7人の大人 第三場

****************************************

7人の大人 第三場

****************************************

第三場

   赤木の部屋。安アパート。上手から赤木が駆け足で帰ってくる。

赤木  黒田め! お前がその気なら、こっちにだって手があるんだぞ。お前の悪口をあ

   ること無いことネットの掲示板に書き込んでやるからな! 見てろよ!

   パソコンを立ち上げる赤木。しかし電気が入らない。

赤木  あれ?

   突然、ディスプレイから煙。

赤木  なにぃ?

   電話が鳴る。舞台の下手端っこに黒田が立つ。電話に出ない赤木。鳴り続ける電話。

   鳴り続けるので音量は少し小さ目が理想。

赤木  黒田か。

   鳴り続ける電話。

黒田  早く出ろ。

赤木  黒田、お前なのか!

黒田  はーやーくでーろー。

赤木  黒田! 何でこんな卑劣なことをする! このパソコンにはな、人には言えない

   ような恥ずかしいモノがいっぱい詰まってたんだぞ。

黒田  赤木いないのかな?

赤木  それをお前は、踏みにじった。土足でな! 俺はもう怒ったぞ。そっちがその気

   なら、やってやるぜ。ここからは戦争だ! 正義だ悪だなんて関係ない。お前は俺

   のマグマに火をつけた。それを地獄で後悔させてやるぜ!

黒田  しょうがない。またかけなおすか。

   電話が切れる。赤木受話器を取る。

赤木  もしもし? ちょっと、イライラしてたんで心を落ち着けてました。

   電話から聞こえる「ツー、ツー」

赤木  くーろーだー! いや、アヤベだな!

   赤木、本棚を引っ掻き回し、クッキーの空き缶を開き床に広げる。そこには古ぼけ

   たキーホルダー、ビー玉、キン消し、メンコなどが入っていた。そして、その中で

   も赤木が一番に手に取ったのは、子供用の古い時計のようなブレスレットだった。

赤木  エンジマン。幼稚園児だった俺たちをヒーローへ変えてくれたブレスレット。今

   は指二本しか入らないけれど、こいつは本物だった。

   ブレスレットを指につける。

赤木  悪の組織スカルブラッキーに総帥として選ばれた小学6年生と幼稚園児の戦いは

   一年という長い間続いた。そう、総帥大野君が中学生になるまで。

   赤木、深く息を吸う。

赤木  あれから何度試したけれど無理だった。でも、今なら変身できそうな気がする。

   赤木、変身ポーズを取る。

赤木  たぎれ俺の血! 来たれ溶岩の力。エンジマンレッド!

   目潰しとともに悲鳴。

赤木  あててっててててて! 無理無理無理! 解除! 解除! 解除だってば!

   照明、元に戻る。もだえ苦しんだ赤木が床に転がっている。

赤木  そりゃ、幼稚園児の戦闘服を40過ぎのおっさんが着れるわけ無いよな。思い出

   は、思い出だから美しいんだなぁ。

   ブレスレッドを名残惜しく見る。

赤木  あれ? そう言えば母さんがこれを洗濯したことがあったな。どうやってたんだ

   ろ?

   首をかしげる。思い出したように電話を取る。実家の番号を押ししばらく待つ。

赤木  もしもし? あ、姉ちゃん? 母さんいる? え? 耳が遠いから電話は無理? 

   いいからいいから。いや、そのうち帰るって。違うよ。結婚とかじゃなくて。お見

   合いはいいから。じゃあ、姉ちゃん聞いてよ。いいって、待つ待つ。うん。いいん

   だって。マサ君のことだけ心配してろって。姉ちゃんだってお母さんになんだ   

   からさ。え? 就職したの? はやくね? 俺はいいんだよ。違うよ馬鹿。あ、す

   みません。はい。調子に乗ってました。うん。体に気をつけてね。はいはい。また

   ね。

   受話器を置く。

赤木  そうか、マサ君も社会人か。叔父さんは無職になったんだぜ。へへへ。

   下手に去る。が、すぐに戻ってきて電話をかける。

赤木  ……。あ、もしもし? 姉ちゃん? 用件言うの忘れてた。うん。そう。昔さ、

   俺ヒーローだったじゃん? え? 遊びじゃなくて。そうそうあの赤いやつ。うん。

   大野君とは仲良くなったよ。一年間遊んでたようなもんだもん。いやいや、遊びじゃ

   ないんだって。え? そう。いや、それは俺じゃないって。白い子は、違うって。

   そういうんじゃない。いやだから、あの子が原因で結婚しないわけじゃないんだっ

   て。あ、そう? 待って、聞いてよ。うん。そう。だから、母さんが選択の方法を

   知ってるの。え? 柔軟剤? 違う違う。出し方の方。そうそう。うん。あ、そう? 

   わかった。

   しばらく無言。

赤木  ……。あ、うん。横に? あぁ、これか。うん。わかった。え? そうなの。じ

   ゃあ、風呂場で出すわ。へぇ、そうなんだ? うん。じゃ。わかったって。そのう

   ち帰る。お見合いはいいって。白の子は関係ないって言ってるだろ! 馬鹿か。あ、

   すみません。はい。じゃ、失礼します。

   ブレスレッドを持って下手にかけていく。

赤木  そーれっ!

   ボンっという音。園児用の赤い半袖と半ズボンを持って戻ってくる。

赤木  なんじゃこりゃあああああああ!

Next→→→第四場