フェイムルの移動図書館(2013) 第六場

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フェイムル移動図書館(2013) 第六場

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   ◆マタタビ山のふもと(暗転幕前)

   一行は子猫たちを先頭にマタタビ山のふもとまでやって来る。

   マタタビ山には静けさが漂っている。

マイオ   何にもないね。

リト    うん。なんか雑草だけ。ここがマタタビ山?

メルテル  これは食べられない草です。猫も食べない雑草です。

リト    それくらいわかるわよ。

子猫たち  食べるよ!

リト    食べるの?

子猫たち  うん! 僕たち猫草大好き!

マイオ   (あざ笑う)本当に役に立たない本なんだな。

メルテル  言ったな!

   怒ったメルテルがマイオを追いかけるが、華麗に避けられてしまう。

リト    でも、草だけじゃお腹が減らない?

子猫A   そうなんです。

子猫B   私たちの悲劇を聞いて下さい。

子猫D   聞いて下さい。

子猫C   ある日、魔女がやってきて。

子猫たち  私たちにこう言いました。

   マチョードの声が響く。

マチョード お前たちにこの世の幸せをやろう。何でも好きなものを望むだけお前たちに

     あげるよ。私は優しいから願いは三つかなえてあげる!

子猫A   大人たちは迷わずこう言いました。

子猫B   山のように魚が沢山欲しいと。

子猫C   そうして山には魚が降り注ぎ、

子猫D   みんながお腹いっぱい。

子猫A   全部食べきれぬままに魚は腐りだして、

子猫B   みんながお腹を壊したんだ。

子猫C   これはたまらんと大人たちは言いました。

子猫D   言いました。

子猫A   大人たちは魔女にこう言いました。

子猫B   山のようなネズミが欲しいと。ネズミなら山でも生きていられるからね。

子猫C   そうしたら、今度は山のように大きなネズミが現れて、

子猫D   あべこべに僕らを追い掛け回したの。

子猫A   魔女は笑ってそれを見てるだけ。

子猫B   大人たちは必死で逃げてお願いをしたんだ。

子猫C   魚もネズミもこりごりだ。

子猫D   こりゴリラ。

子猫A   魚とネズミに懲りた大人たちはずい分と考えました。

子猫B   食べ物は怖い。

子猫C   マタタビがいいんじゃないか。

子猫D   イイネ!

子猫A   でもマタタビじゃお腹は脹れないよ。

子猫B   だったら願いを増やせばいいんじゃないか?

子猫C   おお、そうだそれがいい。

子猫D   ナイスアイデア

マチョード お前たち相当欲が深いね。でも嫌いじゃないよ。今回だけは特別だ。もう一

     つ願いを聞いてあげるよ。

子猫A   でもさ、願いを増やす願いをしたら、

子猫B   それで願いが叶ったんだから、

子猫C   結局叶えられる願いは、

子猫D   あと一個だけ。

子猫A   悩んだ大人たちはこう言いました。

子猫B   沢山のマタタビと食べ物に困らない手段をください。

子猫C   そうして山のふもとには、マタタビだけが生えるようになって、

子猫A   山のてっぺんには金のタマネギが生えたのです。

子猫D   お魚もネズミもいなくなっちゃった。

子猫たち  魔女は笑って言いました。

マチョード 山頂に金のタマネギが生えるようにしておいたよ。それを人間にでも売って

     食べ物を買うといい。金のタマネギが山頂にある限り、お前たちの幸せは続く

     だろう。

子猫A   お腹が空いて困った大人たちは、山を登り金のタマネギを取りに行こうとし

     ましたが、

子猫D   しましたが。

子猫B   マタタビの誘惑に負けて、誰一人たどり着いたものはいません。

子猫D   いません。

子猫C   そこで私たちの代わりに。

子猫B   食べ物を取って来て下さい。

子猫D   ください。

子猫A   話の腰を折るなよ。

子猫B   だってお腹が空いたんだもん。

子猫D   空いたんだもん。

子猫C   さっき食べただろ?

リト    お兄ちゃん、金のタマネギですって。

マイオ   タマネギ? シチューにでもして食べろってことかな?

子猫たち  タマネギなんか食べたら死んじゃうよ!

