たとえばこんなオオカミ少年 第二場

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たとえばこんなオオカミ少年 第二場

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第二場

   お城。

   王様がスキップしながら入ってくる。客席に満面の笑みで呼びかける。

王様   ふふふ。国民のみなさーん! 今日も幸せですかー!? 皆さんの王様ですよ

    ー!

   返事が聞こえなくても笑顔は消えない。

王様   聞こえる! 国民の心の声が! 聞こえるぞ! 私を呼ぶその声が! 王様バ

    ンザーイ! 王様バンザーイ! この国生まれてよかったー!

   王様、高らかに笑う。

王様   国民の皆さん! あなたたちは幸せです! だって、私が幸せなんだから! 

    そうだ、大臣! 大臣はおらぬか!

   大臣、走りこんでくる。

大臣   お呼びでございますか?

王様   うむ。お呼びだ!

   王様、言葉を続けようとしない。大臣、次の言葉を待つ。それでも王様は言葉を続

   けない。大臣、不安になって尋ねる。

大臣   王様? 御用は?

王様   民に幸せを配ってやろうと思う。

大臣   はぁ、またですか。

王様   今日は何をしてやろうか?

大臣   さぁ……。

王様   気のない返事だな? 飯は食ったのか?

大臣   はい。いただきました。

王様   そうだ。恩赦しようか?

大臣   なぜ?

王様   そうしたらみんな喜ばないか?

大臣   犯罪を犯したものは喜ぶでしょうが、民は喜びません。

王様   うん。そうしよう。恩赦だ。牢屋をすべて開放しろ。

大臣   いけません王様、民が不幸になります。

王様   よしよし。大臣、そのようにいたせ。

大臣   王様。私の話をお聞き下さい。

王様   なんだ? まだそんなところにいるのか? 早く行け。

大臣   ……わかりました。

   大臣、去っていく。

王様   さて、次は何をしようか。国民の幸せを考えるって言うのはとても楽しいこと

    だな。国民の幸せは、私の幸せ。私が幸せなら国民は幸せなのだ! だがしかし、

    たまには国民の声をじかに聞いてみたいものだな。何か上手い方法はないものだ

    ろうか?

   大臣が戻って来る。

大臣   王様。

王様   なんだ?

大臣   恩赦の命令をしてまいりました。すぐに罪人たちが外に出て行くことでしょう。

王様   そうかそうか。

大臣   王様、いいのですか? 罪人が町に溢れれば、民の幸せは奪われてしまうので

    すぞ? そもそも民の幸せを願う王様の……、

王様   お前は大馬鹿者だな。罪を犯したものはまた捕まえれば良い。罪人の全てがま

    た罪を犯すなど、どうしたらそんなひどいことを考えられるのだ。

大臣   人はそんなに善良ではありません。そもそも何故罪を犯したのかお考え下さい。

王様   幸せが足りないからじゃ。幸せが足りていれば、人間は善良になれるのだぞ。

    牢屋の中で幸せなど感じられるものか。

大臣   そうでしょうか?

王様   まったく。もうよい。そんなに言うのなら町に出て民の幸せを肌で感じてくる

    がいい。皆が笑顔で暮らしておるわ。

   王様、去る。大臣ため息。

大臣   もう少し人の話を聞いていただきたいものだ。

   暗転。

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