナはリトに言われるがままに鼻を出す。リトが鼻を羽根でなでると鼻は地面に

   転げ落ちる。リトが羽根を日記にはさみこむ間にマイオが鼻を拾い上げて袋の中に

   しまう。

   するとようやくミヒナが目覚める。

ミヒナ  う、気持ちが悪い。

リト   起きたわ。

ミヒナ  ここはどこだい?

リト   世界一偉い人の町よ。

ミヒナ  世界一偉い人の町? 何でそんなところにいるんだい?

マイオ  何にも覚えてないの?

リト   飲みすぎよ。

メルテル 酒飲みの癖にだらしがないなぁ。

ミヒナ  あぁ、頭が痛い。そんなに大きな声を出さないでおくれ。

リト   魔法で治せば良いじゃない。

ミヒナ  こんなに頭が痛くちゃ、魔法なんてうまく使えないよ。ところであんたたちは

    誰なんだい?

マイオ  木こりの子供さ。

ミヒナ  木こりの子が何でこんなところに?

リト   西の魔女のせいでお母さんが病気になったのよ。

ミヒナ  なんだって? あたしのせいで?

マイオ  僕たち、東の魔女に欲望と顔を集めてくるように言われたんだ。

ミヒナ  妹が?

兄妹   うん。

メルテル 顔が戻ったら、彼らに薬を作ってあげるんですよ。

ミヒナ  薬を?

リト   お母さんが病気になっちゃったの。

ミヒナ  それがあたしのせいだって?

マイオ  そう言ってたよ。

ミヒナ  あたしじゃないね。

リト   え? どうして?

ミヒナ  私はね、田舎が嫌いだからよ。おしゃれな酒場が無いもの。

マイオ  どういうこと?

ミヒナ  きこりになんて会いに行くわけないでしょうってことよ。

マイオ  そんな。

リト   お母さんの病気は誰のせいなの?

ミヒナ  それじゃあ、酔いがさめたら妹のところに行こうかしらね。

マイオ  行ってどうするの?

ミヒナ  本当のことを聞き出すのさ。

リト   どういうこと?

ミヒナ  もともと東の魔女、つまり三女が欲望に取り付かれていたのさ。それをあたし

    たちが取り除こうとしたら、適当な入れ物がなくて、とりあえず持っておくこと

    にしたのさ。そうしたら、手にした途端、私たちも欲望に取り付かれてしまった

    ってわけ。

リト   じゃあ、お母さんの病気は魔三女のせいなの?

ミヒナ  誰だい? 魔三女って?

リト   魔女の三女だから魔三女よ。

ミヒナ  今の若い子は何でも略すんだね。妹の名前はアデリンだよ。

リト   お兄ちゃん。帰ろう。東の魔女に会わなきゃ。

ミヒナ  お待ち。会ってどうするね? 顔を集めなければ、薬は作ってくれないんだろ

    う? あの人は結構気難しいんだ。約束は守っておやり。

リト   そっか。

メルテル そうですよ。まずは顔を集めましょう。

マイオ  あなたは薬を作れないんですか?

ミヒナ  まぁ、本があれば可能だね。

リト   何の本?

メルテル 本なんて何でもいいじゃないか! ね。

ミヒナ  どんな病にも効く薬なんてそうそう簡単に作れないからね。特別な薬の本さ。

    それが無ければ薬は作れないよ。

マイオ  どこに行けばあるの?

メルテル 薬の本なら、この町にもあるからさ。こんな魔女の言うことなんか無視しよう!

リト   私たち、とても急いでいるのよ。

メルテル そうそう。とてもじゃないけど色んな所に寄ってる時間はないんです。

マイオ  その特別な薬の本はどこにあるんですか?

ミヒナ  今となっては移動図書館くらいかもね。

   ミヒナの言葉にメルテルは耳をふさぎます。

メルテル その名前、聞きたくもない! なんでだろう?

   メルテル羽根を取り出す。

メルテル お前のせいか?

リト   どうしたの?

   メルテル、羽根をしまう。

メルテル なんでもない。

マイオ  移動図書館

ミヒナ  珍しい本を探して回る図書館さ。どんな病も治す薬の作り方の本もあるはずだ

    よ。それを持ってくれば、私でも薬は作って上げられる。

リト   同じ魔女なのに治す薬は作れないの?

ミヒナ  治す薬って言うのは難しいものさ。

マイオ  薬が作れるなら、最初からそうすればよかったね。

メルテル 嫌だ嫌だ。僕は嫌だぞ。移動図書館になんて行かないぞ。

リト   どうしたのよ?

   リトはメルテルを見る。メルテルは耳を押さえて首を振り続ける。

   リトは小首をかしげて魔女に向き直る。

ミヒナ  帰るときは、フェイムルの兄弟からある本を取り上げなさい。

マイオ  フェイムルの兄弟?

ミヒナ  図書館の中で本を書いている変な兄弟さ。

リト   でも図書館なのに移動しているの?

メルテル 僕は行かないぞ。

ミヒナ  あれは特殊な図書館さ。世界中の旅しているからね。

リト   どうすれば見つけられるの?

ミヒナ  珍しい本を持っていればそれでいいのさ。

マイオ  この本でも平気?

ミヒナ  偉くない偉い人になるための日記か。上々さ。体にくくりつけておくんだね。

マイオ  なぜ?

ミヒナ  なくさないようにさ。

リト   わかったわ。

   マイオはミヒナから縄を受け取ると、本を自分の身体に縛り付ける。

マイオ  これでいい?

ミヒナ  いいとも。

少年A  お母さん、元気になると良いね。

リト   うん。

マイオ  ありがとう。

リト   さようなら。

マイオ  ほら、いくぞ。

メルテル 僕は移動図書館になんて行かないからね。

少年A  またね。

ミヒナ  一番下のマーガレットに会ったら、悪いけど助けてやっておくれ。私たちと歳

    の離れたあの子は寂しがりやだから、一人でいることが多いからね。

リト   寂しがりやなのに一人なの?

ミヒナ  一人は一人、もう減らないだろう?

マイオ  変な理屈だね。

リト   そうね。

ミヒナ  でも、あの子は一人が好きだから、無茶を言ってお前たちを何かに変えてしま

    おうとするかもしれない。そんなときは、誉めておやり。

リト   なぜ?

ミヒナ  あの子はいつも自信がなくてね。誉められると嬉しくなって魔法を使うことを

    忘れちまうからさ。ずーっと誉め続けていれば、魔法は使えないのさ。

リト   そうなの?

マイオ  楽勝だな。

ミヒナ  人を褒めるって言うのはなかなか大変なもんだよ。

メルテル そうだ! 先に魔女から顔を取り返せば、移動図書館になんか行かなくてもい

    いんだ! よおし、行こう! ぼやぼやしてると置いてくよ。

マイオ  よし、行こう!

リト   うん。待ってよ。

   兄妹たちは先に走って行ったメルテルを追いかけていく。

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