リト    そうなの?

子猫C   うん。僕たちには毒なんだ。大人たちが言ってたもん。

子猫A   もし、金のタマネギを取ってきてくれたら、お礼にそれを上げるよ。

マイオ   金のタマネギを?

子猫B   うん。

子猫C   いいよな?

子猫D   いいよ。

子猫B   山になきゃいいんだもん。

子猫A   僕らにはいらないものだもん。

メルテル  そんなものをお礼に貰っても嬉しくないけどね。

子猫A   やってくれる?

マイオ   うん、いいよ。

子猫B   本当に?

子猫C   どうしてそんなに親切なの?

子猫D   タマネギ好きなの?

リト    私たち、欲望を集めることになったのよ。それで魔女に会いたいの。私たち

     がタマネギを取ったと知ったら、魔女の方から私たちに会いに来るかもしれな

     いわ。

子猫D   なんで?

子猫A   どうして魔女に会いたいの? 魔女は怖いんだよ?

リト    お母さんの病気を治すためよ。

マイオ   東の魔女がこの羽根に欲望を閉じ込めてこいって。そうしたら魔女の目と鼻

     と口を取り戻せるから、そのお礼に薬をもらうのさ。

子猫A   魔女!

子猫B   魔女!

子猫C   また魔女か!

リト    東の魔女はいい人よ。

メルテル  そうでもないけど。

子猫A   魔女に良いも悪いもあるもんかい。

子猫D   あるもんかい。

子猫B   だけどタマネギが無くなれば僕たちはそれでいいや。

子猫C   それはそれでいいや。

子猫A   そうそう。タマネギをあげるから、さっさとどうにかしておくれよ。

リト    分かったわ。

マイオ   じゃあ、すぐに戻ってくるから。

リト    待っててね。

子猫たち  いってらっしゃーい。

   マイオたちがマタタビ山の奥(上手)に向かっていく。

   子猫たちがそれを見送る。

歌『勇気がなくちゃつまらない』

「勇気がなくちゃつまらない

 意地を張ってる人生なんて

 カツオ節のないご飯みたい

 味気の無いご飯みたい

 なんにもないご飯みたい

 ご飯の無いご飯みたい

 自分に出来ないことは

 無理せず素直に頭を下げてお願いします

 この借りは自分で出来ることで返せばいい

 運命なんて蹴飛ばして

 嘘っぱちの不幸を笑っちゃおう

 運命なんて蹴飛ばして

 楽しい毎日送りましょ!」

子猫A   人間たちうまくやるかな?

子猫B   僕たちは一歩も近づけないし。

子猫C   待つしかないよ。

子猫D   待つしかないよ。

   突然、辺りが暗くなり魔女マチョードがやって来る。

マチョード いないね? いないね? 見えないね! 犬が大嫌いな私は、あの声を聞く

     だけでも寒気が起こる。だから代わりに猫をいじめるのさ~。

子猫A   魔女だ。

子猫B   魔女だ。

子猫たち  魔女だ。

マチョード うるさいわね!

子猫C   僕たちの声の方が小さいのに。

マチョード さて、今日は何して遊ぼうかしら?

子猫A   何も。

子猫B   特に。

子猫C   遠慮します。

子猫たち  お断りします。

マチョード そうだ!お前たちの一人をネズミに変えてしまおうか。

子猫A   やめてよ!

子猫B   食べられちゃう!

子猫C   食べられちゃう!

子猫D   食べられちゃう!

   逃げ回る子猫たちをマチョードは大きな声で笑いながら追い回す。

歌『魔女の歌』

「あいつが憎くて仕方がない

 あいつが怖くて仕方がない

 声を聞くだけでふつふつと 心の底に沸き上がる

 怒りと恐怖に震えるの

 だけど

 何も出来無い

 何も出来無い

 何も出来無い

 だから変わりにこいつらを 虐めて虐めて紛らわす

 あいつが憎くて仕方がない

 あいつが怖くて仕方がない」

マチョード さぁ、どいつをネズミにしようかね!

   歩きながら子猫を追うマチョードは手に握った杖を振り回す。

   子猫下手に逃げ出していく。

   暗転。

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