たとえばこんなシンデレラ 第六場

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たとえばこんなシンデレラ 第六場

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第六場

   路地

   シンデレラが歩いてくる。老婆が反対側から歩いてくる。

老婆    また会ったね。

シンデレラ こんにちは。

老婆    お金は出来たかい?

シンデレラ え?

   シンデレラ、金のスプーンを見つめる。

老婆    それでもいいよ。

シンデレラ でも、私踊れないから。

老婆    今から15年前に一人の飛び入り参加の娘がお城で踊った。その娘はガラス

     の靴を履いて華麗なステップでお城にいたすべての人間を魅了した。王様はそ

     の娘をたいそう気に入ったんだけど、娘はどこかに消えてしまった。そしてそ

     のままいなくなった。ガラスの靴を残してね。

シンデレラ ガラスの靴?

老婆    お前のステップはその娘のステップにそっくりだったよ。

シンデレラ その人は今どこに?

老婆    何年も前に星になっちまったさ。体の弱い子でね。

シンデレラ まさか……。

老婆    私の唯一の弟子だった。

シンデレラ お婆さん。私にダンスを教えてください! お願いします!

老婆    私はもう弟子は取らないよ。

シンデレラ 私、お屋敷を取り戻したいの!

老婆    そして、また奪われるのかい?

シンデレラ え?

老婆    あの二人がいたら、お前は幸せにはなれないよ?

シンデレラ 幸せ?

老婆    あの二人はお前の財産を食い潰した。お屋敷を手放すことになったのもあい

     つらのせいさ。

シンデレラ 違うわ。

老婆    何が違うのさ。

シンデレラ 私はずっと幸せだった。その幸せにずっと気がつかなかったから、今がとて

     も辛いの。でも今は違う。あの頃がとても幸せだったから、私には目標がある

     の。

老婆    目標……。どうする気だい? あの二人を追い出すのかい?

シンデレラ いいえ。

老婆    まさか一緒に暮らす気かい? 正気かい?

シンデレラ あの二人にもきっとわかる日が来るの。その日が来ることが私の幸せよ!

老婆    こりゃあ、とんだ変わり者だね。いいだろう。気が代わった弟子にしてやる

     よ。

シンデレラ ありがとう!

老婆    でも、稽古はつけない。

シンデレラ え? どうして? どうやって練習をすればいいの?

老婆    まぁ、落ち着いて聞きな。練習は出来るさ、どんなところでもね。

シンデレラ そうなの?

老婆    そうさ。

シンデレラ そう。

老婆    私は口を出さない代わりに動物たちやいろいろなものの声を聞くんだ。それ

     がお前の練習を助けてくれる。お前は、お前を踊るんだ。

シンデレラ 私を踊る?

老婆    そう。自分を表現することが一番大切さ。

シンデレラ わかったわ。ありがとう!

老婆    お待ち。

シンデレラ なあに?

老婆    推薦状を忘れてるよ。

シンデレラ あ。

   シンデレラ、推薦状を受け取り金のスプーンを渡す。

老婆    スプーンは1本でいいよ。弟子からはそんなに取らない主義だからね。これ

     を眺めて頑張るんだよ。

シンデレラ ありがとう!

   シンデレラ、かけていく。

老婆    王子の目に留まっても幸せになれるとは限らないんだけどね。まぁ、そんな

     ことは私の知ったことじゃないわね。

   老婆立ち去ろうとする。マルコがやってきて老婆に気がつく。

マルコ   この間のお婆さんですか?

老婆    知らないね。

マルコ   ほら、推薦状が何とかって。

老婆    知らないよ。

マルコ   いいや、あなただ。

老婆    私だったらどうするつもり?

マルコ   推薦状を下さい。

老婆    何だって?

マルコ   俺に推薦状を下さい。

老婆    お前も舞踏会に出たいのかい?

マルコ   いいえ。お嬢様に差し上げたいのです。

老婆    どういうわけで?

マルコ   お嬢様がお城で踊れば、きっと王子様の目に留まります。そうすればお嬢様

     は幸せになれるんです。

老婆    金貨5枚、持ってるんだろうね?

マルコ   持って来ました。

   マルコ、金貨の入った袋を渡す。老婆、中身を確認する。

老婆    どこで手に入れたんだい?

マルコ   それは言えないんだ。

老婆    そうかい。

   老婆、懐から推薦状を出す。マルコ、それを受け取る。

老婆    無駄にならなきゃいいけどね。

マルコ   無駄じゃないさ。

   老婆、ニヤニヤしながら去っていく。

マルコ   これがあればお嬢様は幸せになれるんだ。

   マルコ、走り去る。

   海賊A、Bが走りこんでくる。

海賊A   いたか?

海賊B   いないぜ。

海賊A   困ったな。

海賊B   困ったぜ。

海賊A   船長が酔いつぶれるからこんな羽目になった。

海賊B   しかし、酒場で皿洗いをする船長って言うのも笑えるよな。

海賊A   まったくだ。

海賊B   どんな奴だったっけ?

海賊A   若い男だった。

海賊B   俺たちから金を盗むなんて、大した奴だ。

海賊A   まあな。だが、このままじゃ示しがつかねえ。

海賊B   どうするんだい?

海賊A   知らねえ。

海賊B   何だよ。知らねえのか。

海賊A   船長が決めるからな。切り刻まれて魚のエサか、錘をつけて海に沈めるかの

     どっちかだな。

海賊B   どっちだろうな?

海賊A   さあな。とにかく探すぞ!

海賊B   あいよ!

   海賊AB、上手下手に分かれる。

   暗転。

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