荊の王子 第十二場

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荊の王子 第十二場

 

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第十二場

   野バラの城。

   居眠り猫がやってきて居眠りを始める。

   そこへ蛙の貴婦人がやって来る。

 

貴婦人  グワ、居眠り猫だわ。起きてたら厄介ね。ちょっと、起きてる?

居眠り猫 にゃむ。

貴婦人  グワ、寝てるのね。よかった。そのまま寝てなさい。

居眠り猫 にゃむ。

 

   蛙の貴婦人、女王の椅子付近を入念に調べ始める。

 

貴婦人  グワ、女王様も人使いが荒い。その上、こちらが褒美を望んでもそのものをく

    れるわけじゃない。どうにかして鼻を明かしてやりたいもんだわ。グワ、誰か来

    るわ。

 

   蛙の貴婦人が気配を感じて隠れる。

   真っ白狼がウロウロやってくる。

 

真っ白狼 秘密、秘密ってなんだろう。パパとママも見当たらない。どこに行っちゃった

    んだろう? なんか変なにおいがするなぁ。蛙みたいなにおいがするなぁ。いや

    いや今は秘密が大切だ。うわん。猫がいる。あれ? 寝てるのかな?

居眠り猫 にゃむ。

真っ白狼 何だ寝てるのか。じゃあ、いいや。女王の秘密を探してみよう! お前、起き

    るなよ!

居眠り猫 にゃむ。

 

   真っ白狼はあたりをいじり回してみる。蛙の貴婦人には気がつかない。

   隠していた本が落ちる。

 

真っ白狼 何だこれ?

 

   首を傾げる真っ白狼、意味がわからずに本の回りを回る。

 

真っ白狼 僕の鋭い勘からすると、これは違うな。あ、まずい誰か来る!

 

   真っ白狼、逃げ去る。

   女王がやって来る。落ちている本に気がついて急いで拾い上げる。

 

女王   あ! 私の本が! 一体誰が?

 

   女王、居眠り猫を見る。

 

女王   お前かい? 人間の言葉をなくしたお前にはもう魔法をかけることはできない。

    もういい加減あきらめたらどうなんだい?

居眠り猫 にゃむ。

女王   そうか。お前じゃないのかい。そうだったね。本を見たらどんなことになるか

    お前が知らないはずがないもの。悪かったね。それで、誰か見なかったかい?

居眠り猫 にゃむ。

女王   なんだい寝てたのかい。起きてるのか寝てるのかはっきりしない困った奴だね。

居眠り猫 にゃむ。

女王   お前、あたしに文句があるのかい?

居眠り猫 にゃむ。

女王   なんだい寝言かい。命拾いしたね。

 

   威張りネズミがやって来る。

 

ネズミ  女王様。

 

   女王、本を背中に隠す。

 

女王   近衛隊長か。どうした?

ネズミ  子犬が一匹紛れ込んでおりまして。ご存知ありませんか?

女王   子犬くらい放っておけ。

ネズミ  しかし、

女王   子犬に何が出来る。

ネズミ  それはそうですが、城の警備と言うものがありますから。

女王   うるさい。もう行け!

ネズミ  失礼いたしました。今日はいつにもまして恐ろしい。

 

   威張りネズミ去る。

   女王、本を開きページを確認する。

 

女王   大丈夫。大丈夫じゃ。それに、このページを見たものは……。

 

   ダリアがやって来る。女王は慌てて本を隠す。

 

女王   カタツムリ、ここで何をしている。

ダリア  通っているだけです。お構いなく。

女王   早く行け。

ダリア  かしこまりました。

 

   けれど歩みは遅い。イライラする女王。

 

女王   ええい。なんて歩みの遅い奴じゃ。

ダリア  お言葉ですが、私の歩みがのろいのは女王様の呪いのせいです。

女王   ちっとも面白くないわ! 歩みを止めるな! さっさと行け!

ダリア  はいはい。かしこまりました。女王様?

女王   なんじゃ?

ダリア  後ろに隠しておられるのは本ですか?

女王   お前には関係ない。早く行け!

ダリア  はいはーい。

女王   返事は一回でよい! 行動で示せ!

ダリア  足が遅いのは私のせいじゃありませ~ん。

 

   ダリアが去る。

 

女王   まったく嫌な奴らばかりじゃ! ここには嫌な奴しかおらんのか!

 

   女王は本を隠して去る。そこに蛙の貴婦人が出てくる。

 

貴婦人  グワ、あの本がないと相当困りそうな様子。これは使えるね。あたしが本を盗

    んで、森に隠してカタツムリのせいにすれば完璧だわ。

 

   蛙の貴婦人、女王の本を探し出して持ち去る。

   ダリアがゆっくりと戻ってきて居眠り猫に近づいていく。

 

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  寝言はいいの黙って寝てなさい。

居眠り猫 にゃむ。

 

   ダリア、居眠り猫の身体を転がしたりして鍵を探す。

 

ダリア  鍵はどこかしら?

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  胸から下げてるって? 起きてるの?

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  寝言では嘘がつけないって? 本当?

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  怪しいわね。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  嘘をつかないのが俺のポリシー?

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  じゃあ、牢屋の鍵はどれよ?

 

   居眠り猫が首から下げた鍵を外す。寝ているように極自然に。

 

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  これ? 嘘じゃない? 嘘だったらどうする?

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  嘘じゃないから大丈夫? じゃあ、嘘だったら唐辛子を鼻にすり込んでやるわ

    よ~。

居眠り猫 にゃむ。

ダリア  そういえば、そろそろ門の番をする時間じゃない?

居眠り猫 にゃむ。

 

   居眠り猫起きる。

 

ダリア  しっかりね。

居眠り猫 にゃむ。

 

   居眠り猫去る。

 

ダリア  今度はこれを届けなくちゃ。

 

   真っ白狼が戻ってくる。

 

真っ白狼 秘密なんか見つからないよ。飽きたからイバラのとこにいこっと。

 

   ダリアと目が合う。

 

真っ白狼 あ、まずい隠れなきゃ。

 

   真っ白狼、適当に隠れるがばれる。

 

ダリア  真っ白狼のシロ。

真っ白狼 僕のこと知ってるの?

ダリア  イバラのお友達でしょ?

真っ白狼 まぁ、そんなところかな。

 

   ダリア、鍵を取り出して真っ白狼に渡す。

 

ダリア  これでイバラを外に出してあげて。

真っ白狼 なあに?

ダリア  牢屋の鍵よ。私が届けるより早いでしょ? 私カタツムリなの。

真っ白狼 見ればわかる。どっから見てもカタツムリじゃん。

ダリア  素直にそう言われると結構傷つくわね。鍵、お願いできる?

真っ白狼 わかった。

 

   真っ白狼走り去る。

 

ダリア  さあ、私も頑張って歩かないと!

 

   暗転。

 

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